クラウドが、女の子になった。――言っておくけど、俺の勝手な妄想じゃない。
ことの始まりは、ルームメイトの叫び声だった。
「うわああああああああ!」
シャワールームから聞こえてきた尋常じゃない声に、何事かと駆け寄る。
てっきりあいつの苦手なゴキブリでも出たのかと思った。
正直、ゴキブリは俺も苦手だ。…だがここで逃げれば、男じゃない。
なんてったって、俺は年上でソルジャーなんだから!可愛い後輩を守るべし。
「クラウドどうした?!開けるぞ?!」
勢いよくシャワールームの扉を開ける。が、そこにいたのは、ゴキブリなどではない。
金髪の、色白の、細くてカワイイ…クラウ、いや違う!
「女の子???」
そう、そこにいたのは紛れもなく女の子。
だってその子が振り返ったとき、全てを見てしまったのだ。
白くて柔らかそうな胸(目分量でCカップとみた)、細くくびれたウエストにその下の…
金の薄い毛、それだけ――。そう、アレがついていないんです!
「ザックス…!」
涙目で抱きついてくるその子。あの、裸で抱きつかれたら男の理性が…。
ってそんな場合ではない。
「クラウド、だよな?おまえ、女の子だったのか?!」
顔はクラウドであって、体だけが女の子なのだ。そしてそれで全く違和感ナシ。
今まで半年以上同室だったのに、なんで気付かなかったんだ俺。
クラウドが女の子だったなんて!
「違う!!俺は男だ!」
その何度も聞いたセリフ。
クラウドは周りのやつらに女の子みたいだと言われては、そう噛み付いている。
…実際、クラウドは男らしい。
口より先に手が出るし、焼酎ロックが好きだし、射撃に関しては007かってぐらいの腕。
同僚に猥談やナンパに誘われても「興味ないね」と硬派な一言。まるで男の鏡だ。
但し――その、可愛すぎる外見をのぞいては。
実はクラウドとどっかの任務で初めて会ったとき、女の子と思いこんでいた。
女の子の兵士もいるんだな、こんな可愛い子に匍匐前進とか泥臭いことしてほしくないなあ…
などと深く考えずにいたが、同室になって初めて気付いた。
クラウドがトランクス一丁で、普通に歩いていたから。
風呂上りに片手は腰、牛乳をパックごと飲む男らしい(?)彼に、「なに?」と聞かれ。
まさか「あなた男だったんですね」とは言えなかった。
だが今なら言える。
「どこが男なんだよ。やっぱオマエ、女の子だったんじゃねーか!」
「違う!気付いたらこうなってなんだよ!科研から戻ってきたらこう」
「え、科研?」
クラウドがしまったという顔をする。…なるほど。
「オマエまた、危険なバイトしてんのか!あれほどもうしないって言ったじゃねーか!!」
科学研究部門の危険なバイト、それは神羅軍で開発された新薬の投薬実験だ。
まだ正式な認可が出ていないため、どんな副作用があるかわからず危険すぎる。
しかしそのリスクを考えてか、バイト代は格段良い。
この魅力的な報酬に、薄給で実家の母に仕送りをしているクラウドは惹かれるのだ。
「……だって。金が必要だったんだもん。」
『もん』ってなんだ、軍人とは思えぬ可愛さ。ってそんな場合ではない。
「金が必要なら俺に言えよ!おまえの母ちゃんだって、そんな危険な事してまで金送ってほしくないだろ!」
クラウドは泣きそうな顔になる。
やばい、女の子を泣かしてしまう!!…男だけど。いや今は女だ。混乱している。
「とりあえず、落ち着けよ。服着ろ、な?」
実際、落ち着いていないのは自分だ。
抱きついてくるクラウドの柔らかい胸があたって、そこばかりに神経が集中してしまう。
そして上から、その谷間を覗いてしまう俺。…男って、愚かしい生き物だ。
動揺しながらも服を着たクラウドが、少し落ち着いたのか話し始める。
その着替えを一部始終しっかり見ていたため、突然振り向かれギクリとした。
だがクラウドはそんな浅ましい(?)俺の視線には気付いておらず、鈍感な彼に感謝する。
「30分だけの効果だって、言われたんだ…。女性化の新薬。ちゃんと男に戻ったから、帰ってきたのに。」
「女性化?なんで神羅がそんな薬…?」
「潜入捜査とか、変装とかで利用するのが目的らしいけど。」
「なるほど。」
でもクラウド、オマエならそんな薬を使わずとも、女装できるよ。
なんて言ったらハイキックにアッパーカットだな。やめとこう。
「それに、どうしてもまとまった金が欲しくて…だからあと一回だけ、って思ったんだ。」
「あのさ、それを知ったら母ちゃん泣くぞ?俺だったら、そんな金で何かしてほしくない。」
クラウドは、以前にも何度かこのバイトをしたことがある。
副作用に一晩中吐いたり、高熱や幻覚にうなされたこともあった。
金が必要ならば、俺に言ってくれればいくらでも工面するのに。
実はクラウドのために積立までしている、そんな異常な溺愛ぶりなんだ。
それを知った友人のカンセルは「オマエはクラウドの親か?!」とドン引きしていたが。
ほっとけ、俺はクラウドの兄であり親であり、良き先輩、そして親友なんだ。
「……ザックスにはわかんないよ。」
そう言って、クラウドは科研に電話をかける。
ソルジャーの俺にはわからない、と言われればそれまでだけど、そんな言い方は寂しい。
少しでもわかりたくて、同室になってこの半年間、ひたすら頑張った。
どこまでもつれないクラウドに、無視されようが殴られようが構い倒して、やっと仲良くなれたのに。
たぶん、今はクラウドにとっても『親友』の位置にいる。
なのに、やっぱり心を開いてくれないのか?
クラウドは電話で「話が違う」「そうですけど…」「だったらいつ」とか長い話をしていた。
電話が終わり、クラウドは青い顔をして言う。
「いつ、戻れるかわからないって。明日かもしれないし、もしかしたら」
クラウドが俯いて言葉を切ってしまったので聞く。
「もしかしたら、なに…?」
「……一生、戻らないかもしれないって。」
頭をぶん殴られた気分だ。それも焼酎ビンとかで。
以前、酔ったクラウドにそれで殴られたときは、かなり効いたな…って現実逃避してる場合じゃない。
フォローだ、フォローをせねば!こんなときこそ口から生まれた男、ザックスの本領が試される!
「一生ってことはないだろ。それに女の子の姿も似合ってるし、」
フォローになってねえ。
「女の子だって頑張る時代なんだから、女性の活躍の良き見本に…」
なんだそれは!何のスピーチだ。
「それにそんだけ可愛ければ、モテモテで奢られまくり、もう金に困ることは…」
そういう問題じゃねえ!そもそも、男のときからクラウドは野郎どもにアプローチを受けまくっていた。
「とにかく、そんな心配すんなって。」
もう無理。フォローの限界です。
クラウドは俯いたまま顔をあげない。
「もし戻れなかったら、除隊だって言われた。」
「え?!」
「女は軍にいられない。総務か秘書課ならいいけどって…ふざけんな!そんなの俺はいやだ!」
それは、そうだろう、クラウドはずっとソルジャーになるために訓練を受けてきた。
若干15歳で一等兵、ときどき指揮を務めるほどの位置にいる。
ソルジャーの夢ももうすぐ叶うだろう、彼はとても優秀だから。…それなのに。
クラウドは泣き出す。
「あんたの、言うとおり、俺が馬鹿だったんだ…一ヶ月で戻らなかったら、もうここにいられない…」
今までクラウドが泣いているのなんか、見たことない。
動物番組で泣いてしまう俺を、いつも呆れていたあのクラウドが、泣いている。
思わず、彼を抱きしめて叫ぶように言う。
「クラウド、大丈夫だ!もし戻れなくっても、大丈夫。」
「は?」
「俺がおまえを嫁さんにしてやるから!!」
次の瞬間には、もちろんアッパーが飛んできた。
タイムリミットは、一ヶ月。
クラウドは1週間経っても、女の子のままだった。
驚くべきことに任務や講義には普通に出て、結構元気にやっている。
さすが男前、肝が座っているというのか。
そして周りはクラウドの変化に気付いていない。
胸は厚めのベストで隠しているようだし、軍服が大きいので体型がわからないのだ。
「女性化」しても顔が変わらないのは、やはり十分な女顔だからだろうか。
ただ、その無意識な女性フェロモン?が出ているのか、前にも増して男にもてている。
「またむさいヤローに迫られた。」
口汚いのは相変わらず。その可愛い顔で悪態つくのも相変わらず。
だが。
「あんましつこいから奥歯ガタガタ言わせてやった。あれで3rd?笑っちゃうね。」
「あの、クラ…」
「しかもこれ。なに、いまどきラブレター?は、くだらねえもんに貴重な資源使うなよ。」
「クラウド!」
我慢できす、叫んだ。
ここは二人の寮室。だから別に、どんな会話しようがどんな格好でいようがそれは自由だ。
しかし、クラウドの格好は、以前と変わらず――
トランクス一丁に、バスタオルを首からさげただけという男らしい姿。
「なに?ザックス。」
「オマエその格好、自重しろよ!頼むから服着てくれ!」
さっきから、クラウドの胸がちらついてしょうがない。
決して大きすぎず、小さすぎず、白く形がいい胸に…ピンクの乳首がこれまたって、消えろ煩悩!!
「なんで?二人だけなんだから少しぐらいいいだろ。服着ると、こすれて痛いんだよ。」
「じゃあブラジャーしろよ、買ってやるから。」
「んなもんいるか!!」
クラウドにヘッドロックをかけられる。
え、これってかなりおいしい…いやまずい状況だ。
クラウドの柔らかい胸に、顔が押しつぶされる。
なんだか激しいセックスをしているような、そんな錯覚を覚える。やばい、戻ってこい!
「もしあと4週間たっても戻らなかったらさあ…」
クラウドに開放されたかと思うと、彼が背中によりかかるようにして言う。
「もう、こんな風にアンタといられないんだね…」
急にそんな可愛いことを言われ、言葉に詰まってしまう。
するとクラウドは恥ずかしいのか、「どうでもいいけどね」と付け足す。
普段つれないのに、ときどき素直になるのがたまらなくツボだ。
…これが、いわゆるツンデレ萌えなのか?
新たな自分を発見したのは置いといて、何とか元気付けてやらねば。
「クラウド、あのさ。オマエが女の子のままでもさ。俺たち、トモダチだろ?そんな寂しいこと言うなよ。」
「…ずっと、トモダチ……?」
伺うように言ってくるクラウドが、可愛い。
「ああ、ずっとトモダチ!」
そう笑いながら、罪悪感を感じた。トモダチ、といいながら股間を熱くしている俺。…最低!
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