ご注意
*「トモダチ、はじめました。」その後のお話。
*ザックスが10歳年上リーマン、クラウドが大学生かつコンビニのアルバイト店員という現代パラレルです。
*一度結ばれた二人が、「二度目の試練」にもだもだしたりする…緩い話。
*露骨な性描写あり(というかそれメインです)、ご注意ください。


病めるときも、健やかなるときも、
豊かなときも、貧しきときも、

若き今も、老いる未来も―――

【後編】

タクシーで自宅まで帰ると言い出したザックスに、そんな贅沢は出来ないと遮ったのはクラウドだ。
「たいした距離じゃねえよ。タクシー使ってもたぶん5千円ぐらいだって、」
「ご、5千円?!そのお金あったら半月は生活できるよ!」
「え、いや5千円で半月食いつなぐのは無理だろ。売れない芸人ならともかく……」

どうも二人の生活レベルには、その感覚に格差があり過ぎる。と、クラウドは思う。
貧しい母子家庭で、かつ現在はまだ学業が本分であるクラウドと。
もともと田舎の地主という比較的裕福な家庭で育ち、彼自身も社会人として高い地位に就いているザックス。
ザックスの年収が幾らなのか聞いたことはないけれど、その住まいや身なり、生活から察するに…
おそらくはかなりの高所得者だろう。
男としてそんな彼を尊敬しているけれど、だからといって甘えるようなマネはしたくない。

「タクシーは却下。電車で帰る。」
「あんなことあった後だぞ?!金曜だから酔っ払いも多いし、今ちょうどラッシュ時だし!」
クラウドも痴漢にあった直後こそ動揺していたけれど、もうだいぶ落ち着いてきたところだ。
「大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃない!」
ザックスは、いつも恋人を甘やかしすぎると思う。

「大丈夫だってば。…ザックスと一緒なんだから。」

ザックスの頬がじわじわと染まっていくのを、その理由がわからず首をかしげる。
「オマエ、なあ…っ!そういう風に可愛いこと言って、小首かしげて、睫毛パチパチとかして!
しかもその水色のダッフルコートめちゃくちゃ可愛いし!なんなんだよオマエっ!!」
「ザックス、なんで怒ってんの、」
「こんな可愛い子を満員電車に乗せられるわけねえっての!
いいかクラウド、山手線のサラリーマンってのは皆おまえの可愛い尻ねらってんだぞ?!
マジで許せねえ、この世のリーマン駆逐してやる!!」
「え、本当意味わかんない。」
ザックスは赤くなった顔を隠すように、クラウドの旋毛に顔を埋めてそのままぎゅうぎゅうと顔を押し付けてくる。
彼の熱い吐息を頭上に感じて、それが少しくすぐったい。



「ところで、」



まるで読経のように、高低のない平坦な声がした。
「ところで、そろそろナースの合コンに戻っていいの?俺。」
デパートの男性用トイレでのワンシーンとは思えない。
ここは永遠の愛を誓う教会だっただろうかと誤解してしまうほど、互いしか見えていない二人に…
盛大なため息を漏らしたのはもちろん。
―――彼女いない歴三年半のカンセルである。






*******



カンセルの用意してくれた『クラウドのための服』は、白のVネックニットに黒のストレートパンツ、というシンプルなものである。
しかしカンセルらしくディティールに拘りがあるようで、上品で着心地がとても良い。
そしてサックスブルーのファーつきダッフルコートが、シンプルな服装に遊び心をプラスさせている。
その優しく愛らしい色合いのコートがあまりに似合っていたため、絶対電車になんか乗せられない!と
騒ぎ出したのはザックスであったが、押し問答の末なんとか彼が折れて、電車での帰宅に落ち着いた。




電車に乗り込んだとき、あまりの人口密度と他人の体臭、それに酒臭さにクラウドも少し怯んでしまう。
が、すぐにその華奢な体はザックスに引き寄せられる。
彼のコートに顔を押し付けていれば、その爽やかなマリンブルーの香りとチョコレートの匂いがして。
思わずすんすんと嗅いでしまった。そうしてしまうほどに、どちらも好きな香りだ。

「クラウド、潰れてない?」
「平気、」
「気持ち悪くなってない?」
「全然、」
「…そういえば俺、今日外回りだったから臭くない?取引先の相手ヘビースモーカーだったし、
汗はかいてないけど俺ももうすぐも三十路だからそろそろ加齢臭も心配になってくるといいますか、
もし臭かったらごめんなさい。帰ったらそっこーシャワーあびるし、スーツもクリーニング出すから、」
香りを嗅ぐクラウドに気付いたのだろう。
マイナスな方面へ誤解をしたザックスが可笑しくて、思わず吹き出してしまった。


「違うよ。…ザックスの匂い、好きだなって。」


周囲に聞かれぬよう、彼の耳元で内緒話をするように囁いた。
ザックスが目を見開いて、意外に長い睫毛をしばたかせた後。
これまでさり気なく抱き寄せていた程度のその腕を、今度はしっかりと腰に回してくる。




ザックスの鼓動が速い。呼吸が荒い。体温が熱い。その視線が、あまりに淫らだ。




これだけ沢山の人の波の中にいるというのに、もう誰の気配も感じることは出来なかった。
誰の臭いもわからない、誰の声も聞こえない、誰の表情も見えない。
ザックスのことしか―――ザックスに求められていることしか、わからない。

電車が大きく揺れる。弾みで、目の前の男が覆いかぶさってくる。
急停車を謝罪する車掌のアナウンスが聞こえてきた時、上から食いつかれるように唇を奪われていた。








*******



電車を降りてからの道のりは、ほとんど無言だった。
ザックスの右手に引かれ、その力強さはいっそ暴力的なぐらい。
いつも奔放なぐらいよく喋りよく笑う男が、これほど無表情で寡黙な状況に不安になる。
――何か、彼が不機嫌になることをしてしまっただろうか?

左手には有名店のチョコレートケーキの箱を持っていて、どうしたのかと聞くと「オマエが好きだと思って」と答えが返ってきた。
その声はあまりに優しくて甘い響きがあったから、それにクラウドは安堵した。
別に彼の不興を買ったわけではないようだ。

「今、何考えてるの。」
彼は気付いていないのだろうか。
クラウドの手首を握る力が強すぎて、痣になってしまうほどであること。
きっと、後にその痣を知ったとき、酷く彼自身を責めるだろうこと。
「別に。」
常にないそっけない返事に、それ以上会話を続けることが出来なくなってしまう。
尻ごみしたクラウドに気付いたのか、ザックスは決まりが悪そうに眉を下げた。

「あー、ごめん、違くて。俺が今何を考えてるか、絶対言えないなって。」
だから粗野な態度とった、ごめん。続けて謝罪をされて、それはどういう意味かと彼に視線をやる。
「俺の頭ん中、もしクラウドに知られたら絶対嫌われるからさ。今、すげえエロいことばっか考えてるもん俺。」
「えろ…っ?!なにそれ、意味わかんな…」
「あとで教えてやるよ。」
獲物を前にした獣のような鋭い視線に、クラウドの肌が栗だつのがわかる。





「ベッドの中で、いやってほど教えてやる。」








*******



ガチャン、と音をたてて閉められた玄関のドアを背に、潰されるくらいの圧迫感で唇を貪られる。
こんなに激しく口づけされてしまえば、息を吸うことすら難しい。
クラウドより10才近くも年上で、ハンサムで、経験豊富なはずのザックスが、これほど余裕をなくしていること。
自分なんかに興奮していること。それはクラウドにとって理解できないことだけれど、それでも嬉しい。

「ザックス…焦りすぎ、だよ。」
「ごめん、ベッドまで待てない。」
掠れた声、そして大きな手がニットの中に滑りこんでくる。
指先はその肌質を堪能するように撫で続け、同時に互いの舌を絡ませ合った。

触れるだけのキスならば、「いってきます」「ただいま」と彼が言うたび、
一緒に見ていたテレビがCMに切り替わるたび、それこそふと目が合うだけで交わし合っている。
けれどこの情熱的な深いキスは――初めての夜、以来だ。

「ケーキ、冷蔵庫に、いれないと…」

このまま唇を犯され続けてしまえば、きっと腰が砕けて立ってなどいられない。
あえて現実的な提案をして、理性を繋ぎ留めておきたかった。
「それに、晩ごはん…食べてないし。シャワーも浴びてない、から。」
行為の前にしておかねばならないことはある。
食事をとらねば体力がもたないだろうし、何より清めていない体を恋人に差し出すことなど出来ない。

「シャワーはどうでもいいけど、食事とケーキはまあ…そうだな。」
いや、シャワーが一番重要だろ!
クラウドが内なる突っ込みをいれている隙に、ザックスの指は器用に二人分の服を脱がしていく。
止まぬキスを受け止めながら、彼に導かれるまま廊下を歩き、衣服はその場に脱ぎ捨てられ。
互いがボクサーパンツ一枚になったときには、クラウドの背にはベッドがあった。
なんて手際の良いことか。

膝が折れてベッドに倒れこんだクラウドの上で、彼は躊躇することなくクラウドの下着を引き抜いた。
そしてじっ、としばらくの間クラウドの中心を凝視する。
薄暗い部屋の中でも、ザックスの瞳がどろりとした情欲に駆られていることがわかる。
無言でクラウドの性器を見つめ続けるその行為は、まるで、犯されているようだと思った。
これは――視姦≠セ。
その二文字が脳裏をよぎったとき、クラウドの控えめな性器がびくん、と起立する。



「クラってさぁ…、なんていうか本当―――Мっぽいよな。」



普段はそんなこと全然ないのに、ベッドではMっぽい。ギャップがたまんねえ。
そう性癖をストレートに指摘されて、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
ザックスは反応した性器に触れることもなく、クラウドに背を向けると寝室から出ていってしまう。
後を追うべきなのか、大人しく待つべきなのか、シャワーを浴びにいっていいのか。
それとも彼が気乗りしなくてお開きということなのか。
経験不足なクラウドには正しい選択がわからない。

とりあえず、裸で待つのはいたたまれない。
ベッドの上に敷かれていたガーゼケットで体を覆うと、彼の気配を探る。
「…オマエ、本当俺のツボおさえてるよな。」
「なにが?」
「貞淑な妻ってやつ?恥ずかしそうに俺のこと待ってるとか、本当ドストライクでやばいわ。」
どうやらクラウドの選択は正しかったらしい。
嬉しそうにベッドに乗り上げてきたザックスは、その手に白い紙箱を持っている。
中に入っているのは、例の有名老舗店のチョコレートケーキだ。

「ほい、アーン!」
ザックスは素手でケーキを豪快につかみ、クラウドの口元まで運ぶ。
「え、今食べるの。」
「エッチの前にスタミナつけないとだろ?腹が減ってはセックス出来ないっていうし。」
「な…っ!ば、晩御飯を先に食べればいいだろ。」
「一回やったらシチュー作るよ。その前に俺はクラウドを食いたいの。
他の男に触られたところ全部、俺で上書きしたいの。わかる?」
再度「アーン」と声をかけられ、言われるがまま口を開くとふわふわのチョコレートクリームが舌の上で融けた。

「……美味しい。」
こんなに美味しいケーキは初めて食べたかもしれない。
柔らかいスポンジには、瑞瑞しいほどのリキュールが染み込んでいる。
噛むたびに爽やかなオレンジの香りが鼻を通り、濃度の濃いアルコールに陶酔してしまいそうだった。

「良かった、その顔が見たかった。」
あまりに幸せそうにザックスが笑うから。
ベッドの上で、裸のまま、素手でケーキを食べている――この行儀の悪い行為さえ、とても素敵なことに思えてくる。

あまりに美味しくて、1ピースをあっというまに食べてしまえば。
それを待っていたように、今度はクラウドが食われる番だった。
チョコレートのせいでいっそう甘くなったキスに、眩暈がしそうだ。
シャワーを浴びるとザックスに訴えなければいけないのに、それさえもどうでもよくなってくる。
でも、体の一番汚い場所に彼が触れるのだ。やはり清めないと――

「ざっくす、シャワー…、」
「必要ないって。」
「きたない、体…ざっくすに、見られたくない。」
「クラウドは、どこもかしこも綺麗だよ。」

いったいどんな幻想だ。
そんなわけがないと抗議してやりたいのに、よりにもよってその「汚い」はずの場所に彼はいきなり触れてくる。
「いや…っ!きたない!!」
「汚くない。」
「だめ、指なんかいれちゃ…っ!駄目、だめだよっ!」
「指一本でいやいやとか、オマエ本当可愛いな。チンコいれた時の反応、すげえ楽しみだわ。」

左手の平で小ぶりな性器を扱き、右手の中指で尻の穴を解かしていく。
「あ、あらわない、なら……っ、ちゃんと、つけて…」
せめてそれだけは、とコンドームの着用を懇願すると、
クラウドの言葉を正確に理解したらしいザックスは「いいよ」と頷いた。
…「一回目は」と付け足された言葉は、聞かなかったことにする。









いったい、何度目のセックスで「慣れる」ことが出来るのだろう。
挿入時のめりめりという腸壁を擦り上げていく感触は、どうあっても痛いし恐ろしい。
内臓を押し上げてくるような圧迫感も、息が出来ぬほどに苦しい。
そして何よりも愛する人に恥ずかしい部分を全て見られていること――それが何よりも耐え難い。

「痛い、の?クラウド。」
「息、ちゃんとしてる?」
「恥ずかしくないよ。俺しか見てないから。」

言葉にしなくても、クラウドの心中などお見通しのようで。ザックスはどんな時も相手を気遣ってくれる。
自分だって、余裕なんてないくせに。
ザックスの切なそうに寄せる眉間の皺、食いしばる歯、首筋を流れていく汗。
彼の纏うあまりにセクシャルな状態にあてられて、腹の下の辺りに熱がこもる。

「こら、締めすぎ…だって、出ちまうだろ…っ」
「ざ、っくす…すごい汗、かいてる、」
「ごめん、オマエじゃなかったら…絶対こんなんならないんだけどな。」
彼のこめかみ、顎を通り、そして雫となってぽとりと落ちてくる汗の珠。
それがクラウドの頬に落ちてきて、彼がいかに追い詰められているかを知る。
嬉しい、そう噛みしめるように思った。彼が気持ちいいならば、別に自分は達せなくても構わない。

「俺ばっかり良くなっても意味ないから、」
クラウドの考えはやはりお見通しなのか。
クラウドがまだ挿入による快楽を得ていないことに気付いたザックスは、
一度ゆっくりと引き抜くと体の向きを代えさせる。
「後ろからの方が、苦しくないだろ?」
「んん…っ!」
初めて繋がった夜も、彼は始め後背位でことにおよんだ。
たしかに、後ろからだと引っかかりが少なく、また無理な体制でもない。けれど。

「あっ!ぁ!あん!」
ズチュン、ズチュン、と大きなストロークで腰を前後させる相手に、尻を向けて受け入れているこの体位。
きっと相手からは、自分の最も醜い場所を見られてしまっているはずだ。
「かわいいお尻。」
案の定、ザックスにそれを見られてしまっている。
「尻の穴まで綺麗な色してるよな、クラウドって。締りもすごいし。こういう、処女っぽいのも本当たまんねえけど、」
繋がっている場所を厭らしく撫でられて、ぶるりと身震いした。



「早く、俺の形にかえたいなあって。」



意味ありげに、ゆっくりと引き抜かれたそれをまたゆっくりと埋め込んでいく。
それはまるで―――体に、その存在を教え込むかのように。
「ひぃっ!」
「俺の形、覚えて?」
――他の男になんて、絶対抱かれない体にしてやる。と。
消せない跡を残すように、この男はクラウドを汚していく。体を変えてしまおうとしている。
まるで熱した鉄の棒のように、硬度と質量と熱を孕んだそれで幾度も撃ち抜かれ。
彼の愚直で勝手なほどの独占欲に、たまらない快楽を得てしまう。

「あっ!あんっ!あぁん!」
抑えることの出来ぬ喘声を漏らしてしまったそのとき。彼の腰遣いが勢いを増す。
パン!パン!パン!
音が響くほどに打ち付けられる。出し入れされるたびに、クラウドの内部は男の形を知っていく。



この男に、腹の中をかたどられてしまった――



そう思い至った瞬間、心も体もたまらないほど逆上せてしまって、抵抗する間もなく。
「きゃあん!!!」
「…っ、」
「…あ、ぁ……」
自分が一人で射精してしまったのだ、と気付くのには時間がかかった。
甘い倦怠感に震えているその体を背後から抱きしめられ、項や背中に降るようなキスをされたとき、ようやく知ったのだ。
腹の中に収まっているものの質量が、少しも衰えていないことを。

「ま、って…おれ、いったばっか、だから…」
「うん。イった後のクラウドのなか、すげえ融けそう。最高に気持ちいいよ。」
「い、やぁん…っ!つかないでぇっ!」
「あーほんと、オマエって俺を煽る天才。可愛いよクラウド。」

クラウドの細腰をその大きな手でつかみ直すと、一度ゆるやかになっていたその腰の動きを再開させる。
ガクガクと激しく揺すぶられ、もはや腕にも力は入らずにシーツへと突っ伏してしまったが、
それはむしろ男に向かって尻を突きだす形になる。
その浅ましい体制に泣きたい気持ちになるけれど、ザックスはごくりと喉を鳴らして喜んだ。
いったいどんな体力をしているのか、力強いピストンは重く、深く、そして速い。
こんなに突かれ続けてしまっては、きっと自分はよがり狂ってしまう。
与えられる男根の刺激はあまりに気持ち良くて、気持ち良くて、気持ち良くて。恐ろしいほどだった。
このひとが愛しすぎて、恐かった。


「あん!あん!ひゃあん!」
「……ク、ラウド…っ、かけたい、いい?」
「かける?な、にを?」
「ごめん、かける。ごめんな…っ!」
「んぁああっ!」

思い切り腹の奥を押し上げた後、そのままの勢いでそれが引き抜かれる。
さんざん男に出し入れされて、その肉の大きさに形を変えていた内部。
おそらくは突然抜かれたことで、穴が開ききっていることだろう。
そのだらしない肛を見られたくない、とシーツの上でもがこうとしたそのとき、
「あつ…っ!!!あ、ついっ」
尻の中心に勢いよく何かをぶちまけられ、その熱さに思わず悲鳴のような声をあげてしまう。

「…っ、ぁ、……あ、……っ!」
いったい何をぶちまけられたのか。理解が遅くなってしまったのは、初めてのことだったからだ。
いや、正確には二度目になるのだろうか。
数時間前に、電車の中で知らぬ男に精液をかけられたのだから。この体に。

どろり、と粘性のあるそれが、尻の双璧をつたって、シーツへと堕ちていく。
その感触にぶるりと震えると、ぐいと強引な指先がクラウドの控えめな尻の谷間を割り開く。
「や、やぁ…っ」
「クラウドの尻の穴、すっげえエロいんだけど。俺のチンコの形に広がっちゃってさあ、
ひくひく動いてるし、俺のザーメンでどろどろになってるし。」
「み、みないで…おねが、」
「嫌だね。せっかく中出しすんの我慢して、ぶっかけたんだ。見せろよ。」
まったく、酷く勝手な言い分だ。
しかし、こういう少しサドスティックな言葉を、とびきり優しい声色で言うそのギャップ。
それにどうしようもなく心拍数があがってしまう自分は…
やはり彼に指摘されたように、マゾヒストの気質があるのかもしれない。


「クラウドのここ。花が咲いたみたいで、すっげえ綺麗。」



まさかめくりあがった尻の穴を、そう表現されるとは。
顔に血がのぼって、真っ赤になっていくのがわかる。
「まだ2回目のセックスなのにさ。クラウドのなか、もう俺の形に変わったみたいだよ。」
ほら、俺ので塞いでほしいってお尻が言ってる。
これでもかというほどの卑猥な言葉で攻めてくるザックスに、クラウドはもう言葉を返すことは出来ない。
ただただ、恥ずかしくて首を横に振り続ける。

彼の精液で汚れたままの尻を、少しの迷いもなく引き寄せられる。
そしてそのまま、再びガチガチに硬度を得た巨大なペニスを押し付けられ、
尻の谷間で数回滑らせたあとにずるんと突きこまれ――
「ひぅ…っ!あ、あ、あぁっ!」
「あー、本当しまる。良すぎだろオマエ…。それって、わざと締めてくれてんの?」
「んあ!し、らな…、あっ!んあっ!」
「じゃあ無意識なんだ。とんでもねえ名器だな、オマエ。」
ずくん、ずくんと大きく腰をうたれて、奥の壁を容赦なく押し上げてくる。
めいき≠フ意味はその時のクラウドには理解できなかったけれど、
彼がこの体で感じてくれているのだとしたら、それは本当に幸福なことだ。



「…可愛い尻を見ながら、ってのもたまんねえけど。もっとキスしたいから。今度はこっち向ける?」
「ま、まって…っんああああっ」
繋げられたままで体の向きを180度変えられてしまい、
腹の中でグリグリと掻き回される衝撃に前後不覚になるほどよがる。
「いやぁ!おしり、ひろがっちゃう…っ」
思わず、クラウドの性器の先端からピュル、と蜜がこぼれてしまう。
それに気付いたザックスは、クラウドの両足を大きく広げたあと、その濡れた性器を優しくこすり始める。

「や、やめ…」
「尻をぐちゃぐちゃにされんのと、おちんちん擦られるのと、どっちが気持ちいい?」
「やだ、わかんな…」
「じゃあ、おっぱい弄られんのと、耳の中を舐められんのはどっちが好き?」
「し、らない…っ」
「キスされんのと、愛してるって囁かれるのだったら、どっちがいいの?」
「…………どっちも、してくれないの?」

暗にどっちも好きだと答えたクラウドに、あれほど饒舌だったザックスは言葉を失った。
あれだけクラウドを目で、指で、体で、言葉で――さんざん辱めたくせに。
今の彼はまるで恋を知ったばかりの少年のように、頬を染めて固まっている。
自分から攻めるのは慣れているのに、その逆はこのありさまだ。なんて可愛いひとだろう。





「――愛してる。」
慣れない本音を言葉にして、そっと彼の首に腕をまわす。
ますます身を固くし、いまだ微動だに出来ぬザックスに構うことなく、そのままそっと唇を重ねた。






クラウド、クラウドと、壊れたように泣きわめく彼に抱き潰されてしまうのは、
このすぐ後のことである。











*******



トントントン、

微かに聞こえる規則的なリズムに、意識が覚醒していく。
重い瞼をこじ開けるようにすると、閉められたままの遮光カーテンの隙間から、眩しそうな日の光が漏れていた。
隣にザックスの姿はない。
漂うシチューと焼けたパンの匂い――その先に彼はいるのだろう。

腰が重くて、体中の間接や筋肉が痛む。
頭もぼうっとするから、もしかすると少し熱っぽいのかもしれない。
ベッドの上で起き上がっては寝転び、また起き上がろうとして失敗し…
ゴロゴロとだらしない動作をしばらく続けてから、漸く床に足をつけた。
彼のいるキッチンに行きたい。
同じ家にいるのに、音を感じるほど傍にいるのに、それでももっと近くにいたいと思うなんて。
人を好きになると言うのは、なんて滑稽なことだろう。



すっと美しく伸びた背筋、慣れた風に野菜を刻む手つき、そしてこちらに向かって優しく細められる眼元――
東の朝日をたっぷり浴びた、眩いほどの白いキッチンで、男と目が合った瞬間に泣きたい気持ちになった。
あれほど愛し合ったのに、ぶわりと全身に沸き立つのはたしかに愛しさだった。

「クラウド、おはよう。もっと寝てて良かったのに。」
「シチューのいい匂いがしたから。お腹すいたなって、」
嘘ではないけれど。本当の本音は、ただ彼の傍にいたかっただけだ。
「昨日は結局、晩飯ぬいちゃったからな。がっついてごめん。ちょっと、反省してる。」
鍋に蓋をしたザックスは、エプロンを無造作に外すとこちらに歩み寄ってくる。

「……体、平気?痛いとこない?いちおう、尻は切れてないか確認したけど、」
「か、確認?!ばかだろアンタ!」
もしかしなくても、寝ている間に尻の穴を覗かれたということか。恥ずかしいにもほどがある。
「ちょっと…熱っぽい、かな?」
こつんと額を合わせられると、その距離に心臓が飛び跳ねそうだ。
あれだけ数えきれぬほどキスをして、それ以上の恥ずかしいことも沢山したというのに。
何度、この人にときめけばいいのだろう。

「なんで、照れるの?昨日すっげえエッチなことしたじゃん、俺たち。」
「…ザックスだって。照れてるじゃん。変な顔してる。」
「言うなよ!クラウドの前では俺、かっこいいとこ見せたいんだからさ…」

互いに顔を赤くして、頭をかいたり、顎に手をやったり、忙しない状況だ。
どうしようもなく気恥ずかくて、視線を180度そらして背をむけると。
リビングのテーブルに飾られた、白い薔薇のブーケが目に入った。こんなものは、昨夜まではなかったはずだ。
「綺麗…」
けっして華美な花束ではないけれど、清らかで眩しい花弁に目を奪われる。

「オマエの、そういう顔が見たかったから。」
それはチョコレートケーキを買ってきた理由とまったく同じで、思わず笑ってしまった。

「あのな、別に痴漢のことがあったからとかじゃなくって。その…ずっと、考えてたことなんだけど。」
彼なりに言葉を選ぼうとしているのか、いつもより歯切れが悪い。

「俺って、本当病んでると思うんだ。オマエのこと、束縛したいし独り占めしたい。
誰にも触らせたくない。誰のことも見て欲しくない。……自分でも恐いぐらい。」
「まあ、元ストーカーだしね。」
あっさりとそう返したクラウドに、ザックスは「ひでえ!」と大袈裟なほどに項垂れた。




「だから…その、それは俺の気持ちというか。オマエにとってみれば重いかもしれないけど、俺のモノっていう印っていうか。 虫よけにもなるし。けじめでもあるし。っていうか、本当はもっと前から用意してたんだけど、なかなかタイミングが難しくて。 ほら、やっぱりムードは大事にしたいじゃん。一生モノのことだし。だから本当は星空の下とかで渡したかったんだ、 とびきりロマンチックにさ。あっ、それかオーロラとかウユニ塩湖とかそういう絶景を前にってのもいいかもしれない。 クラウドと世界を見て回りたい。どこにだって連れていってやりたい。そういえば新婚旅行まだじゃん俺たち。 どこいきたい?モルディブでハネムーンってのも捨てがたいよな。あ、そうじゃなくて、そういうとこでちゃんとするつもりだったんだけど、 でも、昨日のことがあってもう待てなかった。本当俺のクラウドに何してくれやがったんだあの野郎、やっぱりDNA鑑定で犯人特定して 社会的に抹殺しないと気がすまねえ、」

いったい彼は何が言いたいのだろう。
まったく主旨が掴めない。

せめて息継ぎはしろ。






「で、何が言いたいの。」
「…………………もしかして、オマエ気付いてないの?」






信じられないと言う表情で、彼がクラウドにむかって指をさす。
その震える人差し指の示すところは、クラウドの左手。



の―――薬指。










「愛しています。だから、指輪を贈ってもいいですか。」











先ほどまでの、しどろもどろな彼は何処へいってしまったのだろう。
愛を語るザックスに、少しの迷いも衒いも恐れもない。
左手の薬指にしっかりと嵌ったプラチナリングも、白いブーケも、愛する男の真摯な眼差しも。
全ての輪郭がぼやけていく。




溢れる涙で、愛する世界がもう見えない。










完結です。拙文にお付き合いいただきありがとうございました。
(2015.06.09 C-brand/ MOCOCO)


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