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「赤ずきんを脱がさないで。」その後のお話。

前作はエロコメディでしたが、だいぶ雰囲気変わってシリアス?です。

 

 

 

赤ずきんを脱がさないで。

番外編4

「夢か、現(うつつ)か、絵本の中か」

 

 

パンッ!!

 

 

放たれた銃弾は、ザックスの背中ではなく―――地面に当たる。

土埃が舞い…それをセフィロスは、不愉快というように顔を歪めた。

 

「ザックス……」

 

もう、クラウドはザックスに「離せ」とは言わなかった。

彼の意思の強さが、抱きしめられたその腕の力からわかっていたから。

 

ザックスは、絶対にクラウドを離してはくれない。

彼は、クラウドを抱いたまま死ぬつもりだ。その後のことはわからない。

でも、今のザックスにとって出来ることは、それしかない――そう、彼は信じているのだ。

 

だから、今のクラウドに出来ることは、ひとつ。

「ザックスに守られること」。それだけのような気がした。

そうして、彼が息絶えたそのとき、自分も彼の後を追って…

そう考えると、先ほどまでの恐怖はない。

 

 

最愛の人に抱かれたまま、最愛の人とともに、死に逝く――それはなんて、

 

 

「クラウド。さっきまでの威勢はどうした。」

「……。」

セフィロスが、再度ザックスの背中に銃口を当てた。

「そこにいれば、こいつの巻き添えになるぞ。」

「……。」

男の言葉の通り。

銃弾が放たれればそれはザックスの背を貫通し、クラウドの腹にも穴が開くかもしれない。

 

 

 

「……死にたいのか?」

「うん、殺して。」

 

 

 

一人で死なせるくらいなら、一人で生きていくくらいなら――この人と運命を共にしたい。

もう、それだけだった。それでいいと思った。

だってザックスは、ひどく寂しがりだから、

 

「ザックス、大丈夫だよ、」

呼びかけても、彼から返事はない。

「ずっと、一緒だから…大丈夫、だよ。」

もう、意識がないのだ。それでも、呼ばずにはいられなかった。

「ザックス、ザックス…」

その名を呼べば、彼は笑ってくれたから。

 

もう、ザックスは笑わない。

クラウドを抱きしめたまま――きっとこのまま、

 

 

ザックスの時間が、止まる。

 

 

彼の鼓動、呼吸、心、全部全部――止まってしまう。

「なぜ、泣く。」

「……ザックスが、寂しいって、泣いてるから。」

泣いているのは、どっちなのだろう。

独りでは生きていけないのは、彼なのか自分なのか。

独りでは死ねないのは、彼か自分か。

それはきっと二人とも。

二人とも、もう相手なしでは生きていけないし、死ぬことだって出来やしない。

だから。

 

 

 

 

「おい―――?!」

 

腰にかかっていた果物ナイフを抜き、クラウドは自身の腹に突き立てた。

「……、う…っ、」

腹が熱い。痛い。苦しい。怖い――だけど、声を出したりはしない。

そんなことを言おうものなら、例えば呻き声のひとつでも出そうものなら、

ザックスの耳に聞こえてしまうかもしれない。

優しいザックスを、不安にさせたくない。悲しませたく、ない。

 

クラウドの背に回されていた彼の腕が、力なく垂れた。

でも、ザックスを離す気はない。

ナイフを腹から引き抜くと、彼の背に腕を回してしがみついた。

 

「だい、じょうぶ…死ぬまで、離さない、から……」

ザックスがその手を離しても、クラウドは絶対に離さない。

だって彼はどうしようもなく、

 

 

 

「本当、アンタって甘えん坊…」

 

 

 

彼からは、やはり返事はない。呼吸の音も聞こえない。

もう、彼は息絶えたのだろうか。

それとも、これから?

出来るなら、一分一秒違わずに、彼と一緒に時間を止めたかった。

 

 

 

 

 

生まれてきたときは別々、

だから、死ぬときはどうか一緒に。

 

 

 

 

 

 


 

「クラウド!しっかりしなさい!クラウド!クラウド!」

 

何度も自分を呼ぶ声――母親じゃない、この声は。

(もう、朝…?)

浮遊する意識の中で、うっすらと目を開けると、大好きなおばあさんの顔が視界に入った。

青ざめた顔で、何度も「クラウド」の名を呼んでいる。どうして、そんな顔をするんだろう。

「おばあさん…ここ、は…?」

「ここは、私のおうちだよ。良かった、クラウド…気分はどうだい?」

「…?うん、悪くないよ。」

そう答えると、おばあさんはクラウドを抱き締めた。

 

「本当に良かった…おまえがここに運ばれてきたとき、もう生きた心地がしなかったよ。」

「運ばれて……?誰に?」

「背の高い、とても素敵な男の人だったけど。ねえ、クラウド。何があったんだい?」

「――――ザックス、は…」

「え?」

「ザックスは?!」

「ザックス?あの、おまえを運んでくれた男の人かい?」

「その人は?!どこに行ったの?!」

「クラウドにすまないと伝えてくれと…そう言って、すぐにどこかに行ってしまったけど。」

 

 

「――ザックス!!」

 

 

「待ちなさい、クラウド!」

後ろからおばあさんが叫ぶ声が聞こえたけれど、おかまいなしにクラウドは家から飛び出した。

真夜中の、森へと。

 

 

 

 


 

(ザックス!ザックス!)

きっと、いや絶対に、ザックスは生きている。

あの後何があったのかわからない、だけどクラウドが生きているのだから、彼だって。

クラウドを運んでくれた『背の高い男』は、ザックスだろう。そのはずだ。

(どこ?!ザックス!)

どこに行ったらいいのだろう。どこへ行けば、彼に会えるのだろう。

答えはわからないまま、無我夢中で森の中を走り抜ける。

 

向かうなら、泉だ。ザックスの、家がある方。ザックスが倒れた場所…

混乱しながらも、そう思考が脳裏をよぎる。

だけど辺りは人口灯など当然ない暗闇で――どちらに行ったらいいのか全くわからない。

昼間であれば、この森は自分の庭のようによく知る場所なのに。

 

 

 

ドサッ!

 

月明かりだけが頼りの、森の夜――

足元を捕らわれて、勢いよく地面に倒れこんだ。

立ち上がらなければいけないのに、膝が震えて思うように立てない。

「…ザックス、どこ…?ザックス…」

やっとの想いで立ち上がるも、足の裏に痛みが走り、また地に膝をつく。

そういえば、靴を履いていない。暗闇だから見えないけれど、きっと足裏は血にまみれているのだろう。

 

 

「ザックス…、お願い、出てきて…」

 

 

夜の森は、昼の様子とは全く違う。

幼い頃より通いつくした森だけれど、これまで夜に足を踏み入れたことは一度もなかった。

「夜の森に近づくな」と。そう言っていたザックスの言葉を思い出す。

夜の森は、猛獣やモンスターが蔓延り、昼とは比較できないほど危険なのだと。

「だから俺に会いたくなっても、来ちゃだめだからな。」と、そう軽口を言って笑っていた――

だけど、今、ザックスの言いつけを守らずにここにいる。

無限に広がる暗闇から感じる重厚感、威圧感、正体不明の恐怖。

冷たい風が木々を揺らし、その音がまるで猛獣の唸り声のように聞こえる。

クラウドの足も、指先も、背中も。ゾクゾクと寒気が走る。震えが、止まらない。

 

 

「…ザックス、恐い、よ…」

 

 

今まで、いったいどれだけ彼に守られてきたのか。

森の中で昼寝をしているとき、雪ウサギを抱いているとき、いつだったか猟師に襲われかけたとき、

いつだって彼はその身を挺して守ってくれた。

それに、今回だって――

 

俺はオマエの、番犬なんだから

 

「ザックス…、助けて…。歩けない、よ…」

ザックスは、いつだって自分を守ってくれていた。見ていてくれていた。

だから、今だってきっと。

彼の名を呼べば、ここに飛んででてきてくれるはず――

あの木の陰から、音もなく飛び降りて、クラウドに手を差し伸べて、そうして。

「痛いとこないか?」と。そう優しく眉を下げながら、笑いかけてくれるのだ。

 

その、はずなのに。

 

「ザックス、ザックス……」

いつまで待とうとも、彼は目の前に現れない。

「ざっく…」

どれだけ呼ぼうとも、彼は返事をしてくれない。

「…っ、う…、う…」

泣いても呻いても、彼はここにはいない。

 

 

 

 

もう、どこにも、

 

 

 

 

「クラウド!!裸足で駆け出すなんて、何を考えてるんだい!」

後ろから駆け寄ってくるのは、おばあさん――

手には、身を守るための細い猟銃を持っている。

「日が沈んだ後の森は、危険なんだよ。いったいどうしたの。」

泣いているクラウドに驚いて、その小さな背を撫でるおばあさんの手。

 

「ザックスが…撃たれて…」

「ザックス?」

「狼の……」

「ああ、10年前の狼の子供かい?」

「そいつが、大きくなって、人の姿になって、俺のトモダチになって…」

うまく言葉にできず、支離滅裂なことばかり言ってしまう。

「そうなの、それはね、」

 

 

 

「――夢を見たんだよ、クラウド。」

 

 

 

「……え?」

「恐い夢を見たんだろう。今夜はハロウィンだから、魔女や狼男が出るって言うからね。

大丈夫、全部それは絵本の中のお話だよ。ここには、そんな狼男はいない。」

おばあさんは、クラウドを宥めるように言う。

「いない…?そんなわけない。だって、さっき俺を運んでくれたのは、」

そう、ザックスがクラウドを運んでくれたのだから、彼は絶対無事なはず。

そうでなければならないのだ。

 

「おまえを助けてくれたのは、猟師の男の人だったよ。狼男なんかじゃない。」

「…え?」

「銀の髪に、長身の…ほら、ソルジャーっていう、偉い身分の人だよ。」

名乗りはしなかったけど、瞳が不思議な輝きを持っていたからわかった、と。

「セフィロス……?!」

あの冷たい男が、自分を救ったというのか?

そうであるならば、ザックスは?ザックスは――まさか、

 

「何があったかわからないけど、きっと恐い夢を見たんだよ。狼が人間になるなんて、お伽話だよ。」

だから安心しなさい、と。そうおばあさんは言うけれど――

 

 

 

 

「…夢?」

そんなわけがない。10年前に小さな狼を助けたこと。

そして10年経った今、その狼が成長して今度は助けてもらったこと。

その狼が実は人間で、誰よりも格好良くて、でもときどき情けない青年であったこと。

まるで足に纏わりついてくる犬のように懐かれてしまい、好きだ愛してると何度も叫ばれて、

結局、彼に体を許してしまったこと。…心を、許してしまったこと。

 

「夢じゃ、ない…」

毎日のように、彼に会いに行ったこと。

雨が降っても雪が降っても、一日だって会わずにはいられなかった。

彼とたくさんの話をしたかった。頭を撫でてほしかった。笑った顔が見たかった。

約束をしていたわけじゃないのに、まるでクラウドの訪問をわかっているかのように、

いつだって森の入口で彼は待っていた。

クラウドの姿を見つけると、彼はどんなときも喜んで迎えてくれた。

 

…少し、落ち着きがないとは思う。

図体はでかいのに、まるで子犬のようにじゃれついてきて。

いつだってクラウドには尻尾が揺れているように見えていた。

「馬鹿犬!」とクラウドが叱ると、「犬じゃなくて狼なんだけど…」と些細な訂正をしながら、

やっぱり捨て犬のような顔をしていた。それが少し可愛かった。

 

一緒に花を摘んだこと。

彼は信じられないぐらい器用で、よく花冠を作ってくれたり、花の指輪を作ってくれた。

見た目はまるで兵士といった逞しい風貌のくせに、そんな女の子趣味のことをされると、

そのギャップが可笑しくてたまらない。

花言葉まで詳しくて、季節が変わるたびに、たくさんの花言葉とブーケを渡されて愛の告白をされた。

そういうザックスの気障な行動には、未だに慣れない。

「俺ってロマンチストだから。」と彼は言うけれど、こういうのって天然の「たらし」というのではないだろうか。

 

森の中だけじゃない。どこに行くのも、一緒だった。

村や近くの町に買い出しに行ったり、図書館に行ったりするとき、

恥ずかしいというのに彼は必ず手を繋いできた。

通りすがりの老婆から「可愛いカップルだねえ」と声をかけられると、

ザックスは嬉しくてたまらないという顔をする。

手を離せと彼の手の甲をつねってやろうと思ったのに、あまりに彼が幸せそうだったから出来なかった。

 

…二人、何度も肌を重ねた。

何度も何度も「好きだ」「愛してる」と囁かれたのに、一度だってクラウドから言うことはなかった。

ただ、名前を呼ぶと、「うん、俺も大好きだよ」と彼は返事をした。

言わなくても、クラウドの気持ちなんかお見通しだったのだろう。

そうであるからか、愛の言葉を彼に強請られたことは、これまで一度もなかった。

それが少し、悔しかった。

 

悔しかったから。

いつかは、言ってあげようと思っていた。

そのときザックスは、どんな顔をするんだろう。

きっと、優しく目を細めて頷いてくれる。あるいは、吃驚して固まってしまうかもしれない。

それを想像すると、くすぐったくて仕方がなかった。

 

恥ずかしくて、勇気がなくて、なかなか言い出せないでいるけれど、焦らずともきっといつか言える。

その「いつか」は明日か明後日か、1年後か――絶対くるはずだから。

 

 

 

 

 

二人、生きてさえいれば。

 

 

 

 

 

 

「夢じゃない…だって、ザックスはさっき、俺の腕の中にいたんだ。」

「クラウド?」

「腹を撃たれて、息をしなくなって、心臓の、音が…聞こえなく……」

朦朧とする意識の中で。

ザックスの時間が止まっていくのを、この体は感じていた。

本当は、あのとき、聞こえていた。

「ごめん」といったのか「愛してる」といったのか…何か言葉にならない声を、最期に彼は出したこと。

そうして、ザックスはクラウドを置いて――

 

 

 

 

 

「死んじゃった……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――大好きな、狼さん。

貴方のいない夢も現も、要りません。

 

お願い。

泣き虫だなって 俺を叱って、

呆れて、頭を撫でて、そうして、

 

俺を連れていって。

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (201242

パラレルでも、お決まりザックラパターン…

 

 

 

 


 

 

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