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トモダチ以上恋人未満。シリーズ7

 

 

 

動 物 園 に 行 こ う !

night time

 

キミの好きなものを、教えて。

その形は?その色は?…その価値は?

 

 

1ヤキモチなんか、妬いてない。

妬く権利などない。

ザックスは、ただのトモダチであって、恋人ではないのだから。

 

ハグだって、キスだって、した。

それは、普通の友達というには、あまりに近すぎる距離に思えて。

だから、自分が勝手に期待していたのだ。

 

――ザックスを、自分のものにできるような、そんな気がしていた。

 

(ばかみたい…身の程知らず…)

普段から、友人もガールフレンドも多い、ザックス。

彼は、こんな遠くの動物園でまで、女の子に囲まれてしまうような男なのだ。

釣り合うわけがない。

浮かれてた自分が、あまりに恥ずかしい。

ザックスが、いつ手を繋いでくれるか――そんな期待を密かにしていた自分が、あまりに恥ずかしい。

 

どうしてだろう。

こんなことで、泣いてしまいそう――

 

 

 

 

「えーん…!」

 

一瞬、自分が泣いているのかと。そう思ってしまうほど、タイミングよく子どもの泣き声が聞こえた。

人込みの喧騒で、消えてしまいそうな泣き声だったけど。

その声は、クラウドの耳にたしかに聞こえた。

 

声のする方を見ると、人で賑わうトラのスペースから外れたところに、小さな男の子が蹲っている。

クラウドは、そっと、その子の前で腰を下ろす。

「どうしたの?迷子?」

「お、かあ、さんが…いなく、なっちゃ…」

声にならない泣き声で、そう返す男の子。その子を抱き上げて、体を揺らしてやる。

(自分を、見てるみたい…)

 

まるで、ザックスとはぐれて泣いている自分のよう。

きっと今、自分もこんな風に、泣き出してしまいそうな顔をしているのだろう。

「ねえ、泣かないで。お母さんはきっと、キミのこと探してるから。」

(ザックスは…探してくれるのかな…。)

それは、無理のある願いだと思う。

きっとザックスは、今頃、女の子たちと楽しくお喋りを続けているのだろう。

(アドレス、交換したりして…一緒に写真、撮ったりして…)

(可愛い子だったし…あの、長い髪の子なんか。いかにもザックスが好きそうなかんじ…)

利発で、元気いっぱいのミニスカート、おまけに胸だってある女の子。

――自分の持たない全てのものを、持った女の子。

 

「…お母さん、探しにいこっか。」

「一緒に…さがして…くれ、る?」

ようやく、泣き止んできた男の子に、笑いながら頷くと。

その子は、クラウドの首に手を回して、しがみついてくる。

少しだけ力をこめて、抱き締め返してやると――

 

「こら!」

 

腕の中の子どもを、突然、奪われる。

「…ざ、」

「こらこら!子どもでも、クラウドに抱きつくのは駄目!」

「ザックス…なに、バカ言ってんの。」

 

ザックスがニカリと笑った。息を切らしながら。

「どうした坊主?迷子か?クラウドと一緒だな〜」

「な…!迷子じゃない!ザックスが悪いんだろ…!ザックスが、」

子どもを抱くザックスを殴るわけにもいかず、彼の髪を強めに引っ張って抗議する。

「――良かった。」

子どもをぎゅっと抱き締めて。ザックスが、眉を下げた情けない顔で、笑う。

 

 

「…もう、口も利いてもらえないかと思った。」

 

 

そう言うザックスは、笑っているけれど、今にも泣き出してしまいそうだった。

「黒髪のおにいちゃん、泣かないで。」

「え?!」

よしよし、と腕の中の子どもが、ザックスの黒髪を撫でる。

それを見て、思わずクラウドは噴出してしまう。

そうして、ザックスも声を出して笑う。

ザックスの前髪は、汗で濡れていた。…この、雪が降りそうなほどの寒さにも関わらず。

 

 

 

 

 

 

そのあとすぐ、男の子の母親は無事に見つかって。彼らは、手を繋いで去っていく。

最後、男の子に「ありがとう、おねえちゃん!」とか言われた気がするけど…

そこで怒るのも大人気ないので、なんとか笑って手を振った。

ザックスは隣で、笑いをこらえていたけど。

そのザックスの足元を思い切り蹴っ飛ばしてやると、彼は、嬉しくてたまらないという顔で「ひでえ!」と

抗議する。

 

ザックスが――手を、差し出す。

「クラウドが、迷子にならないように。」

また蹴っ飛ばしてやろうと思ったけれど、ザックスがあまりに優しい眼差しで見つめてくるから。

仕方なく――あくまで、仕方なく、という風に。

ザックスの手に、自分のそれを重ねる。

まさか、クラウドが了承するとは予想だにしていなかったのか…

ザックスは、目を見開いて固まっている。その反応が、少しおかしい。

 

 

アンタが…女の子のお尻ばっか、追いかけないように。

 

 

そう、意地悪な仕返しをこめて、言ってやるけど。

それはまるで、恋人への独占宣言だと聞こえなくもない。

 

案の定、ザックスは破顔して、強く手を握り返してくる。

オマエ以外、見えねえよ。知ってるだろ?」

そう、耳元に唇を寄せて囁かれて、体が震えた。

 

 

 

「…知らない。」

 

いったい、それはどこまで本気なのか。

自分は、本当に彼にふさわしいのか。

想ってもらえるだけの価値が、自分にあるのか。

…わからない。知らない。

だから、教えて…

そう、彼を見上げた瞬間、少しの間も空けずに――

 

 

 

 

唇が、重ねられた。

 

 

 

 


 

二人、子どものようにはしゃいで、足が痛くなるほど園内を歩いて。

たくさんの動物を見た。たくさんの話をした。

帰る時間には、雪が降ってきて――危ないからということで、バイクは置いて電車で帰った。

電車の中でも、ザックスは手を放さない。

クラウドに席を譲って、ザックスだけが立っているときでさえも、手は繋がれたままだ。

隣に座ったおばあさんに、「可愛いアベックだねえ」と言われたときは…

さすがに、顔から火が出そうだったけれど。

ザックスが嬉しそうに笑って、否定しないから――クラウドも否定しない。

 

 

 

 

恋人ではないけれど、きっともう、ただのトモダチではない。

 

 

 

 

「積もるな〜俺、寒いのは苦手!」

今年の初雪が、静かに降り続ける中、二人は夜の道を歩いた。

ザックスの左手には、どでかいトラのぬいぐるみ。

なんでも、クラウドへのお土産とか言って、買ってくれたものだ。

こんな大きなものを貰っても、迷惑なだけだと言いながら…本当は、どこかくすぐったくて仕方がなかった。

でかいぬいぐるみを抱えるザックスが、滑稽で。

 

 

 

好きだな、と思う。その滑稽なほど、優しさをくれるザックスが。

 

 

 

「ザックス…これ、あげる。」

「え?」

ザックスに屈むように言って、彼の頭に自分のニット帽をかぶせる。

「これ…かぶっていいの?」

大きなぼんぼんがついたそのニット帽は、男らしいルックスのザックスに、意外にもよく似合う。

「ザックス、寒いの駄目だろ…けっこー、似合うよ。」

「すげえ!クラウドの匂いがする!

などと変態くさいことを言うザックスを、いつものように蹴飛ばしてやる。

そうするとやっぱり――ザックスは、幸せそうな顔で、笑うのだ。

 

 

「そっちの方が、やっぱり好きだな。」

 

 

突然、そうザックスに言われ、何を指しているのかわからずに聞き返す。

「え?なにが?」

「寝癖!すっげえ可愛い!」

「ばかザックス!」

そういえば、自分は朝起きたとき、寝癖がひどくかったのだ。

帽子を外してしまったことを、今さらながら後悔する。

 

 

「帽子も、やばい可愛いんだけど。深くかぶっちゃうと、顔見えないしさ。」

 

 

顔が、熱くなる。

いったい何度、この男の一挙一動に、心臓が跳ねたことだろう。

いったいどれだけ、人をドキドキさせれば気がすむのか。

(なんか、こういうのって、)

「恋愛、みたい…」

思わず、そう呟いてしまった後で。激しく羞恥心が襲った。

ザックスも、何やら顔を赤くしていて――それは、寒さのせいならいいのだけど。

「今の、なんでもない!何でもないから!」

かぶりを振って、そう否定しても、ますます恥ずかしさが募る。

 

 

…俺は、一世一代の恋愛中なんだけど。

 

 

そのザックスの言葉――ザックスの、真っ直ぐな視線。

恥ずかしさに、もう耐えられない。

クラウドは思わず、ザックスの手を振りきって走り出す。

すると、後ろから大きなトラ(のヌイグルミ)と、大きな声が追いかけてくる。

「クラウドーーー!!今年の抱負!聞いて!」

いったい何を叫び出す気なのか――いつぞやの悪い記憶――神社で非常識な告白をされた思い出

よみがえって、慌てて振り返ったが…

 

 

手遅れ。

 

 

今年も!全力でキミに夢中です!!!!

 

 

 

雪が静かに降り積もる、真冬の夜道。

どこかのバカが叫んだ、そんな愛の抱負。

 

 

 

 

あけまして、おめでとう――

僕もキミに夢中だなんて

…絶対に、言わないよ。

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (201013 初出)

いただいた拍手に、心からの感謝を込めて。

 

 

 

 


 

 

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