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「赤ずきんを脱がさないで。」その後のお話。

前作はエロコメディでしたが、だいぶ雰囲気変わってシリアス?です。

 

赤ずきんを脱がさないで。

番外編5

「罪 と 罰」

 

 

懐っこくて、元気いっぱいで、いつも笑っているザックス――

そんな彼が、一度だけ。

…一度だけ、クラウドの前で怯えた顔をしたことがあった。

 

 

 

いつのこと、だっただろう。

ザックスの部屋で、二人いつものように肌を重ねて、ついそのままベッドで眠ってしまったときのことだ。

目が覚めたクラウドは、ザックスの腕の中で抱きしめられていて――いや、『抱きしめる』というよりも

全身でしがみつかれるような体勢で、腕も足も絡められていた。

どうりで寝苦しいと思っていたら、この図体のでかい愛犬に自由を奪われていたらしい。

 

「……本当、甘えんぼう…」

 

これではまるで、抱き枕だ。

ザックスの寝相の悪さはいつものことで、スキンシップが過多なのも常のこと。

それが鬱陶しいと本人には文句を言ってばかりいるものの、本当はそういうところも嫌いじゃない。

ただ、クラウドはザックスのように素直になれないだけ。

本当は腕枕されるのも、膝枕を強請られるのも、こうして抱き枕にされてしまうのも、

悪くないと思っているのだ。

 

 

ザックスに触れると、じんわりと胸の奥が温かくなる。

自分でも不思議なぐらい、優しい気持ちになれる。

こんな気持ち、彼に出逢うまで絶対に知らなかったこと――

 

 

「クラ〜…」

むにゅむにゅと寝言を繰り返すザックスに、思わず笑みがこぼれてしまう。

もしかすると自分も寝ているときに、こんな風に彼の名を呼んでしまうのだろうか。

こんなマヌケな顔で。…こんな幸せそうな顔で。

寝ているときだけは、きっと嘘などつけないから。

「クラウド…」

彼の大きな手の平が、クラウドの髪を梳くように撫でる。

それもやっぱり無意識のようで、優しい手の力がたまらなく嬉しい。

 

 

 

 

(…今、何時だろう?)

ベッド脇に置かれている小さな置き時計(最近クラウドが彼にプレゼントしたもので、実はお揃いで

クラウドの部屋にもあるのだ。彼には内緒だが)。それに目をやって、時間を確認する。

まだ夜遅いわけではないし、母も職場から帰宅していないはず。

もう少し、余韻に浸っていてもいいだろう。

 

この優しい時間を、もう少しだけ。

 

「…けほっ、けほっ」

優しい時間、ではあったけれど。………『体』には、正直なところ優しくなかった。

ザックスによって時間をかけて愛されて、さんざん鳴かされたせいで、喉が枯れてしまっている。

声を我慢しようといつも意識しているのに、その度にザックスはクラウドの声を聴きたいと強請って、

それでも女のような声など出すものかといつだって意地を張るのだけど――

結局、最後にはザックスにしがみつきながら甘い声を上げてしまうのだ。

 

水を飲みに台所へいこうと、ザックスの腕をそっと外す。

こんなにぐっすりと眠っているのだから、起こすのは可哀想だ。

ベッドから降りて、床に足をついた瞬間。

 

突然、視界が一転した。

 

「うわっ?!」

それがザックスによって腕を引かれたのだと理解するのに、クラウドには数秒かかった。

「いった、なんだよザックス!」

ザックスの部屋にあるベッドはとても簡素な造りで、木製のそれに布が敷かれている程度のもの。

決して柔らかくないそれに背を打ち付けられ、彼に痛いと抗議する。

でも―――

 

「…なに?寝ぼけてる?」

目が合えばいつだって満面の笑顔になるザックス――その彼が、笑わない。

その表情も動作もまるで強張っていて、彼の時間が止まってしまったかのようだ。

目を見開いたまま、ぴくりとも動かないでいる。

それに違和感を感じて、背中はまだ鈍い痛みでズキズキしたけれど(恥ずかしいけれど腰も痛い)、

それ以上もう彼を責めることは出来なかった。

 

「……ザックス?」

ザックスが、笑わない。

いつもならここで、「おはようクラウド」と言ってキスをしてくるはずだ。

そうして「さっきは可愛かった」だの「腰痛くない?」だの、

こちらが恥ずかしくなるぐらいのアフターフォローに精を出すのだ。いつもで、あれば。

 

「……どこに?」

「え?」

 

 

 

 

「どこに行くんだ?」

 

 

 

 

まるで、今にも泣きだしてしまいそうな。捨て犬のような顔をして。

いや、違う――そのときザックスはそのままの『捨て犬』だったのだ。

クラウドに置いて行かれると、クラウドがどこかに行ってしまうのではないかと。

 

「キッチン。水、飲みに行くだけだよ。」

あっさりとそう答えれば、ザックスは我に返ったかのように瞬きをして、肩を大きく撫で下ろした。

「あ、水か……ってごめん!痛かっただろ?乱暴なことしてほんとにごめん!」

いつものザックスに戻り、騒がしいぐらいになる。

「ごめん、ごめんな!ここ痛いのか?!」

背中をさすってみせたり、頬を撫でられたり、髪に何度もキスをされたり…

まるで小さい子供をあやすかのようだ。

 

「ザックス、もういいから…ちょ、くすぐった…大丈夫だって!」

子犬のようにまとわりつかれて、さすがに恥ずかしくなってザックスの頭をおしやる。

「しつこいのは嫌いだって、いつも言ってるだろ!」

それでもザックスは懲りずにじゃれついてくるはずだ。

そのはずだったのに――ザックスは、聞き分けよく体を放す。

まるで、遠慮をするかのように。怯えているかのように。

 

「……水、飲みたいんだよな?今持ってくるから、待ってて。」

そうザックスはニカリと笑ってみせるけれど、その笑顔はどこか、いつもの彼とは違う。

無理に作られた笑みが、クラウドの胸を突き刺すかのようで。

「…ザックス!!」

「どわっ」

キッチンへと向かうザックスの背中をめがけて、足が勝手に動いていた。

後ろから抱きしめるというよりも、まるで体当たりをするかのように。

全体重をかけて、彼の背に飛び掛かる。

 

 

 

 

「……行かないよ。」

 

 

 

 

「クラ?」

「どこにも行かないし、捨てたりしない。だから、大丈夫だよ。」

「………」

 

ザックスの体が、小さく震えた。

呼吸が微かに乱れて、声を殺して彼が泣いているのだとわかる。

どんなに声を抑えていたって、耳を澄ませばクラウドには聞こえてしまう。

いつだったか、独りぼっちの小さな狼が、甘えた声で鳴いていた声―――

愛しい愛しいと、鼻を鳴らすその声が。

 

 

 

 

寂しがりやな 狼さん。

 

 

 

 

可哀想で、可哀想で、可哀想で、でもそれ以上に、愛おしい。

これから先何が起ころうと、絶対に彼から離れたりしない。

どこにも行かない。どこにも行かせない。

もし何かが、何者かが、彼を連れ去ろうとするならば――この身を賭して彼を守ろう。

弱い癖にと、子供のくせにと、彼は笑うかもしれないけれど。

 

 

 

 

ずっと一緒。

それは誰も知らない、赤ずきんと狼の約束。

 

 

 

 

 

 

 


 

約束、したのに。

 

 

 

 

 

 

ザックスは、死んだ。

 

 

 

 

 

 

ほんとうに?

 

 

 

 

 

 

おばあさんは夢なのだと言った。

でも、あれは夢などではない―――

だって、腹をナイフで刺したときの、凄まじい体の痛み。

ザックスに「ごめん」といって手を握られたときの、凄まじい心の痛み。

死んでしまいそうなぐらいに、痛かった。あの痛みが幻であるわけがない。

 

(ザックス…どこに行っちゃったの?)

夜の森では、右も左もわからない。

おばあさんの必死の説得もあり、結局夜が明けるのを待つしかなかった。

朝方、まだ薄暗い時間に、猟銃を手にしたクラウドは森へと駆け出した。

 

 

 

向かったのは、ザックスの小屋の近くにある湖。

この湖のほとりで、彼はセフィロスに撃たれたのだ。

「ザックス!ザックス!」

ザックスの姿はない。

落ちているはずの彼の衣服やバック、それにクラウドが家から持ってきたカボチャ。

それらが、どこにも落ちていない。

まるで昨夜のことが、夢であったかのように。

 

(夢…)

たとえば、おばあさんの言葉の通り、昨夜のことが全て夢であったらいい。

だけど、あれが夢じゃないことがわかる。

だってまだ、こんなにも痛いのだ。

あの小屋の中にもしもザックスがいなかったら=\―そう考えると、心が抉られるように痛いのだから。

 

「ザックス……?ねえ、いるの?」

ザックスの小屋、入口の扉。

震える手で、その扉に手をかける。

「いる、んだろ…?」

 

ザックスのことだから。

きっと何でもない顔をして、出迎えてくれるかもしれない。

昨日はヘマをして悪かったと言いながら、自分の腹をさすって、

「でも、ほらもう大丈夫だから!」なんて跳ねてみせたりして。

そうして彼のことだ。きっとクラウドの方を心配して、「痛かっただろ?」「恐かっただろ?」と

泣きそうな顔で詰め寄ってくるに違いないのだ。優しいザックスのことだから、きっと。

 

ギギギ…

 

木製の扉が、きしんだ音をたてて開く。

扉の向こう側には、男の黒い影が―――

 

「ザックス!!!」

それがいったい誰なのか、姿を認識するより前に。クラウドは思わず、部屋の中へと飛び込んだ。

そうしてその『誰か』に抱き留められる。

「ザ…」

 

 

 

 

「……狼の棲家に、赤ずきんが飛び込んでくるとはな。可笑しなお伽話だ。」

 

 

 

 

ザックス――――ではない。

背の高い、その美しい男は、

「セ、フィロス…」

「…クラウド。昨夜のことだが、」

「触るな!!!」

持っていた猟銃を構えて、全身で拒絶の意思を示す。

セフィロスの腰にかかっている銀の猟銃、それはクラウドのものよりも数倍大きなもので

果たして勝機があるのかはわからない。

それでも、この男に怯えている場合ではないのだ。

 

この男が、元凶だ。屈するわけにはいかない。たとえ刺し違えても。

 

「……そんな銃で、俺を殺せるとでも?」

「………」

「俺はソルジャーだ。銃で腹を撃たれようと、腹を刺されようと、そう簡単には死なないさ。」

「………でも、撃たれれば痛いだろ。」

「さあな。当たったことなどないから、わからない。」

セフィロスは、眉ひとつ動かさない。

男の言うとおり、本当に銃などでは死なないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「…ザックスは、痛かったはずだ。」

 

 

 

 

 

「アンタに撃たれて、すごく、痛かったんだ。」

あんなに血を流して、ぜえぜえと息を乱して、それでも何でもないように笑って。

死ぬまで離さないと言って、きつく抱きしめてくれた。

ただただ、クラウドを守ってくれたのだ。

どんなに痛かったか、苦しかったか――

それを思うと、どうしようもなく胸が痛くて、張り裂けてしまいそうだった。

「きっと、すごく苦しかった。し、んじゃいそうなぐらい…」

 

 

 

死 ん じ ゃ い そ う な ぐ ら い ?

 

 

 

「……。」

「ザックスは…どこ?どこに、いる。」

お願いだから、教えてほしい。

本当は、彼は生きているという事実を―――

 

 

 

 

 

「もう、楽になっているさ。」

 

 

 

 

 

その男の言葉、それは嘘や冗談などではない。

クラウドを嘲笑するのでも、騙すような意思もなく、ただあるがままの事実のように放たれた。

「つまり、」

「嘘だ!!ザックスは、」

「おい、」

「ザックスは、絶対に約束を破らない!」

一緒にいると約束したのだ。死ぬまで一緒にいると。

 

 

 

 

死 ぬ ま で ?

 

 

 

 

「…お前は、よほどあのペットにいれこんでいるらしいな。」

ゆらり、セフィロスが一歩近づいた。

その瞬間、構えていた銃の先がぶれて小さく揺れる。

腕が、身体が、勝手に震えだして――言うことを聞かないのだ。

 

「どうした、赤ずきん。その銃で戦わないのか。」

「……っ」

口元を釣り上げて笑う男。だがその声も、目も、笑ってなどいない。

「そうやって、誰かに守ってもらうのか?ザックスに、守ってもらうか。」

「え…」

 

「昨日も、夜の森で。お前は、あの男の名ばかり呼んでいたな。」

昨日――ザックスを探しに、夜の森に駆け出していったときのことだろうか。

男はそれをどこかで、見ていたというのか?

 

 

 

「撃ったのは俺だ。だが、あいつの名ばかり呼ぶお前にも罪はある。」

 

 

 

ドサッ!

次の瞬間には、ベッドに投げ飛ばされていて。クラウドの猟銃は床を転がった。

抵抗する間もなく、男が覆いかぶさってくる。

昨夜の悍ましい行為と重なって、全身が総毛だった。

「離せ!触るな!」

「抵抗すればするほど、男を煽るものだ。そんなことも、ザックスは教えてくれなかったのか?」

「やだ!や――っ!!」

ザックスは、少しでも嫌だと言えば行為を強要したりしなかった。

彼に求められて本気で嫌だと思うことなど、今まで一度もなかったけれど。

 

「いや!やだぁっ!」

「あいつも俺も、ヤることは同じだ。わかっているだろう?」

「違う…ザックスじゃない!ザックスじゃなきゃ嫌だ…!」

シャツを破かれ、ボトムを強引に下げられ、後肛に指を突き立てられる。

「相変わらず、いい締め付けだ。オマエの体は、男を受け入れるためにあるらしいな。」

「い…ッ!いた、い!やめ…」

もう二度と、彼以外に足を開きたくはない。絶対に。もう死ぬまで彼≠セけ――

 

 

「…ザックス!!」

 

 

狂ったように、愛する男の名を呼んだ。

「ザックス!ザックス!ザックス!!」

こんなに呼んでいるのに、どうして彼はいないのだろう。

どうして、

「ザックス!助けて!!」

 

 

 

 

ど う し て 、 い な く な っ て し ま っ た ?

 

 

 

 

「お前のせいだ。」

 

ぞわりと、背筋が凍った。

男の言葉を聞いてはいけない、そう思っていても、たぶん知っている。

それがきっと、クラウドの探している『真実』なのだということを。

「そうやって、お前が名を呼べば、いつもあの男は飛び込んできたのだろう?」

「え…」

「あのときも。お前を助けるために、飛び出してきたな。」

「あ…、」

「お前が助けてくれと呼ぶから、あの男は命を落とした。そうは思わないか。」

それは、つまり、クラウドがザックスを呼んだから、

「あの男の名を呼ぶ、おまえにも罪はある。つまり、」

男の言葉より先に、クラウドが答えを口にする。

 

 

 

 

「俺、のせいで、ザックスは…死んだ、の」

 

 

 

 

「俺が、弱いから、ザックスは―――」

もしも、誰かが、何かが…彼を奪おうとするならば、必ず護ってみせると思っていたのに、

いつだって、護られていたのは自分の方だった。

弱くて、臆病で、夜の森すら歩けない。

 

 

独りでは、寂しくて生きていけない。

 

 

セフィロスのせいじゃない。誰かのせいじゃない。

他でもないクラウドのせいで――

 

 

 

「弱いということは、それだけで罪だ。」

 

 

 

もう抵抗することは出来ず、クラウドは目を瞑った。

男の放つ断罪の言葉、それを聞きながら。…ただ、その罰を受けるために。

 

 

 

 

 

――大好きな、狼さん。

 

たとえば ひとが悲しみで死ねると言うのなら、

きっともうすぐ 貴方のところに 逝けるのでしょう。

 

ほら、息もできないよ。

 

あのときの貴方の痛みを思うと

胸が苦しくて、苦しくて、

死んでしまいそう。

 

 

 

 

NOVEL top

C-brandMOCOCO (2012826

いじわるセフィさん。歪んだ愛情表現、公式でもおなじみですねw

いろいろ、くどい展開ですみません。次回からテンションあげていきたいです…

 

 

 

 


 

 

 

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