*ご注意*
@ブログで連載していた、頭の悪い小話です。
Aザックスが、あらゆる意味で最低です。
Bコメディだったりシリアスだったり…意味不。
C最終話18禁につき、ご注意ください。
―症状その3―
死ぬときは、あの子の膝枕で。
計算が、狂った。
本当は、クラウドが目覚める前に起きて、髪型もばっちり整えて、朝食は6品作って、
「クラウド、おはよう。お寝坊さんだな!」と、爽やかに声をかける予定だった。
その予定だったのに―――いっこうに、起き上がれない。
ひどい汗だ。それに頭がガンガン叩かれるよう。関節も痛い。
昨夜は、結局寝室に入れず、リビングのソファで夜を明かした。
とりあえずシャワーだけ浴びて、髪を乾かすのもそこそこに、
毛布の一枚も掛けずに(しかも上半身裸で)眠ってしまった。
それが、いけなかった。…間違いなく。
目覚めは最悪だった。
体力が自慢で、ここ数年は風邪なんかひいたことなかったけど、
たぶんこれが世間でいうところの風邪。ってやつだろう。
それも、かなり酷い――どうあっても起き上がれなくて、ソファに突っ伏したままだ。
ジリリリリリリ!
寝室で、目覚まし時計が鳴っている。
(起きなくちゃ、)
俺は非番だからいい。でも、クラウドを起こしてあげなくてはいけない。
クラウドは低血圧で、朝がとことん弱い。
毎朝、俺が起こしてあげるのが、ほぼ日課になっている。
遠征先でだって、よっぽどの戦下でない限り、モーニングコールは欠かさない。
(美人は低血圧…って、本当なんだな…。)
と、少しずれたことを考えながら、重い鉛のような体を無理やり起こして、
のっしのっしと寝室へと足を向ける。
廊下はリビング以上に寒くて、ひやりとしたフローリングの冷たさが、体を震えさせる。
寝室のドアを開けると、やっぱりというかなんというか…
低血圧な美人は、ベッドの上で毛布にくるまったままだ。
少しだけ毛布から飛び出た左足が、細くて白くて美味しそうで、
(って、何考えてんだよ!)
どうやら、思った以上に重傷らしい。風邪の症状が、だ。
「…クラウド、起きろよ。」
喉を痛めているため、思ったより声が出なくて、もう一回口にする。
今度は、声を張り上げて。
小さな声で起こしても、低血圧な美人を夢の中から連れ戻すのは難しい。
「おい、起きろ!」
それが、なんだか粗野な響きに聞こえて、自分でも驚いた。
声も低いし、掠れていて、まるで怒鳴り声。
クラウドを怒鳴りつけるなんて、俺の中では絶対にありえないというのに。
クラウドはびくりと体を振動させて、もぞもぞと毛布から顔を出す。
そして、ひどく怯えたように眉を下げた。
(待て待て、違うから!別に怒ったわけじゃ――)
「昨日のこと、怒ってるの…。」
ぽつりと呟くクラウドは、俺の答えを待つこともない。
ベッドから出て洗面所へと向かう彼は、明らかにいつもの彼じゃない。
いつもだったら、「あと5分」を連呼しながら、二度寝・三度寝は当たり前。
少なくとも30分は、駄々をこねて起きないというのに。
目をこすっていやいやと首をふる彼がまた…
どこか興奮を呼ぶというか、可愛かったりするのだけど。
そんなクラウドが、すんなり起きて身支度を始めたのは。
俺に怯えているのだろう。あるいは、俺に怒っているのか。どちらにせよ、原因は俺だ。
朝から、最悪な空気を作ってしまった。
(昨日のこと、まだ謝ってないじゃん、俺。)
まずは一番最初に、頭を下げるべきだった。
『おはよう』の挨拶のついでみたいに、さりげなく。
だけど、目の前がぐるぐる回って、足ががくがく震えて――
もはや立ってなどいられない。
自分のベッドにダイブして、クラウドが寝室に戻ってくるのを待つ。
顔を洗った後、クラウドは着替えに戻ってくるだろう。
一瞬だけ、意識がとんだ。
絹擦れの音がして、彼が着替えてるのに気付く。
わずかに瞼を開けると、彼の綺麗な背中が露わになっている。
細いウエストライン。細くて長い脚。後ろ姿は、可憐な少女のようだと思う。
男の着替えなんか、見ていて楽しいわけがない。
…と、自分に必死で言い聞かせて、いつもなるべく見ないようにしてきた。
だけど、これは事故だ。
見たくて見ているわけじゃない。
目を開けたら、たまたまクラウドが服を脱いでいて、首の位置を変えるのも面倒で、
どういうわけか目が離せないってだけで。
だから別に、着替えを盗み見ているわけじゃない。断じて違う。
(ほっせえなぁ…)
女の子だって、こんなに華奢じゃない。
丸みのない性別だからこそ、そう感じるのかもしれないけれど。
(触って、みたい…かも。)
手入れなんかしていないはずなのに、無駄毛もシミも見つからない。
透き通ってしまいそうな白い肌。
(あ、パンツをもうちょっと、下げてくれれば。見えそう…)
小さな形の良い尻を、まじまじと観察してしまう。
黒のシンプルなボクサーパンツが、ウエストが細すぎるためか少し下にずり落ちて…
控えめな尻の谷間が、チラリと見えた。
熱のさいか、浅ましい欲望のせいか、顔が熱い。
ついでに下半身の方も、ざわざわと騒ぎ出す。
朝なんだから、この生理現象だっておかしいことじゃない。ってことにしておく。
(あ、着ちゃった)
クラウドは俺の視線には全く気付かず、不器用な手つきで軍服を着こむ。
一番上のボタンまでしっかりしめて、そのストイックな着こなしはとても彼らしい。
ボトムが緩いのか、ベルトをきつく締め上げるクラウド。
(あのベルト、俺が穴開けてやったやつだよな。)
クラウドほど細い体系は、軍では当然規格外で、そのサイズに合う服もベルトもない。
こないだ鉄串で、ベルトを3つ分、余計に穴を開けてあげたのだ。
(そうだ、こいつに朝めし、食わせないと…。)
一般兵の訓練は、体力的にかなりハードだ。
こんなに細いクラウドの体であれば、朝食をしっかり摂らなければもたないだろう。
そんなわけで、いつもクラウドの栄養管理には、気を遣っているのだけど。
「…めし、ないから。」
今朝は、どうしても作れなかった。というか、起き上がれない。
だから神羅ビルのラウンジでもいって、軽食でもいいからちゃんと摂ってほしい。
肩当てまで付け終えたクラウドが、こちらを振り向いて、傷ついたような顔をした。
「そう……」
(これじゃまるで、)
――俺が、突き放したみたいじゃないか?
「早く、いけよ。」
早く行かないと、ラウンジの和食メニューが売れ切れてしまう。
あそこでは一番栄養バランスがいいし、胃にも優しいメニューなんだ。
…と、全てを伝えれば問題ないはずなのに、どうあっても言葉たらずで。
「ザックス、俺…」
クラウドが、何か言おうとしている。
だけど、結局言わずじまいで――彼は、部屋を後にした。
シン、と静まりかえった寝室で。
玄関のドアが静かに閉められる音を遠くで聞きながら、
ぼんやりとした頭で、先ほどのクラウドの表情ばかりを思い浮かべる。
何でクラウドが傷ついた顔をしたのか、自分がいかに言葉不足であったか、
そのへんのまともな判断ができず、ただ疑問符を頭に並べるばかりだ。
そのとき、携帯が控えめに鳴る。
ポケットに入っていたそれをおもむろに取り出し、画面を開くと。
『ごめん。』
今家を出ていったばかりのクラウドから送られてきた、タイトルだけの簡素なメール。
それを目にした瞬間、自分の過ちに思い当たった。
(俺、謝ったけ?)
(飯を作ってない理由は?)
(ラウンジで飯くえって、ちゃんと言ったか?)
それ以前に。
(…おはよう、すら言ってない。)
なんという言葉を、クラウドに返信すればいいのだろう。
目の前の世界がぐにゃぐにゃと歪んで、気が遠くなっていく。
もしかして、もしかして――
俺はこのまま、死んじゃったりするのかもしれない。
クラウドのいない部屋で、ベッドの下のエロ本の始末すらできないまま。
ただクラウドの名前を呼びながら、くたばるのだろうか。
「クラ、ウド…。」
でも、死にたくない。
クラウドに一刻も早く謝りたいし、ベッドの下のエロ本だって処分しないとだし、
そういえば最近女の子とエッチしてないし、できるなら女の子の胸より
クラウドの可愛いお尻を拝んでみたいし、そんなこと言ったらきっと「この変態!」とか
生意気なこと言う唇を奪ってみたいし、クラウドのアンダーヘアは金色なのか確かめてみたいし、
折れそうな細腰を引き寄せてクラウドの全てを奪ってしまいたいし。
……それにやっぱり、あの子を泣かたくないし。
だから俺はまだ、死ねない。
少なくとも、クラウドのいないところでなんか、死んでたまるか。
――せめて、クラウドに一言。伝えなくちゃ、と。
遠のいていくギリギリな意識の下で、かろうじて送信できた一通のメール。
『オマエのひざで、死にたい。』
どういう判断力をしていたのか、見当違いな内容だった。
後から冷静になって考えれば、それはあまりに恥ずかしい内容だ。
もしも俺がこのまま死んだら
俺の貯金も、エッチな本も――全部やる。
それぐらい、君が大好き。
|