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※ 暴力的な表現を含みます。オリキャラ「フリード」視点。

書きたいどこだけ書いていますので、本編を読んでいないとよくわからないことになってます…

  フリードの救いがないという意味で、ある意味とても重いです。ご注意ください。 

 

例えば、生まれ変わったなら。                     (side Fried)  

後編

 

 

白い天井、白いライト、白い医療服を着た女達――それに、よく知る消毒液の臭い。

 

目が覚めたのは、軍の病院のベッドの上だった。

安っぽいスプリングをきしませて、起き上がろうとすれば右腕に繋がれたままの点滴のチューブが目に入った。

そのまま視線を横にやれば、必然的に隣のベッドの光景が目に入る。

 

ピ、ピ、ピ…

 

「ザックス……」

6つベッドが並ぶ大部屋の窓際、俺の隣のベッドではソルジャー「ザックス」が治療を受けている。

体の半分以上が包帯で巻かれているが、おそらくは生きているようだ。

生体情報モニターが規則的な電子音を立てているし、男の正常な呼吸が聞こえてくる。

まだ覚醒しきらない意識の中で、それを視界の隅でとらえながら舌打ちした。

 

「…しぶとく、生きのびた、か…」

この男が生きていることが、残念でならない。

こいつが死ねば、あいつは。「クラウド」はきっと、泣くに違いないのに――

(そういえば、クラウドは。クラウドはどこだ?)

並ぶベッドは全て負傷者で埋まっていたが、あの金髪はいない。

俺が意識を失ったとき、兵士の数人はすでに息絶えていた。もしやクラウドは、

 

「おっ、フリード。調子はどうだ?お互いしぶとく生き延びたな!」

どうやら意識があったらしいその男は、俺に気付くとそう声をかけてくる。

全身包帯だらけで、まるでミイラのような状態であるにも関わらず、少しの疲弊も感じられない。

ソルジャー2NDのザックスと俺は、とりわけ親しい仲じゃない。

任務で一緒になったことが数回あって、飲み会で二度ほど顔を合わせたことがあるぐらいだ。

かといって、決して険悪なわけでもなかった。

誰とでも親しく打ち解けるのは、俺の長所でもあるけれど、それ以上にこの男の長所らしかった。

 

「ちょっとザックスさん!大人しく治療を受けてください!」

白衣を着た医局の女が、ザックスにそう声を荒げるが、男はベッドから飛び降りて衣服を身に着ける。

「いや俺、もう大丈夫だから。それよりあいつのことが気になるし、俺いくわ!」

「こ、困ります!ちょっと!」

数人の男性医局員が男を抑えようとするが、それらを素早くかわし、ザックスは廊下へと飛び出した。

 

ザックスが口にした「あいつ」とは、クラウドことだろう。

クラウドが今どんな状態にあるのか、気にならないわけじゃない。

(でも、大丈夫だ。…大丈夫。)

そう、間違いなく、クラウドが敵兵に処刑されることはない。それだけはわかる。

あれほど美しい生き物を殺すなんて、そんなもったいないことを出来るわけがないのだから。

 

 

 

 

 

 

それから間もなくのことだ。

医局の喫煙ブースでタバコを吸っていると、廊下が突如騒がしくなった。

ガラガラとストレッチャーが音を立てている。運ばれているやつは――

 

シーツに散らばる金の髪が見えた。

 

「クラウド!!」

瞬間、足が勝手に動いていた。擦っていた煙草は、どこに?

もしかするとソファか床に落としたのかもしれないが、そんなことは気にも止めなかった。

「クラウド!クラウド!!」

青白く、もはや少しの血の気も感じられないクラウドの顔色。

外傷はほとんどないから余計に、まるで美しすぎる楼人形のようで恐くなった。

もう、目を開けてくれないかと。そう思えたから。

 

動揺しながらカートを追いかけ続ける俺に、看護師の男が声をかけてくる。

「君は彼の友人か?」

「そ、そうだ!クラウドはどうなんだ?い、きて、生きているのか…?!」

声が震える。『生死を問う』なんて、言葉にすること自体が言いようのない恐怖だった。

「安心しなさい、すでに毒は吐かせてある。脱水症状なだけだよ。」

 

 

 

毒?

クラウドが、毒を飲んだ?毒を飲んで死のうとした――

 

 

 

兵士は、難易度のとりわけ高い任務のときに限るが、捕虜になった場合の対処として

毒を所持することがある。

秘密保持のために、そして人間としての尊厳を守るために、自ら死を選べるようになっているのだ。

今回クラウドは敵兵に性的虐待を受け、死を望んだ。

 

(死?)

 

クラウドが死ぬ。それはもう二度と動かないし、泣かないし、笑わないということ。

死ねばその体は燃やされ骨と灰になり、あの美しい色も形も何も残さずに無になるのだ。

(触れない、嗅げない、抱けない、)

今死ななくとも、人はいつか死ぬ。

戦争で命を落とすか、不運な事故に遭うか、自ら死を迎えるのか、寿命をまっとうするか…

終わりの方法はわからずとも、それでも人は、必ず死ぬのだ。

 

 

 

(触りたい、嗅ぎたい……抱きたい。)

 

 

 

元よりもう、失うものなど何もない。クラウドは、友人なんかじゃないし恋人でもない。

限りある人生、欲しいものは手にいれなくては。

心が手に入らないならば、あとはもう、奪えるものはひとつだけ――…

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「おまえの恥ずかしい姿を見られたくなければ。」

 

以前クラウドを仲間と一緒に犯したときに撮影した、数本のビデオテープ。

それを脅しのネタにして、再びクラウドを呼び出したのはそれから半年も経たない秋の頃だった。

ビデオの映像をクラウドに見せれば、彼はこの世の最も汚いものを見るような表情で、

こみあげる吐き気に耐えるかのように口元を覆い震えていた。

(こんなに、可愛いのに。)

そう、クラウドは可愛い。

映像の中で泣き叫び、その小さな尻に男の凶器をぶちこまれて、叩くように揺すられながらも

必死で俺の名を呼び助けを乞うクラウド――その姿は、可憐としかいいようがない。

いつかの飲み会で、「ザックス」の名を呼んで微笑んでいたクラウドよりも、よっぽど。

 

「……悪趣味…。」

そうクラウドが口にする言葉どおり、たしかにいい趣味ではないかもしれない。

でも、誰のせいだと思っている。お前が俺を狂わせたくせに――そのくせに。

「この映像を、お前の母親に送りつけてやろうか?それとも、ザックスにプレゼントするか?

夜のいいオカズになるぜ。」

 

 

 

そうしてクラウドを、再びレイプした。

初めて犯したときと、彼は何も変わらない――綺麗な体、だった。

けれど、その体は変わらなくても、変わったものもある。

「ザックス、ザックス…!」

体を暴かれながら、クラウドはそれだけを口にした。まるでその言葉しか知らないように、何度も。

痛いとか助けてとか、友達じゃなかったのかとか。俺に対するそんな批難も罵倒も嘆きもない。

俺の名を呼ばない。そういえば飲み会で再会したときも、クラウドは俺の名を呼ばなかった。

口にするのは繰り返し、ザックスの名だけ、

(畜生、)

もしも一言でも、クラウドが俺の名を呼ぶというなら、少しは優しくしてやったかもしれないのに。

(畜生!)

少しは愛してやってもいいのに。

 

 

 

 

 

愛して、やれたのに。

 

 

 

 

 

汚されたその体を引きずるように、散らばる衣服をかき集めるクラウドを見て。

たとえばもし恋人だったなら、その腰に腕を回して支えてやれるのだろうかと、ありえないことを考えた。

触れた瞬間、腕を振り払われるに決まっている。

だから、拳を握りしめることしか出来なかった。

 

でも―――ひとつ、くらい。たとえば、上着をかけてやるぐらいなら、

 

酷くしてやりたいと思うのに、優しくしてやりたいとも思う。

いたぶって泣かせるのが楽しいのに、でも、その涙を拭えたらどんなにいいかと考える。

自分の心の温度がわからない。

酷く冷たいものと、温かいもの…それが複雑に入り混じって、その感情は酷く曖昧なものになっていく。

 

「もしもし、ザックス…?」

 

人肌のように温くなっていたはずの何かが、瞬間氷のように冷えていくのがわかる。

クラウドが携帯電話の相手―――ザックスと、言葉を交わしているのが聞こえてきたから。

「…明日じゃ、だめかな?」

ザックスは今から会えないかと、そうクラウドを誘っているのだ。

「でも…うん、わかった。今からザックスのところにいくから。待ってて。」

 

俺に抱かれたその体で、あいつに抱かれにいくのか。

俺の時とは違って、痛みや憎しみに顔を歪めるばかりではなく、自ら望んで足を開いて、

そして男の名を呼ぶ。それだけじゃない、あのクラウドが愛を囁く唯一の相手なのかもしれない。

許せるわけがなかった。体だけでなく、心までも奪おうとする男が。――ザックスが。

 

「…淫売が。また、あいつのを銜え込むのか?」

「ザックスはそんなんじゃない!」

そんなのって、なんだ?俺は『そんなの』だというのか。

クラウドにとってはとるに足らない、ただ報われない想いを寄せるだけの――

 

「お前に、それ以外の価値があんのか?」

酷い言葉だと思った。

でも、その言葉が必要だった。クラウドを繋ぎとめるために。違う。クラウドと、ともに堕ちていくために。

 

俺の願いどおり、その言葉で、何かが割れる音が聞こえた。

クラウドの心が、割れていく音、それが聞こえたんだ。

 

 

 

 

…手に入らないならば、粉々に砕いてしまえ、

 

 

 

 

俺が幸せになれないなら、お前も幸せになんかさせない。

俺が幸せにできないなら、俺と一緒に堕ちていけ。どこまでも、どこまでも、少しの光もない世界へ。

そうすればきっと、未来永劫二人ぼっちでいられる。

 

 

 

そんなのは幻想だって――たぶん、本当は、知ってたけれど。

 

 

 

 

 


 

 

死後の世界なんて、信じていない。

 

 

死んだら人の魂はどこにいく、とか。生まれ変わったらどうなる、とか。

そういう思想や宗教なぞ、俺は全く信じていない。

死ねば無≠ノなる、それだけ。

信じてなんかいないけれど――それでも「もしも」とありえない仮定論が頭をよぎるのは、何故だろう。

この人生に満足していないから?

…後悔、しているから?

 

 

 

 

 

「――残念だったなぁ、クラウド。ザックスは、知ってんだぜ?」

 

たぶんもう、引き返せないところにきていた。どうしたってやり直しなどできない。

よろしくと言って握手を交わした、あの頃に戻る術など無い。絶対にないのだから、

「……え……?」

「てめえが腰を振ってるビデオ。ザックスにプレゼントしたよ。」

「う、そ…」

「てめえがどんだけ淫乱か知って、吃驚したんじゃねえの?いきなり俺に襲いかかってきやがったよ。」

「…うそ…でしょ…?」

「しかもその後も、そのビデオに写ってたやつを探してるとかって話でよ」

 

「そうそう、だから俺たちも、命の危機なのよ。」

「殺られる前に、殺らなきゃだし?」

「――ってことで、殺るのは明日だな。だからよ、あの倉庫に呼び出してよ、」

「いきなり頭に一発ぶちこめば、さすがのあいつもくたばるだろ。」

ザックスを殺す、それでクラウドの心が手に入るなどとは思っていない。

むしろ、きっとクラウドはこう言うはず――

 

 

「ザックスに手を出すな!」

 

 

クラウドの目が、彼を守るためならば命を賭しても構わないと言っている。

あれだけ体を暴いても、心を砕いても、この子の魂は汚せなかった。…だから。

 

 

終わりだと思った。たぶんとっくに潮時だったのだ。

 

 

「だったら、守ってみせろよ!おら!」

クラウドに向けたナイフの切っ先が、彼の細い首筋をかすめる。

クラウドを殺すつもりはなかった。

けれどいっそのこと殺して俺も死のうかと、それも悪くないかもしれないとそんな考えは存在していた。

でも、それ以上にたぶん…もっとシンプルな形で、終わりにしたかったのかもしれない。

 

「おい、フリード。なに一般兵相手に遊んでんだよ!」

周りでくだらない笑いと野次がとぶ。

「るせえ!てめえらは黙ってろ!」

決して力を抜いているわけではないのに、俺とクラウドと、互いの手で握られるその一本のナイフは、

双方から与えられる力によってガクガクと震えるだけだ。

 

いつから、ここまでの力を得たのだろう。

いつから、死んでも守りたいと思えるような愛し方を、この子は知っていたのだろう。

 

「しゃーねえなあ。俺たちが手伝ってやるよ!」

周りにいた『ナカマ』だったはずの誰かが、クラウドのひざ裏を蹴り倒した。

彼の細い膝ががくりと折れ、その衝撃で均衡はあっけなく崩れる。

そのまま彼を床へと抑え込むと、「やめろ、フリード!」クラウドがそう叫んだ。

俺の名前を、クラウドが、

 

 

 

 

ドン!

 

腹に、襲い掛かる衝撃。クラウドの大きな瞳が、零れ落ちそうなほどに見開かれる。

 

 

 

今までさんざん彼を虐げてきたけれど、一言だって詫びたことはない。

けれどこのとき初めて、謝らなければいけないと、そう思った。

今、この瞬間、一生消えない傷をつけたこと。彼の美しい心に、彼の美しくあるべき人生に。

クラウドの上に倒れこむと、彼はもう避けようとはせず、その小さな両腕で俺を抱き留める。

腹が熱い。赤く染まっていく視界に、数秒先の未来に、言いようのない恐怖が滲んでいく。

でも、そんなことよりも、今は。この時間が終わる前に言わねばならなかった。

 

 

「―――ごめん、」

かろうじて乾いた唇から零れていった言葉、それにクラウドはただ、頷いた。

 

 

たとえば、もしも生まれ変わったなら。

拳で殴りつけたりせずに、手のひらでそっと頭を撫でてやれるだろうか?

もしも≠ネんて、生まれ変わったら≠ネんて、愚かで意味のない空想だ。

でも、その「もしも」の世界が、どこかにあるかもしれないと。そう今だけは縋っていたかった。

それは脳が溶けるほどに、あまりに幸せな心地だったから。

 

 

…もしも 生まれ変わったなら  この子の 幸せを 祈り た    い

 

 

薄れていく意識の中で、そう、とりとめのないことを考えながら、

世界は静かに終わりを告げた。

 

 

 

 

――なあ、クラウド。

 

もしも生まれ変われるなら、またお前に出逢いたい。

 

家族でも、恋人でも、トモダチでも、

すれ違うだけの 虫でもいい。

 

それが叶わないなら

 

せめてこの生涯だけは

お前の手で終わりたい。

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2013.06.28

20HITありがとうございます。なんだろうこれ…殴ってください。

 

 

 

 


 

 

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