*ご注意*
@ブログで連載していた、頭の悪い小話です。
Aザックスが、あらゆる意味で最低です。
Bコメディだったりシリアスだったり…意味不。
C最終話18禁につき、ご注意ください。
―症状その5―
痛くて、痛くて、痛くて。
…死んでしまいそう。
それは、理性を侵蝕する熱病――
クラウドの作ってくれたお粥は、全部綺麗に平らげた。
別だん、腹が減っていたわけじゃない。
だけど、クラウドにお粥を食べさせてもらいたくて、
この甘いシチュエーションにたまらなく興奮して。
何度も彼に強請って、全て食べさせてもらった。
最後の方はどう考えても熱くなかったけど、わざと熱がったりしてみた。
そうすると健気にも、クラウドは「ふうふう」してくれるもんだから――
無いはずの食欲だって、そりゃ生まれるってもんだ。
「ザックス、小さい子みたい。」
不可解だという風に、首をかしげるクラウドに、少しばかり焦った。
「風邪ひくと、なんつーかほら、甘えたくなるもんだろ。」
さすがに、ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。
これまでこんな風に、親にも女の子にも甘えたことなんかなかった。
自分で言うのもなんだけど、こんなごつい男が甘えてくるなんて、気味が悪いだろうか。
「ふーん。…なんか、可愛い。」
目を細めるクラウドに、頭がクラクラする。
可愛いのはオマエだろ!と脳内で激しく突っ込んでみたけど、それは黙っておいた。
機嫌を損ねてしまったら、傍にいてくれないかもしれないし。
食事をとったあとに薬を飲み、少し眠りにつく。
もしかしたら、この経験したことのない気持ちは、熱に浮かされているからで、
こうして眠って目が覚めたときには頭が冷えているんだろうか。
熱が下がれば、クラウドは天使でも何でもなくて、ただちょっと可愛いだけの後輩になっていて。
昨日のデートの子とはうまくいってるのかなんてことを、笑顔で聞いてやれるんだろうか。
そんなとりとめないことを考えながら、うつらうつらと浮遊する意識の中で――
手に、心地よい力を感じた。優しい、手の力。
(クラウドの手って、冷たいんだな…。)
ひんやり冷たいクラウドの手が、俺の手を包んでくれている。
軍人とは思えない、男であることさえ信じがたい小さな手なのに、
その握られた手で、まるで自分の全てが包まれているような気がした。
ただ、手を繋いでいる、それだけで。
…こんなにも人は、幸せになれるなんて。
もし俺が目を開ければ、クラウドは手を離してしまうのだろう。
それがわかっているから、当然目は閉じたまま。眠っているふりを続ける。
もう少しだけ、この心地よい感触を独占していたい。
「そろろろ、…タオル、かえなきゃ…。」
そう呟いたクラウドが、その手を離そうとするもんだから。
それが寂しくてつい、強い力で握り返してしまった。
「ざっく、す…?」
あくまで、寝てるふりは譲らない。
だけど、手も放す気は、絶対にない。
冷たいタオルも気持ちいいけど、それ以上に冷たい彼の手が気持ちいいから。
「もう、甘えただなぁ…」
しょうがない子だ、と。優しく微笑う彼の声が、遠くで聞こえる。
まるで、天使の囁きのようだ。
控えめながらも握り返してくる、その手に安堵して。
深い眠りへと堕ちて行った。
どれぐらい、眠っていただろうか。
「クラ…?」
気付けば日はすっかり落ちていて、寝室のカーテンは閉められている。
どうやら、かなり長い間、眠っていたらしい。
「クラウド?」
クラウドの姿が視界になくて、どうしようもなく慌てた。
フローリングの床を、素足でぺたぺたと踏みながら、
まるで幼い子供が母親の姿を探すかのように、部屋中を探しまわる。
今まで自覚なかったけど。
どうやら俺は、かなりの寂しがり屋らしい。
…なんて、言葉にしてみると、ひどく情けなくて笑えるけれど。
クラウドの姿が見えないだけで、
まるでこの世に一人で取り残されたかのようで、心細くなる。
今まで、女の子相手には、むしろ適当な距離を計って付き合ってきたし、
ベッドの隣で誰かが寝ているのは、落ち着かないし鬱陶しいとさえ思っていた。
だからヤることヤったら、何かと理由をつけて早々に切り上げていたというのに。
…それが、今の俺といったら。
目が覚めたとき、何よりも金色を探していた。
クラウドの匂いとか、クラウドの温度とか、クラウドの関心だとか、
まるで当然のように欲している。
一分一秒だって、離れていたくないなんて――
あんなに眠ったのに、まだ、熱が下がっていないのか。
…そんな言い訳、いつまで続けるつもりなんだろう。
クラウドを探して、静まりかえった廊下を歩いていくと。
洗面所の方から、ぼそぼそと微かに聞こえてくる声。
「…だから、今日は…」
クラウドが、誰かと電話で話している。
わざわざこんな冷えた洗面所で、いったい誰と話しているんだろう。
俺を起こさないようにか、それとも俺に聞かれたくない内容なのか。
その通話の相手が女の子であっても、俺以外の男友達であっても、どのみち面白くない。
狭量だという自覚はある。
だけど、俺から隠れるように電話している事実に、どうしても嫉妬心が揺らいで。
「今日は、だめだ。ザックスの傍にいたい。」
はっきりと聞こえてきたその一言に、心臓が跳ねた。
「…そう。わかった、じゃあもう会わないよ。ごめん。」
静かな声で、淡々と話しているけれど。
その内容はどう考えても「別れ話」か、それに近い男女の会話だと思う。
聞いてはいけないものを盗み聞きしてしまった気がして、足音を立てずにベッドへ戻った。
「ザックス、目さめた?」
寝室に戻ってきたクラウドは、まるで何事もなかったように。
今日何度めかの体温計を数回振って、俺に差し出す。
「そろそろ、熱さがったかな。」
「……たぶん。」
たぶん、熱は下がったかもしれない。
額に手を当ててみても、常の体温と変わらないし、もう汗だってかいていない。
でも、それなら。この体の異常は、どう説明したらいいのか。
鼓動がすごいスピードで高鳴って、
目の奥がジンジン熱くて、
胸がちぎれそうなぐらい痛くて――
どうしてクラウドは、今ここにいてくれるんだろう。
どうしてこんなに、優しくしてくれるんだろう。
「…今日、なんか約束あったんじゃねえの?」
クラウドはちょっと驚いたように目を見開いて、でもすぐに可笑しそうに笑った。
「ないよ。」
「ふーん。なら、いいけどさ。」
それはクラウドの優しい嘘だと知っているから、それ以上追及しなかった。
クラウドはおそらく、昨日会っていた女の子と。今夜再び、デートの約束をしていたんだろう。
それを、優しい彼のことだから、俺の体調を気遣って。
「熱、下がったみたいだけど。もうちょっと、横になった方がいいよ。」
クラウドが、俺の肩に毛布を掛け直した。
その手が物語るように――クラウドは、とても優しい子だ。
その優しい彼に、これ以上つけいるような真似をするのは卑怯だろうか。
「ごめん、な。」
小さく謝罪をした言葉は、彼には聞こえないと思ったけど、耳に届いたらしい。
クラウドが、優しく微笑んだ。
「トモダチ、なんだから――独占して当たり前、だろ。」
女の子が、好きだった。
少なくとも、この子と会うまでは、『スキダッタ』。
「ザックス?」
世界は、突然変化するのだ。
人の温もりなんて欲しくなかったのに、今は一人じゃ寒くてやるせない。
「クラウド、」
名前を呼ぶのも呼ばれるのも嫌いだった、なのに今はもっと呼びたいし、呼ばれてみたい。
その言葉で、お互いを縛り合えたら、どんなにいいだろう。
「なに…なんか、ザックス、恐い顔して―――」
水銀の体温計が、床に落ちる。
それが目の端に映ったけれど、もうそんなことに構っていられない。
「ちょ…っ!ま、」
体が熱いのは、風邪のせいなのか、クラウドのせいなのか、
「やっ、どうしたの、ザ…ッ!」
胸が痛くて痛くて、痛くて、
「俺、死ぬかもしんない。」
「は…?」
「死ぬ!痛くて死ぬ!」
まるで子供のように、痛いと訴えて、クラウドに縋り付く。
「んっ!んーーーっ!?」
無理やり唇を合わせて、押し付けて、舌を絡めて、
「んんん…っ!は、や…だ、や…!」
嫌だと涙を浮かべるクラウドを、自分のいるベッドの中へと引きずり込む。
「ちょっと、まって、ねえ!」
そのまま上着をたくしあげて、体をまさぐって。
「やだっ!どこさわって…っ」
「どこだって。」
どこもかしこも、触りたい。
そんでもって、撫でくりまわして、舐めまわして、奥深くを思い切り突き上げてみたい。
だってもう、
「ごめんクラウド。助けて。」
「たす、ける…?」
「死ぬほど苦しい。助けて、クラウド…!」
それはまるで、病のように――全身に、ドロドロの欲が浸食していく。
指先から、足の先まで。流れる汗から、目の端に滲む涙まで。
はち切れそうな腹の下の痛みから、胸を叩くような痛みまで、全て。
ただ、この子が欲しかった。
体中が、そう叫んでいる。心が、そう叫んでいる。
少しも大袈裟なんかじゃない。
本当に、死んでしまいそうだった。
君に焦がれて焦がれて、死んでしまいそう。
お願い、助けて。