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トモダチ以上恋人未満。シリーズ7

 

 

※トモダチ以上恋人未満ザックラ。「未来予想図を教えて」の続きっぽいです。

 

動 物 園 に 行 こ う !

morning time

 

キミとなら、どこへでも。どこへだって、連れていって。

なんて――そんなこと、絶対に言わないよ。

 

11日。

朝、鬱陶しい親友の声で起こされた。その、鬱陶しさといったら…。

「クラウド〜!あけましておめでとう!今年も可愛い!今年も大好き!

「…おめでとう、って…昨日も、言った…だろ……っていうか…可愛いって…なんだ、ばかざっくす…」

まだ、半分夢の中にいるクラウド。

この時期は、ベッドから出るのはかなりきついもの。

今日は元旦――せっかくとれた休みなのだから、何時まで眠っていても問題はないのだし。

 

「クラウド!今年はトラ年!可愛いチョコボは、悪いトラさんに食べられちゃうよ〜!

そうふざけたことを言いながら、ベッドに潜り込んでくる親友兼ルームメイトを、思いきり蹴っ飛ばして。

また毛布をかぶって眠る。

「…あと30分寝たい。寝かせろ、ばかザックス………」

最後の方は、もごもごと寝言になっていて、クラウドはまた心地のいい睡魔にまどろむ。

 

「そんな可愛い寝顔で言われると、そりゃ俺だって寝かせてやりたいんだけど…」

うーん困った、とかなんとかいう声が、聞こえたような気がするけれど。

睡魔には、勝てない。

 

 

 

 

昨夜は大晦日――ザックスと二人きり、部屋でカウントダウンをして過ごした。

明け方まで飲んで、食べて、騒いで。ベッドに入ったのは、もう外が明るんでいた頃だ。

(今…何時頃だろ?)

せっかくとれた正月休み。こうして寝ているのも、もったいない気はする。

なんといっても、今日はザックスと休みが重なっているのだから。

ちらりと毛布から顔を出すと、ザックスと目があってしまう。

一緒の部屋で住んでいるのだから、寝起きを見るのも見られるのも慣れっこだけど。

だけど、こんな至近距離で顔を覗かれるのは…さすがに、気まずい。

 

(髪、ぼさぼさだし、あんま見ないでほしんだけど。ザックスだって、いつも寝癖ひどいくせに…)

 

ザックスは、いつ起きたのだろう。

ザックスはすっかり髪型も整っていて、髭も剃ってある。

無駄に爽やかと言っていいほどの笑顔で「ここ、はねてるぞー」とか言いながら、髪を撫でてくる。

それに――服装。

彼の格好は、部屋着ではない。当然休暇なのだから、ソルジャー服でもなく。

黒のダメージジーンズに、グレイのファーつきジャケット。インナーには、黒のニット。

明らかに…これから、どこかへ出かけるようだ。

 

 

 

「どこ、行く…の?」

コンビニやパン屋ではないだろう。

ザックスからは、仄かに香水の匂いがして、腕時計も外出時に愛用しているものを付けている。

(なんだ…デートか…。)

だから、こんなに笑顔で浮かれているのだろうか。

「ん、動物園。

「…………そう。」

嬉しそうに頷くザックスを見て、胸がちくりと痛んだ。

いい親友ならば、ザックスに合わせて笑って、いってらっしゃい、と快く送り出すべきなのに。

そんな簡単なことすらできない自分に、自己嫌悪する。

 

「そう、って…もっと喜んでほしいんだけど。」

ザックスのデートを喜べない自分は、本当にトモダチ失格かもしれない。

こんな卑屈でつまらないやつだから、ザックス以外、まともに友人だっていないのだろう。

だけど、だけど――

(元旦は、一緒に過ごせると思ったのに…。)

 

 

昨夜の大晦日も、一緒に過ごした。

てっきり年越しは、ザックスは社内の忘年会(という名の、大規模な合コンのようなものだ)へ

行くのだと思っていたのに…彼は、自分と過ごしたいと言ってくれた。

0時を回って、二人グラスを合わせて、改めて乾杯をしたとき。

クラウドは、ザックスに聞いてみた。

「可愛い子くるかもしれないのに、行かなくてよかったの。」

ザックスは、一瞬驚いた表情をして、そしてすぐに目を細める。

「そうだな〜もったいなかったかな!」

そう、おどけてザックスは言うけれど。

少しもそう思っていないとわかるような、そんな――嬉しくて仕方がないというような表情だった。

 

 

 

 

 

(元旦まで、一緒に…なんて。図々しかったよな。)

別に、一緒に過ごそうと約束をしていたわけではない。

ただ…今日、もしできたら、ザックスと近所のパン屋でもいって、のんびり朝食を食べて。

去年行ったように、神社に初詣に行けたらなあ、なんて。

勝手に、クラウドが期待していただけだ。

「…いってらっしゃい。気をつけて、ね。」

かろうじて笑みを作って、ザックスにそう返す。

ニューイヤーなのだから、ザックスはガールフレンドと約束があって当たり前だ。

そこまで縛る権利などトモダチのクラウドにはないし、独占欲だって持ち合わせていない。

…独占欲なんて、ない、はずだ。

 

「まだ、夢の中か?この寝ぼすけ!」

「は…?」

からからと笑うザックスを、意味がわからずに見上げると。

 

オマエと行くの!動物園!

「え……?え?!

 

ザックスの言葉を理解して、思わずベッドから飛び起きると、ザックスが焦り出す。

「ちょ…、クラ!オマエ乱れすぎだ!

パジャマ代わりに着ていた、大きなロングTシャツ。

それの肩のあたりがずれて、クラウドの右肩が丸出しになっている。

このシャツは、元はザックスのもので、パジャマを洗濯していて替えがないときに一度借りてから、

今となってはすっかりクラウド専用の寝巻きになっていた。

なんといっても肌触りがいいし、これを着て寝ると、どうしてかザックスが喜ぶから。

 

丸出しになった肩を隠そうと、慌ててずり落ちたシャツを直してくれるザックス。

でも、クラウドからすれば、そんな場合ではない。

「動物園、行くって、なに?!どういうこと…!」

だってトラ年じゃん!トラに会いにいかないで、どーすんの?」

意味がわからない。

「ザックスって、いつも思うけど、突拍子ない…」

「いいからいいから!ほらほら早く着替え…え?ぎいああああああ!!!!!!

「え?」

ベッドから這い出て、言われた通りに着替えようとしたとき、ザックスが奇声をあげる。

クラウドの下半身を指さしながら。

 

「?なんだよ。朝から、気持悪い声出すなよ。」

な、なななな生足!オマエ、下、なんも履いてないわけ…?!」

「何もって…パンツは履いてるんだからいいだろ。」

クラウドは、ザックスのシャツとボクサーパンツだけ、という格好だった。

Tシャツの丈が長くて、下着が隠れている分、何も履いていないようにも見える。

 

「この…ハレンチ少年!お兄さんの心臓に悪い…!」

とか何とか恨みがましいことを言いながら。

いったい何が珍しいのか、クラウドの足から目を離さないザックス。

ザックスの心中など全く理解せず、何を指摘されたのかもわからないといった風で、

男らしくシャツを躊躇なく脱ぎ始めたクラウドに、ザックスは慌てて背を向けた。

「ああああ朝から、すごいもん見た…」

そう、ザックスがいつまでもブツブツ言っているのを聞きながら、

 

 

(……そんなに変な柄?俺のパンツ。)

 

――などと、見当違いのことを考えているクラウドだった。

 

 

 

 

寅年だからトラに会いたいんだと、キミはいつも無茶ばかり!

子供みたいなその笑顔、嫌いじゃないよ。

…浮かれているのは、どっちだろう?

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (201013 初出)

いただいた拍手に、心からの感謝を込めて。

 

 

 

 


 

 

 

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