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※ご注意: 露骨な性的描写あり。18歳以上の方の閲覧推奨。「チョコレートは恋の味。」の続編です。

 

人は、誰のものでもない。

そう、知っていたはずなのに――

守りたい。……汚したい。

相反する気持ちに、心が壊れそうだった。

 

 

 

「ばいばい」

――1ヶ月前にそう、彼に言われた。

 

ばいばい、なんて。別に付き合っていたわけじゃない。

だがそのクラウドの言葉は、ザックスの胸の中に、すとんと落ちた。

それが自分の招いた結果なのだと、ザックスは瞬時に理解した。

――体だけでも無理に繋げようとした、愚かさのツケなのだと。

決して付き合っていたわけではないけれど。

 

……そうなれたらどんなにいいかと、本当はいつも思っていたから。

 

 

 


 

いったいいつから、「トモダチ」という言葉に、違和感を感じ始めただろうか。

気付けばクラウドを目で追い、その耳障りの良い声に酔い、彼の匂いを求め…

本当はいつも、その甘い香りのする金糸の髪に、顔を埋めたいと思っていた。

その男とは思えない華奢な白い体を、自分の胸に抱き寄せたいと。

でも、彼に触れようと伸ばしかけた手は、いつもぎりぎりのところで、諦めに変わった。

眩しい、と思ったから。

見た目だけじゃなくって、その金の髪や白い肌だけじゃなくって。その、存在が。

 

その存在を汚すのが、恐かった。

 

 

 

 

…なんでこんなに好きなのか。そんなのはもう、わからなかった。

わからないほど、盲目的に惹かれていた。

それはたぶん、執着に似た気持ちだった気がする。

まるで親鳥にくっついてくる雛みたいに。少しの猜疑心も持たず、羨望の眼差しを向けてくる少年。

それはもう少年≠ナはない自分にとって、幼い頃に忘れた、無垢と言う名の愚かさを思い出させる。

相手を疑うことを知らず、「トモダチだろ?」という薄っぺらな嘘を、信じているその愚かさ=B

トモダチ≠ネんてそんな言葉、ただの逃げ道でしかなかったというのに。

――でもその愚かさが、たまらなく愛しくて。それを護りたいという想いは、確かに存在していた。

あまりに脆い、脆すぎる均衡の上に、成立していたとしても。

 

…本当は。好かれているって、わかっていた。

クラウドの視線の先には、いつも自分がいて。

ザックスが笑いかければ頬を赤らめ、頭を撫でてやればまるで「もっと」と強請るような顔をする。

彼は決して甘えるような言葉は言わないけれど、自分にだけ懐いてくれていると知っていた。

 

クラウドの不器用で、でも誰よりも優しい性格だって、知っていた。

クラウドはいつも、優しさを表に出さないけれど。

ザックスが任務で怪我をして帰ってきたときも、彼は少しの労いも優しさも、見せたりはしない。

それどころか「ソルジャーのくせに」と、冷淡な物言いをして、そっぽを向く。

だけどそうやって、冷たい態度とった後。決まって彼の寝室からは、すすり泣く声が聞こえた。

 

失うことを恐れて、泣いてくれたこと。

 

――本当は全部、知っていた。

だけど、クラウドは、知らない。

 

その好きって気持ちが、自分の持つそれとは違うってことを。

彼のもつ綺麗な『友愛』なんかではなく、もっと根深くて、汚らしい。

 

 

クラウドを、抱きたい。

 

 

浅ましく、けれど必然とも言ってよい欲望。

親鳥なんかでは我慢できず、本当は一人の男として、見て欲しかった。

クラウドが自分を男≠ニして見ていないことは、わかっている。

彼はただ真っ直ぐに、親友≠ニいう安全な男に、依存しているのだ。

「トモダチだろ?」なんて――そんな言葉をはく自分は、大嘘つきもいいところなのに。

そうやって、せめて言葉で取り繕っておかないと、心が壊れそうだったから。

薄っぺらな言葉ひとつに、すがっていた。

 

 

守りたい。でも――汚したい。

 

 

クラウドを大切だと思う。その真っ白さを守るためなら、きっとどんなことだってできるとさえ。

でも、いずれ汚れてしまうものならば……他の誰の手でもない、自分の手で。

彼をめちゃくちゃに汚してしまいたいと、恐ろしいことを思う。

その、醜いほどの欲望が渦巻いて。――その欲で彼を汚すことに、怯えた。

相反する二つの感情が、バランスを崩すことを恐れて。

気付けば、クラウドの代わりに女の子を抱いていた。

クラウドによく似た、金髪で、色白で、華奢な子ばかり求めて。

…愛のないセックスを繰り返す。

 

そうやって、誤魔化していた。

このキモチを知られれば、きっと彼を失う。

いつも優しく笑ってくれるだけの男が、その実、本当は自分の全てを奪いたいと思っていることを知れば。

クラウドを失ってしまうと、わかっていたから。

絶対に言うものかと思っていた。その、はずだった。

でも、あの日。

 

 

 


 

バレンタイン当日――ザックスはチョコレートをひとつ、買った。

クラウドが好きだと言った、ミッドガルでは有名なお菓子屋の、生チョコレート。

世の中では、逆チョコなるものが流行っている。

男から女に渡す、という笑ってしまうほどの菓子メーカーの戦略。

でも、そんなものに踊らされてもいいと思うほど、彼にチョコレートを贈りたいと思った。

甘いものが大好きだというクラウドは、去年の夏の彼の誕生日、ザックスが買ってやった

チョコレートケーキを嬉しそうに食べていた。

喜びを表すのが苦手な彼にしては珍しい、そのときの可愛い笑顔が、あまりに忘れられなくて。

もう一度、笑ってほしいと思ったから。

 

ザックスの両手に持った、複数の紙袋の中には、ぎゅうぎゅうに詰まった幾つものチョコレート。

秘書課、総務課、受付嬢などの女性社員たち。そして、ファンクラブの女の子達。

一度二度寝た女の子から、顔も知らないような女の子まで、とにかく沢山のチョコレートを貰った。

ザックスはもともと甘党ではないし、本当に欲しい子からは貰えないのだから、

それらになんの愛着も持てはしないのだが。

笑顔だけは上手に作って、感謝の言葉を述べながら、その好意をありがたく受け取る。

最低かもしれないが、体の方ではお世話になるかもしれないから。

 

そのチョコレートの袋の中に――自分がクラウドに用意したそれをひとつ、いれて。

あくまでさりげなく、キモチがばれないようにと忍ばせる。

チョコレートひとつで、何を恐れているのか。

あまりに滑稽に思えるけれど。

 

 

 


 

「クラ、チョコ好きだろ?これ全部やるよ。」

「…どうも。」

チョコレートに挟まったカードの名前を読みながら、ザックスは手先が震えた。

どんな女の子を口説くときだって、こんなに緊張したことはない。

「んでこれはシュゼットちゃん…あ、これこれ、これうまいぞ?食ったことある?」

自分の買ったチョコレートを、クラウドに手渡す。

ちょっと店を通りかかったから買ったんだ、とかなんとか。ザックスがそんな言い訳をしようとしたとき。

 

「こんなの、いらない!」

その青いチョコレートの箱は、ザックスの胸に投げつけられた。

――胸が、痛い。

その小さな箱が、まるで重い鉛で出来ているかのよう。

それほどの、衝撃を感じた。

「なに、クラ。どしたの。チョコ好きだろ?」

何でもないかのように、必死で動揺を隠すけど。

どうしてか言いようのない虚しさが襲って、柄にもなく、涙が出そうだった。

 

「俺だって、貰った、からいい。いらない。」

「…誰に?」

ザックスは、背筋に冷たい汗を感じる。それは、恐怖だろうか。

「さあ。廊下で無理やり渡されたり、ロッカーに入ってたりしたから、誰かは知らない。」

「……それって、男からじゃねーの?」

予測ではない。ただ、ザックス自身がクラウドにそういう邪な感情を抱いていたから、恐かったのだ。

自分同様に汚い欲を持った男が、クラウドを奪おうとしているのではないかと。

 

「悪いかよ。」

「別に。でも男からチョコ貰って、喜んでんのってどーなの?」

恐れていたことが当たって、言いたくない言葉まで出てしまう。

クラウドを怒らせるだけだと、わかっているのに。

「喜んでなんかない!」

「でも、食うんだろ。」

クラウドは拳を強く握りしめて、かなり怒っているように見える。

 

「ザックスには関係ない。」

その言葉。今まで、何度も何度も、クラウドから聞いてきた言葉だ。

いつもなら笑って流せるのに、ザックスはそう出来なかった。

「…オマエって、二言目にはすぐそれだよな。関係ない、関係ないって。」

「なんでザックスが怒ってんの。」

「怒ってんのはオマエだろ。」

クラウドが怒るも、当然だ。

今まで一度だって、ザックスはクラウドにこんな嫌味のようなことを言ったことがない。

クラウドに本気で腹を立てたことも無いし、どんな憎まれ口だって、それが彼の不器用な性格だと

理解していたから、可愛くて仕方がないと思っていた。

でも今、ザックスにそんな余裕など無かった。

…胸の中がざわつく。喉が渇く。どうしようもなく、焦燥感を覚える。

 

クラウドの沈黙が耐え切れず、ザックスは追い立てるように言ってしまう。

「別にオマエが誰からチョコ貰っても、俺には関係ないよ。でも、なんの経験もない子どものくせに

浮かれてんなって言ってんの。」

「なんだよ、それ。バカにしてんのかよ。」

クラウドは心底心外だ、という顔をする。

このまま続ければ、きっと彼を失望させてしまう――そんな不安が、よぎった。

「してない。でも、本当のことだろ?クラウド、女と付き合ったことあんの?いや、オマエの場合、男か?」

殴られる、とわかっていて、最低な一言を吐いた。

むしろ自分を殴って、自分のこのドロドロあふれ出てくる黒い感情を、止めてほしいと思った。

 

バシン!

 

予想通り頬を打ったその手は、思った以上に重く、心を引き裂くような痛みすら感じた。

クラウドが、泣いているって気付いたから。

 

今ならまだ――謝れば、元の二人に戻れるかもしれない。

ごめんごめん、と両手を合わせて、いつもの軽い調子で笑って誤魔化せば。

そうしようとする考えが、一瞬頭をよぎったのに、しなかった。

出来なかったんじゃない。しなかったのだ。

クラウドの一言が、あまりに許せなくて――

 

「ある。経験ぐらい、ある。」

 

頭が、真っ白になった。

そしてその後すぐに、抑えがたいイラツキを覚えた。

こんな気持ちは初めてだった。彼が『憎い』と思ったのは。

今までどんなクラウドの言動にも、憤りを感じたことなんてなかったというのに。

後から思えば――それは、ただの子どもじみた『「嫉妬』でしかないのだけど。

 

恐い。あまりに、恐かった。

クラウドが、他の男のものになってしまうこと。

クラウドが、そのキレイな体を汚してしまうこと。

クラウドが、その心を汚してしまうこと。

 

―――人は誰のものでもない。

そうわかっているはずなのに、抑えがたい独占欲が湧き上がって。

気付けば、彼の華奢な腕を強引にひいて、ベッドに押し倒していた。

何か、大切に守っていたものが、音を立てて壊れていくような気がしたけれど。

もう、止まれなかった。

「好きなんだろ?男に抱かれるのが。」

抵抗するクラウドを、力任せに抑えつけて。その掴まれた手は、血の気がひいて白くなっていた。

「どれだけうまいのか、教えてくれよ。お前の中で、さ。」

 

そうして。

ほとんど犯すように、彼を抱いた。

たとえ一瞬でも、彼が自分のものになるなら。

 

 

――それが、愛じゃなくてもいいと思ったから。

 

 

 


 

もしもクラウドをこの胸に抱けるなら。絶対に優しく、優しく愛してあげるのに、と。

不可能なことだと知っていたけれど、そんなことを馬鹿みたいによく考えていた。

その相手を慈しむ気持ちは、いったいどこに行ったのだろう。

初めてクラウドの中に入ったとき、その快感に我を忘れた。

ザックスの上で腰を振るクラウド。

真っ白なものだと思っていたのに、その小さな尻が自分の上を跳ねる姿は、あまりに淫靡で。

その愛しさに。憎らしさに。

どこまでも食らいつくしたいと、ザックスは本気で思った。

 

貪るように、クラウドにキスをする。

クラウドの顔が横をむいて、それを拒絶されたことを理解したとき、ひどくイラついた。

その折れそうな細腰をつかんで、下から力任せに突き上げる。

「んあっ!んあっ!や、やめ」

「気持ちいい?今までも、こうやって男に突かれて喜んでたんだろ?」

他の男には許すのに、自分はそれが叶わない。

煮えたぎるような、嫉妬。

 

「こう、やってさ!」

クラウドをベッドに縫い付けるように押し倒し、体全体で打ちつけるように腰を動かす。

「いた、いた…ぃ!」

痛がるクラウドにもお構いなしに、欲望のままに突き上げて。

他の男の痕を消すように、クラウドの体に自分だけを刻み付けたくて、好き放題に中を犯す。

「ざっく…やめ…」

クラウドの足の間からは精液が泡だって、ぐちゃぐちゃと濡れた音が響く。

 

ずいぶんと、ひどい扱いになっているというのはわかっていた。

こんなに激しく女の子を抱いたことなどなかった。

もし、クラウドを抱けるなら、きっと宝物を扱うように優しく抱くだろうと思っていたのに。

恥ずかしくなるほどのロマンチックなムードを作って、ゆっくり体中を愛撫して。

何度も何度も愛を囁いて―――本当は、そうしたかったのに。

「俺は嫌で、他の男はいいのかよ?なあ、」

クラウドが他の男のものになったという事実が、まるで彼に裏切られたような気がして。

 

逃げようとするその体を抑え付け、クラウドの足を肩にかける。そのまま前のめりなって折り曲げる。

そして、全体重を乗せるようにして、自身をクラウドの奥まで突き刺す。

「きゃあん!」

「…へえ?ここがいいんだ?」

どうやらクラウドは、その奥まった箇所が感じるらしい。

「あ、あ、だめ、そこや…」

その甘い声に気をよくして、そこばかりを狙って、これでもかというほど突き上げる。

奥を突くたびに、クラウドは可愛い顔を快感に歪ませ、必死で顔を左右にふる。

「は、あ、あ、やめ…!ざく、」

「もっと突いてほしいの?」

「ちが…!あぁっ?!いや!そんなにしちゃ…だめぇ!」

クラウドからぽろぽろ流れる涙に、自分でも信じられないほどの興奮を感じて。

夢中でその中を穿った。

 

「アァ!」

急に中が、まるでザックス自身を搾りあげるかのように締まり、クラウドが達したのだとわかる。

「クラ、男に突かれていっちゃったんだ?」

「あ、あ、あ…」

「後ろに突っ込まれてイクなんて、本物の淫乱だな。」

自分の雄によって、彼が達したという事実に、すさまじい高揚感を抱いた。

なおも興奮して、その吐精後の快感に震える小さな体をゆさぶる。

 

「いやぁぁーっ」

口からは厭らしく涎がつたい、意味のない稚拙な抵抗を試みる彼に、悪魔のような言葉を吐く。

「ひとりでイっちゃうなんてひどくない?俺も出していいでしょ?」

「だ、す…?」

別に許可なんて、とるつもりはなかった。

たとえ『NO』といわれようとも、彼の中に全て吐き出すつもりだったから。

 

「ざっくす、の…ミルク…?」

「……おまえ、ほんと煽るのうまいな。」

舌ったらずなその一言に、異様な興奮を感じ、自分の下半身の体積がさらに増すのを自覚する。

ますます勢いをつけて、腰を打ち付ける。

余分な肉が一切なく、少女のように綺麗に痩せたその体は、穿つたびにその腰骨があたって、

わずかな痛みすら感じる。

でもそのあまりに細い、壊れそうな体に、これまでにないほど欲情していた。

 

「あん!あん!い、やぁ!たすけ、て

まるで女のように――いや、女よりも妖艶で、卑猥で、甘い声。

求められているような、錯覚をする。

「なか、やだ!こわい、よ…!」

嫌がるクラウドを、ザックスは冷たい眼差しで見下ろす。

今まで何人の男が、彼の中を汚してきたのだろうか。

「なに言ってんの。ほ〜ら、クラの大好きなミルクだぞ?こぼすなよ!」

「いや!いや!いやだー!」

 

逃げようとするその腰を、折れてしまうのではというほど力強くつかんで、最奥へと突き入る。

自分を包むその柔い肉が、千切れそうなほど締め付けてきて、それに抗うことなく、思い切り射精した。

「い、や…、や…」

クラウドの体は弓のように反り返り、ガクガクと痙攣を繰り返す。

目を見開いたまま、そのアイスブルーの瞳からは涙が次々と流れる。

ザックスはそれをどこかぼんやりと眺めながら、少しの躊躇いもなく、クラウドの中で全て出しきった。

 

奥が、熱い。

二人ほとんど同時にイッたらしく、クラウドの中はすごい速さで収縮を繰り返していた。

その蕩けそうなほど熱い中が、ザックスを求めるかのように、ぎゅうぎゅうと締め付ける。

それがまるで。

――愛のようだ、なんて。

どうしようもない快感の余韻にひたりながら、そんな風に考えてしまった。

そして、ザックスは。絶対に叶わぬことを思ったのだ。

 

 

クラウドに愛されたい、と。体だけでなく、その心まで全て欲しいと。

 

 

明日になれば、後悔すると知っていた。

知っていて、それでもなお、ザックスはクラウドの体を求め続けた。

おかしくなりそうな快感と、泣きたくなるほどの愛しさに、溺れた。

クラウドの中で何度も果てながら、その白い体を己の欲で汚す。

そうすることでしか満たされない、独占欲――

 

 

 

 

……明日がこなければいいのに、と。馬鹿なことを、何度も何度も願いながら。

 

 

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C-brandMOCOCO (200938

 

 

 

 


 

 

 

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