ご注意
*無印時代?ザックラパラレルです。
*いちおうシリアスなので、ありえない設定に吹かないでくださいw
*ザックスが最初、かなり鬼畜です。「拍手のドンザックスシリーズ」とは、別の話です。
*性描写ありの予定です。18才以上の方の閲覧推奨。監禁プレイを目指します(そんだけ?!)
この世界にあるもの。
欲望と狂気と孤独と。…それから?
“act2 黒の喪失”
男は、記憶がなかった。
ただ、ずいぶんと長い間――生ぬるい液体の中にいた。正確には、いたような「気がした」。
自分にとっては、この温い液体に沈んでいるという感覚が現実なのか夢なのかわからないのだ。
( ナ ニ モ ワ カ ラ ナ イ )
何故ここにいるのか、どこからきたのか、いつまでいるのか?
この体は生きているのか、死んでいるのか?そもそも生きているとは、何だっただろうか?
当然知る由はない。だけど、知りたいとも思わなかった。
( ナ ニ モ シ リ タ ク ナ イ )
その熱くもなく冷たくもなく、酷く曖昧で居心地のいい世界は、まるで母親の羊水の中にでもいるかのような。
全てを放り出して永遠に眠っていたいと思うほどの…不自然なほど自然な、安堵感がある。
…過去や孤独を忘れていられる、そう思った。
ずっと、この中で。ただこうして、眠りに堕ちていたかった。
眠っていたいのに…何かが、誰かが、自分に呼びかける。
どうやら、このまま惰眠も貪ってはいられないらしい。
重い瞼を時間をかけてようやく開ければ、ガラス越しに白い服を着た男たちが数人、
こちらに不躾な視線を向けている。
「…お前の…は…」
うまく、聞き取れない。
「お前の、名前は?」
だんだん五感の機能が戻ってきて、今度ははっきりとそう聞こえた。
だけど、答えることができない。
「オレ、ハ…………」
声は出る。だけど、その答え≠ェわからないのだ。
(俺は、誰だ…?)
ここがどこなのか、どこからきたのか、白い服を着た男たちは誰なのか。
それ以前に―――『自分がいったい何者なのか』さえ、わからなかった。
いわゆる、記憶喪失≠ナある。
最初は、言語や知識さえも、その多くを失っていた。
だが、白い服を着た男たちと会話をするたびに、急速に欠けた記憶が修復されていく。
【ザックス・フェア。年齢22歳。】
自分の名前から始まり、使っていた言語、一般的知識から専門的知識まで――
すさまじい勢いで記憶を取り戻していく。そしてそれは、知識だけではない。
体に、そして脳に刻まれたアイデンテティ、それらがいかに根深いものであるかが実証されていく。
剣や槍などを扱った記憶はなかったが、白い服を着た男にそれを手渡されたとき、奇妙なほどに手になじんだ。
間違いない。間違いなく、自分は――軍人だったのだろう。
「お前は、元ソルジャーだ。」
白い服の男のひとりが、そう口にする。そんなところだろうと予測していたから別段驚きはしない。
武器を持つことに、物を壊すことに、そうして人を傷つけることに――少しの違和感もないのだから。
この超人的な身体能力も、肉体改造を施されていなければまず持ちえないものだ。
「覚えていないだろうが、お前は謀反を犯してね。神羅に追われる身になったんだよ。」
そうであるならば、どうして今、その神羅に自分は囲われているのか。
そう、彼らの白衣の胸にあるバッジは、遠い記憶の彼方で見覚えのあるもの。神羅の印だ。
「…俺を、処刑するのか?」
「いや、しないさ。お前はもう、神羅では死んだことになっている。だが元ソルジャーであるその能力、
失うには惜しい。お前にぜひ任せたい仕事があるんだ。やってくれないかね。」
「やるさ。…何でも。」
「何も聞かないのか?」
「じゃあ、ひとつ聞く。俺に選択の余地があるとでも?」
その問いに答えることはせず、白い服を着た男は「幸運を祈る」とだけ言い捨てた。
そこに迷いがなかったのは、何もなかったから。
記憶だけじゃない。
やりたいことも、やるべきことも、守るべきものも。選ぶべき、選択枝さえも。
――ザックスには、何もない。
与えられた仕事。それは、いわゆる向こう側≠フ仕事だった。
薬物売買、人身売買、要人誘拐、違法な風俗の営業――神羅が裏で行っている金儲け。
それらを取り仕切る頭領「ドン・コルネオ」のファミリーに入った。
衛兵時代に培った能力を買われて、そう経たないうちにドンの側近に選ばれた。
そうして、ドンが病で倒れたことをきっかけに、次期頭領若きドン≠ニしてザックス自身が指名されたのだ。
「ドン」という称号なぞ欠片も興味はなかったが、それでも金は湯水のように湧いていく。
金が集まれば、女も集まる。悪くない、居心地だった。
「ザックス様、今夜は私を指名してくれる?」
「私よ!ほら、ザックス様の好きな金髪にしてきたの。」
色とりどりの女がザックスを囲い、毎夜休む間もなく誘いをかけてくる。
「いいねえ、じゃあみんなでヤっちゃう?」
一人の女を選ぶ必要などない。楽しいこと、気持ちいいことは多い方がいい。
金と、酒と、セックス。それ以外の何かなんて、この世には何もないのだから。
(何もないさ…何も)
この世界には、何もない。大切なものが何一つとして、
誰も、いない。
「ザックス!ザックスだろ?!おまえ、生きてたのか――」
いつものように女を数人はべらして、ウィスキーをあおっているとき、奥のテーブルから男の声がした。
ウォールマーケットの裏通りにあるクラブ――ここはドンの認可の元経営を許されている違法クラブで、
その夜は視察という名目のもとザックスは酒を飲んでいた。
男になど興味はない。
裏の世界を掌握する若きドン≠ノ軽々しく声をかけてくるとは、とんだ命知らずだと。ただ眉を歪める。
「誰だよ。テメエは。」
それでも言葉を返したのは、男の隣にいた金髪の女に目が行ったからかもしれない。
それなりにいい女だ。金髪に、ライトブルーの瞳。この界隈じゃ珍しいそれに、舐めるように視線をやる。
「レ、レノさん!こいつ、なんなんですか?」
声をかけてきた赤毛の男と、隣にいる金髪の女。
どちらも黒いスーツを着込み、それが神羅に属するタークスのものであると気づく。
「元ソルジャー……ザックス、だろ?」
神羅に追われていたらしい自分の過去――彼らタークスとは、何かしらの因縁があるのかもしれない。
「へえ…レノ、さん?あんた、俺のトモダチだったりするわけ。」
にこやかに笑って、ガラスを掲げる。ついでに人差し指でこちらにくるようにと合図をする。
男はまだ信じがたいという表情をしていたが、その顔には歓喜の色が浮かんでいた。
警戒などまるでしていないのだろう、旧友との再会を純粋に喜んでいるように見える。
「ザックス…ザックス!生きてたんだな!なんだよお前、水くせえだろと!生きてたんならなんでもっと早く、」
カチ、
軽いハグを交わしたその流れで、銃口を男の後頭部に当てると、レノと呼ばれた男は目を見開いた。
突き付けられたその冷たい鉄の塊が何なのか、理解するのに時間を要しているのだろう。
「レ、レノさん!」
「イリーナ!撃つな!!」
「でも…っ!」
「………お前、誰だ?ザックス、じゃないのか?」
その男は、ザックスとて答えのわからぬことを問う。
ザックスじゃないのか、なんて――そんなのこっちだってわからない。
ザックス≠ェどんな男でどんな友人がいてどう生きてきたのか、そんな記憶はないのだから。
「なあレノ、昔のよしみってやつでさ。教えてくれねえか…」
相手の名を親しげに呼んで見せれば、男はほっと肩の力を抜いた。
「ザックス、なんだよ、やっぱりたちの悪い冗談なんだな。ったく、肝が冷え…」
グ、と引き金をゆっくりと押し込む微かな音にきづくのは、さすがタークスというところか。
連れの金髪の女が、自身の安全装置を外すのが目の端に映る。
新人なのだろう、指先が震えていてあまりにお粗末なスピードだった。
「ザックスって、どんなやつだった?こんな風にトモダチの頭ぶちぬいて笑っていられる、そんな男だった?」
「レノさん!!」
ドン!!
イリーナの銃弾が、ザックスを狙う。それをなんなく容易にかわして、そのまま女の肩を打ちぬいた。
「きゃあ!」
「女の子には優しく、ってのがモットーなんだけどさぁ。かしましい女は好みじゃないんだわ。」
「おい!よせ!なんでだよ、お前、記憶がないのか?本当に何も覚えてないのかよ?!
俺のこと、わかんねえのか?!」
「てめえのツラなんて、覚えてて役にたつの?」
レノは、銃口を向けられ続けていてもなお、腰にさげている武器を手にしようとしなかった。
そんな選択肢すら頭に浮かばないほどに、おそらくは動揺しているのだ。
「クラウドは?!」
「…は?」
「クラウドのことなら、覚えてんだろ?!忘れたなんて言わせねえぞ!あいつは今だって、おまえのこと――」
「誰それ?」
「………そんな…ザックス…。」
「過去なんざ、とっくに捨てたんだよ。楽に生きていくためにな。」
床に倒れこんでいる女と、ただ茫然と立ちすくむだけの男。
どちらの頭を撃ちぬくのも容易い。どちらにしようか、一瞬思案して男に標準を合わせる。
そうして、躊躇うことなく引き金を引こうとしたその時、
「…そこまでだ、ザックス=フェア。」
ドオン!ドオン!と銃弾が響き、それが煙弾であることに気付いた時にはすでに遅く、
瞬時に黒い煙が店内を覆い尽くした。黒煙の向こう、黒髪の男が倒れていた女を担ぎあげたのが見えた。
「我々はタークスだ。身内での抗争は、ご法度だぞ。知らないわけではないだろう。」
その余裕な態度に舌打ちをする。
レノ以上に経験のある男なのだろう、ザックスの殺気など取るに足らないといったところか。
「ツォンさん、イリーナを連れていってやってくれ。俺はザックスと話が…」
「レノ、あいつはもうお前の友人ではない。あいつは、ドンの新しい後継者だ。」
「でも…っ」
すがるようなレノの視線に、ザックスは目を細めて笑った。まるでいい友人にするそれのように。
「レノ、クラウドに伝えてくれる?」
「え?」
「もう、いらないって。」
「え――、」
「俺には、過去は必要ない。今度俺の目の前に現れようってんなら、殺すぜ。オマエも、クラウドってやつも。」
「……ザックス…………。」
奥のソファで伏せていた商売女を呼び、腰を抱いて店を出る。
恐かった、などと言いながらすり寄ってくる女の髪は深いブラウンで、それに物足りなさを感じた。
タークスの女の髪色が、なんとなく脳裏をよぎる。
気の強い女は好きではないが、一晩ぐらい相手をさせてもよかったかもしれない。
怪我をさせたりするんじゃなかった。
女はやっぱり、金の髪がいい。色白で、華奢で、控えめで、少し泣き虫なぐらいで。
そう、冷たい雨の中、この体に寄り添って泣き続けたあいつみたいに――…
(…?あいつって、誰だ?)
今、何を考えたんだろう。それはこの体が経験した記憶なのか、それとも夢だっただろうか。
さして興味もわかない女の、品のない香水の臭いに頭がくらんで、それ以上考えることを放棄した。
この世界には、何もない。
過去も未来も心でさえも、
きっと遠い昔に奪われた。
この世界には、
大事なひとが どこにもいない。
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