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           トモダチ以上恋人未満。シリーズ6

 

 

※神羅時代、恋人未満なザックラ。過去拍手3「キミありき人生は大吉。」の後ぐらい。

 見てはいけないものを見てしまった、クラウドのお話。

 

 

叶わない未来を語るのは。…楽しくて、悲しいね。

 

未来予想図を教えて。

 

友情を超えたその先に、未来なんかないってことを。きっと知っていた。

 

 

 

――深夜2時。

クラウドが担当していた警備の交代がきて、帰宅したときのこと。

この部屋に住むルームメイトを起こさないように、足を忍ばせて廊下を歩く。

そのとき、小さな声を聞いた。

微かな声だったけれど、自分の名を呼ばれた気がして。

 

その声が漏れる、友人――ザックスの寝室を、クラウドはそっと覗く。

(また、寝言?)

ザックスは子供のように、寝言が耐えない。

そしてそれはどうしてか「クラウド」の名を呼ぶことが多いのだ。

彼と同居し始めた初めこそ、それは恥ずかしく聞くに耐えなかったものの、今となってはすっかり慣れた。

どこかくすぐったさは、相変わらずあるけれど。

 

「……クラ…」

(やっぱり。)

予想通り、ザックスは寝言でクラウドの名を呼んでいる。

――と思っていたのに。

 

「クラ…、はあ、は、クラ」

 

何か、とても苦しそうな声。

ソルジャーのザックスが、そんなに呼吸を荒げるなんて、普通のことではない。

(まさか――!)

「ザックス!!どうしたの?!」

クラウドは勢いよくドアをあけて、寝室に駆け込む。

ザックスが、病気だと思ったのだ。

―――だが。

 

 

 

「どわわわわわわわわわわわわわわッ!!!」

 

 

なんとも言えない、マヌケな叫び声がして。

クラウドが急いで部屋の明かりをつけると、見てはいけないものが目に入った。

ザックスが、胡坐をかいて、ズボンをさげ――両手で股間を隠し。

つまり。

 

絶対に見てはいけないもの――

ザックスの一人エッチを、クラウドは見てしまったのだ。

 

「うわあ!ザックス!」

「くくくくら!!ちょっと待って!待ってくれ!」

何を待てばいいのかわからないが、クラウドは慌てて後ろを向く。

「ごめん!ザックス、具合悪いのかと思って、俺、」

「だいじょぶ、だいじょぶです!」

 

ザックスはかなり動揺しているようで、言葉遣いがかなりおかしい

彼は普段パンツ一丁で普通に歩いているし、共同のシャワールームではタオルで前を隠したりもしない。

恥じらいという言葉は、ザックスの辞書にはないように思えた(失礼)。

そんな彼がここまでテンパっているのは、おそらくその情けない自慰のシーンを見られたからというより。

きっと。いや、間違いなく――彼が『クラウド』の名を、呼んでいたからだ。

 

 

 

(それはつまり、俺のこと考えて、して…?)

「クラ、ごめん!」

クラウドが恐る恐る振り返ると、ズボンをきちんと履き直したザックスが、ベッドの上に正座していた。

これ以上は無理というほど、背筋をぴんとさせて。

「嫌なもん見せて、ほんとごめんな!」

あんな姿を見られた後でも、真っ直ぐにこちらを見てくるザックスの視線に、

むしろクラウドの方が恥かしくなってしまい、彼を直視できない。

視線を泳がせながら、なんとかフォローしようと努める。

「男、なんだから。当たり前だし…」

 

クラウドだって、男だ。どんなに外見が美少女だろうと、男だ。

たとえクラウドがPip teen(ギャル系ファッション雑誌)のモデルよりも可愛らしく、

CAMCAM(お姉系のファッション雑誌)のモデルよりも、美人だとしても

――それでも、男なのだから、ついているものはついているわけで。

クラウド自身は、性的な興奮とはまだ、ほとんど無縁であったが…知識としては少しぐらい知っていた。

 

正直、ザックスがそういうことをしていた事実は、絵的に衝撃的だった。

だからといって、軽蔑したりはしないし、気持ちが悪いとも思わない。

それは、生理的な現象なのだ。だから理解できる。

ただ、ひとつだけ理解に難しいこと。それは―――

「……俺の名前。呼んで…た?」

聞かなかったことにすればいいのに、クラウドは思わず口に出してしまった。

 

「…軽蔑、する?」

ザックスは、イエスとは言わなかったけれど、それは肯定の意味を示していて。

どこまでも、潔い男だ。

「……しない。でも…俺のこと、考えて……したりするの?」

「するよ。」

ザックスは、少しの間もあけずにそう答える。まるで誤魔化す気はないらしい。

「…………たとえば?」

 

こんなことを聞くなんて、普通じゃない。聞かれた方も困るだろう。

だけど、いったい自分の何を想像して、ザックスが性的興奮を覚えるのか。

クラウドににとってはあまりに不可解で、聞かずにはいられなかった。

 

ザックスは頭をかいて、困った顔をする。

それでも、意を決したように言う。

「例えば…オマエを、このベッドで。めちゃめちゃに抱いてるとことか。」

ごめんな、と謝るザックス。

 

謝られても、困る。

別に責めてなどいないし、そもそも、嫌なわけではないのだ。

(なに、考えてんだろ。俺も。)

「嫌じゃない」だなんて。自分はきっと、どこかおかしいのだろう。

友達の男に、所謂オカズにされて、しかもそのシーンを目のあたりにして。

それなのに。

 

 

 

――自分の名を切なげに呼ぶザックスの声が、好きだなんて。

 

 

 

「やっぱ、気持ち悪いって思う…?」

ザックスが怯えるような声色で聞いてくる。

背を丸めて、まるで怒られた子犬のようだ。

普段元気よく跳ねているその髪も、今はしおしおと垂れている(セットしていないからだが)。

それがまるで、犬の耳が垂れているように見えて。

この図体は無駄にでかい犬っころが、可愛いと思ってしまう自分は――末期だ。

 

ザックスに歩み寄り、彼の頭に無意識に手をのばす。

どうしてか、その黒い頭を、撫でてやりたくなったのだ。

(犬……ほしいな。)

なんて、見当違いのことを考えながら。

 

ザックスの髪を撫でる。ザックスの黒髪はシャワーの後なのか、少し湿っていた。

(ちゃんと乾かせよ。いつも俺のことは風邪ひくからって、うるさいくせに。)

毎晩クラウドの髪をドライヤーまでかけてくれる、そんな面倒見のよい男なのに、

自分のことに関しては無頓着なのだ。そういうだらしないところも、彼らしくて嫌いじゃないけれど。

 

「クラ…?なんつーか、」

「なに?文句ある?」

「いやないけど…。オマエ今、俺のこと犬だと思ってるだろ。」

複雑、とザックスが不満を漏らす。

彼がクラウドの髪を撫でるときとは違い、ガシガシと乱暴になでていたから、当然かもしれない。

まるっきり、色気もなにもない。

「これって、グルーミング?」

「ひでえぞクラ!」

そういいながら、ザックスが笑う。笑った顔が、好きだと思う。

眉を下げて、眼を細めるその笑顔は、どうしようもなく優しくって。

 

 

 

なんだろう。撫でるだけじゃなくって。

(ぎゅって、したいよ。)

 

 

動物愛護の精神からか、親友へのハグなのか。それとも―――

自分の気持ちは理解できなかったけど、優しくしてあげたいと思う。

ザックスが笑うと、自分も嬉しい。だから。

「クラ…?」

今までがさつに撫で付けていたその手を止めて、ザックスの頭を抱き寄せる。

彼の座っているベッドに乗り上げようとしたとき。

 

 

ガタン!

 

 

 

クラウドの足が、ザックスのベッド脇のテレビ台にぶつかった。

その拍子に、DVDラックと思しきケースが床に転がる。

「げ!」

どさどさ、と勢いよくケースの中から何枚ものDVDが飛び出す。

それは。そのタイトルは、どう見たって――

 

 

 

……金髪美女をファック。

「え!」

ツンデレメイドのご奉仕。

「ひい!」

先生、エッチの時間です?

「ひいい!」

 

DVDのいかにもな、いかがわしいタイトルを無表情で読み上げるクラウド。

そして首を絞められた鶏のような悲鳴をあげるザックス

 

「くくくくらうど、これは昔ので、今はもう、」

「全部、金髪美女ばっか。」

「ご、ごめんなさい!」

ザックスは俊敏な動きで、少しの躊躇いもなく土下座する。

 

土下座――それはザックスの得意分野、いわゆるリミット技だ。

 

 

 

 

実際、そのザックスの土下座はかなりの威力がある。

クラウドはいつもその土下座で、彼が何をしても許してあげたくなってしまうのだ。

まさに、憎めない男。

だけど。今回ばかりは、その土下座を見てもクラウドの機嫌は直らない。

悔しい、悔しさが止まらないのだ。

 

「……金髪なら、誰でもいいのかよ。」

悪態つくように放った言葉が、なぜか震えてしまって。――しまった、と思った。

まるで、本当に傷ついているみたいだ。

男なら、そういう欲求があって当たり前だし、彼の性癖に口出すつもりもない。

ザックスが、金髪美女好きだというのは以前から知っていたし、それでクラウドに興味を持ったのだとしても。

クラウドが文句を言えることじゃない。

 

 

だって自分は金の髪以外、ザックスに見初められるものなんて何ひとつ持っていないのだから。

 

 

そう、わかっているはずなのに――なんでか悲しさや虚しさが渦巻いて。

泣いてたまるものかと、下唇を噛んで耐える。

「金髪が好きなんじゃなくって。クラウドが好きなんだよ。前にもそう言っただろ?」

「………ザックスは、好きって、言うけど。結局、そういうことしたいんだろ?」

 

『好き』と『セックスをしたい』を同義に使うのは卑怯なのではないだろうか。

少なくとも、自分にはまだわからないものだ。

『セックスをしたい』という欲求は、好きだという彼の言葉にさえ疑心を覚えてしまう。

 

「…そりゃ、したいけど。でも嫌がることなんかしねえよ。」

「でも結局、最終的には、するんだろ。最終的にはヤれると思ってるんだろ。」

「最終的にはって。当たり前だろ。」

 

――頭に、血が上った。

もちろん、恋人になれば。いつかセックスはするのかもしれない。

自分が『そういう行為』をするという想像は出来ないけど、それを全く知らないほど、

クラウドだってネンネじゃない。

だけど、ザックスの言葉は、まるで開き直りのように聞こえて。

今まで抱いていた彼の人間像に…ひびが入る音が聞こえた。

 

ザックスは、出会ったときから女好きで有名だったし、仲間うちでは下ネタも言う。

だけど、クラウドがその手の話題を苦手と知っているからか、クラウドに対しては下の話題は避けていたし、

当然ながら、クラウドに性的な行為を強要することも全くない。

むしろ、恋に純粋な男に見えた。

 

手を繋いだだけで幸せそうな顔して、数回のキスで舞い上がって。

それは、クラウドだって同じだったのに―――

 

 

『最終的にはヤれる』

 

 

その言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。

…いったい、何の夢をみていたのだろう?

ザックスに、何の幻想を見ていたのか。

 

 

 

だって、結婚したいから。

 

 

 

「――は?」

「最終的には、オマエを嫁さんにしたい。」

「は??」

「いや、そうなれるように俺が頑張る!」

「は???」

聞き間違い――ではないらしい。

 

(結婚???)

話が飛躍しすぎて、ついていけない。

いったいどういう思考回路で、そうなるのか。まだ二人は、恋人≠ナさえないというのに。

「何、言ってんの。無理に…決まってるだろ。」

「無理だったら、俺が嫁でもいい。」

「そういう問題じゃ、ないだろ!」

そうだ、そういう問題じゃない。もっと大きな意味で、不可能な話ではないか。

 

「えっとじゃあ、どういう問題?」

「どういうって…そんなの、」

 

何より、二人は男同士だ。ここミッドガルでは、同性婚が法で許されているとしても。

故郷の母が知ったら、どんなに嘆くことだろう。

それだけじゃない、まだ二人は未成年だし、クラウドに限っては少年と言っていい年齢。

そんな若い自分に、結婚なんて言葉は無縁なものだ。

まだ女の子と恋愛だって、したことがないというのに。

 

 

 

いや、そうじゃない。そんなことじゃない。

 

 

 

……幸せになんか、なれないから。

自分が、じゃない。

――ザックスを、不幸にしたくない。ただそれだけ。

 

ザックスは、魅力的な男だ。

それは友人としても、それ以上の意味でも。

恋人に不自由することなんて、これまで無かっただろうし、これからも無いだろう。

実際ザックスが、幾人もの女性と付き合ってきた過去を、クラウドだって噂で聞いている。

…だからこの先も、綺麗な女性と出会って、恋に堕ちて。いつかは、温かい家庭を築いて。

ザックス似の男の子が生まれて、子ども好きな彼のことだ、きっといいパパになって。

 

 

 

幸せに、なれる。自分を選びさえしなければ。

 

 

 

「叶わない夢なんか、聞きたくないよ。」

だからこの話は終わり、とクラウドは緩く笑いながら、寝室を出ようとする。

 

 

決して叶わない想い。

ずっと、夢みてきたのだ。

―――そしてそれが夢のまま終わると、クラウドは知っている。

 

 

 

 

「…幸せになんか、なれないよ。」

 

そう、ザックスが言う。先ほどのクラウドと、全く同じセリフで――

涙が、出る。そう思ったとき、

「オマエが、いないと。」

ゆっくり紡がれたそのザックスの言葉は、今まで聞いたことがないほど、耳に柔らかく響いた。

 

 

 

俺がいて、お前がいて。そういうの、幸せって言うんだろ?

 

 

 

その言葉は、未来への少しの疑いも感じられない。

誓いのような、約束のような。

――いや、違う。

それは願望なんかではなくて。

 

 

 

むしろ未来を知っているかのような――眩しすぎる、未来予想図。

 

 

 

…ザックスがそう言って、子どものように無邪気に笑うから、信じてみたくなった。

見えない地図を。

ありもしない、未来を。

決して叶うことのない、永遠を。

 

 

 

 

叶わないって、ちゃんと知ってるよ?

でもキミが語る未来なら、夢見ていたいんだ。

……今だけ、今だけだから。

 

(キミの笑顔で、僕を騙し続けてください。)

 

 

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C-brandMOCOCO (200910.7 初出

さっさと結婚しちまえ!とか思います。

駄作すぎて限定…だったのですが、こっそり復活。スミマセン。

 

 

 

 


 

 

 

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