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キミに贈る、5文字の言葉。

Last Call

きる

 

 

生きてください。

(愛してる。)

 

 

『それでも――――愛してる。』

ザックスのその告白を聞いた瞬間、全て選択を誤ったことを知る。

ザックスに愛されてしまったこと。

ザックスに、他でもない死ぬ理由≠与えてしまったこと。

 

音のしない携帯電話を握りしめたまま、立ち尽くしていた。

嫌いだ、さよならだ、そう罵りながら。

本当は、最後の望みにすがっていた――

嫌いになってください、と。捨ててください、と。

 

 

 

だけど。

 

 

 

そんなことを、本当に伝えたかったのだろうか。

ずっとずっと、あのビーカーの中で、彼の腕の中で、そして長い年月の中で。

言いたいことがあった。伝えたい想いがあった。

それは、

「違う、よ。ザックス、」

さよならなんて、言葉じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、生きてほしかった。―――それだけ。

 

 

 

 

 

 

 

「違う、ザックス…!」

電池が切れた携帯電話は、どんなにボタンを押しても何の反応もない。

どんなに呼びかけても、なにひとつ返事は返ってこない。

「ザックス!聞いてよ!」

 

今、伝えなくてはいけないことがある。

それは今≠ナなければ、何の意味もなさないのだ。

(行かないで…!ザックス、行かないで!)

5年前と同じことを、もう一度繰り返している。

(行かない、で…)

5年前の後悔を、もう一度繰り返している。

 

5年前。あのとき、死にいくザックスの背中を、目で追いかけながら――

奇跡を、願ったはずだ。何度も何度も、願ったのだ。

自分が彼に選ばれることを、ではない。

別に選ばれなくてもいい、彼に疎まれたって構わないから。

ただ、彼を生かしたかった。――守りたかったのだ。

彼を連れて行こうとする運命から、彼を傷つける全ての痛みから、そして。

…彼を死に追い込む、他でもないクラウド自身≠ゥら。

 

 

その願った奇跡こそ、この電話ではなかったのか?

 

 

(……なんだよ、自分ばっかりいつも喋って、)

いつも、一人で喋って、一人で笑って。…独りで、泣いて。

(俺の話は、聞いてくれないの?)

なにひとつ、返せていない。なにひとつ、伝えていないのに。

「ザックス、おれ、ほんとうは、」

 

 

 

パリン!

 

 

 

 

砕ける黄金色の宝石。

クラウドの携帯電話に付いていたチョコボのストラップが、小さな音を立てて粉砕する。

そしてそれは細かい粒子となり、キラキラと瞬きながら光に解けていくような気がした。

 

「マ、テリア…?」

 

それは、マテリア石だった。いったい何のマテリアなのかはわからない。

その光が一瞬強く煌いた後、クラウドの握り締めている携帯電話から熱を感じた。

「え…?」

画面が仄かに光る。

――電源が、入ったのだ。

 

今は電気がエネルギーの主体だが、数年前までは魔洸こそがその要だった。

この携帯電話は、魔洸エネルギーを動力としているものなのだろう。

つまり、マテリア石であるチョコボのストラップをエネルギーに換え、クラウドの携帯電話が動いたのだ。

 

迷っている場合ではない。

もしも、これが最後のチャンスになるならば、伝えなければならないことがある。

震える手で携帯のキーを押し、ただ祈るように目を閉じる。

あの人に、繋がって欲しい――

今、伝えなくてはいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

『……クラウド?』

――――――――――神様、

 

 

 

 

 

 

 

『…クラウド、だよな?もう電話、駄目だと思ったのに。…これって、冥土の土産ってやつかな?』

冗談っぽくいうザックスの言葉。…心臓に、まるで鉄の杭でも打たれたかのような痛みが走る。

彼の言葉は、冗談ではないのだ。

その声から嫌でも感じる、彼の覚悟――そう、ザックスは、

「……………今、そこ≠ノいるの?」

『ああ、そこにいる。』

ザックスは、そこ≠ノ…あの丘に、いる。

死の前に、いるのだ。

 

「………。」

『クラウド、もう俺をなじってくれないの?声が、聞きたいよ。最後なんだから。』

「………。」

『なあ、何か言ってよ。サヨナラ――でも、いいからさ。』

「…ザッ、クス、」

(ザックス、あのね、)

言いたいことが、たくさんあった。伝えたい想い、伝えたい言葉。

 

捨てて=@ごめんね=@ありがとう

 

どれも本当の気持ちだけれど、だけど。

なんといったらいいのだろう。どの言葉を選択するのが、正解なのだろう。

何を言えば、この運命は変えられるというのか。

どんな言葉が、彼を幸せにしてくれるのだろうか。

わからない。

 

「捨てて、よ…。お願いだから、俺なんか捨てて。」

ザックスが、遠い電話の向こうで、苦笑したのがわかった。

『やっぱりクラウドは、クラウドだな…そう言うと、思ったよ。』

そんな悲しそうな声。ザックスを、困らせたいわけじゃない。

そうでは、ないのだ。

 

「…違くって。」

言いたいのは、そんなことじゃない。

「そうじゃなくって、そうじゃなくって」

この胸の中にある気持ち。どう言ったらいいのだろう。

「そうじゃ、なくって…………………」

死んでしまいそうなほど、痛くて。

泣き叫んでしまいそうなほど、苦しい。

――ただ、

「ただ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいしてる。だから……………………………生きて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉にした瞬間、その愛しいという想いが溢れ出てくるように、涙が流れた。

愛してる、その一言をただ伝えたくて、伝えられなくて。

どれだけ遠回りしてきたのだろう。

それは、ザックスも同じだったのだと、今ならわかる。

 

5年前に聞いた、彼の叫び声。

俺を独りにしないで…!

 

彼が流した涙。

クラウド、俺、ふられちゃったみたい

 

すべてを受け入れた彼の笑顔。

もしも、俺がオマエを残して死んだとしても。オマエの幸せだけを思ってる

 

 

 

―――― 嘘 じゃ 、 な い よ。

 

 

 

5年前のあの日から、いや、もっと前から、彼に選ばれていた。

自分が彼の為に死にたいと思うように、彼もまた、自分のために死を選んでくれたのだと。

相手のために生きたい、だけど、もしそれが叶わないならば。

――相手のために、死にたい。

悲しいほどに、愛している。…愛されている。

 

 

『……………ありがとな、クラウド。』

 

 

少しの間、沈黙が続いた後。電話越しに、彼の優しい声が聞こえてきた。

そして、彼はきっと、こんな言葉を言うのだろう。

 

 

 

『生きるよ。』

 

 

 

思った通り、ザックスはそう言って笑う。

(嘘つき、だね。ザックス。)

それが嘘だと知っている。

ザックスは、クラウドがどんなに祈っても、頼んでも、泣いてすがったとしても。

たとえば、ザックスを裏切るようなことをしても。

…結局「クラウドを守ってしまう」のだ。

 

ザックスは、ザックスで。彼の誇りは、彼のもの。

彼の生き様が彼のものであるならば、その死に様も、彼のものでしかない。

 

 

 

――――――彼は、死ぬ。

 

 

 

だけど、そんな優しい嘘をつくザックスが、やっぱり愛しい。

見捨ててくれないような優しいザックスが、憎くてしょうがないけれど、それ以上に愛しい。

 

「愛してる。」

 

何度言っても足りない。

もう一度、その言葉を口にしたとき、電話はぷつりと切れた。

 

 

 

 

 

 

「……あのね、ザックス。夢も誇りも、ほしくなんかなかったよ。」

(だけど、)

あの人のために死ぬことができないならば。

あの人のために、生きるしかないのだ。

彼は自分のために死に、自分はただ彼のために生きていく―――

 

 俺 の 分 ま で 、 お ま え が 生 き る 

 

…彼の残した言霊に、従って。 彼の想いに、従って。

 

 

 

 

 

 


 

 

「クラウド!誕生日おめでとう!」

クラッカーの音が響き、金や銀、色とりどりの紙ふぶきが、クラウドの髪にかかる。

811日――クラウドの26歳の誕生日。

セブンスヘブンは「本日貸切」の札をかけ、店内は気のおけない友人達が集う。

ティファ、デンゼル、マリン。そして旅をともにした仲間達――

ユフィ、シド、ヴィンセント、ナナキ、バレット、リーブ。

カウンターの隅には、ちゃっかりレノもいて、ただ飯にありついている。

 

ここに集った皆が、これぞと思うプレゼントを用意していて。

クラウドの両手では受け取れ切れず、思わずよろめいてしまう。

興味深々という風なデンゼルやマリンと一緒に、その包みを開けていくと、

個性豊かな贈り物が幾つも現れる。

ピンクゴールドのマテリアブレス、黒皮のキーケースなど、クラウドの趣味を熟知したものから

エプロンなど意図がわからないものもある。

…女性用のものでなく、黒いシンプルなものだからまだいいのだが。

 

「エプロン?なんか変態くさくない?これバレットの趣味〜?」

ユフィがそうからかうと、バレットが慌てて抗議する。

「ちげえよ!男だって、これからは台所に立つ時代だろうが!花婿修行にだな…」

「へへん!人間、顔だよ!顔さえよけりゃ、そんな修行必要ないんだよ!その点、アタシもクラウドもさ〜」

「ユフィさんが、えばれるとこじゃないですね。」

「なんだと〜このぬいぐるみマニアの変態じじい!」

「ユフィ、それは笑えないわよ…」

 

いつもこの仲間たちが集まると、煩いほど賑やかになる。

星を巡る闘い≠フ旅のときも、何度折れかけた弱い自分を支えてくれただろう。

「ありがとう、みんな。」

そう一言、クラウドが小さな声で口にすると、周囲は一斉に静まる。

 

「…なに?」

沈黙が気まずくて、とりあえず近くにいたレノに、服の裾を引っ張って尋ねると。

「……素直すぎて、気持ち悪いんだぞと。」

そう返すレノは、からかう風でもなく、どうやら本気で驚いているようだ。

(素直っていうか、)

今、言わなくてはいけないこと。伝えなくてはいけないこと。

(ただ、言っておきたかったんだ。)

もう、後悔したくないから。

 

いつか伝えようと思って、それが叶わない後悔を、二度と繰り返したくない。

ありがとうという気持ち、好きだという気持ち。

今、伝えなくては意味をなさないことがある。

 

 

 

今伝えることで、意味をなすことがある。

 

 

 

 

 


 

 

次第に酒も食もすすみ、宴もたけなわという頃。

クラウドがキッチンに入っていくと、ティファが驚いた顔をする。

「バレットのエプロン、つけたの?」

「これからは、男だって台所に立つ時代……なんだろ?」

クラウドは真面目に考えて言ったのだが、ティファは冗談だと思ったらしく、声に出して笑う。

 

ティファが皿を洗っている横で、クラウドはその皿を布巾で拭いていく。

「…主役なんだから。向こうで騒いでいていいのよ?」

そういうティファは、とても嬉しそうで。

強引にやめさせようとはせず、クラウドの覚束ない手元を見て微笑んでいる。

「俺さ、」

「なあに?クラウド。」

 

 

「ティファが、好きだよ。」

 

 

彼女の手から皿を一枚とって、また丁寧に拭いていく。

家族のために出来ること、家族の幸せのためにできること。

彼女のために、伝えるべきこと。きっと、たくさんあるのだ。

もう、逃げたりはしたくない。

 

ティファは大きな黒い目を瞬かせて、うっすら頬を染める。

少し俯いたため、髪がたれてきて。クラウドはその綺麗な黒髪を、耳にかけてやる。

「そういうとこ。本当罪づくりよね、クラウドって。」

悪戯っぽく笑うティファ。

こういう風に微笑う彼女が、好きだと思う。

それは燃え上がるような熱情や劣情とはかけ離れたものであるけれど、温かい気持ちだった。

 

「幸せになってほしい、嘘じゃない。」

 

いつだったか、彼が口にした言葉を、クラウドが再び口にしている。

ザックスの言葉は、いつも自分の中で輝いている。

ザックスから貰ったその優しい気持ちを、彼女にもあげたいと思うのだ。

 

「クラウドが、幸せにしてくれないの?」

そう返されて、クラウドは一瞬言葉に詰まる。

ティファが、そう言葉にするのはとても珍しいことだ。

クラウドに想いを寄せていながら、その関係を変化させるようなことは一切しなかった。

踏み出すのが、怖かったのかもしれない。

だけど、彼女ももう、逃げるつもりはないのだろう。

「うん、俺が幸せにしたい。…できるなら。」

ティファは、満足そうに笑う。

「できるよ。クラウドなら、私達をきっと幸せにできる。今みたいに」

そうして、彼女はクラウドの頬に、軽く触れるだけのキスをして。眉を下げるのだ。

 

 

 

「…クラウドを幸せにできるのも、私だったらよかったのに。」

 

 

 

彼女の言葉が、意味すること。それは、

「ごめんね。わかってる。会いたい人が、いるんでしょ?」

クラウドを今、生かしているのは、彼女ではないということ。

「その人のために、生きてるんでしょ?」

どうして、ティファはクラウドが何も言わずとも、その心の内を理解してしまうのだろう。

とても聡い人。

――違う、そうではなくて、それほどクラウドを見ているのかもしれない。

いつだって、見守ってくれている。

 

「…会いに行ってきても、いい?」

子供のようにそう聞くクラウドに、ティファは大きく頷く。

「門限は、守るんだぞと!」

そう冗談まじりにいって、バイクのキーとグローブを投げた。

ちゃんと戻ってきてね、と。

変わらず、明るい笑顔で笑いながら。

 

彼女の笑顔はいつだって眩しくて、まるで夏の花のよう――彼≠ニ、よく似ていると思う。

だけど、彼女は彼≠フ代わりなどではない。

 

誰しもが、誰かの代わりなどではない。

 

 

 

 

 

 


 

 

おまえの誕生日じゃん?あの店で、会いたい。

 

 

ギイ…ギイ…

腐った板が風で揺れる、廃墟の屋内。

10年前、ザックスとよく足を運んだことのある、喫茶店「だった」場所だ。

星を巡る闘いで退廃したミッドガルにおいて、その店も例外ではなくすっかり姿を変えていた。

窓は割れ、床は腐り、ひどく傷んだバーカウンターが形をとどめている程度。

照明ひとつない、暗がりで。割れた窓から差し込む月明かりが、唯一の明かりだった。

 

待ってる

 

ザックスは、ここにはこない。それを知っている。

だけど、それでも約束を守りたいのは、今できることがそれしかないからだ。

 

ギイ…ギイ…

 

傷んだ扉が、風で開くたびに胸が跳ねるのは。

何かを期待しているわけじゃない。

それでもきっと、こうやって自分は永遠に、叶わぬことを願うのだろう。

帰らぬ人を待つのだろう。叶わぬ想いを、貫くのだろう。

「ザックス、話したいこと。本当は、もっとあったんだよ。」

――― 一生分の時間を使ったって、足りないほどの想いが。

 

 

 

 

 

 

 

「たとえば?」

 

 

 

 

 

 

それは、現実とは思えなかった。

たぶん夢―――夢、なのだろうか。

その声の主は、月明かりを背負って、表情が見えない。だけど、

「たとえば……ばかザックス、とか。」

5年ぶりがそれって、ひでえな。あとは?」

含み笑いをして、肩をすぼめてみせるその男。そのしぐさは、まるで。

「…ごめん、なさい…とか。」

「――――違うだろ。」

少し責めるような言い方をされ、体が硬直する。

そのクラウドの怯えに気づいたのか、男は明るい声で再び聞いてきた。

「他には?」

 

「…助けてくれて…ありがとう、とか、」

「それも、ちょっと違うなぁ。」

男が、ゆっくりと踏み出す。

クラウドは後ずさることも、近寄ることもできずに、ただその場に立ち竦むしかなかった。

恐いのかもしれない。夢から醒めることが、どうしようもなく恐い。

 

「…じゃあ…!なんていえば、いいんだよ…!」

意味がわからなくて、いったい今、自分が誰と話しているのかすらわからなくて。

八つ当たりをするように、そうヒステリックな言葉を投げつける。

ゆっくりと足を進める男が、腐った床をギシリギシリと鳴らしながら、クラウドの目の前までやってくる。

この男は、ザックスのわけが――

 

 

 

 

「あいしてる、それが正解。」

 

 

 

 

クラウドのよく知る、優しい青の瞳に、自分の顔が映る。

そこに映った顔は、まるで数年前の自分のように、幼い表情で泣いていた。

 

――もう、死んでしまってもいい。生きていったっていい。

 

「クラウド、待たせてごめん。」

目の前で足を止めた男が、最後に一歩、勢いよく踏み出した。

「泣かせてごめん…!」

これ以上ないほど、男に強い力で抱きししめられて。

ただ、同じように抱きしめ返すことしか出来なかった。

…いや、最早、しがみついていると言ってもいいかもしれない。

絶対に離してはいけないような気がして、死ぬ気でしがみついた。

 

「ザックス…ザックス…!」

「泣くなよ、クラウド。」

 

そういう男だって、クラウドの肩に顔を押し付けて泣いている。

涙を止めろなんて、無理な話だ。

だって、愛しさが溢れ出るように、止まらないのだから。

「どうして、ここにいるの。何で、生きてるの…」

 

クラウドが″。、生きている…ということは。

すなわち、ザックスは自分を捨てることができずに、守り通したということで。

――それは、彼の死を意味するはず。

生きているわけがない。

「オマエが言ったんだろ?」

 

 

 

 

 

「俺に生きろって、お前が言ったんだ。」 だから生きたかったのだ、と。

 

 

 

 

 

言葉に宿る力。言葉に宿る想い。

それを、間違いなく言霊≠ニ呼ぶのだろう。

電話ごしに伝えた最後の言葉こそ、自分を生かしたのだと彼は言う。

 

 愛してる だから 生きて 

 

そんな言葉ひとつで、人の運命が変わるものだろうか?

だけど、もしも…もしもだけれど。

本当に、クラウドの言葉にザックスが従い、生きてくれたとするならば――

何度でも、彼に贈ろう。

 

「愛してる、だから…生きて。」

 

愛の言霊を、何度でも。

「一緒に、生きて。ザックス。」

そのクラウドの言葉に答えるように、抱きしめてくるザックスの腕に、さらに力が籠もる。

痛みすら感じるほどに。

苦しくて、息もできないほどに。

 

「いいよ。そのかわり、一緒に生きた後は、」

彼の続く言葉を理解して、彼の言葉をさえぎってクラウドが言う。

 

「一緒に、死んで。」

 

ザックスが、声にならない声を出した気がした。

笑い声だったかもしれないし、泣き声だったかもしれない。

もう一度、強く抱きしめられて、その遠慮のない力強い抱擁に。

さすがに自分の体が壊れてしまいそうで、ザックスの腕の中で抗議する。

 

「苦しいってば…ザックス。」

「俺も。息、できない。」

ならば、それはお互い様、ということだろうか。

 

 

 

 

息もできない、それほどに。  ……愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

――なあ、ザックス。

永い時を一緒に生きて、

今度こそ死が二人を別つとき。

 

俺はもう、さよならなんて言わないよ。

最後に交わす言葉は、その5文字であってほしい。

 

 「 あ い し て る 」

 

 

 

 

 

 

 ■あとがき

 

 

 

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