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ト モ ダ チ 義 。

<前編>

 

 

【 ご 注 意 】

*ブログでのたまった温泉ネタです。後編は、露骨な18禁描写があります。

*神羅時代・トモダチザックラ。ザックスがけっこう酷い男なので、ご注意ください。(女の敵みたいな…)

 

 

「私と仕事、どっちが大事なの」って

やだな キミに決まってるだろ?

 

「私と友達、どっちが大事なの」って

やだな そんな当たり前のこと。

 

トモダチが一番大事に決まってんじゃん。

(あれ?なんで彼女、怒ってんの?)

 

 

 

「私とその子、どっちが大事なの?!」

 

彼女の言葉が、この温泉旅行≠フ発端だった。

正直、女の子に泣かれるのは苦手だ。

涙は女の武器っていうけど、俺はそうは思わない。女の武器は笑顔だろ?

女の子に泣かれると、こっちにどんな言い分があっても自分が悪者。

まるっきり相手に分があるじゃない。

 

――そりゃ最近、彼女との付き合いを疎かにしていたっていう自覚はある。

デートらしいデートはしばらくしていなかったし、たまに夜に会ってディナーをご馳走したりしたけど、

その後はホテルに直行。ヤることヤったら、彼女を置いて早々と帰宅するのが当たり前になっていた。

 

別に、彼女と過ごす時間がつまらないとは言ってない。

付き合って数か月が経つけど、まだ冷めたわけじゃないし。

なんといってもモデルなみの美人…言っておくけど、『ソルジャーによる抱きたい女ランキング』で

一位になった、あの受付嬢のレイラちゃんだぞ!

顔だけじゃなくて、体の相性だっていい。やっぱりベッドでは積極的な子がいいよね。

別にAVみたいに喘げとは言わないけど、せめて「そこがいい」とか「ああしてほしい」とか、

そういう意見はちゃんと言ってくれる子がいい。

 

自分で言うのもなんなんだけど。

なんといっても今をときめく売れっ子ソルジャー、自他ともに認めるなかなかのハンサム、

それに『女の子を口説くために生まれてきたのか』と自分でも思うぐらい、ナンパな性格。

それらが幸いして、それなりに引く手数多、これまで相手に困ったことはない。

今まで付き合ってきた決して少なくない彼女たちの中でも、今の彼女はダントツの美人だと思う。

愛しいと思ってるし、俺なりに大事にしている。…つもりだ。

 

 

でも、評価は人それぞれ――当の彼女の中では、不満があるらしい。

 

 

「大事にしてる?最後に会ったの、3週間前じゃない!その間メールも電話も、一切なし!

久しぶりに連絡くれたと思ったら『今、生理だっけ?』って…あなた、ただセックスしたいだけなの?」

いやいやいや、それは誤解だ!

久しぶりのデート、夜景の見えるホテルを予約してあげるのに、生理だったら意味ないじゃん。

生理だったらまた今度会おうっていう、俺なりの配慮だったんだけど…

って、これじゃたしかに、ヤリたいだけじゃん俺。

 

「こないだの土曜日だって、オフだったんでしょ?それなのに友達と約束があるから

 デートできない…って。どうせまた、あの一般兵の子と釣りにでも行ったんでしょ!」

いやいやいや、それは誤解だ!

クラウドとバス釣りに行ったのは、その前の週末。

こないだの土曜は、クラウドと初めてチョコボファームに行ったんだ。

チョコボに懐かれてあいつ、嬉しそうに笑ってた。

高原で弁当広げて、寝転んで、日が沈むまであっという間だったなぁ。

 

「それに、私のことは一度も部屋にあげてくれないのに。その子はしょっちゅう入り浸ってるし。」

いやいやいや、それは誤解だ!

別に入り浸ってるわけじゃない。むしろ俺が強引にクラウドを誘ってるんだ。

だってあいつ、料理が壊滅的に出来ないんだぜ。

ただでさえ細っこいのに、これ以上痩せたら。きっと一般兵の厳しい訓練に、付いていけないじゃん。

兵舎の食堂は量があっても味が微妙だし、俺が夕飯を作ってやるとあいつすごく喜ぶんだ。

あいつの笑った顔見れるなんて、滅多にないんだ、貴重だぞ。

 

「最初の頃はドライブに行ったり、デートのたびに花束を用意してくれたりしたじゃない。

それなのに…最近はデートらしいデートしてないわ。前の彼氏だったら、もっと尽してくれたのに…」

ああ、なんか面倒くさくなってきたぞ。

花束をあげたってさ、すぐ枯らしちゃったじゃん。それだったら、いっそクラウドにあげた方がいい。

ほんの気まぐれで、前に一輪のガーベラを渡したとき。クラウドは、それをすごい大事にしてくれてた。

最後枯れてしまったとき、泣きそうな顔してたよな。

だからそれからは、枯れてきた頃合いを見計らっては、あいつに花をプレゼントしている。

…クラウドの悲しそうな顔、見たくないし。

 

「ねえ、ザックス!」

「はい。」

「だから私とクラウドって子、どっちが大事なの?!」

 

 

 

「そりゃ〜クラウドでしょ!親友だし。」

 

 

 

嘘つきは泥棒のはじまり。

嘘はいかんと、あっさりきっぱり正直に答えたら、彼女にわあっと大泣きされた。

8番街のオープンカフェのど真ん中で。

彼女を泣かした最低な男。俺は世界(世間)を敵に回して、すっかり悪者になってしまった。

 

そうですね。俺が悪うございました。

だからギャラリーども!これ以上、俺をそんな目で見ないでくれ!!  

 

 

 

 

  

 

 

―――ああ、面倒くさいことになった。

 

要するに、俺の彼女は「彼」に嫉妬しているらしい。

モデオヘイムのミッションで知り合った俺の後輩、そして今や俺の親友である「クラウド」に。

別に彼女のこと、大事じゃないなんて言ってない。

『クラウドと彼女、どっちかを選べ』だなんて、そもそもその選択肢がおかしいだろ。

そんなの同じベクトルで測れるものじゃない。

彼女のことは大事。美人だし、エッチうまいし、なんといってもEカップだ。

 

クラウドのことも、大事。

素直じゃなくて、生真面目で、不器用で、努力家、謙虚、それに一緒にいると楽しい。

俺と性格は正反対なのに、こういうの馬が合うっていうんだろうか。

クラウドは適度に静かで、あまり多くを話さないけど、

でも時折口にする彼独特のブラックジョークは適格でハイセンス、たぶん頭の回転が速いんだろう。

それになんと言っても、可愛い。可愛いったら可愛い。めちゃくちゃ可愛い。

 

「ザックス!また、その子のこと考えてるの?」

「考えてないって。俺の頭の中はレイラちゃんのことだけ!」

嘘です、また泣かれたくないから嘘をつきました。

俺の脳内まるごと、クラウドのことだけ考えている。

だって、せっかくのゴールデンウィークだぞ?

ちょっと遠出して、あいつとのんびり温泉旅行もいいなあなんて思ってたのに…。

 

 

 

 

 

「ほら、宿が見えてきたぜ。美肌の湯までもうすぐ!」

カーナビの指示どおり山道を進み、本当にこんな山奥でいいのかと疑問に思っていたとき、

遠くに老舗温泉宿の看板が見えた。

彼女が車のウィンドウを開けると、仄かに温泉…硫黄の香りがする。

 

53日、ゴールデンウィーク――

マイカーを走らせて、助手席には彼女を乗せ、ミッドガルから少し離れた山宿の温泉にやってきた。

「もっと私を大事にして」と強請る彼女の、いわゆる『ご機嫌取り』のために。

ついでに最近ご無沙汰だったから、溜まったもの出すっていう目的もある。(え?最低?)

 

 

 

 

とりあえず、この旅行中――『クラウド』の名は絶対禁句!

気を抜くとすぐあいつの話題を口にしてしまうもんだから(クラウドとどこに行っただの、何を食っただの)

彼女もうんざりのようだ。それにクラウドへのメールも禁止、電話は論外。

デート中に携帯をいじること自体、ナンセンスだとは思うんだけど、

わかっていても、ついクラウドにメールしたくなってしまう時がある。

夕日が綺麗だったとき、夜景が綺麗だったとき、咲いてる花が綺麗だったとき…

どうしてもあいつに見せたくなってしまう。

しかもそれら俺の送った写メを、大事に保存しているらしいことを知って、すんごい嬉しくなったり。

(酒に酔った勢いであいつの携帯覗いたら、俺のメールを保護してくれてたんだ!)

ああ、この新緑の鮮やかな眺めも、クラウドに見せてやりたい。

 

宿は山深く、静かに佇む老舗旅館で、なかなか趣がある。

歴史ある建物を大事に使っているようで、ミッドガルのような現代都市ではまず見られない。

創作料理も美味だと有名で、マスコミでよく取り上げられていることもあり、

僻地であるに関わらず人気の高い温泉宿だ。

副社長のルーファウスなどお偉いさん方も利用するらしい、セレブご用達ってところだろうか。

 

「…ずいぶん古いけど。エステついてるのしら。」

彼女にとっては、高級リゾートホテルの方が良かったかもしれない。

遠くに見える温泉宿の古い瓦屋根に、彼女は小さく溜息をつく。

いちおう、予約とるの大変だったんだけどね…。

ただでさえ高級旅館、それになんといっても今はゴールデンウィーク期間だ。

常の3倍近い宿泊費に、なんとか情報通のカンセルに頼んでツテを得て、

ようやく予約を入れることが出来た。

もう少し喜んでくれてもいいんじゃないか。なんか俺、報われないんですけど…

 

「エステはどうかな。でもさ、レイラちゃん、これ以上綺麗になってどうすんの?」

「ふふ!やあね、ザックスったら!」

ご機嫌取りは忘れない。だってほら、そもそもこの旅行の趣旨はこれにあるんだから。

もし、助手席に座るのがクラウドだったら――

きっと目をキラキラさせて、すごいねって笑ってくれるんだろうなって思わなくもない。

この旅館を予約したのはもともと、歴史好きなクラウドとくるつもりでのことだった。

ただ、どうしてか「泊まり」で誘うことに少し抵抗があって、結局誘えずじまいになり…

(だって、断られたら生きていけないだろ?!)

それなのに、よもや他の子とくることになろうとは…

 

 

 

 

旅館の前で、着物という異国の伝統衣装を身に纏った従業員たちが出迎える。

若くはないけど美人な女将が、俺たちに丁寧な挨拶をしてくれる。

建物も華美ではないけど高級感があって、雰囲気はなかなかいい。

 

通された部屋は畳作りにベッドがある和洋室で、広々とした内装――

「こちら、貴賓室でございます。ルーファウス様にもご贔屓いただいている当館のスイートルームです。」

なるほど、最上階に位置している窓からは、荘厳な大自然の渓谷が一望できる。

「スイートだって!すごい!」

スイートと聞き、彼女も上機嫌。

「特別なお客様をおもてなしする、当館に二つしかないお部屋です。どうぞごゆっくりとお寛ぎください。」

この広い最上階のフロアに、二つしかない部屋。

隣の部屋も誰かが使っているようで、宿泊中を意味する橙のランプが灯っていた。

 

 

 

――この部屋に誰がいるのか、その時の俺は少しも想像していなかったんだけど。 

 

 

 


 

夕飯は、部屋食だった。

さすが有名なシェフによる創作料理、温野菜や高級牛、新鮮な魚介を使った色とりどりの料理。

どれも美味しい。彼女もすっかり上機嫌――今夜は間違いなく、イケると確信。

そういえば、エッチするのっていつぶりだろう?

最近は自己処理のみで済ませていたから、ずいぶん御無沙汰な気がする。

 

「お風呂入ってくる。また後でね、ザックス。」

彼女は色香を含んだ声で、そう俺に囁く。ずいぶん乗り気だ。

女の子のご機嫌とるのに大事なのは、何よりムードと、そして金だ。ちょろいな。(あ、最低?)

 

「じゃあ、俺ものんびり風呂に浸かりますか。」

女の子の入浴ってのは長い。

ただ入浴するだけじゃなくて、髪を乾かしたり、スキンケア、それに寝化粧をするのに

かなり時間がかかる。

だからその間、俺は自由時間。のんびり気ままに入浴できそうだ。

さすが老舗旅館だけあって、本格的な岩風呂、それに源泉かけ流し!

 

山の新緑を眺めながら、白い濁り湯に肩まで浸かる。

「あ〜極楽…」

クラウドと一緒にきていたら。男同士、あいつと一緒に風呂に入れたのに。

この湯をあいつと堪能できたら、きっと最高だろうなぁ…なんて。

どうしてもクラウドのことばかり考えてしまう。

 

クラウドは、今頃何をしているんだろう。

 

あいつも連休中で、仕事は入っていない。

一緒に飯を食う程度の同僚はいても、プライベートを過ごす友人はほとんどいない。はず。

クラウドは本の虫だから、また難しい分厚い本ばっかり読んでるのかな。

彼女には内緒で…あとでこっそり電話してみようか。

 

 

 

なんて、とりとめのないことを考えていたら。

ぱしゃん、と湯面が音を立てた。岩の陰に、誰かがいる。

先客がそこにいるらしいことはわかっていたけど、湯煙でよく見えなかったし、さして気にもしていなかった。

ゆらり、湯煙の向こうでその人物の影が揺れる。

2,3人の男の気配が脱衣所の方でして、そっちに気を捕らわれていると、

 

湯の中で、トン、と肩がぶつかった。

 

「あ、すみません…」

「や、こっちこそ…って、おい、クラウド?!」

「ザックス?!」

「ちょ、オマエなんで、ここにいるんだよ?!」

 

なんて偶然か。さっきから、俺の頭の中のほとんどを占めていた件のクラウドが。

同じ温泉に浸かっている。

(嘘だろ…)

クラウドが、頬をピンクに染めて、もちろん白い肌を露わにして。

俺と肌が触れ合いそうな距離で、湯に浸かっているなんて。

 

「誰と来たんだ?」

まず、何より聞いておかなくちゃいけないことを問う。

相手が男友達か、それともそんな気配は見せなかったけど彼女でもいたのか、

はたまた一人旅行なのか。出来ればそれであってほしい。

 

「…ザックスは、彼女ときたの?」

 

思いも掛けず質問返しをされ、一瞬答えにつまる。が、嘘をつくのも違うだろう。

「ああ。ほら、前に話しただろ。おっぱいでかい受付嬢の子。」

「ふーん…そう、」

クラウドは無表情だったけど、どうしてか説明する俺の方が焦ってしまう。

まるで浮気を追及されているかのような、落ち着かない心境だ。

「いや、っていうかオマエは誰ときたんだって…」

そう、聞きたいのは俺の方。胸がもやもやしてしょうがない。

 

 

 

 

「…セフィロスと。」

 

 

 

 

え?

「セフィロスが休暇に付き合えって。静かなところでゆっくりしたいんだって。

最近はきついミッション続きで、たぶん疲れてたんじゃないかな…。そんな態度は見せないけどさ。」

ちょっと待て、セフィロスと二人で温泉旅行?

しかもなんだよ、そんな風にあいつのこと心配しちゃって。

すっげえ面白くないんですけど!

「それ、おかしいだろ。プライベートまでお付き合いしてやんのが、オマエの仕事なわけ?」

「上官の健康管理だって大事なことだろ?なんでそんな言い方…」

 

そう、クラウドはセフィロスの従卒――

身の回りの世話やスケジュール管理、いわゆる一般企業でいうところの秘書のような役目をしている。

ソルジャーは、従卒制度を利用するもしないも自由だ。

将来の有能なソルジャー育成のためにも、従卒制度は推奨されてはいる。

従卒となれば、通常給のほか特別手当が支給されるから、

クラウドも実家への仕送りのため、そしてソルジャーを志すために従卒に志願したのだ。

かの英雄の従卒にクラウドが選ばれたのは、もちろんただの運なんかじゃない

彼が成績優秀で、将来有望なソルジャー候補の一人だからだ。

 

「…オマエなあ、男と泊まりで温泉にきて、何もないと思ってんの?」

「は?」

「あいつ、下心あるんじゃないのか?」

「なに、どういう…」

「だから、オマエとやりたいんじゃないのって、」

 

バシン!!!

 

クラウドに頬を叩かれ、自分の失言だったと悟る。気付くのが遅すぎたけど。

クラウドは目を見開き、心底心外だという顔をしていた。

当たり前だ、こんなことをいえば、クラウドを侮辱したのと変わらないじゃないか。

「クラウド、悪い…そうじゃなくって、なんだ。俺はただ、オマエのことが心配だから…」

クラウドは気付いていないだろうけど。

この子をそういう対象に見ている男って、実は軍内に結構いる。

共同のシャワールームでみんなが食い入るように彼の体を見ているのだって、

彼の隠し撮り写真が出回っているのだって、男に好意を持たれているからに他ならない。

 

こいつを狙う男どもに、俺がどれだけ睨みを利かせてきたか――

時には力づくで追っ払ってきたというのに、クラウドはそれを知らないから。

 

実際、今だってそうだ。

「おい、見ろよ。すげえべっぴんさんがいるぜ。」

「ばっか、男連れじゃん。あんまじろじろ見たらやばいだろ。」

脱衣所からこの露天風呂に出てきた男たちが、クラウドの存在に気づき騒いでいる。

こいつの裸、この男たちに見せたくない――もちろん、セフィロスにも、誰にも。

 

「クラウド、こっち。」

岩の陰にクラウドを隠すようにして、彼を少し移動させる。

クラウドはその俺の意図を理解していないのか、俺を潤んだ目で見上げてくる。

ほとんど腕の中で抱いているこの距離感、なんかまずい…。

「ザックス…?」

「オマエは、自覚ないかもしれないけど。やっぱり、言っとく。」

それでこの子を傷つけてしまったとしても、この子を守ることのほうが最優先だ。

 

「あんまり、無防備になるな。オマエぐらい可愛かったら、男でも関係ないって奴はいる。」

 

「なんだよそれ…俺が女みたいだって、馬鹿にしてんの?」

クラウドの声が震えてくる。負けず嫌いでプライドの高い彼だ、きっと悔しいのだろう。

「そうじゃない。そうじゃないけど…実際、女よりオマエの方が可愛いだろ。」

あの受付嬢のレイラちゃんよりも、クラウドの方が可愛い。

そりゃ系統が全く違うから、好みにもよるかもしれないけど。

どちらかが一般的に言って美形かと問われれば、皆がクラウドを選ぶだろう。

 

「そんなわけない。馬鹿馬鹿しい、」

 

そうじろりと俺を睨みつけると、湯から上がろうとする。

タオルで体を隠しもせず、岩の向こう側にはクラウドに関心を寄せる男たちがいるっていうのに。

 

気付けば考えるより先に。クラウドの腕を、強く引いていた。

それだけじゃない――そのまま自分の胸に抱きこんで、誰にも見せないようにと、閉じ込める。

「ちょ…なに、ザックス…!」

クラウドを抱き寄せると、余計に華奢だとわかる。

香り立つ項が、たまらなく色っぽい。こんなに可愛いくせに、それの自覚がまるきりないなんて、

 

 

 

「男が。――俺が、こういうことしないって思ってた?」

 

 

 

なんで、この腕を離してやれないのか。

こんなこと…『友達』相手にはあまりに不自然で、不可解な行動だ。

だけど離せなかった。

 

「や…なに、ザックス、ふざけ…」

「だからそんな無防備になるなって、」

言ってるのに。

クラウドが俺の胸の中で、涙目で見上げてくる。

そんな美味しいそうな唇を寄せられて、我慢できるわけがない。

 

「んっ…?!ンーーーッ!!」

まるで、犯すように。無理やり互いの唇を合わせる。

それだけじゃない、クラウドの口内に自分の舌をいれて、クラウドのそれと絡める。

キスがこんなにも気持ちいいものだなんて。

まるで、身体を重ねているかのように錯覚してしまう。

「は…や、んっ、やめ……!」

唇の間から漏れる声。切なげで、苦しげで、そして、淫らだ。

 

クラウドがあまりに苦しそうで。一度唇を離してやると、互いが銀の糸で繋がった。

「ど、して…こんな…」

クラウドが震えている。それでもお構いなしに、また唇を合わせようとすると。

ぐっと顔を背けられて、キスを拒絶されたことに気付く。

「クラ…、」

「ひどい…俺のこと、そうやって馬鹿にしてたの?」

「え?」

 

「俺のこと女みたいだって、気持ち悪いやつだって…そう思ってたのかよ!」

 

クラウドは泣くまいと、必死で涙を堪えているようだった。

「違うって、そんなつもりじゃねえよ。ただ、オマエのこと、大事だから…」

「意味、わかんないよ…彼女、いるくせに。…今日だって、彼女と、」

「あいつよりオマエのが大事に決まってる。だって、」

だって、クラウドは俺の一番大事な、

 

 

 

「トモダチ、だろ?」

 

 

 

クラウドから、我慢していたはずの大粒の涙が零れた。

「……アンタなんか、トモダチじゃない。もう…」

クラウドはその表情で、声で、言葉で。傷ついたと泣いている。

涙を拭ってやりたくて、彼の頬に手を伸ばすと、それを勢いよく跳ね除けられた。

「クラ、待てよ。…なあ、待って…」

情けないほどにすがる俺の声に、クラウドは振り向くことなく、湯から出て行った。

気付けば後から入ってきた男たちも、もういない。

 

 

一人、湯の真ん中で、ただ立ち竦んでいた。  

 

 

 

 

だって親友なんだから、大事にしたくて何が悪い。

 

うまい飯 食わせてやりたい。

メールも電話もいっぱいしたい。

24時間一緒にいたい。

 

いっそ、キスしてしまいたい。

 

恋人より、僕はトモダチに溺れてる。

 

 

 

 

 

 

  

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C-brandMOCOCO (201256

恋人より、恋しいトモダチ。

 

 

 

 


 

 

 

 

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