C-brand

 

 


 

 

 



 

 

、はじめました。

 

 

【 ご 注 意 】

*ザックスが年上リーマン、クラウドが大学生かつコンビニのアルバイト店員という現代パラレルです。

*ものすごい変態ストーカーが出てきます。引かないでください。

*モブ→クラ表現、流血表現、無理矢理描写、露骨な隠語等を含みます。

 

 

恋ってなんだろう。愛ってなんだろう。

その難解な答えを、彼は当然のように知っている。

 

 

【後編】

 

彼が大切にしてくれた恋だったから、自分も同じぐらい大切にしたかった。

大切にしたかった―――のに。

 

 

 

 

 

「…本当に。部屋、あがって行かないの?」

また危機感がないと叱られる気はしたけれど、どうしても離れがたくて。断られるのを覚悟で尋ねた。

「ザックスの部屋に行ってもいいなら。…俺の部屋にあがるのだって、同じことだろ。」

彼の部屋の合鍵を握りしめて、そうすがる。

 

もう互いを知らないわけではない。

いや、知らないことの方が多いだろうけれど、もっともっと知っていきたいと思っているのだ。

「そりゃあ、行きたいけどさ。……でも、」

今日は駄目だ、と。

やはり拒絶されたのだと理解して、思わず眉を下げると。ザックスによって顔を引き寄せられた。

 

「おい、勘違いすんなよ?――今の俺、下心全開だから。」

「…え、」

「デートすっげえ楽しかったし、告白もできたし、今浮かれまくってるから…正直、我慢できそうにない。

また今度、昼間にお邪魔するよ。いい?」

「いい、けど…」

「けど?」

「顔、近い…っ!近いってば!」

 

ザックスの大きな手で、両頬を包まれて。互いの鼻がくっつきそうなぐらい、二人の距離は近い。

蛍光灯の下、至近距離で見つめられていることが恥ずかしくて、また顔に熱が昇っていく。

ゆでタコのような、変な顔をしていないだろうか。

 

 

「このまま、キスしちゃおっか?」

 

 

どうして、黙って奪ってくれないのだろう。

試しているのか、ふざけているのか、了承を得ているつもりなのか。ザックスの意図はわからない。

目の前に影が落ちて、彼の顔が更に近づいてくる。キスされるのだろう、そう思ったのに。

けれど、唇が重なる直前に、彼は動きを止めてしまう。

 

 

「…クラウドって、もしかしてファーストキスもまだ?」

「………うん。」

 

何故そんなことを問うのか。

もしや自分のキスを待つ態度が、不自然だったのだろうか。

目は閉じるべきだった?唇は?手は相手の肩に回すもの?

そもそも頭ひとつ分の身長差を考えれば、背伸びをすべきだった?

キスの作法ひとつ知らないことに呆れて、彼は気が削がれたのかもしれない――

そんなネガティブな思考に囚われたのも束の間、ザックスはクラウドの唇をそっと指先で撫でると

愛おしくて仕方がないという顔をする。

 

「じゃあさ、こういうのも大事にしないと。」

「え?」

「初めてなんだから、すげえロマンチックなキスがいいだろ?夜景とか…いや星空の方がいいかな。

1億の星の下で、流れ星が落ちてきたらキスするとか。一生忘れられないような、そういうやつ。」

「何それうすら寒い。」

「え?!クラウド君ひどい!!」

 

海で告白されたように。

やはりザックスは、気障というかロマンチストというか。いや、ここまでくると乙女脳といってもいい。

精悍でワイルドな風貌をしているくせに、そのギャップはあまりに可笑しい。

「俺は別に、そういう理想はない。」

「じゃあ、オマエはどういうのがいいの?」

そう問われる言葉と重ねるように。ザックスのコートを引っ張ると、その唇を強引に奪った。

 

「やりたいときに、しのごの言わずにやる。それが男だ。」

「……オマエ!だからかっこ良すぎるっての!惚れ直すって、そーいうの。」

 

強気に出てみたものの、やっぱり初めてのキスは恥ずかしくて。

慌てて階段に逃げようとすると、腕を引かれてそのまま抱きこまれる。

「んん…っ!」

情熱的に唇を食まれて、二度、三度と繰り返し重ね合った。

唇から洩れる湿った吐息、うっすらと見えた伏せられた睫毛、すりつけられるようにぶつかる高い鼻筋。

この距離でないと知り得なかった彼の情報に、ほんの微かな嫌悪だって感じることはない。

ただただセクシーだと、そう感じてしまうのだから――

もう自分は、彼に心だけでない。体も堕ちてしまったのだ。

(あ、身体――?)

 

 

「やっ、もう、だめ…っ」

信じられない体の変化に気付いて、その驚愕故、思わず彼の胸を押し返す。

「クラ…?しつこくしすぎた?」

戸惑う様子のザックスに、なんと説明したらよいのかわからない。まさか、

「そうじゃ、なくて……。その、イヤなんじゃなくって。」

「あ、もしかして、」

まさか――キスだけで、下半身が反応してしまったなんて。

 

 

 

「クラウド、勃っちゃった?」

 

 

 

なんてデリカシーのない男だ。あけすけな指摘に、耐えがたいほどの羞恥に襲われる。

「どうせ俺は…!彼女いない歴イコール年齢の童貞だよ!ザックスのバカ!!」

「ちょ…なんでそうなんの?!怒るなって?な?」

先ほどまでの性的な意図ではなく、子供をあやすようにむぎゅむぎゅと抱きしめられて。

その腕の中で暴れようとすると、背を優しく撫でられる。

「別に恥ずかしいことじゃないだろ?」

「恥ずかしい、ことだろ…!こんな、キ、キスだけで…っ」

 

 

 

「すげえ好きな子に触ってんだから、興奮して当たり前だ。」

 

 

 

ごり、と腹の辺りにそれを押し付けられる。そのまさかの状態に、思わずザックスを見上げると

「俺なんかもうパンツ汚しそうだから」とあり得ない暴露をされた。

「……ザックス、」

「うん?」

「やっぱり…かえっちゃう、の?」

まさか自分の人生において、こんな風に誰かにすがる日がくるなんて。

クラウドにとっては、プライドや羞恥心をかなぐり捨てたうえでの、一世一代の誘いだった。

けれどそれでも返ってくるのは、

「頼むから、そういうのやめろよ。」

あまりに冷たい言葉―――…ではなくって。

 

 

 

 

「帰るのが死ぬほどつらくなること、言わないで。」

 

 

 

 

あまりに優しい言葉だった。

「マジで、大事にしたいんだよ。わかって。」

「わからない。せ、セックスするって――俺が傷つくことなの?…大事にするってなに?」

想いが通じ合ったばかりで、初めて手を繋いでデートをして、初めてのキスをして。

たしかにまだ、時期じゃないはわかっている。

でも、こんなにクラウドが望んでいるのに、今夜一緒にいてくれないなんて。

 

 

 

 

「宝物みたいに、想うことだよ。」

 

 

 

 

あまりに愛おし気に目を細められて、胸がぐっと締め付けられる。

「セックスって、準備が必要だろ。ほら、男同士だし…初めてだし。オマエが痛いのは嫌なんだよ。

…それに、明日の朝。結局は体が目的だったんだって、その程度なんだって、オマエ泣くかもしれない。

そんなのは絶対に嫌だ、絶対。」

クラウドが想う以上に、彼はクラウドを大事にしてくれているのだ。

言葉通り、世界でたったひとつの宝石に触れるように。…それは嬉しいけれどもどかしい。

 

 

 

「………あんまり待たせると、俺が襲い掛かるよ。バカザックス…」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

思えばあの時。

ザックスを「この部屋に招かなくてよかった」と、それだけはいえる。

 

彼のことだから、きっとクラウドを背にかばってしまう。

相手が凶器を振りかざしてきたって、少しの躊躇いもなくきっと彼は自分の盾になる。そういう人なのだ。

 

 

――あいつの何を知ってるんだ。

(ううん、レノ。俺にだってそれぐらい…わかるよ。)

 

まずは携帯番号から交換してください

(絶対、呼ばない。アンタの助けなんか絶対呼ばない。)

 

通りの先のレンガ作りのマンション。…いつでもおいで。

(行きたかったけど。きっともう一生、行くことはないよ。)

 

好きだけど、大好きだから――大事にさせて?

(ごめんね。…大事に、して、くれたのに、)

 

宝物みたいに、思うことだよ

(――こんな簡単に、壊れちゃった。)

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

意識が遠い。

 

 

 

 

 

何が現実で、何が思考で。何が過去で、何が現在なのかわからない。

今、貪るように唇に食らいついてくるのはいったい誰――…

「や…やだ…!やめろ…っ!!」

「何故だい?消毒してあげているんだよ。キミの唇があの男に汚されたからね。」

部屋の明かりはついていない。曇りガラスの向こうから微かに灯る、廊下の蛍光灯。

それに照らされた男の顔が眼前にあって、耐えきれぬ嫌悪を感じて必死で抵抗する。

安物のパイプベッドがギシギシと悲鳴をあげた。

 

 

「知ってるかい?クラウド君。キミのファーストキスは僕なんだよ。だって君の使っている箸も歯ブラシも

 僕がペロペロしてあげたからさ。

 そうそう、僕の愛液がたっぷり染み込んだキミ専用のパンツ、履いてくれたかな。」

 

 

狂っている。

それはあまりに狂った空間だった。

 

ベッドのパイプに少しの労わりもなく…皮膚が擦り切れそうなほど強固に、縄で繋がれた腕。

ベッドの下には、二人分の靴と引き裂かれたクラウドの衣服が落ちている。

そしてクラウドの顔のすぐ横。

子供の頃から使っていた水色の枕に突き刺さる、鋭利なナイフ――――

 

抵抗しようと大きく身をよじると、左頬にその刃が掠める。

「あーあ、キミの綺麗な顔に傷がついちゃったじゃないか!なんてもったいない。

ビスクドールは美しくないと意味がないだろう?それなのにキミがそうやって抵抗するから…

さっきだって、殴ったりしたくなかったんだよ?」

傷になったりしたら値打ちがさがる。

そう勝手なことをいう男の顔は、間違いなく見覚えがあった。

いつだったか雪の日に、夜の並木道で声をかけてきた不気味な男。

上質なスーツを着て、黒髪で、背が高い―――けれど、ザックスと似ても似つかない男だ。

 

額を殴打された事実を思い出して、遠のいていた意識が傷の痛みとともに覚醒してくる。

そうだ、自分はいきなり、鈍器のようなもので殴られたのだ。

ザックスとアパートのエントランスで別れ、部屋の扉を開けて、閉じて、丁寧にも鍵を二重にかけた。

そして部屋を振り返ったそのときに…男が腕を振りかざしていた。

意識が一度途切れていたその間に、ベッドに縛り付けられて裸に剥かれ、そして。

 

(こんな男と…キス…した、なんて)

大好きな人とアパートのエントランスで初めての口づけを交わしてから、

おそらくはわずかな時間しかたっていない。ほんの10分にも満たない時間かもしれない。

――幸せの絶頂から奈落の底へ、とはまさにこのこと。

今、おぞましい男の顔がすぐ目の前にある。

ザックスのように爽やかなブルーミントの香りではない。臭い男の息が、鼻にかかる。

 

「そうだ、美しくないと意味がない。それなのにキミは、傷がついてしまった。

あんなどこの馬の骨かもわからない男に、足を開いて…」

「いっ…!!」

「この尻穴に!さんざんぶちこまれたんだろう!!」

強引に足を開かされ、誰も触ったことのない――自分も、ザックスだって触れたことのないそこへ、

いきなり指を突きこまれる。

「はは、絡みついてくる…絡みついてくるぜえ…っ!すごいよキミ、今までこんな穴に出逢ったことないよ!

やっぱり売りやってる少年って、咥え慣れてるから緩いんだよね。そりゃあ、女よりはまだ締まるけど。」

「…うっ!…ひぐっ!うう…っ!」

興奮した男が、酷く乱暴に指で中を抉ってくる。幾度も幾度も。

 

 

 

 

「あの男と何回やった?キミが出かけてからちょうど12時間だ。朝から男とホテルにしけこむなんて、

本当にいけない子だね、クラウド君。何回だ?いったい何回乳首舐められて、何回可愛いチンポを

擦られて、何回この尻穴に…俺がずっとぶちこみたかったこの穴に!中出しされたんだ?!」

「ひぐぅ…っ!!」

クラウドの位置からは見えないが、数本の指を突っ込まれたのだろう。

急に滑りが良くなったことで、出血したのだと気付いた。気付いてもどうしようもない。

奪われるのはキスだけじゃないとわかっている。どんなに抵抗したとしても、きっと最後には…

 

 

 

 

(大事にしてくれたのに。宝物って、言ってくれたのに――)

ザックスの大事にしてくれた全てを、この男に奪われるのだ。

唇、身体、心。思い出も、二人で寄り添うはずだった未来でさえも―――全部。

 

 

 

 

クラウドの背のあたりに、固い無機質なものの存在を感じる。

自身のスマートフォン。デニムのボトムを脱がされた際に、ポケットから落ちたのだろう。

アルバイトの帰り道、彼と別れた後には必ずメールが届いた。

最近は、毎日寝る前に電話もしていた。

まめな彼のことだから、今日の礼と言いながら電話をかけてくるかもしれない。

いつだって待ち遠しかったメールや電話が、今はただ、鳴らないことだけを祈っている。

 

 

ピリリリリリ!

 

 

祈りも虚しく、狭い室内でそれは大きく鳴り響く。メールではなく、電話の着信音だ。

(見るな…、出るな…、ザックスを巻き込むな!)

スマートフォンに触らせてなるものかと抵抗するも、両腕を縛られている状態ではどうしようもなかった。

「ザックス・フェアから電話だよ?テレホンセックスでもするつもりだったのかい?」

――彼の名前を知られてしまった。

男は完全に頭がおかしい。彼がもしも巻き込まれるようなことがあったら、自分を絶対許せない。

 

 

「そうだ。この男に僕たちのセックスを聞かせてやろうか?あんあん可愛い声で喘いでくれよ。

それとそうだね、僕のチンポの方が大きくて気持ちいいって、そう教えてあげてよ。

――もう二度と、キミに近付いてこないようにさ。」

狂った要求に首を横に振るも、男は着信をとってしまう。

と同時に、尻を再び指で抉ってくる。

「…っ、……、」

声など出すものか。悲鳴も、泣き声も、「助けて」という言葉も。絶対に口にしない。

 

 

『クラウド?もしもし?』

 

 

喘げ、男は無言で要求を続ける。広がる血の臭いに、酷い激痛に、唇を噛んで耐える。

『もしもーし?』

一言も発しないクラウドに焦れたのは、電話の向こうのザックスではない。

目の前の男の方だった。

ガチャガチャとベルトを外し、クラウドの眼前に悍ましくそそり立った男の象徴を露出する。

――喋らないなら、これを口に含め。

そう示しながら、ぐいとクラウドの唇へとそれを押し付けようとする。酷く耐えがたいことだ。

 

「も、もしもし…」

『お、良かった。寝てたのか?俺がさんざん連れまわしちゃったから、疲れた?』

「お、おきてたよ。レポート、たまってるから…、いまは、でんわ、できない。」

『…え?でも………』

焦れに焦れた男が、クラウドの白く陶器のような頬に、どす黒く醜い性器を押し付ける。

 

『ん、わかった。じゃあ、一言だけ――言わせて。』

「……なに。」

顔に擦り付けられた性器のぬるい体温と、粘着質な体液がおぞましい。嘔吐しそうだ。

『その、なんだ…』

「なに、はやく、しろよ…っ」

ザックスに気付かれる前に、電話を切りたい。

 

 

 

 

『大好きです。…明日もバイトの帰り、迎えにいくから。』

 

 

 

 

涙が、勝手に。溢れてしまう。泣き声なんか、絶対聞かせてはいけないのに。

「おれも――」

俺も大好きです。違う、俺の方がもっと大好きです。

そう言いたいけれど、でも、でも。

『クラウド?』

 

 

 

「…俺は、好きじゃない。やっぱり、アンタのことなんか好きじゃない…!遊びだったんだ、

他に好きなひと、いる。その人との方が、相性がいいし。せ、セックスもいい。」

 

 

 

『…なに、言ってんの?いくらオマエでも、怒るぞ――』

急激に温度が変わっていくザックスの声は、途中でぶつりと切れた。男が通話を切ったのだ。

60点ってところだな。どうせなら、僕のチンポの匂いが好きって言ってほしかったよ。

でも、キミの愛の告白、すごく嬉しかったから――合格にしてあげる。」

男が強く押し付けた性器を、クラウドの頬から離すと、ネバりと白い筋がのびた。

 

愛しい人に心にもない拒絶をして、怒らせて、傷つけて。

これほどの悲しみがあるだろうかと思うのに、目の前の男は、なおもクラウドを追い詰めていく。

 

「キミの望み通り、今すぐ挿れてあげたいんだけど。僕って潔癖なんだよ。男同士のセックスは、

気持ちいいけどリスクがあるだろ?だからヤる前には絶対、挿れる穴を綺麗にしてあげるんだ。」

 

床に置かれていた大きなボストンバックから、男は透明のビニール袋を取り出す。

「大丈夫、新品だよ。」

そう言って見せられたゴム状のもの――それは何?

「我慢できないって泣きながらクソする子たちの顔、本当に傑作だよ。動画撮らないでって言うけどさ、

もちろん全部撮影してコレクションしてるよ。ネットで流すといいお金になるしね。」

「…っ」

「でも、これはキミには使わない。キミは、僕の大切なひとだから。」

にやりと哂う男の口元から、涎が伝う。完全に常軌を逸している。嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

コンコン、コンコン、

 

 

 

 

控えめな、ノックの音。

夜も遅い時間帯だ。近所の迷惑にならないようにと配慮しながら、けれどたしかな意思を感じる。

それは、まさか――

 

 

 

 

「…クラウド?いるよな?」

 

 

 

 

扉越しに聞こえてくる優しい声。

(どうして、)

どうしてザックスが。たとえ先ほどの電話で憤りやってきたとしても、いくらなんでも早すぎる。

電話を切ったのは1分前のことではないか。

「いつも、下まで送った後。オマエが部屋の電気つけたの確認してるんだ。やっぱ心配だし…」

息を潜めることしか出来ない。

先ほど電話で、これからレポートをやるところだといってしまった。

帰宅してから電気を一度もつけていないのは、さぞや不自然に感じたことだろう。

 

「なあ、いるよな?具合悪い?……俺と話すのがもういや?」

 

どうして、巻き込みたくないのに。嫌いになっても構わないから、こないでほしかった。

「俺のこと、デートで幻滅したのか?それともキスが嫌だった?」

逃げろ、くるなというのは逆効果だ。危険など顧みずに自ら飛び込んでくるだろう。

だからもう、祈るしかできない。

 

「オマエに嫌われるようなこと、しちゃったんだよな?言ってくれれば治すし、どうしても駄目だったら

またトモダチから始めてもいい。だから…頼むから、好きでいさせて?」

 

男の動きに注視する。

枕に突刺さったナイフを、男が手にとる前に舌を噛んで死のうか。そんなことを考えていた。

けれど男は刃物には目をくれず、ボストンバッグから今度は巨大な容器を取り出す。

それはペットボトルのような、あるいはガラスか。何か半透明の容器――

 

 

 

「―――家畜用の浣腸だよ。」

 

 

 

それに頬ずりしながら、男はあまりに狂ったことをいう。

「あの男に、中出しされたんだろう?僕がすっきり綺麗にしてあげるね。馬も悲鳴あがるぐらいの

浣腸だから、きっとすごい威力だよ。」

耳元で囁かれるその言葉の意味、理解できるわけもなくただただ血の気が引いていった。

 

何を言っているのだろう。物理的に、入るわけがない。

無理矢理入れようものなら、皮膚が切れる程度ではすまない。体が壊れるに決まっている。

「……っ、や……っ!」

恐い。でも、もしも助けを求めてしまったら、ザックスの身が危ない。

恐い。でも、声なんか出さない。

恐い。けれど、今彼を守れるのは自分だけ―

この苦痛に耐えることで、彼を守るのだ。守りたい。自分だって男なのだから。

…でも、恐い。

 

尻を持ち上げられ、ひやりと固い切っ先が後腔に宛がわれる。

守りたい。恐い。守りたい。恐い。…でも、やっぱり守りたい。守ってみせる。

そう、覚悟を決めたそのとき、

 

 

 

 

「なあ、ここ開けてくれ。オマエの顔を見ないと、心配でおかしくなりそう――…」

耐えきれなかった。

 

 

 

 

「…………ざっ、くす……たすけて……………っ」

 

 

 

 

思わず零れてしまった――小さな小さなその、泣き声のような声。

クラウド自身の耳にも届かぬような、微かな音のようなものだったのに。

ガシャン!!!

少しの間も開けずに、まるで迷いなど存在しないかのように。廊下の曇りガラスが飛び散る。

ガシャン!ガシャン!ガシャン!

二、三度ガラスを叩き割るような音が響き、そうしてすぐさま彼の叫び声が聞こえる。

「クラウド!!!…てめえ!何してやがる!!!」

ガラスの破片にまみれながら、文字通り部屋の中へと転がり込んできたザックスは、

男に掴み掛るとベッドから引きずり降ろした。

男のヒステリックに叫ぶ声、近所の人々のざわめき、遠くで鳴るサイレンの音。

それらを徐々に遠くなる意識の中で聞いていた。

 

 

 

 

 

ザックスは無事だろうか。男はどこにいった。自分の体はどうなった。

状況判断ができずにいたそのとき、そっと何かに包み込まれた。

「なんで…、なんで、こんなになってんのに、俺のこと呼ばなかったんだよ……っ」

震えるザックスの声。まるで何かに耐えるように。

「ざ、くす…だいじょう、ぶ……?」

彼が怪我をしていないか、今はそれだけが心配だった。

 

 

 

ザックスが耐え切れぬように、呻き声をあげて泣き出した。

「うん、おまえが。―――クラウドが、守ってくれたから。ありがとな、クラ。」

 

 

 

結局、最後に守ってくれたのはザックスの方だったけれど。

ありがとう、そう泣き縋れてしまえば、ただそっと頭をなでてやるしかない。

 

荒野に咲く小さな花に、そっと口づけるような。

世界でたったひとつの宝石を、磨くような。

生まれたての赤子を、両の手で抱き留めるような。

今クラウドが抱く想いは、彼の言葉そのまま――

 

 

 

 

宝物みたいに、想うことだよ。

 

 

 

  

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2014.03.10

その後の話で、えっちっちも書きたいです。

 

 

 

 


 

 

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