ご注意
*「美 女 と 野 獣」 パロディです。が、結局、原作童話は関係ありません。
*レノ→クラウド、クラウド←ティファ要素があります。
*亀更新。



野獣が身を賭して庇ったのは、
たったひとつの宝石でした。

きらきらと煌めく、透き通るほど清らかな。

たった一人の、少年――

Story16.不自由への逃亡



もっと酷くしていい、酷くしてほしいと縋れば、ザックスは「わかった」と了承していっそう優しく触れてくる。
初めて会った日のように、殴りつけて嬲り罵り、そうして彼の欲を無理やりねじ込んでほしいのに。
体中のいたる所に傷跡を残し、一生消えぬ痛みを抱えて生きていきたい。
そうでないと生きていけない。

彼のいない世界では、もう。

「それ、やだ…っ、もう、いいから、はやく…っ!」
「いや、さすがにこれじゃまだ入らないだろ?もうちょっと慣らすから、待って。」
「うそつき、酷くするって言った…!」
「酷くするとは言ったけど、痛くするとは言ってないよ。」

丁寧すぎるほどの愛撫を受けながら、「あの夜」のことを思い出そうとする。
初めてザックスに体を暴かれた日、たしかにクラウドは、彼から耐えがたい辱めを受けたというのに――
その時の痛みや怒り、憎しみの記憶をうまく辿ることが出来なかった。
〝本当人間って、どうしようもねえ生き物〟
人間を見限った、ザックスの悲しい言葉だけがやけに耳に残っている。

そしてその暴力の後。体調を壊したクラウドに、癒しの魔法をかけてくれたこと。食事に誘い、仲直りを図ってくれたこと。
〝もうあんなことはしないから〟〝おまえを泣かすぐらいなら、死んだ方がいい〟
そう言って、クラウドに謝罪をしてくれたこと。

「お願い、だから…優しく、しないで、」
そんな風に乞うてみても、結局クラウドの野獣は、最後まで優しい――
愛しい記憶ばかりが、愛しい想いばかりが頭の中を廻って、その事実にクラウドは絶望した。
この愛を胸に抱いて、独り、このまま長い時を生きていかねばならないなら。
…それはあまりに苦しいことだと思えたから。

「おれ、」
「うん?」
「俺、ザックスのこと、きらいになりたい…」
「そっか…」
「嫌いに、なりたいよ。」
「そうだな。」
愛しい男の胸に縋り付くと、相手はクラウドの髪に顔を埋めてくる。
クラウドの旋毛に彼の吐息があたって、髪に口づけられたのだとわかった。

「でも、きらいに、なれない……」
嫌いになれるわけがない。たとえ今、どれだけ殴られても、抉られても、殺されたって。
「俺は、死ぬまで――ザックスだけを愛してる。」
鼓動を止めるその瞬間まで、きっとこの人を愛してしまう。そんなことはわかっているのだ。



「………………出来ない。」



酷く掠れた声で、ザックスは言った。
「やっぱり、出来ねえよ……。」
「――――ざ、っくす?」
突如、ベッドの上から重みが消える。クラウドに寄り添っていたはずの体温が、遠ざかる。

「まって、ザックス、まって!」
「………食料も衣服も金も。必要なものは、何でも持っていけばいい。チョコボも納屋に二羽居るから、好きな方を連れていけ。」
「あの、ザックス、」
「ただし、二度と戻ってくるな。二度とクラウドに――おまえ、なんかに会いたくない。」
「……な、んで…そんなこと言うの。」
まるで、初めて会ったときのような冷たい台詞。



「もし、戻ってくるようなことがあれば………殺すぞ。」



なんて、嘘の下手なひとなんだろう―――ザックスは、泣いていた。
泣きながら、彼は精一杯、クラウドに憎まれようとしている。
クラウドが「嫌いになりたい」と言ったから。クラウドの望みを叶えるために。クラウドの、ザックスへの未練を断ち切れるように。



「わかった……戻らない。絶対に、戻らない。」



これ以上、このひとに甘えてはいけない。
ザックスにクラウドを捨てさせてはいけない。その前に、クラウドがザックスを見捨てるのだ。優しいザックスが、自分を責めることのないように。




「ざっくすのこと、きらい、になったから。」




唇はひとつ嘘をつき、瞳からは〝本当〟が一粒零れ落ちた。
自分も、なんて嘘が下手なんだろう。言葉は震えて、裏返り、自分の声じゃないみたいだった。
これではザックスのことを笑えない。

「ガキみたいに、泣くんじゃねえよ。……もう、抱きしめてやれねえんだから、」
そこは〝俺はガキは嫌いなんだ〟と言うのが正解だ。
やっぱり、嘘をつくのが下手なのは、ザックスのほうだった。










**********



ひと月近くこの城にいたけれど、チョコボの飼育小屋を訪れたのは初めてだった。
屋敷に隣接する煉瓦作りの小屋。ザックスがここで二羽のチョコボを飼育しているということは、クラウドも以前から聞いていた。
けれど、これまでクラウドがこの小屋を避けていたのは…ここに足を踏み入れることは、この城を出ていくときだから。

ザックスとの、別れの日だから。

広くはないけれどその分清掃の行き届いた小屋は、防寒性の高い作りになっていて、甘く香るふわふわの枯草に包まれるように、二羽のチョコボが寄り添っていた。
クラウドの背丈を超すほどの大きな黒いチョコボと、それよりは少し小さい黄金色のチョコボ―――
親子か、兄弟か。いや、その二匹は慈しみあう恋人同士のように思えて、クラウドは思わずたじろいだ。

希少な黒い羽毛を持つのが「チョコ」、輝くような金色の羽毛を持つのが「ボコ」というらしい。
クラウドが気に入ったほうを連れていっていい、どちらも成鳥であるから二人ぐらい楽に乗せられる、と。そうザックスは言っていた。
けれど、あまりに親密な雰囲気の二羽を前に、どちらか一方を選んで連れ出すのは気が進まなかった。

「チョコボには強い帰巣本能があるんだぞ、と。ニブルヘイム村までお前たちを運んだら、あとは自力で帰ってくる。だから安心して連れていくんだぞ、と。」
憂慮するクラウドに、小屋の入口から声をかけてきたのはレノだった。
防寒用の長いコートを着て、顔の半分近くをマフラーで覆っている。彼もこのまま、ここを起つつもりなのだろう。

「帰巣本能…。犬や、ひと、みたいに?」
クラウドにとって、本物のチョコボを見るのは生まれて初めてだった。
この鳥はそんなに頭がいい動物なのだろうか。確かに、彼らの持つ優しい瞳は、知性や厚情を感じさせる。
「いや、犬よりも知能が高いし。人間なんかよりよっぽど――優しいぞ、と。」
レノはレノらしく、人間を批難したけれど。その後すぐにきまりが悪そうに、「今は、優しいやつもいるって知ってる」と肩をすぼませてみせた。
「チョコボの場合は、動物の持つ帰巣本能っていうより…庇護本能、っていうのか。そういうのが強い生き物らしいぞと。」
「庇護本能?」
「病で臥せっている老人とか、泣いている子供とか。そういうのに寄り添おうとする、優しい動物だって言われてる。」
「…寂しがってるひと、とか?」
クラウドが思わずそう問えば、レノは目をふせて微笑った。
「ああ、そうだ。…あいつがこの城に独りでいる限り、必ずチョコボはここに戻ってくるんだぞ。」

「レノさんも、」
「俺?」
「レノさんも、ザックスのところに、戻ってきてくれる?」
「……………お前ってほんと、ひとのことばっかりだな。」
レノは大きくため息をつきながら、自身のマフラーを外すとクラウドの首にぐるぐると巻きつける。
クラウドのマフラーはティファに貸していたから、よほど首元が寒そうに見えたのかもしれない。
「お前の方こそ、大丈夫なのか。あの小娘も言ってただろ?生贄が無事で戻るってことが…どういうことか。」
クラウドはもともと、村人から迫害される形でこの城へと追われてきたのだ。石を投げつけられ、母と住む家をも燃やされかけた。あの時のことを思えば、たしかに村に戻ることへの恐怖はある。

けれど、16年間クラウドが育った村だ。
狭い村だから互いの顔はよく知っていたし、隣人たちとはそれなりに親しくしていた。
彼らは決して悪い人間ではなく、生活する中で親切にしてもらったことも、たくさんあったのだ。
彼らの善意を信じたい。信じるしか、ない。

「戻ってみないと、わからない。でも、ティファと母さんは守ってみせる。男だから。」
「……まあ男としては、お前みたいのこそ、本当は守ってやりたいんだけどな。ほら、そいつも、」
「――え、」
黒い艶々の羽毛を持つチョコボ〝チョコ〟が、クラウドにすり寄るとクエエ、と小さく鳴いた。
「そいつも、お前を守ってやりたいらしいぞ、と。」




***********


チョコの手綱を引きながら、クラウドが小屋から出ると、藍色の空はうっすらと明るんでいた。
一晩中吹雪いていた雪はすっかり止み、東の空からは黄金色の朝日がちょうど顔を出す頃だった。
陽の来光が雪原に線を引き、キラキラと光を反射させる。
すっかり暗闇の生活に慣れていたクラウドにとって、久しぶりの太陽の光。
思わず目をそらしたくなってしまったのは、光に目が慣れないせいか、それとも、暗闇への未練からか――

「…もう、別れは言ってきたのか?」
誰に、なんて、聞き返さずともわかっている。クラウドは首を横に振った。
「ザックス…どこかに行っちゃって、見つからないんだ。たぶん、見つけてほしくないんだと思う。だから、結局…何も言えなかった。ありがとうも、さよならも、何も。」
「でっかい図体のくせに、繊細だからな。それに、あいつってああ見えてすっげえ」
「「泣き虫」」
クラウドがレノの言葉に重ねるように言うと、彼ははは、と声を出して笑った。
穏やかに細めた眼元、そのすぐ下の頬骨あたりには刺青が刻まれている。
ランプの灯下で彼の顔を見たことはあったけれど、日光のもとではっきり見たのは初めてで、これまで気付かなかった。

レノの頬に刻まれていたのは、古の文字だった。今は使われていない、古い古い文字。
けれど、クラウドはその文字を読むことが出来る。文字については、それなりに知識はあるのだ。
もともと司書として働いていたし、それにその文字の起源はニブルヘイムの――
思わずその刺青をじっと見つめてしまうと、レノはそのクラウドの視線に気づき、「これ、気になるか?」と悪戯っぽく笑った。
不躾だったかもしれない。

「ごめんなさい。それ、ニブルヘイムの古字だから。気になって…」
「そうか。そうだったな、もともとはニブルヘイムの文字だったか。」
「φλόγαって…〝炎〟っていう意味だよね、その刺青の文字。」
「これは刺青じゃない。………スティグマ、ってやつだぞ。」
「スティグマ?」

クラウドの知る〝スティグマ〟とは、馬や牛などの家畜を個体識別するために施す烙印のことだ。
金属板を使った伝統的な焼印は、動物に酷い苦痛を与えるため、クラウド自身は反対の立場ではあるけれど…田舎の農村部では今も当たり前のように行われている。
けれど、それは家畜の話―――人の顔に焼印なんてものは、押すわけがない。

「囚人に人権はない。家畜に等しいんだ。囚人はみんな裁判の後、教会のやつらに焼印されて、人間であることを否定される。これは――火炙りの刑って意味だぞ、と。」

なんて、なんて惨い仕打ちをするのだろう。
レノの言うとおり、それではまるで、ひとが食す家畜の扱いだ。
焼印――灼熱の金属を皮膚に押し付けられるなんて、どれほどの痛みを伴うのだろう。どれほどの屈辱を伴うのだろう。
その烙印は、長い年月の経過で多少は薄れたとしても、一生、消えないかもしれない。
ひとによっては、一生、人前で顔を隠さねばならないかもしれないのに。



「ザックスが、なんでお前に顔を見せられなかったのか。…〝お前〟にだけは見られたくなかったのか、わかったか?」



それは、まさか―――本当は、ザックスの顔は、
「クラウドはニブルヘイムの字が読める。だから、恐かったんだろ。それを、お前の口から言われることが。」
あいつはでかい図体のくせに繊細だからな、と。先ほどと同じ冗談を言うレノは、けれどとても悲しそうだった。
「ザックスの顔には、なんて……、」



「お前が今、想像しているとおりの言葉だ。」



「それって」
「言わなくていい。…お前には最後まで、その言葉を言ってほしくない。」
レノがピイ、とひとつ口笛を吹くと、荷台を引いた美しい馬が歩み寄ってくる。
「一足先に、俺は出るぞ、と。…クラウド、無事でな。」
「レノさんも、身体に気をつけて。」
レノの馬に顔を近づけると、その視線を合わせながら両の頬をそっと撫でた。
動物と意思疎通をはかるときは、いつもこうしているのだ。
「レノさんをお願い」そう馬に呟くと。それを見ていたレノは「お前、俺に何をされたのか忘れたのかよ。」と呆れながらクラウドの髪をかきまぜる。

「いいか、クラウド。何でも人を信じるんじゃない。お前が思うほど、人間は善意だけじゃない。自分を守るためなら、他人を傷つけることだって、陥れることだって、殺すことだって出来る。…とくにあいつらは集団になると、とんでもない妄想に取りつかれてパニックを起こす。魔女狩り、異端狩り、ソルジャー狩り――それに、生贄。差別を繰り返すのは、人間の性なんだぞ、と。」
クラウドは、ひとの、故郷に住む人々の善意や慈悲を信じたい。
けれど…ザックスやレノが人々にされた仕打ちを想えば、それにクラウド自身だって生贄として追われてきたのだから、レノの言葉も否定は出来なかった。

たしかに、強い不安やストレスによって、ひとは狂うことがある。
戦争、不況、不作、悪天候、そして疫病――そういう危機に陥った時、人間は倫理や正義を歪ませることがある。
それら集団ヒステリーは、現実から乖離した虚構を信じ、非現実的な解決を図ろうと暴走する。
不作が続けば神の怒りだとして、疫病が流行れば悪魔の呪いだとして。誰かを迫害したり、差別をして――
自分より「劣る」「不幸」なものを作って、自分の「シアワセ」を確認するのだ。

村に帰った時、自分たちがどんな扱いを受けるのか。考えれば考えるほど、見えない不安に恐ろしくなる。
ザックスのような力も、知識もクラウドには無い。そんな自分が本当に、ティファや母を守れるのだろうかと。
「そのドッグタグ…持っていくのか?」
「………わからない。返しそびれちゃったけど、俺が持って行っていいのかな。聞こうにも、ザックスは姿を見せないし。きっと、ソルジャーにとって…ザックスにとって、大切なモノだろ。」
「持っていくべきだぞ、と。」
「どうして?」
傷だらけのドッグタグは、まるでザックスの心のようで。許されるなら、このまま連れていきたかった。
一緒に生きていけないなら、せめて、これぐらいは。

「あいつが、それを望んでる。」

レノはクラウドの首にかかったままのドッグタグを指先でつかみ、それを裏返す。
日の光に反射して、きらりと何かが光った。シルバーのプレートにはめ込まれた、小さな石の欠片だ。
小指の爪程もない、本当に僅かな珠であるのに、不思議なほど輝きに満ちている。
まるで宝石のような。いや、むしろ、この輝きは、

「そこに嵌めてあるのは〝かいふく〟のマテリアだ。こんな粒じゃあ、魔法は発動しないが…お守りってやつだぞ。」
「おまもり?」
非科学的な〝お守り〟を、ザックスが持っていたということ。
それは、科学を学び知識に富んだザックスらしくはないけれど――
「戦場で、もう駄目だってときにな。兵士にだって、最後にすがりたいもんが必要なんだ。だからこれは兵士にとって、最後の〝希望〟みたいなもんだぞ。」
そんな大事なもの、本当にクラウドがもらっていいのだろうか。
レノの手の中にあるドッグタグを見つめながら、迷いをみせるクラウドに、レノははっきりと言い切った。



「〝お守り〟なんだから…本当に守りたいものに、持たせたいんだろ。だから、お前が持っていくんだ。」



――泣いてはいけない。
この城でひとり残されるザックスの孤独を想えば、涙が許されるのはザックスの方だ。
クラウドは、彼を置いていくのだから。涙を流す権利など無い。

「じゃあな、クラウド。」
まるで重力を感じさせない身軽さで馬に跨ったレノは、クラウドに向って片手をあげる。
「レノさん、マフラー…」
先ほどレノが巻いてくれたマフラーを、返すべきかと巡考していると、レノは悪戯っぽく笑った。
「マフラーなんだから、本当にあっためたいやつに持っていてほしいんだぞ、と。」
「あ……、レノさん、ありがとう…っ、」
「それと、こいつも持っていけ。」

レノの手から緩い弧を描いて、それはクラウドの手の中に落ちてくる。
革の袋――それを覗き込めば、美しい装飾の施されたナイフが入っていた。
「俺、ナイフなんて――」
「クラウド。武器がなければ、守りたいものを守れない。母ちゃんたちを守りたいなら、持って行け。使わなければ、売って金にすればいいんだぞ、と。」
クラウドが言葉を返す前に、レノは手綱を大きく引く。
そのまま風を斬るように、さっそうと駆けていった。






クラウドの背中で、ギイと歪な音をたてながら、古い屋敷の扉が開く。
「ザ…っ!」
ザックスだろうかと、勢いよく振り返ったものの――そこにいたのはティファだった。
「ティファ…準備はできたか?」
動揺を隠すように、そうティファに問う。彼女は酷く、不安そうな瞳をしていた。

「………ごめんね。私の我儘のせいで、クラウドを危険な目に合わせちゃうかもしれない。私たち、村に戻ったら……村のみんなに責められるのかな。」
「ティファは俺が守るよ。」
「クラウド…」
「それに、ティファのせいじゃない。」
村に戻ると決めたのは、ティファではない。
彼との別離を決めたのも、ザックスではない。全部、クラウド自身の決断だ。

「病気がウィルスによるもので、ザックスにも治せないとわかった以上――村に戻って、俺がみんなに報告するべきなんだ。もう二度と、生贄なんていう理由で誰も村を追われないように。それに、病気をこれ以上拡げさせないように。」
この奇病は、接触感染ないし経口感染だ。
病人を隔離すること、そして看病にあたるものや家族が清潔を徹底することで、少しながらでも防げるはず。
無医村であり、医学の常識がないニブルヘイムでは、そう容易には信じてもらえないかもしれないが。だが、説得するしかない。

「クラウドが生きてて、本当によかった。…クラウドはずっと、私のヒーローだったから。いつもピンチの時に、助けてくれてありがとう。」
かつては村長の一人娘として、恵まれていたはずのティファ。
今、彼女は唯一の肉親を失おうとしていて、クラウドのように生贄として村から追われてきた。
大切な幼馴染――他に誰にも頼れぬ孤独な彼女を、守れるのはきっと自分だけだ。

手の平を彼女の踏み台にして、ティファを黒チョコボの背中に乗せてやる。
そうして自分も羽毛に飛び乗ると、チョコボの艶々した美しい羽根をそっと撫でた。
そのするりとした手触りは、ザックスの髪を思い出す。愛しい人を抱きしめた時の、あの感触のようだった。

「ザックス…」
「クラウド?どうしたの?」
今頃、ザックスはどこにいるのだろう。レノが言っていたとおり、本当に泣いていないだろうか。
それとも、もしかすると今、ザックスの部屋の窓から――
振り返りたくなるのを、ぐっと耐える。振り返って、もしもそこに彼がいたら、きっと自分はこの城を出ていけない。
彼に縋って、離れたくないと泣きわめいてしまうから。
「………何でもない、行こうか。」

今はただ、ティファや母、そして村を守ることを考えねばならない。
別れを嘆くのは、その後でいい。
ザックスを捨てた罪は、残りの人生全てをかけて苦しめばいいのだ。







愛しい、俺の野獣――


檻の外は自由だけれど。

俺は 貴方のために咲き、貴方の手のひらで枯れるような、
花瓶のなかで生きられたらそれで良かったんだ。

生まれ変わったら
ただ貴方の好きな白い薔薇になりたい。






この話、三年ぶりに書いたみたいです…。
誰も興味ない童話パロですが、せめて最後まで書きたい…っ><(2018.01.08 C-brand/ MOCOCO)


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