C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

トモダチ以上恋人未満。シリーズ5

 

 

※神羅時代、恋人未満なザックラ。「打ち上げ恋花火」より1年後。

 

 

キミの右の手の平が。僕の左手を握り返して。

ただそれだけなのに、愛されているとわかったんだ。

 

打ち上げ花火。

 

パン!

 

クラウドの銃を構える姿勢が、好きだ。

真っ直ぐに、的の中心を見据えて。少しの歪みもない、その弾道。

まるで、真っ直ぐな彼そのものだと思う。

 

 

「一等賞!」

 

 

それは、夏祭りのメイン――?射的?。

人の良さそうな屋台の店主が、カランカランと鈴を鳴らす。

「すっげークラウド!」

「軍人なんだから、当たり前だろ。」

クールに肩をすぼませる彼は、まったくもって男らしい。

 

なんといっても、百発百中。

そもそも、ザックスがいいところを見せようとしてチャレンジした射的だったが、

これがなかなか難しい。

本物の銃よりも安定感がなく、弾道がぶれるのだ。

もとより、実はザックスは、銃火器系が得意でない。

思う様に当てられず、いよいよ肩に力が入ってきたとき。

 

 

「貸して。俺が狩る。」

 

 

なんともぶっそうなことを言って、クラウドがザックスから銃を奪う。

そして彼が『狩った』もの、それは。一等賞の――

「おめでとう!チョコボはキミのものだ!」

どでかい、チョコボのぬいぐるみだった。

70センチはあるだろうそのチョコボを、決まりが悪そうにクラウドは受け取って、

それをザックスに押し付けてくる。

 

「ザックスにあげる。」

「え?」

「こんなの、俺が持って帰るのおかしいだろ…男なんだから。」

そう、可愛いワガママを言いながら。

「ちょ、どう考えても俺の方がそれ、おかしいと思うんだけど…?!」

身長186センチもあるソルジャーの体躯の自分が、ふわふわの可愛いチョコボのぬいぐるみを

抱えているその滑稽さといったら。…滑稽通り越して、不気味なんじゃないだろうか。

このチョコボ君だって、クラウドに抱かれた方がきっと嬉しい気がする。

それは、似合わないどころか、むしろ――

 

 

(似合いすぎて、恐いって。)

 

 

とくに、今日のクラウドは、いつもにも増して可愛い。なぜってそれは―

今日のクラウドの格好。すなわち、?浴衣?だ。

しかもそれは、男物の浴衣じゃない。色は紺色で落ち着いているけれど、

その濃紺に豪華に散りばめられたピンクの華、そして可愛らしいピンクの帯は。

どう見たって、女物だ。

金髪に、紺色の浴衣はこれ以上ないほど、よく映える。

どの女の子の着ている浴衣よりも、それは目を惹いていた。

――いや、そうじゃない。

浴衣ではなく、みんなクラウドを見ているのだ。

 

クラウドの金の髪には、キラキラと輝く一匹の蝶。

つい先ほど、若い女性が売り子をしていた小さな出店で、ザックスはその髪飾りを買ってやった。

クラウドは当然、いらないと言ったけれど。

売り子の女性に勧められるがまま、その髪飾りはクラウドの髪に止められた。

それは安物だけれど、キラキラとラインストーンが眩く光って。

眩しいのは、その蝶なのか。それともやっぱり――

 

 

 

 


 

ことの始まりは、ザックスの実家から贈られてきた浴衣だった。

それはザックスによく似合う紺色の浴衣と、もう1枚。

ザックスのそれと同じ基本色だが、こっちはどう考えても?女物?としか思えない浴衣だった。

(そういえば、前にお袋に、クラウドの写真送ったっけ。)

 

別に『ガールフレンドがいる』などと、両親への手紙に書いたわけじゃない。

ただ、「ソルジャーになった」という報告のため、短い手紙と、そして。

自分とクラウドが映る、1枚の写真を同封したのだ。

それは、とくにどこかへ出かけたときの写真ではない。

部屋でクラウドにじゃれついているところを、知らぬうちにカンセルに撮られていた1枚。

その写真は、ザックス自身が驚くほど、とてもいい笑顔で笑う自分がいたから。

 

これを両親が見れば、きっと安心するだろうと、思った。

息子は元気でやっていると。年老いた両親に、もう心配はかけたくなかった。

(お袋…クラウドのこと、カノジョだと勘違いしたんだな。)

軍服を着ていなければ、クラウドはまさに絶世の美少女に見える。

短い金髪も、カジュアルなデニムスタイルも、それはボーイッシュな女の子のそれだ。

 

家出当然で、ミッドガルに出てきてから、始めて書いた両親への手紙。

きっと親は、とても喜んでくれたのだろう。

卸したての浴衣まで贈ってくれるなんて。

 

 

当然クラウドは、その浴衣を前に固まった。

「これ、俺が着るの…?」

そう口にしてから、何も喋らずに俯く。

いくら無知なクラウドだって、この浴衣が男用でないことぐらい、わかっているようだった。

だから当然、12発ぶん殴られて、この浴衣はタンスで永眠するかと思ったのに。

クラウドが放ったのは、意外な一言だった。

「――1回、だけなら。………いいけど。」

 

 

 

 


 

そうして、奇跡は起きた。これを奇跡と言わず、なんと言おうか?

クラウドが、ザックスとまるで揃いの(柄は違うけど)浴衣を着て、

こうしてミッドガル1の夏祭りへと出かけてくれのだ。

…きっと、クラウドは。ザックスの両親のことを想って、着てくれたのだ。

せっかくの厚意を、無下にしたくないと――素直じゃない彼は、決して口には出さないけれど。

 

(優しい、な。)

本当は、とても優しい。

彼と同室になってから、2年目の夏。

「冷たい」とか「人に興味がない」だとか。そんな風に誤解されやすい彼の性格だけど、ザックスは知っている。

(だって、ずっと…見てきたんだから。)

一瞬だって目を離さずに――いや、離せずに。

 

祭りの笛が鳴り響く中、触れ合うか触れ合わないかの、距離で歩く。

歩くたびに、二人の浴衣の袖と、腕がかすめて。

そのたびに、心臓が高鳴る。

 

 

――手を繋ぐなら、今しかない。

 

 

「ザックス、あれ食べたい。」

「え?!あ、ハイ!了解です!」

伸ばしかけた手を慌てて引っ込めて。代わりに財布を出す。

浴衣を着てもらったお礼に、今日は何でも買ってあげる約束なのだ。

出店をゆっくりと見て回りながら、クラウドが食べたいというものを片っ端から買ってやる。

 

何を食べても、クラウドは絵になる。

イカ焼きだってたこ焼きだって、彼に食べられるなら本望だろう。

唇の端に醤油をつけて、それを舐める仕草は無駄に色っぽい。

それに、何より。

「ザックス。りんご飴、食べたい。」

(待ってました!!)

 

クラウドほど、りんご飴の似合う子がいるだろうか?

真っ赤なりんご飴を舐めるクラウドを、通りすがる老若男女全ての者が、思わず見とれる。

(かっわいい…!)

この可愛い子を、自分が今、独占しているのだと思うと幸せすぎて。

顔の緩みが、治まらない。

先ほど射的で、クラウドがゲットしたチョコボを、ぎゅうぎゅうと抱き締めながら、クラウドの後を付いていく。

長身のソルジャーたる男が、ぬいぐるみ抱えてニヤつく様子は、もはや夏のホラーかもしれないけれど。

 

 

 

 


 

 

 

ヒュルルル、ドーン!!

 

 

突然、花火が爆音とともに上がる。

クラウドは、それに目を奪われて、前を歩いていた見知らぬ男とぶつかった。

相手の男は一瞬不機嫌な顔をしたが、金髪の美少女(男だけど)を認識すると、顔を赤く染める。

クラウドは、ぶつかったことにも気付いていないのか――

花火が上がる、夜の空を眺めたまま。

慌ててザックスがクラウドを抱き寄せ、その通りすがりの男に視線をやる。

無言の牽制に気付いたのか、そしてその青の瞳からザックスの生業に気付いたのか、

男は逃げるように去っていく。

 

 

 

(…そういえば。)

 

 

 

前にも、同じようなことが、あった気がする。

いつだっただろう。あれは、ちょうど1年前だったか――

 

 

「ねえ、覚えてる?」

 

 

クラウドが、花火を見上げたまま、そう小さな声で言う。

人込みの中で、消えてしまいそうな声だったけれど、それはザックスの耳へ確かに届いた。

「…うん、覚えてる。」

突然の言葉だったけど、クラウドの言わんとしていることがわかっていたから。

ザックスは、迷いなく頷く。

それはきっと、1年前の夏祭りのことだ。忘れるわけがなかった。

だって、

 

 

 

「初めて―――手を、繋いだよね。ここで。」

 

 

 

クラウドの視線が、気付けば自分を捕らえていて。

打ちあがる花火の煌きが、クラウドの金髪や白い肌を照らして、キラキラと光る。

そして、その光の雫を全て集めたような、クラウドの瞳。

暗闇の中でも、なお煌くそれは…まるで世界中の美しいもの、全てを集めたような、そんな――

湧き上がる想いを抑えきれずに、思わず、彼を抱き締めた。

 

「…本当はずっと。こんな風に、したかった。」

本当は、1年前のあのときだって。

あの頃からずっと、自分が望む相手は、ただ一人だけだ。

 

 

 

 

1年前から、夏は終わらない。ずっと、この子だけを見ていた。

 

 

 

 

「………チョコボが、可哀想。」

「え?…あ!ごめん!」

クラウドにぼそりと言われ、自分の足元に転がっているチョコボのぬいぐるみが目に入る。

「クラウドから貰ったのに!ごめん!」

慌ててそれを拾い上げて、砂を払う。そうして、またチョコボ君を大事に抱えて。

 

(なんか俺って、すっげーマヌケ…かも。)

さっきまでのムードは、どこへやら。

なんだか、自分が外してしまった気がして。

気恥ずかしくて、気まずくて、情けなくて。クラウドの方に、視線をやれない。

 

 

 

そのとき。手が、触れた。

 

 

 

「イヤだって言っても、放さないって………言ったくせに。」

少し冷たくて気持ちいい、クラウドの右手が――自分の左手を優しく包み込む。

遠慮がちな、その手の力は、とても彼らしくて。

言葉に、ならなかった。

こんなに優しい気持ち、彼に出会うまで、絶対に知らなかった。

(なんて、いうんだろう?)

 

 

 

こういうの、恋とか愛って呼ぶのだろうか。それとも幸せって呼ぶのだろうか。

 

 

 

(…きっと、全部だ。)

1年前と同じようで、でも確実に何かが違う、二人の関係――

嫌われるのが恐くて、怯えてばかりでは、もうない。

だから。

クラウドの何倍もの力で、彼の手を握り締めると、彼の手にも力が篭もる。

その手の力が、たまらなく嬉しい。

勇気を出して、クラウドを見下ろすと。彼はいつかの自分と同じように、泣きそうな顔で笑った。

いや、結局我慢できず――彼は泣いていた。

 

 

…クラウドには、内緒だけれど。

本当は自分の方が、大声で泣き叫んでしまいたかった。

愛しくて、愛しくて、ただただ愛しくて。

 

 

 

「キミを愛しています」と、世界中に泣き叫びたかった。

 

 

 

 

この手を、離さない。

僕の半身を、手放してしまう気がするから。

 

 

 

 

NOVEL top

C-brandMOCOCO いただいた拍手に、心からの感謝を込めて。(2009921 初出)

 

 

 

 

 


 

 

inserted by FC2 system