*ご注意*
@ブログで連載していた、頭の悪い小話です。
Aザックスが、あらゆる意味で最低です。
Bコメディだったりシリアスだったり…意味不。
C最終話18禁につき、ご注意ください。
―症状その4―
ふうふうしたお粥が食べたくなる。
何か冷たいものが、頭を覆って。
(気持ちいい…)
さらさらと前髪を撫でられるのが、少しくすぐったい。
(…だれ、だ?)
だいぶ、頭の痛みが引いた気がする。悪寒もない。
まだ体中が熱くて汗ばんでいるけど、そんなに悪い気分じゃない。
「大丈夫…?」
「……うん、だいじょーぶ、だいじょーぶ。」
考えなしに返事をして、我に返った。
「おわ?!クラウド?!」
これはいったい、どういうことか。
可愛く眉を下げたクラウドの顔が、すぐ目の前にある。
どうやら俺が横になっているらしいベッドに腰かけて、俺の顔を覗き込んでくる。
その距離、およそ10センチ。
クラウドの甘い息が頬に当たるほどの、美味しい距離だ。
(ちょっと首あげれば、キスできそうだな…)
むしろこの果実のような桃色の唇に、食いつきたい。
そう思うのはたぶん、熱のせい。
熱があるときって、瑞瑞しい果物が欲しくなるから――
…いや、さすがにそれは、無理があるか。
「ザックス、俺のせいで、風邪ひいちゃったんだね。言ってくれればよかったのに…」
「いや、オマエのせいじゃ、ゲホゲホ!ない、し…」
俺が少しむせるだけで、クラウドは目に涙を浮かべる。
こんなに大きな瞳をウルウルさせる生き物なんて、
クラウドとチワワぐらいしか知らない。
「俺のせいだろ。ベッドで眠れなかったの、俺のせいだ。」
俺のせい、俺のせいってクラウドは言うけど。――それを言うなら。
クラウドに、こんな辛そうな顔をさせているのは俺のせいなわけであって、
よっぽど罪深いんじゃないだろうか。
「んな顔、すんなよ。」
眉を下げるクラウドも可愛いけど、やっぱり笑ってる方がいい。
ふわふわの髪を撫でてやると、少し彼の眼元が緩んだ。
「ちゃんと、メシ食ったか?…朝、どうしても起きれなくってさ。」
ごめんな、と素直に謝罪すると。クラウドは、慌てて首を横に振る。
「俺の方こそ、体調悪いって気付かなくてごめん。俺、ザックスが怒ってるのかなって…」
「怒ってない。っていうか、俺がお前に怒るわけないだろ。」
憎まれ口すら可愛いクラウドだから、きっと何を言われたって許せる自信がある。
クラウドの髪を耳にかけてやると、そのマシュマロみたいな頬が、さっとピンク色に染まった。
(美味そう…、)
危うく、なんか変な欲望が首をもたげてきそうで、慌てて手を離した。
「オマエ、訓練だったんじゃねえの?まだ昼、ぐらいだろ?」
日が、かなり高い位置にある。おそらくは正午ぐらいだろう。
「…ザックスのメール見て、びっくりして。」
「あ、」
そういえば、朦朧としながら…クラウドに、変なメールを送ってしまった気がする。
ヒザの上で寝かせて、だったか。ヒザの上で死なせて、だったか――
どのみち、セクハラもいいところだ。
「そういえば、ザックスの声が変だったなって、気付いて。急いで帰ってきたんだ。」
訓練は、仮病を使って休んだのだという。
真面目なクラウドが、俺のために嘘をついてくれたこと。素直に、嬉しかった。
「部屋に戻ってきたら、ザックスがベッドから落ちて、ぐったりしてたから。
…びっくり、したんだよ。」
そうだった。
どうしても人肌恋しくて。何を思ったか、クラウドのベッドに移動しようとしたんだ。
そうしたら、転げ落ちてそのまま突っ伏したんだっけ。…マヌケすぎる。
「朝よりは、少し熱下がったみたいだけど…どう?」
「だいぶ、いいよ。オマエのおかげだな。」
俺の体には、2枚も毛布がかけられている。
一枚は、クラウドの毛布だ。甘い匂いが、仄かに香る。
そしてその毛布の上には、いくつもの薬が散乱していた。
ベッドサイドには大量の氷や、水のはいったボールも置いてある。
水タオルを何度も変えて、氷枕を作って、薬箱の中身をひっくり返して。
…どれだけ、心配してくれたんだろうか。
そうして、クラウドの頬には、涙の跡があった。
俺を介抱しながら、泣いてくれたなんて――
「お粥、食べたら。薬のもうね?」
優しい、優しいクラウド。
泣いてくれた彼には悪いけれど、風邪をひいてよかったとさえ思う。
こんなにクラウドが構ってくれるなら、髪を撫でてくれるなら、
もっと早く風邪でもなんでひけば良かったんだ。
そうしたら、クラウドを女の子なんかに盗られなかったかもしれないのに。
…なんて、子供じみた発想。
ガチャン!ゴトゴトッ!
キッチンからは、精神衛生上、あまりよろしくない物音が聞こえる。
そのうち「どっかん」なんていう爆発音が聞こえやしないかと、
ハラハラしつつも見守るしかない。
その間も、ときどきキッチンからひょっこり抜け出しては、俺の水タオルを変えてくれる。
「クラウド、さん…手伝おうか?むしろ、手伝わせてほしいんだけど…。」
「病人が何言ってんだよ。黙って寝てろ!」
クラウドの命令は絶対、逆らうなんてできないんだけど。
でも、台所から聞こえてくる物音に、心臓が持ちそうにない。
クラウドが作っているのは、お粥だ。
インスタントのお粥――なんだから、レンジでチンすればそれで終わり。
後は、梅干し乗せるなり、ふりかけをかけるなり、シャケフレークかけるなりすればいい。
だけどキッチンから聞こえてくる物音は、そんなスマートな調理ではなく、
そう、たとえば生きたイノシシでもさばいているのではなかろうかという、物騒な音だった。
これから食わせられるものの心配よりも、クラウドが怪我をしないかが気になる。
クラウドは、料理が苦手だ。
と、はっきり言うとすごく不機嫌になるから、「得意でない」という言い方にしておこう。
少なくとも、過去に2回ほどキッチンを爆発させて、
一度は爆発物処理班を隣の住民に呼ばれたことがあるぐらいには、得意じゃない。
大丈夫だろうか、クラウドは無事だろうか、と。
戦場にいった友人を危惧するかのような不安に駆られながら、大人しく待つのは拷問に近い。
「できた!ザックス、できたよ!」
滅多に見れない、はにかんだ笑顔とともに運ばれてきたお粥は、
少し焦げた色が見えたけど、そんなのは大した問題ではない。
梅干しを大量に乗せてしまえば、わかるまい。
…ということなのか、クラウドは大きな梅干しを5個ぐらい乗せてくれる。
「ザックス、あーん。」
(えっ?えっ?えええっ?!)
言葉の意味すら理解できず、クラウドの言葉に無意識に従って口をぱくりと開ける。
それはまるで、「お手」と言われたからお手をする、そんな犬の習性と同じだろう。
白い指が持つ、白いレンゲが、そっと唇に運ばれていく――
「あち!」
「ごめ、ごめん!」
クラウドと違って猫舌じゃないけど、つい反応すると彼が必要以上に慌てふためく。
それが可愛いなあ、なんて。
色ぼけたことを考えていると、彼が信じられない行動に出た。
「ふうふう」
クラウドが――あの、ツンデレというよりも「ツンツンツンツンツンデレ」ぐらいに
そっけないクラウドが、だ。
俺のために、お粥を「ふうふう」してくれている。
「ふうふう」してくれているんだ。
大事なことなので二回言ってみた。
その一サジを口にしたとき、とてつもなく贅沢な味がしたのは言うまでもない。
「おいしくない?」
一言で言うなら、酸っぱい。梅干し5個のクエン酸効果は、伊達じゃない。
だけど、今まで食べたどんな高級中華粥よりも、美味しい。
「すっげえ、うまい。」
焦げ臭くても、ちょっとお粥にしては水分抜け切ってても、そんなのはご愛嬌だ。
美味しいものは美味しい。
だってクラウドが俺のために作って、クラウドが俺のために「ふうふう」してくれて
そんなお粥がまずいなんてこと、あるわけない。
(…俺、変態くさいか?)
女の子ならともかく、ふたつ年下の男の後輩に。
何をさっきから、ときめいているのだろう。
ドキドキドキドキ心臓がうるさいのは、顔が信じられないぐらい熱いのは。
風邪のせいであって、まさかまさか他の意味なんて――
(俺は、病気なんだ。病気だから、)
安っぽい表現だけど、さっきから目の前の子が――
そう、まさに「天使」にしか見えない。
今ならわかる。
世の中の「白衣の天使」と呼ばれているものは、「ただの女」でしかなかったってこと。
半年ぐらい前に付き合ったナースのお姉さんも(名前何ていったかな?思い出せない)、
こないだ借りてきた「ナースのお☆仕☆事☆」のAV女優も、全部全部まがい物だ。
本当の天使っていうのは、体も心も真っ白なんだ。
それに、不器用で、意地っ張りで、泣き虫で…世界で一番、優しい。
ナース服も着ていないし、女の子ですらないけど、そんなのは関係ない。
焦げたお粥をふうふうしてくれて、どの薬を飲ませたらいいのかわからなくて、
手当たり次第に薬箱の中身をひっくり返して、俺の髪を撫でてくれるこの子こそが、
―――他でもなく。
(俺の、天使だ。)
それはきっと、もう君にしか治せない。
その病の名は、
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