C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

――動転していたクラウドが、ようやく落ち着いてきた頃。

 

今はザックスの淹れたコーヒーを、ラブソファに座って飲んでいる。

「ミルク入れるか」とザックスが尋ねれば、何やらクラウドは嫌なものを連想したらしくて、

ものすごく冷ややかな目で「そんなもんいるか、空気読め」と返す。

 

クラウド、それは八つ当たりってやつだぞ。

まあ、怒った顔も可愛いから、ザックスは許すだろうけど。

クラウドは、コーヒーでも紅茶でも、ミルクや砂糖を入れないと飲めないらしい。

案の定、クラウドは渋い顔で、マグカップのコーヒーをすする。

 

「美味しくないなら、やっぱりミルク入れてやろうか?」

大きなお世話だとわかっていても、ザックスはどうしても彼に手を焼きたくなってしまうのだろう。

「…そんな汚らわしいもの、入れて飲めるか。」

汚らわしいって。クラウド、さすがに牛に失礼だろう。

それは色が似ているだけで、男のアレじゃあないんだから。

まあ牛も、クラウドが可愛いから許してくれると思うけど。

 

クラウドはツンとした表情のまま、少しだけ腰をあげて、座っている位置をずらした。

ラブソファに座るクラウドの左側――それは、もしかしなくても。

…ザックスのために、空けてやったのだろう。

聞けばきっと否定されるから、ザックスはあえて聞かない。でも答えはわかっている。

にやける顔を抑えきれないまま、クラウドの隣に腰を下ろした。

クラウドよりはるかにザックスの方が体重があるから、ソファが沈みこみ、彼が少しバランスを崩す。

コテ、と。クラウドの肩が、ザックスのそれに寄りかかった瞬間、

その好機を逃すことなく、彼に腕を回して引き寄せた。

 

クラウドは、少し体を強張らせたけど、文句も言うわけでもない。

それどころか、そのまま体重をかけてきて、ザックスの胸にその小さな顔を埋めている。

 

 

 

「…クラウド、一生のお願い。」

「アンタの一生は、何回あるんだ。」

 

的確な返答をしてくるクラウドに、第三者である俺も思わず笑ってしまう。

「うん、ごめん。クラウドがすっげえ欲しい。……だめ?」

そう、少しも飾らずストレートに言う。

お洒落に口説いたりする余裕なんか、今のザックスには無いんだろう。

 

「クラウド、」

行為を催促させるようなそれではなくて、ただ唇を合わせる程度のキスを落とす。

――クラウドは、キスが好きなのか。それとも、ザックスのキスが巧みなのか。

ちょっと唇を合わせる程度の軽いキスをしただけで、クラウドの身体はふるりと震える。

必死にザックスのシャツを握る、この子の小さな手――

あまりにうぶな反応に、外野の俺でさえも眩暈がしてくる。

 

「クラウド、いい?」

あんまりしつこく聞くのは、ナンセンスってもんだろ、ザックス。

応えはわかりきっていること。

クラウドの上気した頬。潤んだ瞳。重なる唇の隙間から漏れる、甘い吐息。

この流れならば、間違いなく――

やばい、外野の俺までも、妙にドキドキ心拍数が上がってきたぞ。

 

 

「…ダメ。」

「え?」

なんだ、聞き間違い?

 

「絶対、ダメ。」

「ええ?!」

それとも、照れ隠しか?

 

「死んでも、ダメ。」

「えええええっ?!」

そんなそんなそんな、いったいどうして?!

 

三度、はっきりと拒絶されて、ザックスも俺も呆然とした。

ダメ?ダメってダメなの?本当にダメなの?どーしてもダメ?

ザックスは頭の中で、馬鹿みたいにそんな問いを投げかけていることだろう。

 

「えっと、どうしても、ダメ、ですか?」

「しつこいのは、嫌いだ。」

「えっ!俺からしつこさを取ったら、何が残るんだよ!

自分で言ってて物悲しくないのか。ザックス…

 

でも、ザックスが諦めきれないのもわかる。

男視点で言えば、今のはどう考えても『いける展開』だったはず。

あれだけ全身で相手を誘っておいて(本人は無自覚なんだろうけど!)イヤイヤって。

 

「クラ、なんで??あ!俺、鼻毛出てたとか?!顔てかってた?!それともキスが下手だった?!」

なんでそうなる。

「アホか!違うよ、そうじゃなくって…」

「じゃあなんで?今日重い日だっけ?!むしろ危険日?!あれ?????」

「ザックス、死にたいの。」

こいつ、かなりテンパってるな…うん、でも気持ちはわかる。

 

「ダメなものはダメ。…俺、これからコンビニに行くから。」

「え?こんな時間に?もう0時まわるぞ?危ないって…」

「だから、日付変わる前に行くんだよ、ばか。」

「え?どういうこと?どうしても行くなら、俺も一緒に、」

「ダメ、ついてくんな!」

「なんでだよ?!絶対ついてく!一人で行かせるかって…」

「だって、」

 

 

 

 

「好きな人に、チョコ買ってないんだもん…」

 

 

 

 

完全、ノックアウト――

ザックスだけじゃない。俺の心臓にも、ぶすりと矢が突き刺さる音がした。

 

「クラウド!ばかばかばか!ちょ〜〜〜〜〜〜ッ可愛い!大好き!愛してる!結婚して!!」

 

クラウドをぎゅうぎゅう抱きしめて、ザックスは尻尾をちぎれんばかりに振っている。ように見える。

「ザックス、苦しい…力緩めて…」

「チョコはいいの!俺がクラに用意してあるから!」

「…ザックスが?」

「一緒に食おうぜ。自信作だからさ!」

 

 

 

 

 


 

 

…ちなみに、余談ではあるけど。

 

今日の早朝5時から、ザックスは俺の部屋でチョコレート作りをしていた。

朝方、甘ったるい匂いに目が覚めて、キッチンに向かうと。

へったくそなラブソングを口ずさみながら、ザックスがチョコレートの入ったボールをかき回していた。

 

「……ザックス。お前、何やってんの。」

「クラウドのために、チョコ焼いてんの!」

「なんで、俺の部屋でやってんの。」

「クラウドにばれたら、サプライズにならないだろ!」

「今何時だと思ってる?」

5時。クラウドが起きる前に作らないとだろ!」

「……鍵、空いてたか?」

「うん。ピッキングで開いた!」

 

ニコニコと答えるこの男に、悪気は欠片もないのだということは知っている。

鍛えられた上腕二頭筋でチョコレートをかき混ぜるこの男、いわゆるあれだ。

「恋のハリケーン巻き込み型」――ただのKYともいう――、

もはやこの男に何を言っても無駄だと悟った瞬間。

 

「そっか、頑張れよ。」

と、全てを投げ出して、そう声をかけた。

…それが今朝の話だ。

 

 

 

 

 

「クラウド、あーん!」

「自分で食べれるってば!」

「だめ!バレンタインはこうやって、好きな子にチョコを食べさせるものなの!ほら、あーんして!」

とかなんとか、適当なことを言っている。

「美味しい?」

「…うん、美味しい。」

ちなみに俺は、ザックスの作ったチョコレートの試作品を30個近く食べさせられたから、

そのチョコが有名パティシエのそれかと思わせるほどに美味だということは知っている。

現在こいつのせいでチョコノイローゼだから、1年ぐらいカカオなんざ接種したくないけど。

 

「俺、何もザックスに渡してない…ごめん…」

「さっきの言葉だけで充分!マジで嬉しかった。」

「でも……」

「じゃ、俺も食っていい?」

「え?ん…?!ンンンン…!!」

それこそ、噛みつくようなザックスの激しい口づけ。

チョコレートの味を確かめているのか、クラウドの味を楽しんでいるのか…長い長いそれは続く。

 

「ざ…んん、は、くるし…!」

「すっげえ、甘い。もっとちょーだい。」

甘いのはチョコレートなのか、キスなのか――

っと、これ以上覗くのは、さすがにナンセンスだろうか。

 

ここから先は、彼ら二人だけの秘密。

二人だけの甘い、甘ったるいぐらいの時間。

 

所謂『お姫様抱っこ』で寝室に連れていかれるクラウド

(今のキスのせいで足に力が入らないらしい)を見送ると、自室のパソコンの電源を落とす。

最近付き合ったばかりの彼女に「おやすみ」メールをして、ベッドに入った。

明日はミッションで朝が早い。

 

 

 

 

 

 

―――というのに。

その後、隣の部屋からギシギシと一晩中ベッドのスプリングがきしむ音が聞こえてきて、

結局一睡も出来なかった。

 

それだけじゃない。

翌日、せめて輸送機の中で寝ようと思ったら。

一緒の任務だったらしいザックスが飛行中3時間半、延々と惚気話が止まらずに、

ここでもまた一睡も出来なかった。

 

「でさ、カンセル!あいつって耳が弱いんだよね。ちょっと耳元で名前呼んだだけで震えちゃってさ、

あいつが感じると中がめちゃくちゃ締まるし…ぎゅうぎゅう俺のこと締め付けちゃってさ〜

そんなに俺のこと好きなの?大好きなの?ってかんじ!聞くとザックスなんか大嫌いとか言っちゃってさ、

そのツンデレっぷりがやばい可愛いんだよな!バカとか言いながら俺に必死でしがみ付いてくるし、

めちゃくちゃ愛されてんなーってほんと実感!最近はイクときにチューするのがマイブームなんだよね。

あんなに幸せなエッチできるのって、世界で俺たち以外にいんのかな?いないよな?!

クラウドより可愛い子なんて、世界中のどこ探したっているわけねえ!地上に間違って堕ちて

きた天使?俺の天使?でもベッドの中では、その天使がめちゃくちゃエロい顔するんだよね…

イヤイヤとか言ってさあ…絶対嫌じゃないくせに!つい腰が揺れちゃったりしてさ、それが恥ずかしいって

泣くんだぜ?あの顔マジでやばい!どこまで俺のこと煽る気なの?っておい、カンセル!

今あいつの裸、想像しただろ?!あいつの裸で抜いていいのは俺だけなんだからな!今すぐ忘れろ!

絶対だぞ!そんで話の続きだけどさ、クラウドってときどき、すげえ素直になるときがあってさ、

それがやばい可愛いんだわ。昨日も俺にチョコ用意してないって、夜中に買いに行こうとしたんだぜ。

俺になんて言ったと思う?だって好きな人にチョコ買ってないんだもん、だぞ!もんってなんだよ!

好きな人って俺のこと?ねえ俺のこと?!やっべえ思い出しただけで勃ってきた!今すぐあいつと

エッチしたい!!いやむしろ今すぐ結婚して俺だけのものにして…」(以下略)

 

 

 

 

 

 

――結論を言うと、こういうことだ。

2.14事件』とは、神羅のごつい軍人達が可愛い一般兵にチョコレートを渡そうと躍起になり、

我先にとこぞって争った結果、廊下で、エントランスで、エレベーターホールで、はたまた食堂で、

至るところで乱闘事件が頻発した事件である。

その当該者には、多くのソルジャーや兵士をはじめ…紳士で評判のラザード統括や

真面目な中間管理職のリーブ氏、不良タークス社員のレノ、食堂のおばちゃん、はたまた

かの英雄様までもがいたというのだから、これは歴史的な大事件であるといえるだろう。

 

でも、件のクラウドが口にするチョコレートは、たったひとつだけ。

ザックスの口移しで食べる、とびきり甘いミルクチョコレートのみ。

これは極秘機密であるが、二人は互いに夢中で、他の誰も入りこめやしないのだ。

 

――それは大いに結構だけど。

その『二人の愛の巣』の隣に住む俺は、たまったもんじゃない。

毎晩ギシギシ煩くて眠れやしない。

バレンタインの翌日なんか、睡眠不足が原因して調子が出ず…

うっかりモンスターに足を噛みつかれて痛い目にあった。あれは労災が降りるのか?

しばらくカカオもいらないし、惚気話も聞きたくない。

 

 

まったくもって、これは忌々しき問題である。

 

 

 

 

 

 

 

以上が、2.14事件に関する

とあるソルジャーの考察っていうか

愚痴である。

 

追記になるが、ハッキングは覗きなどという低俗な行為には該当しない。

これは先進技術とコンピュータ革命が成し遂げた歴史の結果であり

人類の確かな躍進であっていずれは国力となりうる可能性を大いに持ったうんぬんかん…

え?クラウドのファンクラブに入ってますけど何か?

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2012216

クラウド溺愛なカンセルもいい。

 

 

 

 


 

 

 

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