C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

 

ご注意

@     かなりシリアスなエロ童話、完全パラレルです。

A     原作童話(ヘンゼ○とグレーテ○)とは、まったく設定が異なります。もはや、かすってもないです。

B     クラウドが、ザックス以外の男に汚されるシーンがあります。

C     BLはもちろん、近親相姦等、非道徳な要素が多いのでご注意ください。

 

 

 

 

 

お菓子の家で暮らそうか。

<前編>       

 

 

お菓子の家で、暮らしたい――

 

 

そんな風に弟が、ポツリと呟いたことがあった。

「なんだクラウド、オヤツ食ったばっかりだろ。」

そう、冗談めかして答えたけれど。

本当は、その言葉の意味することを、何となくわかっていた気がする。

 

幸せな家で、暮らしたい

 

まだ小さな弟に、そんな言葉を言わせてしまったことが、とても悲しい。

思わず眉を下げたら、それに気付いたのか、クラウドは慌てて言う。

「嘘だよ。俺は…お兄ちゃんがいるから、それでいい。」

きっと意識して出した言葉では、ないのだろう。とても罪作りな弟だと思う。

兄――ザックスは、弟の金髪を混ぜるように撫でて、目を細める。

 

「いつか。兄ちゃんが、お菓子の家を作ってやるよ。」

「…お兄ちゃん、が?」

「兄ちゃんが器用なのは知ってるだろ。お前がさっき食べたプリンだって、兄ちゃんが作ったんだぞ。」

「……本当に、作ってくれるなら。大きいおうちがいいな。」

「食いしん坊!」

「違うもん!」

頬を膨らませて、拗ねた表情を作る弟は、まるで気まぐれな天使のようだ。

「…大きいおうちじゃないと、兄ちゃんが入れないだろ。」

「え」

 

「…お菓子の家じゃなくても、いい……どこだっていいから、」

消えてしまいそうな、小さな声。けれど絶対に聞きもらすものかと、弟の声を拾う。

 

 

 

「お願い、どこにも行かないで……」

 

 

 

そう、いじらしく涙目で見上げてくる弟を、衝動的に抱き上げて。そのまま、彼の細い肩に顔を埋める。

(…柔らかい。あったかい。まだ、子どもだから?)

彼を泣かさないようにと、抱き締めてあげるつもりが。

どうしてか、むしろ自分の方が――この小さな生き物に、包まれているような気がした。

「なあ、クラウド。いつか絶対、お菓子の家を作ってやるよ。」

「本当に…?そんなこと、できるの。」

「兄ちゃんが、嘘をついたことあるか?」

そうウィンクして返すと、クラウドが声に出して笑う。

「常習犯のくせに!」

 

(そうだな。俺は、大嘘つきの常習犯だ。)

 

弟に「抱くべきでない想い」を持ち、いかにも優しい兄の顔をして。

弟が望むから、傍ににいてやりたいのではない。傍に、いてほしいのだ。

彼がいないと生きていけないのは、自分のほうだ。

お菓子の家≠夢見ていたいのは、きっと弟ではない。自分だ。

 

 

 

――いっそ二人で、この汚い世界を逃げ出すことができたなら、と。

本当は、いつも思っていた。

そうしたら弟は、もう母に暴力を振るわれることもないし。

自分も、もう母に弄ばれることもない。

 

 

 

 

 

 


 

 

二人は、腹違いの兄弟だった。

彼らの父親は、地主であり学者家系であったストライフ家の頭首。

その父親によく似た、長身で男前の兄――ザックスと。

その父がかつて愛した「前妻」の生き写しのような弟――クラウド。

かつて父の妻であり、そしてクラウドの母であるその女性は、とても美しい人だったと聞いている。

ザックスは、その女性と会ったことはない。

なぜなら、彼女が病気で他界するまで。ザックスは貧しい田舎村で、実母と二人きりで暮らしていたから。

 

ザックスは、ストライフ氏が結婚をする前にできた、いわゆる「隠し子」だった。

学に熱心で、女遊びなど縁が無いような真面目な男であるストライフ氏が、

かつて一度だけ、不実の罪を犯したことがある。

それは、貧しい娼婦との。たった一夜限りの、過ちだった。

 

その一夜の関係で、娼婦はその腹に子を宿す。

――それが、ザックスだった。

当然、娼婦は正式な妻になることは叶わず。村はずれで、親子二人、人目から隠れるように暮らしていた。

父親は、町で若い妻をめとり、ザックスよりも幼い子と3人で…仲睦まじく暮らしている。

母は毎晩のように酒を飲みながら、その事実を嘆いていた。

「あの人を愛してる、あの女が憎い、」

そう泣き続ける母。

幼い頃は、母の涙を止めようと、母の関心をひこうと、それなりに必死になったものだが。

10も過ぎた頃からは、諦めに似た気持ちに変わっていた。

 

 

――母は、とても可哀想な人だ。

愛しているといいながら、その愛する男の不幸を願っている。

それが愛だと、錯覚している。

とても可哀想で、惨めな女だ。

 

 

…見たこともないその、父親を、その妻を。そして何より「弟」を。恨んだこともあった。

大きなお屋敷で、庭に犬を飼って、父親の愛情を全て受けて暮らしている弟。

自分は、学校にも行けず、物心ついたときには朝から晩まで働いて、酒びたりの母親の面倒をみて。

もしかしたら、若い母に抱き締められて、優しい父に頭を撫でられて。

そんな幸せに囲まれていたのは、弟ではなく、自分だったかもしれないのに。

 

 

 

 

 


 

 

だが、ザックスが14のとき、転機は起きた。

父親の正妻が――ストライフ夫人が、病気で亡くなったのだ。

彼女の葬儀で、初めて父の住む屋敷へ呼ばれ、彼女の遺影を前にしたとき。

少しでも彼女を恨んで過ごしてきたこの14年間を、とても恥ずかしく思った。

母に悪い言葉ばかりを聴いて育ってきた自分は、彼女がどんな人なのか、

その事実を知ろうとしなかったけれど。

遺影の中で微笑む彼女は、とても美しく、儚く、優しく――

まるで、「母親の理想」を絵に描いたような人。

 

そして、声が聞こえた。

掠れる様な、泣き声だった。

とても小さな声だったけれど、ザックスにははっきりと聞こえた。

葬列から少し離れたところに、小さな子がぽつりと立って。声を押し殺して、泣いている。

とてもいい身なりをした、お坊ちゃま。…その顔はこのうえなく、美少女のようだったけれど。

ビー玉みたいにくりくりした大きな瞳。

その瞳は涙で濡れていて、ガラス細工の芸術のようにキラキラと瞬いては光色を変える。

 

(弟だ…。)

確かめることなく、わかった。

本当に、彼女の生き写しのようだったから。

父に愛されるのもわかる。…いや、違う。

この子なら、父に愛されていてほしい――そう思うほどに、なんともいえず愛らしい。

 

「…なあ、泣かないで。」

泣いているその子に近寄り、そっと頭を撫でてやる。

「………………アンタ、誰。」

はたして、兄だと言ってもいいのだろうか。妾の子である自分が。

返事に困っていると、肩に軽い重みを感じる。

振り返ると、自分によく似た男が、弱々しげに、けれど優しく笑っていた。

「すまなかった」と。そう言って、肩にのせた男の手に、力が篭もる。

 

 

「クラウド、この子はクラウドのお兄ちゃんだよ。今日から、一緒に暮らすんだ。」

 

 

 

 

 


 

 

とても、幸せだった。眩暈がするほどに。

ずっと会うことさえ叶わなかった父親が、自分を引き取ってくれて。

このうえなく可愛い弟と、兄弟になれて。

 

クラウドは、見た目どおりとても愛らしい子だった。

寂しがりやで甘えたなくせに、自分からは絶対に人に近寄ろうとしない。

ザックスが「おいで」と言って手招きすると、嫌々近づいてきて――

それを強引に引き寄せて、彼を隣に座らせる。

そうして頭を撫でてやると、クラウドはいつだって…声を押し殺して、泣くのだ。

 

本当は、とても寂しがり屋な子。

この子を、守ってやりたい。

学もなく、妾の子である自分だけれど――何を犠牲にしても、この子を守ってあげたい。

そう思うのは、兄弟愛というには少しずれたものだったけれど。

あくまで兄としての想いなのだと。

…そう、思いたかった。

 

 

 

 

1年ぐらいは、平和な日が続いた。

父は仕事が忙しかったけれど、休みの日には、家族と過ごす時間を大事にしてくれた。

クラウド同様、ザックスのことも、息子として大切にしてくれて。

その証拠に、将来は長男であるザックスに家を継がせることができるようにと、

教師を雇って学ぶ機会を与えてくれた。

まだ成人はしていなかったけれど、「クラウドには内緒な、すねるから」と言って、

父と二人、こっそりお酒を飲み交わしたりもした。

 

――いっぽうで。

母は、正式な妻として迎えられた。

クラウドを可愛がったりはしなかったが、別に興味もないのか…冷たく当たるようなこともない。

まるで、「いないもの」のように。クラウドを見えていないかのように、暮らしていた。

自分より、美しい前妻を思い出したくなかったのかもしれない。

それとも、自分より美しいこの子どもを、見たくなかったのかもしれない。

 

母に愛されないことに、まだ11歳のクラウドは戸惑っていたようだが、

そのぶん兄であるザックスが、彼を可愛がった。

寂しい想いなどさせないぐらい、構い倒して、からかって、撫でてあげて。

クラウドに好かれているという自信は、あった。

その証拠に、もう幼いとはいえない歳なのに、クラウドはザックスのベッドに入って一緒に眠る。

亡くなったクラウドの母がそうしてくれていたのか、わからないけれど。

身体をまるめて、ザックスの隣で眠る弟を、そっと抱き寄せながら。

ときどき、湧き上がる衝動に苦しんだ。

 

いったい、なんなのだろう。

弟を、どうにかしてしまいたいと思う、この気持ちは。

乱暴にしたい。優しく、してあげたい。

…矛盾しているけれど、どちらも本当の気持ちなのだと思う。

 

(でも俺は、オマエの兄貴だから、)

 

自分は、母とは違う。

母のような、「自己愛」を愛とは呼ばない。

たとえクラウドが、この先…他の誰かのものになって、自分の手から離れていっても。

クラウドの不幸を願ったりはしない。

おとなしく身を引いて、彼の幸せに手を叩いて喜ぼう。

それが、兄というものだ。それこそ、あるべき兄弟愛というものだ。

それをちゃんとわかっているから、

 

(せめて、オマエが大人になるまで…傍にいさせてくれ。)

 

 

 

 

 


 

幸せは、運命の悪戯のようにいつでもたやすく壊れる。

 

 

それは突然だった。

母が、狂った。

――父の乗っている馬車が事故にあって。優しかったあの父が、死んだのだ。

派手なドレスに包まれて、優雅にお茶を飲んでいたザックスの母が、まるで別人のようになった。

いつかの酒に溺れていたあのときのような…それ以上に、狂気的な。

 

「やだ!お義母さん、ぶたないで!」

常でないその弟の叫び声に、何事かと弟の部屋に飛び込むと、信じがたい光景が目に入る。

母が、クラウドに手をあげて――彼は、こめかみから血を流して蹲っていた。

 

「やめろ!」

母親に、掴みかかる。あろうことか金属製のステッキで、クラウドに殴りかかっていたのだ。

いったいこの小さな子に、どうしてそんなことが出来るのだろう。

「邪魔をしないでちょうだい!この子が!この女が!」

父の死から2週間以上経っていたが、母は今も、喪服を着ていた。

化粧もせず、髪も乱れて。とても尋常な様子でない。

「この女が、あの人を連れてったのよ!」

 

――母はもう、狂っていた。

 

母の目には、もう今は亡きクラウドの母親が映っている。

「クラウドに、手を出すな!」

こん女でも、自分の実の親だ。

生むつもりなどなかった、と何度も言われてきたが、それでも腹を痛めて生んでくれたのは事実だ。

母を見捨てるつもりなどなかったし、自分の境遇を母のせいにしたことだってない。

だけど、クラウドを傷つけるのだけは、許せなかった。

親不孝者と、批難されようとも。

 

バシン!

 

母が、またクラウドに殴りかかろうとしたのを見て。思わず、ザックスは彼女をひっぱたいた。

生まれて初めて、親に手をあげた。

母は、まるで裏切られたとでも言いたそうな…ひどく驚いて、歪んだ顔をしている。

裏切ったって、構わない。

クラウドのことだけは、裏切らなければ。

「お兄ちゃん…」

もうやめて、と言うかのように、ぎゅっとしがみついてくるクラウド。

こんな仕打ちをする継母にさえも、クラウドは恨んでいないようだった。

とても優しい弟。――この子が、好きだ。

とても。

「今度クラウドに手をあげたら――」

こんなことを言ったら、優しい弟を恐がらせるだろうか。

少し迷ってから、こう言った。

「アンタを、許さない。」

 

(アンタを、殺すよ。)

 

 

 

 

 


 

 

それからだった。…母が、ザックスを求めてきたのは。

愛する夫を自分に重ねているのか。それとも、弟に対する嫌がらせなのか。

クラウドに手をあげないかわりに、と、夜中にザックスの部屋へと入ってくる母。

そうして、同じベッドで眠っているクラウドを部屋から追い出し、「こと」に及ぶ。

初めてが、狂った母親となんて。

――吐き気がする。

だけど、母の気を休めるために、そして母の関心をクラウドから反らすために。

黙って相手をした。

 

 

 

女でしかない母親を見るのは、気分が悪い。

しかも母は、隣室のクラウドに聞こえるように、甲高く喘ぐ。

(…下品だな。)

どこか冷静に、ザックスは思っていた。

クラウドだったら。こんな下品な声ではない。

きっと遠慮がちに、恥ずかしそうに。けれど我慢できずに、可愛い声で鳴くのだろう。

そして自分で動くことも知らず、求めることも知らず。

ただザックスの熱を、目をぎゅっと瞑って耐えて――――

 

(…最低だ。)

 

実の母と体を重ねながら、心では実の弟を抱き、それでクラウドを守ったつもりでいる。

きっとクラウドは、今頃、声を殺して泣いているのだろう。

孤独に、泣いているのだ。

 

――いつか絶対、弟をさらって、二人で暮らそう。

 

こんな狂った屋敷ではない。

お菓子でできた家みたいに、夢みたいに幸せな空間で。

二人だけの、世界で。

 

その描いていた夢想を、弟への想いを。母に知られていたなんて気付かなかった。

 

 

 

 


 

 

冬の寒い日だった。

朝起きると、クラウドの姿が屋敷のどこにもない。

ザックスの部屋にも、クラウドの部屋にも。父の書斎にも、庭にもいない。

そうして、まさかと思い母の部屋をノックしたとき…顔を出したのは、らしくもなく穏やかに笑う母だった。

「クラウドを…どうした。」

直感で、わかった。クラウドを隠したのは、母なのだと。

すると、まるで何でもないことのように、答えは返ってきた。

 

 

「捨ててきたの。」

 

 

――理解が、追いつかない。

「これからは、貴方と二人、この屋敷で、」

自分に抱きつこうとする母親を、ザックスは払いのける。

ヒールの靴を履いていた母は、バランスを崩して床に尻をついた。

「…ふざけんな!クラウドをどこに隠した!どこに連れて行った!」

冗談じゃない。

今頃、クラウドは――この真冬の寒さの中、外にいるというのだろうか?

「知りたいなら、教えあげる。」

とても冷たい瞳だった。

この女が、本当に自分の母親なのだろうか。

 

 

 

「あの子は、高く売れたの。」

 

 

 

(――は?)

「金髪白人の子どもっていうのは、とびきり高値で売れるんですって。ほんとにいい値段で売れ」

「ふざけんな!!!」

信じられなかった。いや、信じたくなかった。

いくらこの女でも、人であるならば、そんなことまではしないだろうと。

…そう、思っていたから。

 

「アンタ、あの子のこと。好きだったんでしょう。」

 

背中に、嫌な汗が伝う。

「あの女と同じで、私から大事なものを奪おうとしたから。だから。」

身体が震える。怒りで?悲しみで?絶望で?

「今頃きっと、二目と見られないぐらい汚れてるわよ。――尻に突っ込まれてね。」

悪い夢なら、覚めてほしい。早く、覚めてほしいのに。

「……クラウドには、手を出さないって、言ったじゃねえか…」

搾り出すように、かろうじて声を出す。

「だから、命だけは助けたじゃない。もっとも、」

おかしくて仕方がないというように、声を出して笑いながら、

 

 

「もっとも――あはは!死んだほうがよかったと思うでしょうけど。」

 

 

こんな女を、信じてたわけじゃない。だけど、きっと、僅かでも。

僅かでも、期待していたのだ。

…絶望した。

「俺は、たぶんアンタに期待してた。」

この女に、絶望した。

 

「アンタは、母親じゃなくても、せめて、」

頭を撫でてくれなくたっていい。母親としての何かなんて、期待してない。でもせめて、

 

「人間だろうと思ってた…!」

 

クラウドだけは、奪わないでほしかった。

―――汚さないでほしかったのに。

 

 

 

 

 

「待ってザックス!置いていかないで!」

後ろから、すがるような声が聞こえたけれど、振り返らない。

きっと振り返れば、この女を殺してしまう。

 

今は、怒りなどに捕らわれている場合ではない。

今頃、あの子は泣いている。

クラウドを、助けなければ。守らなければ――

 

 

 

 

母親も、家も、道徳も、全て捨てて構わない。

兄だって、弟だって、関係ない。

 

 

 

 

あの子を、愛している。

 

 

 

 

 

 

――なあ、クラウド。

いつか、オマエの好きなお菓子の家で暮らそうな。

お兄ちゃんと二人きりで。

大丈夫、きっと楽しいよ。

 

こんな醜い世界だけれど。

お願い、キミだけは大人にならないで。

 

 

 

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C-brandMOCOCO (20091224

原作童話どこいったよ!みたいな。わかりづらい話ですみません。

 

 

 

 

 


 

 

 

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