*ご注意*
@ブログで連載していた、頭の悪い小話です。
Aザックスが、あらゆる意味で最低です。
Bコメディだったりシリアスだったり…意味不。
C最終話18禁につき、ご注意ください。
胸が痛くて、目の奥が熱くて、呼吸さえも出来やしない。
…そういうの、何ていうんだろう。
この病を、なんと呼んだら。
―症状その1―
うわ言のように、名前を繰り返す。
言うなれば、それは不治の病――
女の子が、好きだ。
可愛くて、よく笑って、いい匂いがして。体を重ねれば、気持ちよくて。
女の子が、好きだった。
……あの子に、会うまでは。
バシン!
乾いた音がして、すごい衝撃が頬に走った。
「いい加減にしてよ!」
「え?なにが?」
安いラブホテルの一室。
安っぽいショッキングピンクのシーツの上。
なんだか、面倒くさそうなことに発展する予感がする。
つい吐きたくなるため息を押しとどめて、体を起こした。
「急にどうしたの。俺、殴られるようなことした?」
女の力なんて大したことはないが、それでも、意味もなく殴られたくはない。
それも、行為の最中だというのに。
突然の彼女の所業に、すっかり萎えてしまった。
「私はアンナだって言ってんでしょ!クラウドじゃない!」
「は?」
その名前を聞いたとき、ドキリとした。
なんで今、その名前が出てくるのか。
…そもそも、彼女にその友人の話をしたことなどない。
「俺、クラウドのこと話したっけ?」
「自覚ないの?最低ね。」
「だから、なにが。」
彼女は床に散乱していた衣服の中から、真っ赤な下着を掴み、身につける。
黒のツイードワンピースを足から履き、背中のファスナーを窮屈そうに上げる。
そんな彼女をどこか無感情に眺めつつ。
ファスナーを上げるのを手伝ってやるべきだろうかと考えて、止めた。
女の子って、服を脱がすときは興奮するけど、着るときはどうも滑稽に見える。
ますます萎えて、すっかりそういう気分ではなくなってしまった。
「…これからだってときに、なんだよ。」
少しイラついた、というのが本音だ。
ついさっきまで、滞りなくことは進んでいたはずだ。
5つ星レストランで食事をして、ショッピングに付き合ってあげた。
正直、女の子の買い物に付き合うのは、あまり好きじゃない。
退屈だし、いちいち女の子に「どっちがいい?」とか意見を求められるし、
正直どっちだって興味ないし。
結局、高い方を買うんだと、答えはわかっている。
案の定、今回だって安くないブランドバッグを強請られた。
「これ、どうしてくれんのよ。アンタのせいで、履けないじゃない!」
彼女は癇癪を起しながら、しわくちゃなストッキングを、ゴミ箱に投げ捨てる。
そういえば、脱がすときに少し乱暴にしたから、破れてしまった気がする。
(そりゃ、悪いことしたけどさ、)
でも…食事も奢ってあげたし、バッグも買ってあげたじゃない。
それなのに彼女は、たかがストッキング一枚で恨みがましくないか。
――とは、言わない。女に口で勝てる気はしないし、面倒だ。
「ごめんごめん」と思ってもいない謝罪の言葉を口にしながら、煙草を一本咥える。
どうやら彼女は、本気で帰るつもりのようで、ポーチから取り出した口紅を塗り直している。
いったい、何が彼女の気に障ったんだろう。
そして、この半日は何だったんだろう。
どうせヤれないなら、金も時間も費やすんじゃなかった。
…もっと、一緒に過ごしたい相手がいるのに。
今更引き止める気もないし、イラつきを言葉で表現するのも、馬鹿馬鹿しい。
「んじゃ、ばいばい。気をつけてね。」
煙を吐きながら、少し心の棘を取っ払う。
嫌味でなく、そのまんまの意味で声をかけた。
もう二度と会うこともないだろうし、さよならぐらいちゃんと言っておこう。
「クラウド、クラウドって…」
「え?」
「クラウド、クラウドって…そればっかじゃない!
そんなにその子とヤりたいなら、勝手にすれば?!」
「――あ、」
「ちょっと顔がいいからって。女をばかにしないでよ!」
バタン!と激しい音をたてて、ドアから出て行く彼女の背を見送った。
結局、ファスナーが最後まで上がってなかった。
彼女の場合、どう見ても6号じゃなくて9号サイズだろ。
せめてワンサイズ上げたらいいのに、というのは余計なおせっかいだな。
…それはともかく。
――またやってしまった。
いったい、これで何回目だろうか。
金髪の可愛い女の子に、ひっぱたかれるのは。
…繰り返すは、たった一人の子の名前。
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