ご注意
*ラブコメですが、タイトル通り死ネタ風・シリアス要素を含みますのでご注意ください。




傍にいてくれるなら。
とり殺されたって、構わない。

6.恋に憑かれる





「撃て!命令だ!」

火薬、硝煙、砂塵、焼臭、そして血の臭い――むせ返るような戦場の空気に、眩暈がしそうだった。
どうして、こんなところにいるんだろう。
どうして殺し合っているんだろう。どうして人を殺さねばならないのだろう。
確かにあったはずの信念、正義、倫理感、ひととして絶対に捨ててはいけない何か――
極度の疲労と凄惨な視界に、それらの輪郭がぼやけてくる。

軍属になって最初のうちは、戦場へ出れば「生きて帰りたい」という思いがあったはずなのに、
今となってはそんな希望も感傷も生まれてこない。
帰りたい場所なんてない。
どこに帰っても、日常に戻っても、幾人ものひとを斬った事実は変わらない。

「早く撃て!そいつを殺すんだ!」
「う、うたないで…、」
「ぼやぼやするな!撃てと言っているんだ!」
「ころさないで、せめて、せめてこの子の命だけは……、お、お願いします、」
「黙れこのウータイの屑どもが!!」

(どっちが正義だが…わかんねえ台詞だな。)

敵を殺めろと言う神羅の兵士、そして命乞いをするウータイの武装民――
地に伏せて今まさに命の危機にある武装民は、壮年の女と10代前半であろう少年だ。
少年の母親と思われる女は、投げ捨てられた散弾銃からもわかるように、もはや抵抗する気力などない。
ただひたすらに、わが子への容赦を訴えている。
一方で、庇われている少年の瞳は――母親のように闘志を失ってはいなかった。
その痩身に巻きついている爆薬に火をつけて自爆しかねない、あるいはそのチャンスこそ狙っているようにも思える。

(いや、戦争に正義も悪もない…か。)

彼らはプロの衛兵ではない。武装しただけの一般市民だ。
けれど、彼らは危険な過激派思想を持つ、ウータイの中でも孤立した組織に従属している。洗脳をうけた「捨て駒」だった。
生かしておくことは出来ない。神羅軍が彼らを捕虜として捕らえれば、死よりも酷い運命を辿ることは明らかだ。
女子供を手にかけることは、あまりに辛いことだが――仕方のないことだと思った。



(だって、戦争なんだから。)



一瞬、縋るような女の視線と交わった気がした。
もう若くない実母と同じ頃の年齢、同じ黒い髪、同じ黒い瞳。
彼女と、彼女が守ろうとする少年の最期を見るのは耐え難い――思わず目を反らせてしまった、その時だった。





「――――出来ません。」





戦場の臭気を清めるような、涼やかな風が吹く。
そうしてこの耳に届いたのは、凛とした少年の声。





「自分には、この二人を撃つことは出来ません。」





静かだけれど、怯えも迷いもない。はっきりとした信念を宿す、そんな声だった。
地に伏せる二人を、まるで背に庇うかのように立っている一般兵。
隊のリーダーである男の「処刑命令」に背いたその言葉に、その場にいた誰もが――
リーダーの兵士も、捕らえられている二人も、そして傍観していたザックスも。耳を疑ったと思う。


「ふざけるな!貴様は命令に背くのか?!」
「彼らは武装していますが、一般市民です。それにもう、武器は捨てている。闘う意思のない者を撃つのは、ただの殺戮ではないですか。」
「甘いことを抜かすな!ここでこいつらを殺らなければ、後の悔恨になる。戦争は終わらない。第一――おまえが命令に背けば、他のやつに撃たせるだけだ。貴様のやっていることは、自分が手を汚したくないだけの逃避に過ぎないだろう!」
「それでも、出来ません。」
「人を撃てなくておまえは何故ここにいる!」
「自分は、市民を守るために軍人になりました。市民を殺すためじゃない。」
「ならば――軍事裁判にかけるぞ。これは立派な謀反だ!」
「イエス・サー」

いっそ愚直なまでの一般兵の信念。それに突き動かされるように、ザックスはその争いの中に割って入っていった。
母子二人の減刑と、彼女らを庇った一般兵への恩赦――
自分の将校という肩書と発言権をふるに浸かって、必死にその場を収めようとしたザックスの視界は、気付けばクリアになっていた。
世界の明暗、色彩、濃淡、それらの輪郭がはっきりとしていた。
なんのために剣を振ってきたのか、なんのためにソルジャーになったのか。それをもう、思い出していた。










(幼い頃からずっと、英雄になりたかった。)










「おまえ、なかなかやるなぁ」
「…助けていただき、ありがとうございます、サー」
「サーじゃなくて、ザックス。ザックスって呼んで!」
「サー・ザックス、」
「じゃなくて!ただのザックス!トモダチになるのに、敬称つけてたら寂しいだろ?」
「…と、もだち?え、言っている意味がよく、」
「俺、おまえとトモダチになりたい。さっき、そう思ったんだ。」

この愚直で不器用な、一般兵の信じる正義――それを護ってやりたいと思った。
若い兵士たちの、いや、この兵士の、目指す道標になりたかった。










(この子の、英雄になりたかった。)










******************





「危ないザックス!!!」


自分を呼ぶ、その凛とした声。
金色が視界に映ったと同時に、響く銃撃音。
目の前に飛び込んできた小さな体を抱き留めたとき、一瞬で全てを理解した。

発砲した散弾銃をかまえているのは、体に爆薬を巻きつけた少年。
数週間前、神羅軍によって母親とともに捕らえられた子供だ。
少年の首には、女性もののペンダントがかかっている――
後にわかることだが、ザックスが二人の減刑を命じたことで母親だけが捕虜となり、子だけが解放されたという。
しかし、その母親は看守の兵士から聴取という名のレイプを受けて自殺――彼の首で揺れるペンダントは、彼女の残した唯一の形見だった。

少年が、自身の爆薬に手をかけようとしたところで、ザックスは迷わず彼の頭を撃った。
その体が地に伏せていくのを、見届けることはしない。そんな場合ではないのだ。





「し、にたくない…」





この胸の中で、痛みに苦しむ兵士がいる。
「死にたくないよ……っ」
迫りくる運命に、怯える兵士がいる。
「頑張れ!絶対助けてやるからな!」
何度も何度も回復魔法をかけるけれど、彼の命の灯は、あっという間に消えていく。

医療班の治癒を受ければ、まだ助かる可能性がある。
いや、助かってもらわねばならなかった。
「もうすぐ医療班がくるぞ!もう少しの辛抱だ、頑張れ、頼むから…っ」
抱き上げた体は、想像以上に軽かった。
その華奢な体躯と、「死にたくない」と繰り返す幼さの残る声。
もしかすると、敵兵の少年兵とさして変わらない――若い、若すぎる命なのかもしれなかった。




「医療班、早くきてくれ!誰か、はやく!!」




遠くで銃撃音が聞こえる。誰もこの声に応えてはくれない。
誰も、助けにきてはくれない。
どれだけ回復魔法を唱えても、もうマテリアは光らない。
自分は、この子を助けられない。

ザックスのソルジャー服をつかんでいた小さな手が、地へと堕ちていく。
おびただしいほどの血液がザックスの服や体を染め、そして地を広がっていく。



「おい、死ぬなよ…死ぬんじゃねえよ!!」




どれだけ強い口調で命令したとしても、あの凛とした声で「イエス・サー」と返事をしてくれることはない。
「こんなの……あんまりじゃ、ねえか、」
命を助けた相手に、命を奪われる。
信念を持って生きているはずのに、それはいとも簡単に折られてしまう。
どれだけ「正しく」生きたところで、それは否定される。





人を信じても裏切られる。優しさや愛などでは、生き残れない。





「……………、」
死なないでくれと、どれだけ縋っても。ひとは死んでいくのだ。










***********



「ザックス!起きて!起きろってば!」
「うわ…っ!」
「…すごい汗、かいてるけど。大丈夫?」
「ああ、また起こしてくれたのか。サンキュ…………っておかしいだろ!」
「なにが?」
「その体制!おまえ、どこに乗ってんだよ!!」

カーテンの外は薄暗い。まだ明け方前なのだろう。
けれど悪夢にうなされることの多いザックスは、こうして同居…どころか同衾している幽霊クラウドに起こしてもらうことが度々あった。
それは、正直なところ助かっている。夢だとわかっていても、自分でその悪夢から抜け出すことは難しいからだ。
しかし、問題はこの体制。

「どうせ重くないんだからいいだろ、別に。」
「いいけど!いいんだけどさあ…おまえ、いちおう俺上司!尻で踏んづけるの可笑しい!」
クラウドは、ザックスの腹の上に馬乗りになっている。
たとえばこれが長い髪の白い服を着た女の霊…などであれば、これから呪い殺してやるとでも言いたげな体制だ。
むろん相手はクラウドであるのだから、ただ恐ろしく可憐な少年が馬乗りになってくれているだけ。
そう、まるで彼氏に「起き抜けエッチ」を強請るような――
(ってどんな妄想だよんなわけあるか!!!!)

「だって、ザックスって上下関係とか嫌がるじゃん。初めて会ったときだって。」
「そりゃそうなんだけど…いや、トモダチだって尻で踏んづけるのって無くない?」
「俺、トモダチいなかったからわかんない。」

ああ言えばこう言う――それはいつものクラウドだ。
素直じゃない態度、可愛げのない言葉。
けれどそれらに隠された、彼の優しさを知っているザックスは、それ以上言い返すことはしない。
ザックスがうなされている間、きっと自分の顔を覗きこみならがおろおろと気をもんでくれていたに違いないのだ。

「おまえなら、みんなトモダチになりたかったと思うけどな。」
「……そんなマニアは、アンタぐらいだよ。」

ふわり、と少しの重みも感じないその体は、ザックスの体の上から離れていく。
幽霊のくせに二度寝するつもりなのか…いや、おそらくは照れ隠しにふて寝を決め込むつもりなのだろうが――
彼はベッドの真ん中で、丸くなって目を閉じた。
正直なところ、別に馬乗りにされようが、ベッドのほとんどを占領されようが、そんなのはどうでもいい。
ただ、こんな不意打ちで可愛い子に接近されてしまえば…男の悲しい生理現象が働いてしまうのだ。
少し反応しかけた己をそれとなく隠しながら、水でも浴びようかと腰を上げた時だった。
さっきの会話、何か違和感。

俺、トモダチいなかったからわかんない。

クラウドは、生前の記憶がないはずだ。
無意識に出た言葉なのだろうか、それとも、少しずつ記憶を戻しているのだろうか。
(それに…俺が上下関係嫌がるって…初めて会ったとき、そんな会話したか?)
したような気がする。けれど、はっきりと思い出せない。
もやもやとした違和感を覚えたまま、やはり抜いてすっきりしなければとシャワーカーテンを閉めたのだった。








************



少しずつ、本当に少しずつではあるけれど。
クラウドは生前の記憶…それは思い出であったり、あるいはかつての習慣や趣向なども思い出してきている。
甘いものやシチューが好物だったこと。猫よりも犬派だったこと。
酒の席に参加したことがなく、ビールを飲んだ経験がないこと。
人見知りで、ミッドガルでは友人と呼べる相手を作れなかったこと。
休日は誰かと会うこともなく、どこかに出かけるでもなく、読書に勤しんでいたこと。

そう――彼は、テレビや音楽よりも、読書を好むのだという。
クラウドいわく、読書という行為は「世界が広がる」のだそうだ。
他人の経験や思考を、知ることが出来ること。
人の想像力は無限で、だから本を通してどんなところにも行けるし、どんなことだって出来る。
そう控え目に語ったクラウドの言い分もわからなくはないのだが。
だがザックスだったら、行きたいところには自分の足で行きたいし、やりたいことは自分自身で叶えてみたい。
そう考えてみたところで…今、この子にはそれが出来ないのだと気付いた。

たぶん、クラウドは。
もう自分の足で世界を旅することも出来ないし、食べたいものを食べることだって出来ない。
たった一枚の薄い紙をめくり――本を読むことさえ、出来ないのだ。




それからだ。
ザックスが、今まで生まれてこのかた、一度もしたことのなかった読書をするようになったのは。
講義の教本や報告書、それに新聞にさえ目を通したことがなかったというのに――
今は細かい小難しい文字が延々と躍る、文庫本を読んでいる。
正確には、内容はあまり把握していなくて、ただ紙面を「捲っている」だけである。

「よし」
クラウドの合図があれば捲り、
「待て」
クラウドの合図があれば待機する。

「ザックス、よし」
「……いや、いいんだけどさぁ。その犬みたいな扱い、なんとからならないの。」
ソファの下にザックスが腰かけ、ソファの上に座ったクラウドが覗き込んで読書をする。
クラウドの代わりにザックスが本を捲ってやっているわけだが――それはいいのだけど、この犬のような号令はいただけない。
「だって、ザックスって犬みたいなんだもん。」
「おまえなぁ…それを言うなら狼だろ?いったい何人の女の子相手に、送り狼してきたことか…」
「サイテー」
「はい、すみません。」

クラウドの冷たい視線に、思わず肩を落とすと彼はくすくすと笑う。
「やっぱり犬みたい。尻尾垂れてるよ、ザックス。」
「どうせ…」
「犬、好きだよ俺。」
「えっ」

思わず動揺して大袈裟に振り返ると、クラウドの顔が思った以上に近くにあって驚いた。
ザックスの抱える本を覗き込んでいるのだから、当然の体制ではあるのだけど。
「………おまえ、無防備すぎない?またキスされても知らねえぞ。」
「は?!何言って…」
戸惑いからか、少し身をひいたクラウドを追いかけるようにして顔を寄せる。
犬だと揶揄された仕返しに、少しだけからかってやるつもりだったのだ。それなのに。

視線が絡まり、唇が触れそうになったとき。
そこで止めてやるつもりが…どうにも抗うことが出来なくて、思わずそのまま重ねてしまった。
キスを、してしまったのだ。
ただ重ねてみせた、温もりも感触もない、空気を霞めただけの口づけ。口づけの、真似事のようだった。



心臓が、ばくばくと音を立てすぎて破裂しそう――それぐらいには、必死の真似事だった。



「なに、これ…」
「キス、じゃないの。」
「こ…こんなの、キスになんか入らないだろ。触れてなかったし、」
クラウドの言うように、たしかに通り抜けてしまうのだから唇自体は触れていない。
「それに…男、同士だし、」
けれど男同士だからノーカウントだというのなら、それは納得出来ない。
だってもし、クラウドが生きていたら――触れることが出来たとしたら、きっとただのトモダチではなかったと思うのだ。
触れるだけのキスじゃなくて、挨拶のようなキスじゃなくて、もっと食らいつくようなキスをしただろうし。
それだけじゃなくて、もっとその先…きっと、その折れそうな細腰を引き寄せて。

「クラウドは、恋人…彼女、いたの。」
「覚えてないよ。」
そう答えてから、彼は両手をあげて白状する。
「…本当いうと、いなかった。たぶんそうだと思う。」
「思い出したのか?」
「全部じゃないけど…毎日、少しずつ思い出してくるんだ。今も、思い出した。」
「なにを?」

クラウドは子猫のように大きな瞳で、真っ直ぐにザックスを見つめる。
以前どこかで、この美しい空色を見たことがあるような――

「…ずっと。憧れてた、人がいたんだ。」
「誰?」
ソルジャーを目指していたなら英雄セフィロスだろうか。それとも、恋慕という意味で異性だろうか。
「俺、一人でも平気だって思ってたけど…本当は、トモダチになりたかった。」
「なれなかったのか?」
「なれたよ。でも、もう、それだけじゃ足りなくなった。」
「――どういう意味、」

大きな大きな瞳には、水膜が張る。
いったい今クラウドは、誰を想って泣いているのだろう。何を未練に思って泣いているのだろう。
ぽろり、と雫となったそれがこぼれ落ちていくのを、慌てて拭おうとすれば。それさえもこの手を通り抜けて、キラキラと空気に融けていく。
ザックスには、彼の涙ひとつ、拭うことは叶わない。

「ごめん、やっぱりなんでもない。」
「なんでもなくないだろ?おまえのことなら、俺は何でも話してほしいよ。」
「今は、言えないんだ。―――言ったら、終わっちゃう気がするから。」

クラウドの口にした終わり≠ニいう言葉。それが何を意味しているのか、ザックスにはわからない。
けれど、えも知れぬ不安を感じて、それ以上聞くことは出来なかった。
絶対、聞いてはいけない気がした。


彼の傍にいるために。





*******




「…で、今そのクラウドって子は、どこにいるんだ?」
「ここ。」
なんてことのないように返事をしたザックスに、カンセルは大袈裟なぐらい肩をすぼませた。その仕草に思わずむっとする。

「カンセル、お前まだ信じてないわけ?クラウドはちゃんとここに――」
「そうじゃねえ。俺が呆れてんのはそこじゃねえ。」
「え、なに。」
「お前の脚の間にクラウドを座らせてること、それにドンビキしてんだよ俺は!」

8番街のオープンカフェでクラウドのことを話して以来、カンセルは数回ザックスの部屋を訪れた。
クラウドの好みそうな甘い菓子を手土産に――そして、今日は甘い香りのする花を買ってきてくれた。
男だけの住まいに花瓶などはないが…ガラスジャーを代用して花を挿せば、クラウドは「綺麗だね」と花がほころぶように笑った。
それにザックスが目を細めれば、カンセルも「安心したよ」と満足そうに笑んだ。

…が、ザックスの「クラウドへの傾倒ぶり」は、さすがに容認できなかったらしい。
「普通に座れよお前ら!」
「いや、本読むときにさ。この体制だとクラウドが読みやすいんだよ。俺もなんか落ち着くし。」
「男が男の、足の間に座るとか…ない。ないだろ普通?!」
「クラウドをそこらの男と一緒にすんなよ。マジで可愛い顔してっから!小動物系っていうか、抱き枕系っていうか…」
「しょせん男だろ。」
「カンセルもクラウドのこと見えたらなー、絶対、俺の気持ちがわかると思うんだけど。」
「お前の気持ちって、」
カンセルは微かに、眉間にしわを寄せた。ザックスとてわかっている。
友人に寄せるには、否、生きていない友人に寄せるには――不自然な執着であること。





「クラウドがいないと、生きていけないって気持ち。」





「……そこに、クラウドって子、いるんだろ?」
小さく息を呑んだカンセルは、けれど努めて冷静に問う。
「いや。カンセルが恐い顔すっから、窓際に行っちまった。今、お前が持ってきた花を見てるよ。」
日光を浴びながら白い花に鼻を寄せるクラウドは、光に透けて本当に天使のよう。
カンセル含め、他の誰にも彼を見ることは出来ないから、きっとザックスの気持ちは理解されないと思う。





日に日に募っていく、彼への愛しさ――この想いはきっと、理解されない。





「クラウドを非難するつもりはない。荒れてどうしようもなかったお前が、そうやって笑えるようになったのは…きっとその子のおかげなんだろ。けど、おまえの執着ぶりは、」
「普通じゃないって、知ってるよ。」
「ザックス…俺にもわかんねえけど。きっと、今の関係はずっと続くもんじゃない。遅かれ早かれ、いつかは、」

「知ってる。」
幽霊というのが、いかに不確かな存在であるかということ。
絶対に触れることの出来ない体。ザックス以外には見ることも出来ない体。
ふとした瞬間に消えて、また気まぐれのように現れる。
夜、寝るたびに不安になる。目が覚めたとき隣に彼はいるのか、と――

「…知ってる、けど。」
クラウドは少しずつ、生前の記憶を取り戻している。
そうしていずれ、全ての記憶を戻してしまえば、この世に残した未練も知ることになるだろう。
それを叶えてしまったとき、きっと彼は、「成仏」してしまうのだ。ザックスのもとから、消えてしまう。
もし、それが避けられぬというならば、





「あいつが消えるなら……俺も、連れて行ってほしい。」





独り言のようにザックスが呟いた言葉に、カンセルは目を見開いた。
不謹慎な発言を叱られるかと思ったけれど、彼はそうしなかった。
きっと、それはどんな説得も叱責も意味をなさぬ、ザックスの本心であることを理解しているから。
「クラウドにその気がなくても…ザックス、お前は――あの子に憑りつかれちまったんだ。だからそこまで、執着してるんだろ。」
「違うよ。」
「違くない。結果、そういうことだ。」
「そうじゃない。俺は、たぶん、クラウドに――」





クラウドに、恋をしている。





…ザックスがそう告白すれば。
カンセルは「人妻相手よりも、よっぽど不毛だぞ」と笑おうとして、失敗した。







(2016.10.23 C-brand/ MOCOCO)
濃い友情路線で行くつもりが、結局クラウドに恋してしまうザッくん…不思議だ…


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