ご注意
*神羅時代ザックラ、二人は恋人。
*ザックスの誕生日に喧嘩してしまった二人が、お酒の力を借りて仲直りえっちする…というだけのお話です。
*後編はR35レベル(笑)の、かなりえっちいEROです。というか、EROしかない。


【前編】
ごめんね。
キミの優しさの上に、きっと胡坐をかいていたんだ。





――おまえでも、女みたいなこと言うんだな。




そう言葉にした瞬間。
クラウドの顔色がさっと血の気を失っていくのがわかって、ザックスは酷く後悔した。
そんな〝つもり〟じゃなかったのに、その言葉は酷く怜悧で薄情な形をして、彼の繊細な心を傷つけてしまった。
深酒のせいで愚鈍な思考回路でも、そのことだけは理解出来たから。


「ごめん、クラウド。今のはそういう意味じゃなくって、」
「………………いいよ、別にもう。」
「言い訳させて、違うんだって。」
「本当にいいってば。それよりお風呂入ってきたら。ザックス、お酒と香水の臭いするよ。」
「あ、うん……」
言い方は穏やかだったけれど、言外に臭いと批難された気がして。
それ以上会話を続けることが出来なくなってしまう。
この子の機嫌をとるには、もう一度話を蒸し返すよりも、まずはシャワーを浴びてくるのが賢明だろうか。


本当はシャワーではなく、ただ抱きしめて愛を囁いてやること――
それが正解だと、常のザックスであれば容易にわかるはずであったのに、鈍い頭痛のせいでその判断が出来ない。
とにかく彼に指摘された「嫌な臭い」を落とすべく、浴室へと向かった。








…この時はまだ、気付いていなかった。
クラウドは口調を荒げることもなかったし、眉を顰めるようなこともしなかったし、不満や文句のひとつも口にしなかった。
彼の「別にもういい」という言葉をストレートに受け取ったザックスは、言葉どおり、許してもらえたのだと勝手に思ったのだ。言い訳や謝罪さえ、ろくにしていなかったのに。


まさかこの日から、ザックスにとって地獄の「冷戦」の始まりとは知らず―――










**************




「それはザックス、浮気したお前が悪い。」



「してねえ!!!!」
カンセルはあっそ、とつれない相槌を打ちながら、焼き鳥に食らいついた。
それは俺が残しておいた砂肝だぞ、と文句を言いたい気持ちがあったけれど、今夜は無理に付き合ってもらったのだからと目を瞑った。
定時にあがって帰宅しても、しょせん一人の時間を持て余すだけ。
自宅で恋人からの連絡を今か今かと待ち侘びるより――こうして炭火と煙草臭い居酒屋で友人と過ごした方が、幾分気が紛れるというものだ。

「ザックス。俺、ハイボールね。」
「…おいカンセル。お前、俺が今日飲めねえの知っててわざとやってるだろ。」
カウンター席にいるのだから、店主の親父を呼び止めるのは簡単なことだ。
それなのにザックスを顎で使い、酒を注文させるというのは…どう考えても、現在「絶賛禁酒中」のザックスへのあてつけでしかない。

「察しがいいな。ざまーみろ、このヤリチン七股野郎。」
「いつの話してんだよ!クラウドと付き合ってからは、よそ見なんかしたことねーよっ!」
「当たり前のことを、偉そうに言うな。」
カンセルに少しも遠慮のない力で頭を叩かれて、大袈裟に項垂れると、二人の会話が聞こえたらしい店主の親父がケラケラと笑った。
「怒られた子犬みたいな兄ちゃん、強いの開けるか?」
「サンキューおっちゃん。でも、しばらく酒はこりごりなんだ。」
適格な比喩を口にした店主は、ザックスを慰めようと酒を勧めるが、しかしそれをやんわり断った。

「愚行を酒のせいにするのは情けないぞ。」
「…カンセル、なんか今日やけに冷たくない?」
恨めしげにカンセルを見上げると、友人はザックスの皿から、また一本焼き鳥を奪っていった。
それは俺の残しておいたぼんじりだぞ、と文句を言いたいところだったけれど、もう一発殴られたくないので我慢する。
カンセルは人畜無害で温和そうな顔をしているけれど、ザックスに対してはなかなか辛辣で手厳しい。怒らせると恐い〝隠れドS〟なのである。

しかし、カンセルの厳しさは友情故――
共感してくれる友人、甘やかしてくれる上司、慰めてくれる女友達はいても、遠慮なく怒ってくれるのはカンセルだけ。
それを心得ているからこそ、こうして今日も彼を頼っているのだ。

「当たり前だ。俺はクラウドの味方だからな。真面目で謙虚、頭の回転が速いし、努力家で、公正公平。 見た目はすげえ美人なのに、性格は控えめときた。しかも、足が細い。」
「おい。」
「それに比べてザックス、お前はただの筋肉馬鹿だ。」
「なんか雑!」
「お前は脳ミソまで筋肉だろ。――普通、自分の誕生日を忘れる馬鹿がいるか?」
二人の座るカウンターに、ハイボールと揚げたての唐揚げ、それに大粒の枝豆が並んだところで、カンセルはこれでもかという大きなため息をついてみせた。

「恋人が自分の誕生日を祝うために家で待ってくれているのに、合コンに参加して、しかも終電逃すまで飲んで。 受付嬢の巨乳とホテルにしけこんで、口紅の跡をべったりシャツにつけたまま深夜二時に堂々凱旋。 どこからどう見ても、100%お前が悪い。」

「だから違うって!前半は合ってるけど、後半は違う!本当にただの誤解だ!合コンは同期のやつに借りがあったから断れなかったんだよ。 クラウドの誕生日の日に、ミッションを代わってもらったから! 口紅は酔っぱらった女の子をタクシーに乗せたときに付けられただけで、ホテルになんか行ってない。行くわけがないだろ!」

ザックスはついむきになって、カンセルが先ほどからもりもり食べ続けている枝豆を取り返してみたものの、 豆を押し出そうとしたそれはすでに中身が入っていなかった。
「だあ!カンセルお前、枝豆食い終わったやつは別の皿に移せよ!」
ざまあ、と返ってきたからきっとわざとだ。鬼の所業である。





「実際に女と寝たかどうかはどうでもいい。疑われるような真似した時点で、クラウドが可哀想だろ。」





「………………。」
ぐうの音も出ない、とはまさにこのことだと思う。
確かにザックスは、カンセルの指摘どおり、大切な恋人に不貞を疑われてしまうような行動をとってしまった。
事実は違うけれど、けっして他の女によそ見なんてしていないけれど。でも、彼を傷つけたことになんら変わりはないのだ。
自分が100%悪いことはわかっている。わかっているからこそ、

「……だから、クラウドに謝りたいんだ。でも、あの後シャワーから出てきたらあいついなくなってて。 すぐ寮室に行ったけど出てきてくれなかった。何回電話しても出ないし、LINEは既読にすらならない。」
「それは完全に、避けられてるな。」
ここでようやくカンセルは、少しだけザックスを不憫に思ったらしい。うーん、と腕を組んで考え始める。
頭脳派なカンセルに、どうしたらいいのかとザックスが縋るように視線を向けると、彼はしょうがねえなと言って自分の見解を語り始めた。

「うーん。まあ、あれから三週間が経つんだろ?あの子もそろそろ、冷静になってきた頃じゃないか。 きっと今頃、仲直りするきっかけを探してたりしてさ。連絡しても無視されるなら、会社のエントランスで出待ちして捕まえたらどうだ。 クラウド、押しに弱そうだし、直接会いにいけば話ぐらい聞いてくれるだろ。」
「もちろん、毎日あいつのロッカーまで会いに行ってるよ。 でも話がしたいって言っても、今日は疲れているからとか、帰って講義の復習をしたいとか、体調が良くないとか言われて…… そんで今日は同僚と飲みにいくって。クラウド、大勢で飲むのは嫌いだって言ってたのに。」
「……まあ、お前も飲み会でクラウドとの約束を反故にしたんだろ。報いだな。」
カンセルが冷静に返すと、ついに耐えきれなくなったのか、ザックスの眼元はじわりと涙ぐんだ。

「わりい、いじめすぎた。」
「同情するなら砂肝くれよ。」


そのとき、ザックスのスマホのバイブレーションが振動する。
「っと、ゴメン!カンセル。時間だ。」
「ああ、クラウドからLINE?良かったじゃん、仲直りできそうか。」
「いや、クラウドの飲み会が終わる時間に、アラームかけといたんだ。迎えに行かなきゃ。」
「本人に電話してからにしろよ。二次会に行くんなら、まだこれからって時間だろ。」
「無理。三日前から着信拒否されてるし、LINEもブロックされてるから。」

え、とカンセルは焼き鳥の串を床に思わず落としてしまった。
律儀に会計をすませてくれて、足早に店を後にする友人に、もはやかける言葉が見つからない。
あれだけ惚れ込んでいる恋人から、着拒否にLINEブロックまでされているなんて――
知っていたら、砂肝もぼんじりも独り占めしなかったし、枝豆の皮を食わせるなんていう嫌がらせもしなかったのに。
悪いことをしてしまった。

カンセルはハイボールのジョッキを右手に、あの捨て犬が今夜こそ恋人に拾ってもらえますように、 と願をかけながらいっきに喉奥へと流し込んだ。
「くうーーーーーーっ!」
いやしかし、ひとの奢りで飲む酒は実に美味い。








*********




店を出たザックスは、自宅のマンションへは向かわず…隣の、さらに隣の雑居ビルを見上げた。
二時間ほど前、クラウドが同僚達とこのビルへ入っていくのを確認している。
そろそろ、一次会はお開きの時間。このまま解散か、あるいは二件目のカラオケに移動する頃合いだろう。


何が何でも、彼を捕まえて話をしたい。


電話まで着信拒否されてしまった今、とにかくザックスは焦っていた。
そんなわけがないと思うけれど、絶対にないと思うけれど――
まさかクラウドは「喧嘩した」のではなく「別れた」つもりなのではないかと。
もしもそうだとしたら、彼をそこまで追い詰めてしまったことを土下座で謝りたいし、縋ってでも繋ぎ止めなくてはいけない。
クラウドのいない人生など、ザックスにとっては絶対に、考えられないのだ。













ことの始まりは―――ちょうど三週間前の、金曜日のことだった。
その日ザックスは、とくにクラウドと「約束していた」わけではなかったし、同僚からのしつこい誘いを断りきれず飲み会に参加した。
女の子も来るいわゆる「合コン」だったので、恋人には予定を報告せず…つまりは〝内緒で〟参加したのだ。
正直、わざわざ言わなければばれるわけがないと、タカをくくっていた。
万が一何かのルートでクラウドに伝わってしまっても、さして問題はないようにも感じていた。
クラウドはザックスの人間関係や予定に干渉してくることはいっさいないし、束縛とはいっさい無縁――
恋人の交友関係やスケジュールを事細かに把握しておきたいザックスとは真逆のタイプであったからだ。

クラウドは、いっそ無関心といえるぐらいの、放任主義。
だからきっと、ザックスが合コンに一度や二度参加するぐらい、あっそうと言って興味を示さないだろうと。そう思っていたのだ。

新しい出会いなどいっさい求めていないザックスは、一次会で帰るつもりだったけれど、泥酔した同僚を介抱していたため、 三次会まで抜け出すことが出来なかった。そして、終電を逃してしまった。
それだけじゃない。最後の酔っ払い(今思えば演技だったように思う)の女性社員をタクシーに乗せた際、突然抱きつかれてホテルに誘われ… もちろんきっぱりとお断りし、さっさとタクシーの扉を閉めたものの、その際につけられた真っ赤なルージュ痕がシャツを汚していたのだ。

そして、ザックスがようやく帰宅したのは、深夜2時をまわった頃。
三次会まで残っていればザックスもそれなりに飲酒していて、おぼつかない足取りでリビングに足を踏み入れた。
そして、誰もいないはずのザックスの部屋には、予想していなかった人物がいたのだ。
他でもない最愛の恋人――クラウドが、ソファの上で丸くなっていたのである。
「これは夢かな」とついザックスが首を傾げてしまったのは、恋人がこうして自分の不在中に部屋にあがっていたことは、今まで一度もなかったからだ。
クラウドと付き合うことが出来た半年ほど前に、合鍵は渡してある。
けれどこれまで、一度だってその合鍵が使われたことはなく…むしろザックスが誘わなければ、彼がこの部屋へ進んで遊びにくることもなかったのだ。

クラウドが、初めて合鍵を使ってくれた―――

そう馬鹿みたいに浮かれてしまって、彼が「どうして」ここにいるのかを考えもせず、そのままソファへ飛び込んだ。
おそらくは、寝たふりをしていただけのクラウド。
彼は、アルコールと女の香水臭をまとった恋人に抱きつかれて、しかも体をまさぐられて。当然、嫌だといって拒絶した。
と、いうのに…酒の力は恐ろしい。
恋人の本気の拒絶を、嫌よ嫌よも好きのうちだと都合よく解釈した酔っ払いは、そのまま―――

クラウドを、強引に抱いてしまったのだ。

しかも、たいして前戯もなく、自分勝手に動くだけの…最低なセックスだった。
酒を言い訳にするなんて、無責任極まりない。
だけど実際、あの夜はかなり飲んでいて、記憶もうろ覚えだ。
覚えているのは、痛い、やめてと泣くクラウドが可愛らしく思えて仕方がなくて、夢中で腰を打ち付けたこと……それぐらいである。

我武者羅に繋がったあと、ソファから雪崩おちた二人は、床の上で眠ってしまった。
翌朝、冷たく硬いフローリングの上で目覚めたクラウドは、酷く腰を痛めてしまい、起き上がることさえ出来ない状況だった。
顔色も、蒼白かったように思う。
そんなクラウドに今更ながら罪悪感が芽生えて、昨日はごめん、とまずは無理に抱いてしまったことを謝ったけれど。
彼はそれに応えず、しばらく黙していた。
せめて痛めた背を摩ってやろうとしたとき、クラウドは静かな声で呟いたのだ。

「………昨日、誰といたの?」と。

大きな瞳の目尻に涙が滲んでいるのを見たとき、ザックスは昨夜しでかしてしまったあらゆる失敗の謝罪や、償いたいという想いよりも、まず――感動してしまった。
クラウドは、昨夜無理に行為に及んだことよりも、何時間も恋人のいない部屋で待たせてしまったことよりも。
ただザックスが昨夜、女といたのではないかということ。それにショックを受けているのだ。
その表情は、どう見ても怒りや憤りの念ではなく、ただただ不安に震えている。
恋人が、存在しないどこかの女に嫉妬してくれている。愛されている事実に、どうしようもなく舞い上がった。
だから思わず、言ってしまったのだ。






「おまえでも、女みたいなこと言うんだな」と。






それは決して、恋人ぶるなという批難ではないし、女々しいことを言うなと揶揄したわけでもない。
そうではなくて、恋人っぽいやり取りが嬉しい、可愛いヤキモチが愛しくてたまらないのだと、そう言いたかっただけだ。
それなのに、深酒で痛む頭は正常なフォローも出来なくて。

シャワーを浴びている間に、彼は帰宅してしまい、彼の寮室へ追いかけたけれど出てきてもらえず。
自分の部屋に戻ってきたときに、箱ごとゴミ入れに捨てられたケーキを見て、初めて気づいたのだ。
…昨夜が自分の誕生日であったこと。取り返しのつかないことをしてしまったことを。

クラウドはきっと、勇気をもって合鍵を使って部屋に入り、ザックスの帰りを待っていてくれたのだ。
きっと、慣れないバースデイ・サプライズのつもりで―――










…全くもって、カンセルの言葉通りである。
どこからどう見てもクラウドに非はない。100%ザックスが悪いのだ。







************




「クラウド、大丈夫か~?お前って、ほんと酒弱いのなぁ。」
「おれ、いっぱいしか飲んでない……」
「一杯でぐでんぐでんとか、可愛いの!」
「良く言うぜ。おまえ、ソーダだって言って、強い酒を飲ませてたじゃねーか。」
「そうだっけ?まあいいじゃん、俺たち、これからちょっと休んでいくから。二次会は適当にやっといてよ。」

ザックスが、じっと待機すること30分。
大衆居酒屋からわらわらと出てきた若い兵士たちは、それぞれが安酒のせいかおぼつかない足取りだった。
とくに金髪の少年――他でもないザックスの大切な恋人は、もはや一人では自立出来ないらしく、体格のいい男に支えられている。

「なあ?クラウド。一緒に涼しいとこで休もうぜ。」
「………いい、ねむい。かえる。」
「つれないこというなよォ!」
「かえる、かえりたい…」
いやいやと抵抗する少年を、体格のいい青年は引きずるようにして歩き出した。

「おいおい!お前、そいつお持ち帰りする気じゃねえだろうな? クラウドって、1STソルジャーのザックスさんがすげえ可愛がってるじゃん。手を出すのはやべえだろ。」
「別に何もしねえよ。ちょっと休憩してくだけだって。」
「……いや、お前、絶対ヤる気だろ。クラウドは真面目だし、すげえいい子じゃん。マジでそういうのはやめてやれよ。」
「いい子ぶるなよ。お前らだって、本当は混ざりてえんだろ。いつもクラウドのいないところで、こいつのこと可愛いとか言ってんじゃん。」
「そりゃ、可愛いとは思ってるよ。でも無理矢理ヤるのは違うだろ。」

繁華街の真ん中で、言い争う数人の若者達。
金曜日の夜を楽しむ人々で賑わう通りでは目立つことはなく、道行く者は一見するだけでそのまま通り過ぎていく。
――が、一人の男だけは、その兵士たちの前で歩みを止めた。





「…その子と、無理矢理何をヤるって?」





ザックス自身「ガキンチョの新兵相手にどうよ」と思うぐらいには、酷く冷たい声が出てしまった。
ぎょっとした風に体格のいい青年は後ずさりし、他の兵士たちはザックスのことを知っているのか素早く敬礼した。
「仕事じゃないんだから、敬礼とかいいよ。俺はクラウドを迎えに来ただけだから。」
得意の〝人好きのする笑顔〟を見せれば、兵士たちはわあっと駆け寄ってくる。
「すっげーかっこいい」とか「Tシャツにサインもらえませんか!」 「やっぱりクラウドと親友って噂は本当だったんですね!」などと盛り上がる兵士たちのなかで、体格のいい男だけは顔色がどんどん悪くなっていった。
笑顔を向けるザックスは、けれど全く目が笑っていない。
ザックスの刺し貫くような視線を、それを向けられた男だけはすぐさま気付いたからだ。

「…いい加減。クラウドのこと、返してくれない?」
「ひいっ!!」
クラウドの細腰に手をまわすとは、いい度胸だ。
さて、へし折ってやろうかと男の右手に手を伸ばすと、危険を感じたらしい相手は、いとも簡単に捕らえていたクラウドから身をひいた。

支えを失ったクラウドは、よろよろと体を左右に揺らしてそのまま倒れこみそうになる。
当然その体をしっかりと受け止めたザックスは、その華奢な腰を勢いよく自身に引き寄せた。
この子をこうやって抱き寄せていいのは自分だけなのだと、男に牽制するように。

「ざっくす………?ザックスだ!!」
「え?!」
自分を抱き寄せたのがザックスであると気付いたらしいクラウドは、満面の笑顔でその名を呼ぶと、両手を広げて抱きついてくる。
「ザックス、すきー!いちばんすき!!」
普段クールな印象のクラウドが――とが驚いたのは、兵士たちだけじゃない。ザックスも同じだ。
まさか公衆の面前で、彼の方から思い切りハグしてくれるなんて。しかも愛の告白つき。
シラフであれば、まずあり得ない光景。
酒の力は恐ろしい、だが偉大である。



「わかった、わかったから。一緒に帰ろうな?クラウド。」



つい数秒前までは、クラウドに手を出そうとした屑野郎をどうしてやろうか、 それこそキンタマすり潰すぐらいの一生消えぬトラウマを植え付けてやろうかとまで思っていたというのに。
「うん、ザックスの部屋にかえる!」
まさかのお持ち帰り希望、かつ可愛いハグ攻撃に、もはや屑男のことなど脳内から消滅してしまった。

おんぶを強請るクラウドと、しょうがねえなと言いながら嬉しそうにその子を背負うソルジャー。
兵士たちは二人を見送りながら「彼らは本当にただの友達なのか」などという答えのわかりきった野暮な質問は、終ぞ口にしなかった。

おんぶされたクラウドが、ザックスの肩に抱きつきながら、何度も「ちゅう」をせがんでいるのだ。
二人はどう見たって、お似合いの―――――であることは、誰の目にも明らかである。









*************




「ざっくす~ただいま~!」
「はい、お帰りなさい。」

ザックスのマンションに帰宅し、リビングのソファに降ろされたクラウドは、よほど上機嫌なのか常になくテンションが高い。
彼の脱ぎ捨てた靴下がザッックスの顔に命中したけれど、勿論そんなことに腹をたてたりはしない。
むしろ可愛いから、もう片方の靴下も投げてほしいくらいだ。

クラウドは、酒を飲むと素直になるらしい。
ここまで酔ったクラウドを見たことがなかったから、ザックスも知らなかったことだ。
今もザックスの首にしがみついては、彼の方から「ちゅー」と唇に吸い付いてきてくれる。
彼の唇から洩れる酒の匂いさえも、たまらなく甘美で、久しぶりの恋人とのキスを思う存分堪能した。

「ざっくす……あのね……」
「うん、なーに?」
「…………………………エッチしよ?」
「ぶはっ!!!!!!!!」

いくら酒が入っていたとしても。想像を絶するクラウドの一言に、ザックスはただただ大混乱である
「え~~っと。その、なんだ。いやって言ってるんじゃないぞ、そうじゃあないんだけど、………うん、今日はやめとこ?」
「やだ!エッチする!」
「だあ!だからさ、おまえすげえ酔っぱらってんじゃん。今おまえのこと抱いたって、明日の朝には覚えてないかもしれないだろ。」
酩酊した恋人の体を、どうこうするなんて。どんなに愛していたって、それは許されないことだ。

「だからちゃんと……明日の朝になったら、ちゃんとおまえに謝って、許してもらって、仲直りして。それから、今度は優しく抱くから。」

なし崩しのように体を繋げても、状況は好転しない。
むしろ潔癖なクラウドは、明日の朝になってザックスを軽蔑するかもしれない。
これ以上クラウドに距離を置かれてしまったら、もう生きていける自信がない。

「とりあえず、上着は脱いで。あとベルトも外すぞ。風呂は明日にしとけ、こんだけ酔ってたら危ないから。」
「でもおれ、おさけくさいもん。」
「クラウドは臭くない。いつもいい匂いだよ。」
だから大丈夫、ヨシヨシと頭を撫でてやると、クラウドはふるふると首を振る。
「からだ、きれいにしないと…ザックスとエッチできない。」
「あのな~!!!」

クラウドの唇から、舌ったらずに「エッチ」なんて言葉を連発されて。興奮するなというほうが無理だ。
普段のクラウドは、セックスとかエッチとか、キスって単語さえも言葉に出来ない――恥ずかしいらしい。
そんな初心なところがザックス的には大好物ではあるけれど、だがしかし、性に積極的なクラウドもまたたまらない。
いわゆるギャップ萌えである。
むくむくとつい湧き上がってくる自身の欲を、どうにか理性で宥める。
「今日は、エッチ禁止。ほら寝るぞ、ベッドに連れていってやるから。」

「ザックスのばかっ!!!!!」
「うわ!!!」
抱き上げようとすると、癇癪を起こしたように蹴り飛ばされてしまう。

「え、クラ?な、泣くなよ………!」
クラウドはぼろぼろと大粒の涙を流しながら、尻もちをついたザックスの膝上に乗り上げてきた。
そして、ザックスの胸倉をつかみ上げると。 あのもの静かなクラウドからは想像できないぐらい、まるで子供のように――― 一気に泣き叫んだ。



「ザックスの大馬鹿!おれだって、男だもん!すごくエッチしたくなるときだってある…っ! 自分がしたいときは、むりやりやったくせに…おれがしたいときは無視するんだ。 どうぜおれはへたくそだし、痛がってばかりだし…つまんないって、めんどうだって思ってるんだ…っ! 誕生日だって、おれなんかといるより、女のひととお酒のんだほうがたのしいから、だから、帰ってこなかったんだ! 俺、眠れなかったのに、ずっ起きて待ってたのに、ザックス、日付かわったのに帰ってこなかった…。 ザックスの誕生日、おわっちゃったのに、酔っぱらってへらへらかえってきて!しかも何事もなかったみたいに、無理やり襲い掛かってきて! 本当は、俺に内緒で女のひとと飲んでたくせに!それに………………女のひとと、セ、セックスしたくせにっ!!!」



「……………………クラウド、」
クラウドの泣き叫んだ言葉は、いろいろ支離滅裂であったり、事実ではなかったり、文法もおかしい。
けれど、的確にザックスの心臓のど真ん中へと突き刺さった。
「別にいい」と言って、クラウドがあの日飲み込んだ本当の気持ち。
恋人への不満、不審、不安、寂しさ、嫉妬――――――そして、愛情。
酒の力が引き出したこの叫びは、それが全てではないとしても、彼の本音であることは間違いなかった。

「クラウド、ごめんな。俺の誕生日、覚えててくれてありがとう。 誕生日にホールケーキなんて、ゴンガガにいたとき以来だから…すっげえ嬉しかった。 それなのに俺、自分の誕生日だって忘れてて、クラウドに内緒で合コンいったし、しかも終電逃すし、日付かわっちまうし、本当最低なことした。 浮気はしてないけど……でも、たしかに、受付の女の子にホテルに誘われたし、抱きつかれた。 クラウドに誓って、絶対に寝てないけど、でもおまえを悲しませたことに変わりない。 しかもひとりで盛り上がって、無理やりセックスして…おまえに恐い思いさせた。ごめん。 ―――おまえのこと、泣かせてごめん。」

言い訳はみっともないと思っていた。
ザックスを責めなかったクラウドは、きっと言葉にしなくてもわかってくれているのだろうとも思っていた。
信頼という絆のうえに、胡坐をかいていた。
人を傷つけることをせず、自分ひとりで傷ついてしまう…そんなクラウドの優しさの上に、胡坐をかいていたのだ。
言葉だけでは愛は表現しきれない。だが言葉がなければ、伝えられぬ愛もあるというのに。



「おれ…ふられるんじゃ、ないの?」



ただでさえ、自分の価値を理解できていないクラウドに、こんな不安を抱かせてしまったことが苦しい。
「俺が、おまえと別れるわけないだろ。」
「………おれ、ふられると思ったから、ザックスのことさけてたのに、」
「それで連絡とれなかったの?!俺の方がふられるかもって、本気でびびってたよ?!」
「おれが合鍵、勝手に使ったから…重い女みたいなことするなって、怒ったんじゃないの、」
「違うし!!むしろ、合鍵使ってくれたら嬉しいから!もっともっと使ってよ!」

「じゃあ俺、まだザックスの恋人でいていいんだ。」
なんて健気なことを言われてしまっては、もうザックスはこの可愛い恋人を抱きしめるほかに選択肢はない。
「ざっくす………恋人同士がすること、しよ?」
嬉しいけれど、今は辛いだけのお誘いだ。再度行為をせがまれて、ザックスはああもう!と泣きたい気持ちになる。

「したいよ!すっげえしたいけど、でも……………おまえ、ほら、勃ってないじゃん。酒が入ってるから。」
「たつもん、ちゃんと出来るから、お願い、」
「クラ、でもな、」






「お願い―――ザックス。おれのことだけ見て。…女のひとなんか、抱かないで。」






この世で一番愛らしい嫉妬を前に、もう我慢できるわけもなかった。











次回、いきなりR35のエロッスでっす_(:3」∠)_
ザックスの性欲リミットブレイクですのでご注意ください。
(2018.05.19 C-brand/ MOCOCO)


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