C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

 

トモダチ以上恋人未満。シリーズ7

 

 

 

動 物 園 に 行 こ う !

afternoon time

 

大好きなキミと。キミが大好きだという、動物園へ。

キミの愛する世界を、僕に教えて欲しいんだ。

 

 

動物園に行くのは、もう1ヶ月以上前から、ザックスの中で予定していたことだった。

二人、いつも一緒に見ている、週末の動物番組。

ザックスが好きな番組で、クラウドはただ付き合って見ているいるだけ――ということになっているのだが。

実は、クラウドの方が真剣に見ていることを、ザックスは知っている。

その番組は、感動ドキュメンタリーで、ライオンの家族の特集だとか、愛犬と主人の絆についてだとか。

クラウドはいつも、目に涙をためながら、画面に夢中になっている。

人前で泣くのが恥ずかしいのか、涙が出そうになると、すぐ洗面所に逃げるのだが。

 

(そういう強がりなとこも、可愛いんだよなー)

 

涙もろいくせに、冷たいふりをして。

動物好きのくせに、興味のないふりをして。

そんな不器用なところが、どうしようもなく放っておけない。

 

 

 

 

いつだったか。

二人で夕食を食べながら見ていたテレビ番組で、動物園が映っていた。

来年は寅年――ということで、動物園へトラを見にくる親子連れが多いのだという。

「動物園、行ったことある?」

クラウドの好きな豆乳鍋をコンロにかけながら、そうクラウドに問うと。

「…ない。母さん、仕事で忙しかったし…」

そう、なんとも控えめな答えが返ってくる。きっとこんな可愛い子ならば、

どこにでも連れていってやりたかっただろうに…クラウドの母も辛かったに違いない。

などとザックスは妄想した。

 

「友達とか…女の子と、は?」

行ったことがない、と言ったのだから、答えはわかっていたけれど、

それは暗に、クラウドの過去の友達や恋愛経験を気にしたからこその質問だった。

「…友達、なんて…ザックスが初めてだし。」

ザックスは、心の中で両手をあげて万歳三唱をした。

「女の子、なんて…ザックスじゃあるまいし、そんなのいるわけ…」

ザックスは、心の中で拍手喝さいをした。スタンディングオーベーションだ。

 

その喜びが、顔に出ていたのか――おそらく、これ以上ないほどのスマイルになっていたに違いない。

「なんだよ、もてないからって、ばかにしてんの。」

クラウドが、拗ねた表情を作る。

そんな拗ねた顔すらも、可愛くて絵になってしまうのだから、すごい少年だと思う。

「違う違う!そうじゃなくって、クラウド可愛いなって思っただけで――」

口は、災いの元。

正直に言い過ぎて、言い終わるより先にクラウドの右ストレートが飛んできた。

 

 

 

 

 

(絶対、クラウドを動物園に連れて行く!)

そのための二人の休暇も、しっかり合わせてある。

クラウドが行きやすいように、いかにも自分が行きたいのだという風に話を進めるのも、大事なことだ。

(そんでもって、悩むスキを与えない!)

押しに弱いクラウドだから、突然誘った方がきっと頷いてくれるだろう。

卑怯だと罵るがいい!手段は選んでなどいられない!

そうして、待ちに待った決行日。

元旦、あいにく天気は曇りで、どんよりとした空だったけれど、そんなのは関係ない。

ザックスは曇りひとつない、無駄に爽やか過ぎる満面の笑顔である。

大好きなあの子と、動物園デートなのだから、当然だ。

 

朝は7時に起きて弁当を作る。(2時間ぐらいしか寝ていないけど、へっちゃら!)

朝シャワーも浴びて、髭も剃って、髪型もばっちりワックスできめて。

気合を入れすぎてひかれないよう、レジャーに適したジーンズスタイルにした。

弁当なんか作ってる時点で、このうえないほどの気合の入れ様だとか、そういう事実は置いておく。

 

可愛い寝顔を堪能しながら、まだ眠そうな彼を起こしてあげる。

寝かせてほしいという可愛いおねだりに、ぐらつきながらも…なんとかクラウドを動物園に誘う。

思ったとおり、クラウドは押しに弱いらしい。なんだかんだと言いながらも、

ザックスに言われるがまま、着替えて、軽い朝食を食べ、ザックスのバイクの後ろに座ってくれた。

クラウドは寝癖を気にして、ニット帽を深くかぶっている。

このニット帽は、ザックスのお気に入りだ。

大きなボンボンがてっ辺についていて、クラウドに恐ろしいほど似合っている。

…金髪が隠れてしまうのは、少しもったいないけれど。

 

「ちゃんと、つかまって。」

移動手段をバイクにしたのは、電車だと元旦で込んでいるし、車だとクラウドが酔ってしまうから。

バイクに乗ってみたい、と以前より彼は言っていたし。

クラウドのニット帽の上から、メットを被せてやり、彼の腕を自分の腹へ回す。

何度か、ハグだって…キスだって、したことがあるというのに。

この密着した体制に、自分の心臓がドキドキしているのを自覚する。

クラウドは言われるがまま、ザックスの腹に抱きつくような体制で、大人しくしている。

細くて白くて、しなやかなクラウドの手が、まるで絡みつくように――

 

バイクで二人のりが、こんなに美味しいシチュエーションだったなんて!

(やばい、心臓の音、ばれませんように…!)

その音をごまかすように、アクセルをふんでバイクを走らせた。

 

 

 

 


 

ちょうど、お昼を過ぎた頃。

動物園の入場ゲートを、くぐった瞬間だった。

クラウドの頬が、ピンクに染まったのがわかった。

目の前には、可愛い着ぐるみの動物たち――風船を配っているのだ。

「クラウド、貰いにいく?」

あまりに可愛い顔で、その動物(の着ぐるみ)を見ていたから、そう声をかけてやる。

「…いい。小さい子だけだろ。」

明らかに、悲しそうな、残念そうな顔をしている。

(なるほど。)

たしかに、風船を貰ったり、一緒に写真を撮ってもらったりしているのは、幼い子どもが多い。

もしくは、女子中学生とか、女子高生とか…若い女の子たち。

(クラウドも、違和感ないんだけどなー…)

むしろ、違和感ないことが不思議なぐらい。

子どもたちより、女子高生たちよりも、クラウドは可愛らしい。

(俺、重症?)

と、いうより、末期患者だ。

 

「じゃあ、さっそく!トラに会いにいこうぜ。」

クラウドに手を差し伸べようとして、やめた。

きっと、彼は手を繋ぐのを嫌がるから。

今日はクラウドに楽しんでもらいたい。クラウドのためにここまでやってきたのだから、

少しでも彼の嫌がることはしたくなかった。

 

(元旦って、以外に人少ないし、)

道路は込んでいたけれど、園内は人もまばらだ。はぐれるような事はないだろう。

(ナンパ男もいないだろうし。)

動物園は、家族や恋人でくるところだ。

若い女の子同士で来ている子はいても、若い男同士で遊びにきている連中はいないだろう。

などと、自分達二人が男同士であるということは棚にあげて、考える。

 

 

 

 


 

ここ、グーラシア(笑)動物園は、ミッドガル近郊にあり、

施設も充実していて5000種もの動物がいる大きな動物園だ。

中でも、やはり寅年故か、スマトラトラは人気コーナーのようで、沢山の見物人に囲まれていた。

 

「クラ!すげえ迫力!」

「すごい…近いね。」

ガラス越しにトラを見物できるようになっていて、かなりの至近距離。

何でも、ガラスの近くに置いてある岩にヒーターが内臓されていて、

トラは好んで、そこの上に寝そべるらしい。

クラウドは何を見るのも物珍しいのか、ガラスに顔がくっつきそうなぐらい夢中になって見ている。

(可愛い、可愛い、可愛い!)

もはや、ザックス的には、トラなぞ眼中にない。

トラに夢中になっている、可愛い少年に夢中だ。

 

 

――正直なところ。

動物園なんて、ザックスはこれまで、全く興味がなかった。

女の子とのデートで、23回訪れたことはあったけど、それはデートの定番だからという

程度の理由であって、純粋に動物を見にきたわけではなかった気がする。

一緒に来た女の子も、「動物を見る」というよりは、

ザックスとの会話だとかデートの雰囲気を楽しんでいるように見えた。

実際、なんの動物を見たのかなんて、覚えていない。

 

だけど、クラウドは違った。

トラが、あくびをするだけで、のそりとのそりと移動するだけで、目をキラキラさせて

その一挙一動を見つめている。

(純粋、っていうんだよな…こういう子。)

「あの、隅っこにいるトラ。」

「え?」

クラウドがトラを見つめたまま、言う。

「片目、怪我してるね…」

「え…」

 

隅っこに寝転ぶ、他に比べて小さい体をしたトラは、

なるほど…たしかにクラウドが言うように、目に傷があった。

まるで、そのトラを慈しむかのように。

ガラスをそっと撫でるように、クラウドが手を動かしたのを見て。

その無意識の彼の優しさに――心が、じんわりと温かくなった。

 

何度も何度も、彼にときめいて。

それこそ、毎日ドキドキしているけれど。

こうやってクラウドは、これからも何度だって、自分の心を奪っていくのだろう。

…どうしても、彼に優しくしてあげたくなって。

そのガラスに置かれた彼の手に、自分の手を重ねようとしたとき――

 

 

 

 

「写真、撮ってください!」

 

 

振り返ると、若い女の子たち――おそらく、10代後半ぐらいだろうか。

ザックスと同じぐらいか、少し上ぐらいの年齢の可愛い女の子たちが56人いる。

もっとも、可愛いと言っても、クラウドの比ではない。

失礼な言い方をすれば、10人並みだ。

「俺?」

「お兄さん、彼女とデート中でした〜?すみません〜」

クラウドの方にちらりと目をやって、それでもカメラを渡してくる。

写真を撮るぐらい、わけもないことだ。

元来、人のいいザックスは、笑顔で了承する。

 

323は〜?」

などと、いつもの調子のよさで。

「お兄さん、超笑えるー!」

「ねえねえ!お兄さんどこから来たの〜?ミッドガル?」

「あたしら、ここの近くのガッコなんだけどさー」

 

話が、どんどん盛り上がってしまって、会話が止まらない。

ザックスとしては、一刻も早くこの会話を終わらせて、クラウドとのデートの続きを楽しみたいのだが。

若い女の子たちのマシンガントークは続く。

ザックスもお調子者な性格故、冷たくあしらうこともできず、笑って答えてしまうものだから。

女の子たちは、ますますテンションが上がる。

 

「じゃあ次は、お兄さんも一緒に映って!」

「え?あーそれは、ちょっと、無理。ゴメン!」

「なんでー?いいじゃん、あたしらが出会った記念にさ、」

そんな記念など、とるにたらない…というのが、正直なところ。

ザックスとしては、今日はクラウドと動物園に来た、この上ない記念日なのだから。

 

「ごめんごめん、今、一緒にきてる子いるから。これ以上、放っておきたくないし…」

 

そう言って、振り返ると。

いない。クラウドが、先ほどいたはずの、トラのコーナーにいない!

 

 

 

 

「さっきの彼女?ちょっと可愛いからってさー。なんか感じ悪くない?

うちらのこと睨んで、どっか行っちゃったよ。」

「いつ…」

「だいぶ前!」

(なんでそれを黙ってんだよ!悪魔かこいつら!

 

カメラを無理やり押し返して、クラウドの後を追う。

「待ってよ!ねえ、メアド交換しようよ!」

とかなんとか、後ろから声が聞こえたけど、そんなのはもはや無視だ。

そんな場合ではない。

いくら、動物園といったって。

ナンパ男が全くいないとは限らないし、あまりの可愛さに誘拐する輩だっているかも…

などと、物騒な発想まで浮かぶ。

無事だとしても、クラウドに嫌われた、もしくは呆れられた可能性大だ!

それはザックスにとって、死刑宣告に等しい。

 

まだ、そう遠くへは行ってないだろう。

トラ以外の動物はちゃんと見てないわけだし、その動物たちを素通りしていかないはず。

(隣のコーナーとか…?)

トラのスペースの周辺だけ、異様に客で込み合っている為、クラウドを探し辛くてイライラしてしまう。

せめて、クラウドがニット帽をかぶっていなかったら…

一瞬で、あのキラキラな金髪を探す自信があるのに。

 

 

 

 

 

一瞬だって、僕の視界から消えないで。

きっと息ができなくて、死んじゃうよ。

 

 

 

NOVEL top

C-brandMOCOCO (201013 初出)

いただいた拍手に、心からの感謝を込めて。

 

 

 

 


 

 

inserted by FC2 system