C-brand

 

 


 

 

 



 

  

 

*ご注意*

@ブログで連載していた、頭の悪い小話です。

Aザックスが、あらゆる意味で最低です。

Bコメディだったりシリアスだったり…意味不。

C最終話18につき、ご注意ください。

 

 

 

 

―症状その2

独占したくて、喉がカラカラ。

 

 

 

セックスの最中に、愛の言葉は邪魔になる。

「好き」とか「愛してる」とか、口にするのも口にされるのも萎える。

そこがいいとか、どうしてほしいとか、そういう言葉ならいいんだけど。

 

女の子が求めるから、リップサービス程度に好きという言葉を使うことはあるけど、

あんまりくどい場合は、正直勘弁。その子とは、もう寝ないだろう。

 

それに、名前を呼び合うのも好きじゃない。

相手の名前がアンナだろうとジェシカだろうとエリザベスだろうと、

ただ金髪の可愛い子だってだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

実のところ、ベッドの相手が目まぐるしく変わるせいで、どの名を呼んでもしっくりこないし。

それに、女の子に名前を呼ばれて、距離を縮められるのも困る。

 

女は喘いでいるだけでいい。それが一番、興奮する。

 

 

 

 

――と、思っていたのに。

どういうわけか、最近ずっと。

行為の最中に、必ず特定の子の名前を呼んでいる。…らしい。

「らしい」って他人事な表現しかできないのは、それは俺にとっては無意識のことだから。

自覚がないんだから、責められるのはしょうがないにしろ、不可抗力だと思う。

好きで呼んでいるわけじゃないし、理由だってわからない。

どうしてセックスのときに、愛の言葉でもなくて、相手の子の名でもなくて、

――友人の名を口にしているのか、なんて。

 

彼女たちの金髪や白い肌が、友人を思い出させるからか。

そもそも、いったいいつから、同じような子ばかり求めるようになったんだろう。

「あの子」によく似た、金の髪で、白い肌で、細い子ばかり――

(今回の子は、脱いでみたらそんなに細くなかったかも。)

それにちょっと物欲が強いし、こちらが引くぐらい積極的だった。

 

もしも、彼だったら。

バックを買ってやるなんて言ったら、きっと面白いぐらいに慌てて、遠慮してしまうのだろう。

そういう控えめなところが、新鮮なんだけど。

 

…もしも、彼だったら。

ベッドでなんか、きっと目も合わせてもらえない。

顔を両手で隠して、始終恥ずかしがってそうだ。

そういう、うぶなところがまた――

(って何考えんだよ!)

 

どんなにクラウドの見目が少女のようであっても、彼は男だ。

まばゆい金髪で、透き通るような白い肌で、折れそうな細腰で、

繊細で、生意気で、あまのじゃくで、笑顔が可愛くて、それでもギリギリ、男だ。

 

そして、トモダチだ。

 

 

 

 

 


 

 

帰宅して寮の部屋のドアを開けると、なるべく物音をたてないように廊下を歩く。

(あいつ、いるかな…)

正直、顔を合わせるのはきまずい。

きっと今、俺からは酒や女の臭いがするはずで、潔癖な彼はそれを嫌がるかもしれない。

だけどもっと最悪なケースは、彼がまだ帰宅していないという状況。

 

時間は、深夜2時。

帰宅していなければ、外泊は決定的で、それが意味するのは――

自分がしてきたことを棚にあげて、何を心配しているんだろう。

 

リビングにさしかかったところで、思わず足を止めた。

扉の隙間から、わずかな明かりが漏れ、小さな雑音が聞こえる。

着けっぱなしのテレビが、砂嵐を映しているのだ。

グレイのソファの背もたれから、金髪が飛び出ているのが目に入った。

 

「…クラ、」

 

そっと声をかけるが、返事はない。

眠っているんだろう。小さな可愛い寝息が聞こえてくる。

 

足音を立てないように、と。そっとソファに近寄り、クラウドの顔を覗きこむ。

テレビの光がクラウドの顔を僅かに照らし、長い睫が陰を作っている。

(―――可愛い。)

いったいどうして、こんな可愛い生物が存在するのかわからないぐらい、可愛い。

それは、認めてもいい。

男である以上、だからどうってわけじゃないけれど。

そこらの女の子が束になっても適わないぐらいに可愛い、ということは認める。

 

「風邪、ひくぞ?」

 

わざと小さな声でそう声をかけたのは、本音では起きないでほしかったから。

(少しだけ…)

少しだけ、だから。ほんの少しだけ、触れてみるぐらいいいだろう。

(減るもんじゃなし。)

彼の右頬に、そっと手を伸ばす。

吸い付くような肌理の細かい肌が、指先に感じられて。気持ちがいい。

(もう少しだけ。)

まだ、我慢できるはずだ。

彼の唇に、指の腹で触れる。

 

クラウドの唇は、薄いけれど柔らかい。

当然ながら化粧などしていないのに、綺麗な桜色。

その唇の間から漏れる花みたいな甘い吐息が、指先にかかって。

 

たまらない。どうしようもなく、たまらない。

 

湧き上がる衝動に抑制がきかず、思わず自分の唇を重ねる。

いや、重ねようとした、そのとき――クラウドの瞳が開かれて、目が合う。

「え……わぁっ?!」

情けない声が出てしまったのは、彼ではなくて自分の方だった。

あまりに、タイミングが悪い。

こっそり唇を奪おうとしているところを、見つかってしまうなんて。

 

俺と違ってクラウドは驚いた風でもなく、無表情のままこっちを見てくる。

もしかしたら、最初から…あるいは途中から、起きていたのか?

鼓動が忙しなく鳴って、目があらぬ方向に泳ぎまくって、これ以上ないほどに動揺する。

とにかく、冗談にしなければならなかった。

…そう思うのに、いつもの軽口が出てこない。

「クラウド、ごめん、俺。」

ただ嫌われたくなくて、思わず謝罪の言葉が出てしまった。

謝ってしまえば、冗談では誤魔化せなくなる。認めてしまうことになるというのに。

 

「…臭い。」

「え?」

「ザックス、酒くさい。それに…」

クラウドの眉が寄せられて、嫌悪を表す。きっと、気付いたのだろう。

酒の臭いだけじゃない、鼻につく女の香りに。

 

「…彼女?」

「そんなんじゃ、ないけど。」

正確には、彼女じゃない。何回かベッドを共にしたことはあるけど。

「何が違うんだよ。その人と、したくせに。」

正確には、今回はしていない。しようとしたけど、未遂だった。

 

 

「お前だって。…お前だって、今日、女の子とヤったくせに。」

 

 

自分の後ろめたさを、人に擦り付けるのは間違っている。

それはわかっているけれど、元はといえば、

「お前が女の子とデートするっていうから。…俺と、約束してたのに。」

本当は今夜、俺はクラウドを食事に誘っていた。

彼が好きだという、イタリアン料理。クラウドを連れて行きたい店があって、

本当は一か月も前から予約していた。クラウドには、言っていないけど。

 

下心とか、そんなのがあったわけじゃない。

ただ、たまには友人と、いつもよりワンランク上の食事を楽しむのもいいかもしれない。

それだけの話だ。…さすがに、無理があるだろうか。

 

「何いってんの?約束なんか、してなかっただろ。」

「…まあ、そう、なんだけど。」

クラウドの言葉どおり、約束はしてなかった。

約束はしていなかったけど――約束しようと、一か月前から計画していた。

食事ひとつ誘うのに、どうしてこんなに迷ってしまったんだろう。

彼とはいつも、居酒屋か定食屋ぐらいにしか行かないもんだから、

夜景の見えるレストランに誘うのが気恥ずかしかった。

それに、変に勘ぐられるのが怖かったし、断られるのも怖かった。

今思えば、俺らしくない。

そうして一昨日、ようやく誘ったときには、クラウドには先約があって。

俺はあっさり断られてしまった。

 

だから別に、クラウドに非はない。そんなのはわかっているけど。

クラウドの約束の相手というのが、ちょっと美人で有名な受付嬢で――

少し、嫉妬した。羨ましいと思った。

クラウドが美人に言い寄られていることが、じゃない。

 

クラウドにハートの絵文字をこれでもかというほど使って、

彼を誘い出すことに成功した、その女の子が。

 

「で、その子と、うまくいったのかよ。筆おろししてもらった?」

「やめろよ。汚い。」

 

彼は、こういう話題が嫌いだ。

潔癖で、ストイックで、真面目なクラウド。

今日のデートだって、受付嬢の子が強引に誘ったのであって、

クラウドが乗り気じゃなかったことぐらい知っている。

ベッドインはおろか、たぶんキスだってしてないだろう。

(たぶん。…いや、絶対。)

そうだと思いたい。

 

「あの子さ、けっこう軽い感じじゃん。

ついにクラウド食われちゃったかな〜って、心配してんの。」

冗談めかして言うけど、本当は気になって仕方がなかった。

クラウドが、今日彼女と何を話し、何を食べ、どこまでしてきたのか。

「そんなの、ザックスには。ザックスには、関係ないだろ…っ!」

クラウドは、声に怒りを含ませる。もう少し、言葉を選ぶべきだったかもしれない。

だけど、子供じみた独占欲や嫉妬心がわき上がって、

 

 

「関係ないもんか。」

 

 

お互いが誰とデートしようと、キスをしようと、肌を重ねようと、関係ない。

だって二人は、お互いを縛れる恋仲などでは当然なく、ただの友人同士だ。

それは、理解できる。理解はできるけど、賛成できない。

だって、

 

 

「トモダチ、だろ。独占して何が悪いんだよ。」

 

 

めちゃくちゃなことを言っている。

傲慢だし、独りよがりで、自分勝手だ、そんなのは知ってる。

だけど、面白くないものは、面白くない。

クラウドが他の誰かにうつつを抜かして、想いを寄せて、笑いかけて。

そんなのって全然楽しくない。あまりに、楽しくない。

 

「……もう寝る。」

 

俺の発言に呆れたのか、言い争いに疲れたのか、もうこれで話はおしまい、と。

さも興味なさそうな顔で、クラウドはリビングから出ていこうとする。

それを呼び止めようかどうか迷っているうちに、彼は寝室へと入ってしまう。

 

いったい、何でこんな言い争いを始めたのだろう。

トモダチ同士がするには、少しずれた争いだとは思う。

お互いが誰とデートしただとか、誰と寝ただとか、そんなのはむしろ酒の肴になるような

楽しい話題のはずで、批判し合うことではない。少なくとも、他の友人たちとはそうだ。

 

寝室のドアを開けようとして、躊躇った。

寝室にはそれぞれのベッドがあって、二人、同じ部屋で寝ている。

だけど、喧嘩しているときに同じ部屋の空間にいるのは気まずいし、それ以上に。

…今ここに入ったら、取り返しのつかないことを、彼にしてしまう気がした。

結構、強いワインを飲んだから。

酒がまだ抜け切っていないのかもしれない。

 

(…明日、謝ればいいか。)

 

明日は早く起きて、ちょっと豪華な朝食を作ってあげよう。

デザートにクラウドの好きなクレープでも焼いて、機嫌をとればいい。

それでも膨れっ面だったら、土下座でもしよう。

結局、彼は優しいから、許してくれると知っている。

 

女の子の背中はあっけなく「ばいばい」と見送れるのに、

クラウドに限っては、どうしてかそうはいかない。

滑稽でも繋ぎ留めたくなってしまうのは。

…やっぱり彼が、大切な「トモダチ」だからだろうか。

  

 

 

トモダチ、トモダチ、トモダチ。

そう繰り返して、何を必死で隠したいの?

 

 

 

 

 

 

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