ご注意
*全体的に痛い(物理的に)内容ですのでご注意ください。とくに後編は、暴力表現や無理矢理な性描写を含みます。
*内容はないよう、というただエロになるはず…たいしたオチもありません。


【前編】
side Amelia



「――君は、ラボには向いていない。田舎に帰って、見合いでもしたらどうだね。」

「間違っているのは貴方です!こんな非人道的なこと…許されるわけがないでしょう?!」
「〝彼〟を救おうとするのは自由だが……まあ、せいぜい自分の命は大事にすることだな。」

上司の言葉の意味を理解せぬまま、配属6年目の女性研究員――アメリア=ローレンは、地下室へと続くドアのセキュリティコードを解除した。
扉を閉める直前、「これだから女は使えない」という、社会に出てもう何度めだろうかという皮肉が耳に届いた。
アメリアは怒りにまかせて、わざと音をたてて扉を閉めてやりたい気持ちになったけれども、生憎自動開閉システムを使用した最先端の扉は「プシュー」という微かな空気音がするにすぎない。

この会社は、間違っている。
確かに神羅カンパニーといえば、科学技術や人工知能を大きく発達させ、世の経済や社会、医療、福祉、そして何よりも軍事力を牽引する大企業。世界への影響力はもはや随一の存在といえるだろう。
けれど、そうした華々しい実績の裏で。このような、倫理やモラルに反することを行っているのだ。

そう、このような―――人体実験を。




〝人間と機械の、最大の違いは何か。〟
半年ほど前の会議で、そんな内容の議題があがっていたのを、確かにアメリアも記憶している。
人間は有機物で、機械は無機物。人間には個々の体力や魔力、力学の個体差がある。
人間には芸術がある。喜怒哀楽の感情がある。慈悲や涙瓶がある。死や痛みからの回避本能がある。

機械には、それらがない―――つまり、戦闘への限界がない。

この半年間、神羅のラボが開発を進めたのは、新しいマテリアの開発だった。
人間の戦闘時における「不利」を失くすための、人間だからこそ持ちえる「弱点」を解決させるための。
「人間らしさ」を消滅させる、独立系マテリアである。
公式なマテリア登録がなされる前に、誰がそう呼び始めたのか、研究員たちはそのマテリアをこう呼んだ。



『鬼人化』のマテリアと。



その呼び名の通り――件のマテリアを装備した戦士は、まるで「鬼」と化す。
人間としての優しさ、慈しみ、同情、共感、正義、倫理、そして、愛情。
そういった人間を形成していたものが失われて、機械というよりもむしろ、鬼のごとく他者を攻撃し続けることが可能になるのだ。

だが、そのマテリア研究が、「失敗」だったと気付くのに時間はかからなかった。
ウータイの過激派組織との戦闘ミッションに派遣された、5人のソルジャーが被験対象となり、彼らは確かに戦場において素晴らしい功績を残した。
だが、彼らは戦闘終了後も、全員が「人間らしい」本来の人格を取り戻せなかったのである。



彼らは、狂おしいほどにひとの血を欲した。



まるで極限まで飢えた獣のように、あるいはまさに人を殺めることを生業とする鬼のように。
被験体となったソルジャーは酷く暴れつづけ、近付くもの全てを攻撃する。
ある者はソルジャーの同僚を殺した。ある者はラボを脱走し、街で一般市民を殺した。また、ある者は迎えにきた妻を殺してしまった。

5人いたソルジャーのうち1人が同僚により殺害され、3人は精神を病んで入院。
彼らは「ひとの血を浴びた」ことでようやく理性が戻り、そして、その許されぬ咎に精神を病んだのだ。
武器を持たぬ者、これまで苦楽をともにしてきた戦友、そして最愛の家族を殺してしまったのだから、それは当然だった。



ラボに残るソルジャーは、あと一人だけ――



アメリアの記憶にあるそのソルジャーは、人好きのする笑顔が印象的な、とてもハンサムな青年だ。
戦士らしい屈強な体つきでありながら、戦士らしからぬ朗らかで陽気な気質だったように思う。
軽口のように女性を口説くプレイボーイで、アメリア自身も一度、彼に食事を誘われたことがある。
これまで研究ばかりが生活の中心で、男性との交際経験がないアメリアは、つい本気にして浮かれてしまったけれど。
でも、青年の「今度食事でもどう?」はいわゆる女性へのリップサービスで、本気で誘っているわけではないのだということに気付いたのは、彼から二度目のアプローチは終ぞ無かったからだ。

それが残念だな、と思うぐらいには、アメリアは彼に魅かれていた。
いや、きっとアメリアだけではない。女性であれば誰しも頬を染めてしまうほど、彼は魅力的な青年だった。

喩えるならばまるで、太陽のような笑顔。
そんな笑顔しか記憶にないアメリアは、この先で男がどんな表情をしているのか想像することが出来ない。
(あんなに優しそうなひとが…鬼になる、なんて。ありえないわ。)
きっと、彼は他のソルジャーとは違う。
多少は気性が荒くなっていたとしても、他の4人のように、見るもの全てを手にかける殺戮マシーンのように変貌しているとは思えない。というより、思いたくない。
男に仄かな想いを寄せているアメリアにとって、そんな彼の姿は見たくなかった。

地下室へと続く階段を降りていくと、そこには特殊な強化ガラスで区切られた個室牢が複数存在している。
マテリアで暴走したソルジャーたちは皆、理性が戻るまでここで監禁されていたのだ。
今使われているのは、一番奥の牢のみ。
被験体として最後に残ったソルジャー、アメリアの想い人がそこに―――



「ザックスさん、大丈夫ですか?!」



強化ガラスごしに。アメリアがそう声をかけた瞬間だった。
「―-―――――――---ッ!!!!!!」
何か獣の咆哮のような叫び声と同時に、目の前の強化ガラスに黒い物体が衝突した。
ビギッ、とその防壁に罅が入る。
思わず尻もちをついたアメリアは、この強化ガラスがなければすでに首をもがれて死んでいただろう事実に気付いた。
「ザ、ザックスさん……?きゃあっ!!!」
ガラスごしに、男の血走る目と視線がかち合う。
あまりの恐怖に、アメリアは震えることしか出来なかった。
彼を助けるためにここに来たはずなのに、もうこの男から逃れたいという思考ばかりが頭をかけめぐる。

「―----―――――――――――ッ!!!!!」
言葉ではない、けれど何か酷く攻撃的で暴力的な唸り声に、アメリアは思わず耳を塞いだ。
こんな男は知らない。
怜悧な眼。獣のように剥きだした歯。血に濡れた体。
そして声にならぬ叫びを喚きながら、幾度も強化ガラスを素手で殴り続けている。
そこに、以前の面影などまるでなかった。

ビギ、ビギギ…
男がガラスを殴打するたびに、特殊加工され砲弾やミサイルでも壊せないといわれる防壁に罅が広がっていく。
このままでは、殺される―――
「いや!死にたくない!!!」
その時のアメリアにはもう、男への仄かな想いなど露散してしまい、ただ彼が恐怖の対象でしかなくなっていた。
恐い、恐い、恐い。こんなのは人間じゃない。こんなのは獣、違う……鬼だ!

ハイヒールを片方その場に落として、アメリアは走った。
地下室の階段を死にものぐるいで駆け上がる。
男はあの壁をもう壊しただろうか、追いかけてきているだろうか、自分は後ろからあの男に食い殺されてしまうのか――
パスコードを入力するも、エラーとなって解除が出来ない。二度続けても、やはりエラー。
番号がわからない。たったの11ケタの数字とアルファベットの組み合わせが、思い出せない。
「助けて!誰か助けて!お願いここを開けてっ!!!」
もう恥も外聞もプライドもなく、ひたすら泣き喚くと、「プシュー」と静かな空気音をたてて電子ドアが開く。
扉の向こうには、上司の研究員が立っていた。…開錠してくれたのは、彼だった。
数分前に上司とアメリアは言い争いをしたはずなのに、上司はさして興味もない表情のまま、叱責も嫌味も口にすることはなく無言だった。
アメリアがひとりで戻ってくることを、初めから予測していたのだ。



「さっきの言葉は取り消そう。君はやはり、ラボに向いているようだ。」
精進したまえ。
そう言って、いつもは後輩社員のアメリアに淹れさせているコーヒーを、彼は自らタンブラーに注いだ。
そしてアメリアがしゃがみ込んでいる場所から一番近いディスクに、それを置く。
勧められたコーヒーを機械的に口つけると、その苦みとともに上司の言葉がすとんと体の奥に落ちていく。

そう、自分は研究員に向いている。
結局、倫理やモラル、正義なんてものは、わが身の可愛さを前にすればとるにたらない物だったのだから。

「そのうち、慣れるさ。私も若い頃はキミと同じだった。」
「私……、私は、彼を、た、助けたかったんです。」
「我々が気に病むことじゃない。これは、本人も了承していることだ。」
「…………そう、なんですか?」

それは嘘だろう、とアメリアは思った。いったい誰が、了承出来るというのだ。
アメリアだって、思わず逃げ出したのだ。
あの小さな密閉空間となっている「牢」のなかに、好きこのんで入る者がいるわけがない。
よほど勇敢で屈強か、あるいは、よほどの愛情がないと―――

「嘘じゃない。あの兵士は自ら志願したんだよ。念書も残してある。」

上司が嘘を言っている様子はなかった。
もし、上司の言葉どおりだというならば、アメリアは志願したという彼に尊敬の念を感じずにはいられなかった。
自分ならば出来ない。実際、男と目が合っただけで逃げ出してしまった自分には、到底真似できることではない。
なおさら、〝彼〟を助けてあげられたならどんなに良かったか。

「それで、少年の様子はどうだった?」
「……………残念ですが、あの子はもう、」
「そうか。それならば、あと数日で大人しくなるだろう。ひとまずは安心だな。」

アメリアの脳裏には、あの牢の惨状が鮮烈に焼付いていた。
最初に男の名を呼んだとき、振り返った彼が腕のなかで捕らえていた…華奢な少年兵の体。
アメリアが地下牢で救い出したかったのは――ソルジャーではなく、その〝少年兵士〟のほうだったのだ。
一瞬しか見えなかったけれど、鬼と化したソルジャーが、少年の白い肌に食らいついていたのが見えた。
あの状況で、少年兵が生きていられるわけがない。





………二人は〝親友〟だったのだと聞いている。
少年兵クラウド=ストライフは、ソルジャーのザックス=フェアに食い殺されてしまったのだ。







**********************


side Cloud



「クラウド~!腹へった!飯いこう飯!久しぶりに7番街のほうでさ、デートしよっ!」
「無理。」
「なんで!」

「まさか他に好きな男でも?!」とか「この浮気者!!」とかなんとか。
嘘くさい大根縁起でよよよ…と泣きまねをするザックスの頭を、クラウドはペシンと叩く。
これは、ザックスのツッコミ待ちに応えてあげただけのこと。
その証拠に、ザックスはクラウドが頭を叩きやすいようにと若干頭を垂れているのだ。

「クラウドつれない!」
「そうじゃなくて、今月は金欠なんだよ。知ってるだろ?寮室の水道管が壊れて、その修理代が兵士の給料から天引きされたんだってば。」
「大丈夫、大丈夫!お兄さんの奢りだから。クラウドの好きなもの、何でも食べさせてやるよ。」
「………ザックス、そういうの誰にでも言ってるだろ。」

ザックスはコテン、と首を傾げてみせる。
ザックスの「食事でもどう?」はもはや彼の口癖のようなもので、リップサービスなのだ。
女性への挨拶に等しいその言葉は、どれも本気の誘いではなくて、結局実行されないことが多い。
こないだだって、科研の女性研究員に同じような誘いをしていた。
偶然それを見てしまったクラウドは、頬をそめて照れる相手の女性を気の毒に思ったものだ。
ザックスは、きっと彼女を好きにならないから。どれだけ好意を寄せても、報われない。

彼は絶対に、手に入らないひと―――

「ああ、クラウドは違うよ?」
「何が、」
「だから、他の女の子たちとは違う。」
ぐっと、ザックスがクラウドを覗き込むように顔を近づけてくる。やけに距離が近い。
「本気で誘ってるの。一緒に美味いもの食べて、美味い酒を飲んで。それで、おまえのこともっと知りたい。」
「………え、っと」
「星空の見えるレストラン、予約したんだ。クラが気にいってくれたら嬉しい。」

これではまるで、熱烈なアプローチではないか。
ザックスの軽口や、ジョークに富んだ演出はいつものこと。だから、これもふざけているだけだ。
わかっているのに、本気にするものかと思うのに、彼はツッコミ待ちのはずなのに…クラウドは返す言葉を見つけられない。
頭を垂れないザックスの頭は、身の丈が高すぎて、クラウドには叩くことが出来ない。

「な!じゃあこれから、しゅっぱ~つ!へへ、クラが出てくるの逃がさないように、ずっとエントランスで張ってたんだ。捕まえられて良かった~」
「ストーカーじゃん。」
「違うよ忠犬だろ?!俺の通り名は、クラウドの子犬ザックスって言うんだぜ?受付の子が教えてくれた!」
「それ、すごく残念な通り名だと思うんだけど……それでいいの。」

肩を抱かれて、髪の毛をよしよしと撫でられる。
ザックスの唇がクラウドの耳元を霞めた気がして、ふるりと自分の肩が震えるのがわかる。
ザックスのパーソナルスペースは狭すぎて。そのスキンシップの過剰さには、彼と出逢って三か月ほど経った今も、慣れることはない。
そう、まだ出逢って三か月。それなのにザックスはクラウドに「俺たちは親友だろ?」と当たり前のように口にする。
これまで幾度となく、一緒に外食をしたこともあるし、ザックスの部屋へ呼ばれて彼の手料理をご馳走になったこともある。
だから、まるで本当に彼の親友になれたような気がして―― 一番に慣れたような気がして。
クラウドも当初は、それなりに浮かれてしまったのだ。

…でも、そんなのは、ただの思い上がり。
ザックスは、人気者で、人望があって、交友関係が広くて、そして異性にとてもモテる。
ザックスがあちらこちらの女性に食事を誘っているのを見るたびに、自分もその他大勢の一人にすぎないのだと、そんな当たり前のことにすぐに気付いたのだ。

ただひとつ、違うのは。ザックスは、クラウドとだけは「食事の約束」を守ること――

そんな、ただそれだけのことが、クラウドにとっては微かな希望だった。
今は無理でもいい。
彼の何番目でもいい。
その他大勢じゃなく、ザックスの特別な存在に…本当の〝親友〟に、少しでも慣れる可能性があるのなら。





「ラッキー!マジでザックスさんの奢りっすか?!」
「俺たち今月、給料減ったもんで粗食生活なんすよ!肉が食べたいっす!」
「はあ?!俺が誘ってんのはクラウドで……って、おい!お前らぞろぞろついてくんな!!」

二人がエントランスの回転式自動ドアをくぐろうとしたところ、まるでカルガモ親子の行進のように、
後ろからぞろぞろと数人の兵士がくっついてくる。
クラウドとは部隊が同じで、なかなか気の良い兵士たちであるが、何分ちゃっかりしている輩達だ。
クラウドが奢ってもらうなら俺たちも是非にと、了承も得ないまま、参加は決定事項と化していた。

「やだよ!お前ら、全然可愛くないもん!」
「こないだミッションで一緒になったとき、飯奢ってくれるって言ってただじゃないすか!男に二言はないっすよ!」
「だから、今日は駄目だって言ってんの!せっかくのチャンスを逃してたまるか!おまえらはまた今度な、」
「今度っていつっすか?」
「だから、今度は今度だよ。」
「「今でしょ!!」」

兵士たちがまるで示し合わせたかのように、一昔前に大流行したフレーズを大合唱する。
にんまりといい笑顔でザックスを囲む一般兵たちを前に…元来お調子者、もとい人のいい男はもう降参するしかなかった。
お手上げ、というように両手を開いたザックスは、大きくため息をはく。
「……………わかったよ、お前らも連れていけばいいんだろ。」
「いよっしゃああああああ!!!」
兵士たちは跳び上がって喜ぶ。
今月酷く金欠の彼らは、ワカメしか入っていない食堂の素うどんを食う毎日だったので、これはまさに天の恵みというやつだった。

「じゃあ行くか、今日はお前ら、好きなだけ食っていいぞ。」
「さすがソルジャー!俺田舎出身だから、星空の見える高級レストランなんて行ったことねえっす!」
「俺も俺も!」
「ばかか!そんなとこ連れていかないよ?!」
「だってさっき、予約したって。」
「野郎ども連れてって何が楽しいんだよ。っていうか、店にも迷惑だろ!筋肉マンがぞろぞろフレンチレストランに乱入したら。」
「じゃあ、焼き肉とかどうっすか?!死ぬほど肉くいたい!」
「牛丼屋に決まってんだろ。死ぬほど食え。」
「なにこの扱いの差!!!!!」

ぎゃあぎゃあと喚く筋肉質な男たちを、適当にあしらいながら。ザックスは、クラウドの腰をぐっと引き寄せた。
「――――次は絶対。二人だけで、デートしような?」
まるで内緒話をするように、クラウドの耳元で囁くザックスの甘い声。
ぞく、とクラウドの体は自然と震えてしまう。
「……………クラってさ、耳元弱い?震えっちゃって、可愛い。」
「変態っぽいこというな、ばか!」
カア、と耳に熱を孕んでいくのがわかる。クラウドの白い耳は、きっと赤く色づいてしまっているに違いない。
それを悟られたくなくて、ザックスの腕を払って彼から逃れようとすると、くすくすと笑われてしまう。

「クラって、肌白いからさ。照れるとすぐ綺麗なピンク色になるのな。…すっげー、うまそう。」
いつもの冗談だ。そうに決まっている。
それなのに、ザックスの視線は少しもふざけてはいなくて、真っ直ぐなほどに見つめてくる。
そして、彼の唇がクラウドの耳もとを彷徨い、その柔い耳たぶを食んだのだ。
「ひゃん…っ!」
自分の声じゃないような、変な音が喉から漏れて、クラウドは思わず自身の口を手で塞いだ。
「……可愛い、まじでこのまま食っちまいたい。」
「……………な、に………いって…っ、」
もう、ザックスの冗談には付き合えない。だって、ザックスにとっては冗談でも、クラウドにとってはそうじゃない。
ただ、耳たぶを咥えられただけでもう、頭がおかしくなるぐらいに。クラウドはこのひとのことが―――

「ザックスさん!なーにさっきからストライフと内緒話してんすか?」
「そうそう、前から思ってたんですけど、ザックスさんってストライフに甘いよな~」
後ろからわらわらと兵士たちに取り囲まれて、ザックスから慌てて距離をとろうとするけれども、彼はそれを許してはくれない。
真っ赤な顔を見られないように俯くしか出来ないでいると、まるでそんなクラウドを隠すように、ザックスはその腕の中に抱きこんだ。

「そりゃー、だって親友だし!な、クラウド。」
「……そうなの?知らなかった。」
「えっ!まさかの俺の片想い?!」
わざと素っ気ない返事をしながら、けれどドキドキと心拍数があがってしまう。
だって今、ザックスに抱きしめられている。ザックスに、この異常な心臓の音が聞こえてしまうかも、

「俺は可愛いもんが好きなの!俺に高い飯奢らせたいなら、お前らもちょっとはお肌を磨いてこい。」
「そりゃ~たしかに、ストライフは可愛いっすけど!でもこいつってこう見えて、すげえ力あるし喧嘩っぱやいし、 気を付けた方がいいっすよ。俺なんか前に一本背負いで投げられたことあるし…」
クラウドを包み込むように、むぎゅむぎゅと抱きしめ続けるザックスを前に、兵士は自身の経験談からいちおう事故防止のアドバイスを送る。
「あれは、シャワールームで素っ裸のストライフに、後ろから抱きついたんだろ?ストライフは悪くねえぞ、」
「ちげえよ罰ゲームだったんだよ!誰でもいいから裸の男に抱きついてこいってやつで…どうせならむさい男より、可愛い子の方がいいじゃん。」

「なんだとてめえ!うらやましい一発殴らせろ!!!!」
「ぎゃあああ!痛い!!!」
ようやくザックスの腕から解放されて、クラウドはほっと息をつく。
兵士たち相手にぎゃあぎゃあ騒ぐザックスを見ながら、さっきのあれは何だったのだろうと、未だに熱が引かぬ左耳に手をあてた。
ザックスに、耳たぶを甘噛みされた。普通、いくら親しい友人同士でも、そんなことをするのだろうか。
今度は「絶対に二人きりで」なんて。そんな、まるでクラウドだけが特別みたいなこと。



クラウドの心はこうやっていつも、ザックスにかき乱されてしまう――












次回、たぶん無理矢理えっちな描写が入りますので
苦手な方はご注意ください…_(:3」∠)_.
(2018.04.16 C-brand/ MOCOCO)


inserted by FC2 system