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※ 露骨な性的描写あり。18歳以上の方の閲覧推奨。

 

――ただのもしも≠フ話だから。

ありえないって、笑うなよ。                  (side Kancel)

 

 

 

人のセックスシーンを生で見たのは、初めてだった。

 

 

ザックスに夕飯に誘われて、あいつの部屋に行ったら。

玄関のドアの隙間に、黒の革靴が少し挟まっていて――オートロックがかかっていない。

…なんて無用心な。

ソルジャーの部屋に強盗に入るツワモノ(むしろ愚か者)なんていないだろうが、

それにしたって今は、クラウドだって一緒に住んでいるんだ。

何かあってからじゃ、遅いだろうに。

大きくため息をついて、そのドアを開けると、微かな声が耳に入ってくる。

「ざっく……ふ…あ…っ」

それはあまりに悩ましい声で。俺は思わず、気配を消して部屋に入ってしまった。

 

………思ったとおり。

そこで、事は始まっていた。

 

ザックスのやつ…どれだけ抑えが聞かないのか。

ただっ広いリビングの真ん中にある、小さめのガラステーブル。

クラウドをそのテーブルの上に押し倒して、覆いかぶさっている。

金髪の彼は、泣き声ともとれる、可愛い声をあげていた。そしてこれまた、可愛くザックスに抗議する。

 

「や…ザックス、カンセルさん、もう、くるから…!だ、め」

「まだ絶対こないって…あいつ、出かける前に便所行きたくなるんだよ。だからへーき!」

適当なこと言いやがって!

任務前に緊張して、よく腹が痛くなってたのは、一般兵時代の話だっての!

 

「あ、あ、や…っ!せめて、つけて、よ…!」

「生のが気持ちいい。ほら、もう入っちゃったし…。な?クラも気持ちいい?」

「バカ…!バカぁ…ッ!」

「ここだっけ?いいとこ。それともこっち?」

「ひゃぁん!や!やあ!」

「クラ…!やばい…そんな、ぎゅうぎゅう締めつけんなって…!」

「いやいや!そこ当たって…!そこは嫌なの!」

「ここがいいんだよな?はあ、なにこれ…マジでいいんだけど…!は、クラ、クラ…!」

 

この位置からだと、ザックスの背中が邪魔して。

二人とも着衣のまま重なっていたし、クラウドにいたってはザックスの背中にしがみつく小さな手と、

抱えられている艶かしい脚しか見えない。

だけど、我慢できずにときおりあがるクラウドの声に、俺も少なからず興奮を覚えた。

 

「ざっく…!もう、無理…!死んじゃ…!」

「すげえ可愛い!中、出すぞ…?!」

「え…?中はだめ!だって、これから…カンセルさん、」

「ごめん、クラの中に出したい。出す!」

「だ、め…!……っ!!!!」

 

どうやら同時に達したらしい二人は、しばらく固まって動かなかった。

強く抱きしめあったまま、震えている。

おそらくクラウドの中でまだ、ザックスの長い射精が続いているんだろう。

…どれぐらい、そうしていたか。

ずいぶんと、余韻にひたっているようだった。

最初に動いたのは、ザックス。

「あー死ぬほど気持ちよかった!クラ、抜くぞ?」

「ひあ!」

ゆっくりとそれを抜いたザックスは、クラウドを抱き起こす。

 

「こんな硬いとこで抱いて、ごめんな?背中痛くない?」

「…はあ、はあ…ザックス、の…馬鹿…!急に襲いかかってきて…!最低だ!」

「う、ほんとごめん…!なんか急にムラムラしちまって。ずっとしてなかったじゃん。だから…」

「だからって!これからカンセルさん来るのに!中に出して、どうすんだよバカ!しかもこんなに…!」

「俺もびっくりな量、出た。溢れちまってんな…。俺がすぐかきだしてやるから。ほら、お尻かして!」

「いい!触んな!」

「もう変なことしないって。ほら、痛くない?」

ザックスがクラウドの中に指を差し入れ、自分の出したものを丁寧に掻き出す。

「や、やあ!!んー!」

「そんな色っぽい声出すなよ…。また俺のが、反応するだろ。」

「ふざけんな!あ、あ…!」

「わかったわかった、夜まで我慢するって。ほら、全部終わったから。早くその可愛いお尻隠して?

また食べたくなっちまう。」

 

ザックス…おまえ、とんでもない変態だろ。

いつもこんな風に、ところかまわず盛ってんのか?

ベッドでならともかく、ガラスのテーブルなんて、組み敷かれる方は痛いに決まってんだろうが。

…いや待て!

最後まで覗いてしまった俺も、充分に変態だろうか。

俺はわりと淡白な方で、今は彼女いないけど欲求不満なわけではない。

白状すれば、イク瞬間のクラウドの顔が見えて、少し興奮してしまったけれど。

それもザックスの見たくもないケツやらアレがちらついて、すっかり萎えた。

ここで隠れるのも情けない気がして、クラウドが全部服を直したところで、声をかける。

 

「…あの、もしもし。」

「ぎゃあ!!!!」

ザックスの悲鳴が響く。当然だが、かなりの動揺っぷりだ。

「カンセル!!いつからそこに?!」

だいぶ前から、いましたが…。

普段、任務では他人の気配に聡いこの男が、なんでエッチのときは鈍いんだ?

「えーと、今。今さっき…きたとこ。夕飯、できてんの?」

何でもないように言うと、クラウドは顔を真っ赤にしながらも、ほっとしたように頷く。

「カンセルさん、今用意するから。ちょっと待ってて。」

耳まで真っ赤だ。いや、首筋までピンクに染まっている。

可愛いな…相変わらず。

 

 

 


 

「……あんま見てないから、安心しろよ。」

クラウドは、おそらく洗面所に着替えにいったのだろう。

ザックスが一人になったところで、意地悪く言ってやる。

「やっぱ見たんだな!カンセル!」

ザックスが悔しそうな顔をする。

「くっそ、クラウドの裸見たのか?可愛い声、聞いちゃったか?!」

おい、ザックス…そこを気にすんのか。この男の辞書に、恥じらいという言葉はないのか?

残念ながらクラウドの体は、ザックスに隠れてほとんど見えなかった。

行為中ずっと、ザックスのケツばっかり見えて、げんなりだった。

 

「オマエ、いつもあんな風に盛ってんのか?」

「……いつもじゃない、けど。ときどき。いやいつも、かも…」

いつも=H

「おまえさ、わかってると思うけど。クラウドはそういう性的なことに対しては、さ…」

クラウドは過去にいろいろあった。

ねじ伏せられ、望まないセックスを何度も強要されてきたのだ。

だからその心の傷を、もっと労わるべきじゃないのか。

「…わかってるよ。だからいつも我慢しようとはしてんだけど…。

結局我慢できなくて、さっきみたく暴走しちまう。なんで俺ってさ、こんな性欲強いんだろ。」

ばかみたいな悩みだが、ザックスにとっては深刻らしい。

そういえば、前にも同じようなことを言っていた。

何でも、教会でなかば強引に、クラウドを抱いてしまったとか。

 

「ちゃんと、自己処理してんのかよ。」

「それなりに…でもさAV見ても、もう全然だめなんだよね。AV女優の子をクラウドに置き換えて、

こんなプレイあいつとしたいな〜とか…考えてるだけで。余計、クラウドとエッチしたくなる。」

惚気か?いや、こいつなりに悩んでるんだろうけど。

「かといってさ、浮気なんかしたくないし。それにたぶん、他の女の子じゃもう勃たないと思う。

クラウドほど可愛い子なんて、この世にいないじゃん?それにあんな体もいいし…」

「うるせえ黙れ。」

やっぱり、ただの惚気になっている。

 

「いやだってさ?あいつほんとにすげえんだよ。見た目がきれいなのは当たり前だけど、

ヤってるときの反応とか死ぬほど可愛いし…ちょっと突いただけで、すげえ感じてくれてさ。

その顔がまた、涎が出るぐらい色っぽいしさ。声もなんで、あんなに可愛いんだろうな?ほんとに男?

しかもあの、中。すげえきつくて絡みついてきて、挿れただけでいっちまいそうになるんだよ!

今まで女の子とヤって持っていかれそうになったことなんかないのに。なんであんな気持ちいいんだろ?

可愛くて、しかも名器なんて、どんだけ俺のクラウドは最高なんだ!!な?!そう思うよな?!」

――以下省略。

ザックスは、目をキラキラさせて、一気に惚気続ける。

何を思い出しているんだか(ひとつしかないけど)、これ以上ないほど嬉しそうに破顔させて。

ザックス…おまえ、かなりうざい。さっきまでの悩みは、どこにいったよ。

 

「なに?どうしたの?」

部屋から出てきたクラウドに、はっとする。

やはり彼は、着替えてきたらしい。

淡いピンクと黒のボーダー柄のゆったりしたニットに、黒のスキニージーンズをはく彼は、

文句のつけどころがなく可愛い。

ザックスは急に男らしい、落ち着いた態度になって、クラウドの髪をなでる。

「いや、なんでも。んじゃ、晩メシ盛り付けよっか。」

お互い、先ほどの行為の余韻か…照れくさそうに見つめあって。

…なんだこの、いまだピンク色の空気は!

二人の視線が絡み合って、外野の俺の立場がない。

 

 

 

 

ザックスはやはり、変態で、色魔で、煩悩の固まりみたいなやつだ。

でも。

どうしようもないやつ、だけど。

 

――本音を言えば。

 

昔のあいつより、そんな「どーしようもないザックス」の方が、いいかもって思う。

クラウドと出会う前のザックスは、ここらでは有名な、いわゆる「遊び人」だった。

付き合う女の子をどんどん変えて。9股までしたって噂も、あれ、本当だったよな?

いつも明るくて懐っこい、けどその分…薄情だった。

 

誰にも依存しない分、簡単に人を受け入れて。

誰にも執着しない分、笑顔で人を捨てた。

 

でも今のザックスは、もうクラウドがいなくちゃ生きていけません、って顔してる。

それでこんなに愛されちゃってる彼は、少し大変かもしれないけど。

 

 

 

3人で、夕飯の並んだテーブルにつく。

ザックスはせっせと、大皿で作ったラザニアを、クラウドに盛り分けている。

一方、クラウドは俺に、同じように盛ってくれた。

それを見てザックスは、いかにもおもしろくないって顔。わかりやすいくらい、眉を下げている。

思わず俺が笑うと、クラウドの盛ってくれた俺の皿を、ザックスが奪いやがった。

「これは俺がもらい!カンセルには俺が盛ってやるから諦めな!」

子供っぽいことをするザックスに、俺もクラウドも呆れ気味。

 

…オマエ、本当に変わったな?

余裕で女を捨ててきた「かっこいいザックス」はどこへいったのやら。

――だけど、こっちの方が。だんぜん、いいよ。

余裕ないかっこ悪いおまえを、クラウドが選んだのも…ちょっとはわかる。

クラウドも「ばかザックス」とか言いながら、悪くないって顔をしている。

呆れたようにため息をついても、ザックスを見つめる彼の眼差しは、とても優しい。

 

 

 

人のセックスシーンを生で見たのは、生まれて初めてだったけど。

あんなに真っ直ぐに人を愛する行為を見るのも、また、初めてだった。

 

 

 


 

ザックスの才能に、俺はずっと、惚れていた――と言っていい。

同じ時期に入隊して、戦闘のタイプも違うし性格も違う。

力押しで前線を行くあいつに対して、俺は作戦を練って計画的に進めるタイプだ。

ソルジャーになったのはほぼ同じ時期だったけど、その後の昇進のスピードは大きく違った。

ザックスはあっという間に評価され、今は1ST

今、最も英雄に近いソルジャーだろう。

それに比べ俺は2ND止まりだし、おそらく1STになることもない。

STになりたい、という野心もない――

人には向き、不向きがあって、俺にその才覚はないとわかっているから。

 

別に俺は、自分を過小評価もしないし、卑屈なわけでもない。

世界を掌握する巨大組織『神羅』に属する、ソルジャーになれたということへの、自負もある。

一応それなりにはもてるし、ザックスのような危険な魅力(と女の子が噂をしてた)はないにしろ、

「結婚するなら」って意味で少し総務課で人気があるのも知っている。

けど、それ以上でもそれ以下でもない。

――クラウドにふさわしいのは、一握りのトクベツなもの。

それは真面目だけが取り柄のような俺ではなくて、ザックスのような選ばれた男だ。

 

 

 

 

その夜、クラウドに泊まっていくよう勧められた。

その後ろで、ザックスは悲壮な顔をしていたけど。

ちょっとむかついたんで、遠慮なく泊まることにした。

少しは、「我慢」を覚えるべきだ。

……だけど案の定。

 

夜中に、隣の寝室から声が聞こえてきて。

やっぱり、ザックスの抑えがきかなかったと知る。

べッドのスプリングが悲鳴をあげる音――どんだけ激しく抱いてんだよ。

抑えきれないクラウドの可愛い喘ぎ声に、ザックスの低く小さな声。

ソルジャーの耳だから、わかる。

「クラ、ほら、ここ好き?こうやって突かれたい?」

この変態が!

厭らしい言葉を囁かれ、クラウドが泣きはじめる。

「いやあ!そんな…ふうに、しちゃ…やぁ…ッ!」

見てるわけじゃないけど、音だけでもかなり激しいってのはわかる。

ベッドがきしむ音だけじゃない、肌がぶつかる音もソルジャーの聴覚にはわかるから。

 

 

 

――前にクラウドのビデオを見たとき。

とんでもない淫乱だと思って、軽蔑した。

そのときは本当に一瞬しか見なかったし、彼の噂はさんざん聞いていたから。

だからその綺麗な顔と体を使って、ザックスみたいな単純なやつを誘惑するつもりだと思っていた。

…そして出世か、保身に利用するつもりだと。

他人がどう生きようと関心はないが、ザックスを巻き込むのは許せないと思った。

ザックスはあっという間にはまったようだし、クラウドをひっぱたいてでも、

ザックスから離れさせようと決意していた。

 

でもその後、クラウドと実際に会って、そんなことができる子じゃないと確信した。

――触れたら壊れてしまいそうな、繊細で綺麗な心。

そしてそれは、間違いじゃなかった。

実際、さっき夕飯前にザックスに抱かれているときでさえ、とても彼は清らかに見えた。

ザックスの情欲に戸惑い、快感に羞恥しているような初心な反応。

可愛い顔で泣きながら、必死にザックスにしがみついていた。

彼は何度、男たちに汚されようと、綺麗なままなのだ。

 

そんなクラウドに、欲情が絶えないのはわかるけど。

でもいい加減にしろ、とザックスに言いたくなる。

なかなか、行為は終わらない。

もうやめてと何度もクラウドは叫んでいるのに、ザックスはやめる気配はない。

そういえば、昨日までザックスは3週間の遠征に行っていたんだっけ。

それで久しぶりに燃えちまってんのか。

でもだからって、クラウドの体が心配だし、そもそも俺も一睡もできやしない。

結局行為が終わったのはもう朝方で、そのまま3人とも、昼近くまで眠っていた。

 

 

…翌朝。早朝からミッションが入っていた俺は、初めての無断遅刻にザックスを呪った。

そして隣で俺と怒られている、可愛そうな一般兵。

――そう、クラウドも今日は同じミッションだったのだ。

 

 

 


 

二人遅刻の罰で、カームに近い山の中で偵察活動を半日やらされた。

なんでもウータイの残党がいたとかいないとかって、そんないい加減な情報で。

待機ポイントで二人寝そべる体制で、視野内をひたすら見張る。

季節は1月、雪まで降り出すはで、本当たまらない。

隣で望遠鏡を覗くクラウドに、上着をかけてやる。

「え、これ」

「貸してやる。寒いだろ?」

「いえ、俺よりカンセルさんの方が、」

「ソルジャーは普通の体じゃないから、これぐらい平気なの。いいから、はおってろ。」

たしかに少しは寒いが、一般兵はもっと寒くて大変なはずだ。

クラウドの唇は真っ青だし、小さく震えている。

「ありがとう…ザックスみたい。」

頬を少し染めてクラウドは、そう言う。きっと今頃、部屋で優雅に眠りこけているだろう恋人を、思い出して。

 

ザックスは人一倍気のきくヤツで、クラウドに何かと世話を焼いてやるのが好きらしい。

過保護といってもいいほどに、クラウドにつくすのがザックスのスタイルだ。

きっと今まで、女の子に尽くされることに慣れていただろうだけに、そのギャップは見ていてかなり面白い。

だけど、ザックスじゃなくても。

クラウドに優しくしてやりたいやつは、いっぱいいる。

一度会った、タークスの赤毛のやつだって、きっと想いは同じだ。

皆が、この少年を甘やかしたくて、守ってやりたくて。

たとえ「恋人」でなくても――それぞれの立場で、できることを考えている。

 

「ザックス、ねえ……。あのさ、クラウド。すげえ余計なことかもしれないけど、さ。

ザックス、なんつーかその、ときどき強引なとこあるだろ?」

「強引?」

「ん、だから、すぐしたがったり…」

顔を一気に赤くするクラウド。本当に初心な反応だ。

なんだかそんな話題を出してしまうことが、申し訳なく感じるほど。

この子は、清廉としか言いようがない。

「オマエとあいつは、体力も違うんだから。嫌ならはっきり言ったほうがいい。

ちゃんと言えば、たぶんあいつは言うこと聞くよ。」

無理やりクラウドを犯すなんてこと、もうあいつには出来ないだろうから。

……仮にしたら、半殺しにしてやる。

 

「…もしかして…昨日、知ってた?」

そりゃあんな声に音に、ソルジャーの自分が気付かないわけがない。

「ちょっと、だけ。」

そう俺が控えめに答えると、クラウドは泣きそうな顔になり、顔をふせてしまった。

なので、俺が変わりに望遠鏡を覗く。

「カンセルさん…俺のこと、汚いって、思う…?」

「え?」

意外な言葉に、思わず聞き返す。

汚いって、なんで?

 

「だって、俺、今までそういうこと、ザックス以外としてきて…。結局ザックスとも、してるし…」

「そんなの、全部オマエのせいじゃないだろ。」

「……。でも。俺が誘ったんだって、みんな言ってたし。村長だって。」

「クラウド。」

俺は、望遠鏡を放り投げた。

別にたいした任務じゃない、ただの罰ゲームみたいなもんだ。

そんなことより。

 

「そんなわけないだろ。みんなオマエにひどいことした言い訳で、おまえのせいにしただけだ。

ザックスもそう言ったのか?」

クラウドは首をふる。

「言ってないけど…。ザックス、ときどきすごく、その、したくなるみたいで。

俺が無意識に誘ってるのかなって…」

「それはあいつが、節操なしだからだろ!!」

思わず、でかい声で言ってしまった。

 

「おまえが、すごく好きなんだと。心も体も。他の女じゃ、勃ちもしないらしい。」

クラウドは顔を手で覆って、羞恥で耐えられないという仕草をする。

ザックスが、溺れるのもわかる。

一つ一つの何気ない仕草まで、本当に可愛いから。

「好きだからってのは、セックスの言い訳にも聞こえるけど。あいつがオマエに溺れてんのは事実だし。」

「…溺れてるのは…俺のほう、だよ…。」

小さな声で、真っ赤になりながら言う彼を見て。ザックスに少し妬けてしまうのは、仕方が無い。

クラウドにそこまで言わせるザックスが、やっぱり羨ましい。

 

「俺も、さ」

「え?」

「――たぶん、おまえに溺れてる。」

 

クラウドの大きな大きな瞳と、目が合う。まるで宝石みたいに、希少な輝きを持つ、その瞳。

こんな風に近くで顔を覗くのは、初めてだったかもしれない。

「でも、抱きたいわけじゃない。そういうんじゃなくって。…ただお前達の味方でいたい。」

言うつもりなんかなかったのに、つい言ってしまった。

こんなに近くにいる彼に、奇跡を感じて。

 

「…そういうの、オマエからしたら。やっぱり、信じられないかもしれないけど。」

 

信じろと言われた相手に、今までどれだけ裏切られてきたのだろう。

どれだけ体を、心を傷つけられてきたのだろう。

そう思うと自分のこの想いも、クラウドにとっては信じるに値しない、ひどく陳腐なもののような気がする。

どうしようもなく虚しくて、クラウドの顔を直視できなかった。

また望遠鏡を拾って、誰もいやしない、遠くを見る。

 

 

「……信じてる。」

クラウドのとても柔らかい、澄んだ声が、耳に入ってきて。

思わず、彼の方を振り返る。

するともう一度――彼はゆっくりと、言葉を紡いだ。

 

 

 

「信じてる。」

 

 

 

少しの疑いもない、詐称もない、その真っ直ぐな言葉。

真っ直ぐな、瞳。

耳に鈍く光る狼のピアスが、まるで彼の魂そのものだと思った。

 

 

――高貴な、魂。

 

 

いつだったか、白の狼≠ェそれを意味するのだというニブルの説話を、ザックスに教えたのは俺だった。

まるで、ばかのひとつ覚えみたいに。

その白銀の狼を形どったピアスを、案の定クラウドに贈ったザックス。

そうしたかった、あいつの気持ちが…今はすごくわかる。

どれだけ踏みにじられたって、クラウドが信じることをやめないのは。

弱いからじゃない、愚かだからじゃない。

その魂が、あまりに美しいから。

 

 

そう――間違いなく俺は、この子に溺れている。

 

 

俺はザックスじゃないから、クラウドを抱くこともできないし、一緒に生きていくこともできないけれど。

選ばれなくっても、いい。

平凡な俺に、彼はふさわしくないって知ってるから。

きっと俺は、これから控えめな女の子とそれなりに恋をして、結婚をして。

前線で戦うのはあんまり向いていないから、兵士の育成か情報管理あたりに異動して、

平凡な人生を送るんだと思う。

それが、幸せだとも思うし、ささやかな目標でもある。

 

 

けど、もしも。――もしもだけど。

もし彼らが俺の力を必要とするときがあったら、俺は迷わずその平凡という幸せを捨てるだろう。

 

 

ザックスの才能。

クラウドの心。

―――彼ら「二人」に、どうしようもなく、惚れているから。

 

 

 

 

 

――なあ、ザックス。

もしも≠ネんて…バカみたいだけど、さ。

全世界を敵に回すようなことがあっても。

大丈夫、俺はオマエたちの味方だよ。

神羅だって、裏切れる。

……真面目だけが取り柄みたいな、この俺が、だぞ?

 

 

それが平凡な俺の人生における、

唯一、非凡な決意。

 

 

 

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