※神羅時代、恋人未満なザックラ。
「冬が始まるよ。キミと僕の冬が。」の続きです。
初夢は、キミには言わない。
何の夢を見てるの?キミは、何の夢を。
年明け、早朝6時。
昨夜の大晦日は、ザックスと年越しソバを食べてビールを飲んで。
ザックスのくだらないバカ話に大笑いして。年が明けるのを、一緒にカウントダウンした。
――だが、一般兵には元旦も何もない。
今朝もこれから、クラウドはエアポートの警備だ。
クラウドは洗いたてのパリっとした軍服に腕を通す。ボタンも上まできっちり止める。
一般兵は身だしなみに厳しいし、だらしないのはクラウド自身、好きではない。
「クラウド〜〜…。」
(また始まったか。)
ちらっと隣のベッドに目をやると、ザックスが見事な大の字になって寝ている。
元の造りはなかなかの男前だが、大口を開けて眠りこけるその顔は、
マヌケとしか言えない。
そして。
「へへへ…クラ〜」
「黙れザックス!!」
自分の枕を力いっぱい、ザックスに向かって投げつける。
だが彼は起きるどころか、その枕を抱き締めて顔をすりすりしている。
「クラ、いい匂い…」
(やめろ!!!)
そう――ザックスは、寝言が絶えない男なのだ。
つい最近、ザックスとルームシェアして気付いたことだ。
ザックスと同じ部屋で生活するようになって、意外な発見は多い。
結構キレイ好きなとこだとか、夜遊びなどせずに真っ直ぐ帰ってくるとこだとか。
それに何より、ザックスは眠りが深い。
子供のような眠り方で、寝相もひどいし寝言もひどい。
しかもなぜかその寝言は、『クラウド』の名前を呼ぶことが多いのだ。
「いったいどんな夢、見てんだよ…」
トモダチの夢を毎晩見るって、少し変わっている気がする。
しかも枕をすりすりさせて。………夢の中で自分がすりすりされているのだろうか?
(まさか。)
二人はただの、トモダチだ。
それはザックスがよく言う口癖で、毎日のように『トモダチだろ?』と口に出す。
たとえばクラウドを怒らせたとき、また買い物に誘うとき、約束の時間に遅れたとき。
いつも『トモダチ』を理由にへらへらするザックスに、流される自分がいた。
それは――いやではない。
今までトモダチなんて一人もいなかったクラウドにとって、ザックスの言葉は嬉しかった。
「さすがに、寝言で毎晩呼ばれるのはやめてほしいけど。」
ザックスから、自分の枕を無理やり取り上げて、そのまま彼の寝顔を観察する。
黙っていれば、精悍で二枚目なのだ。
彫が深い目もと、すっきりと通った鼻筋。シャープな顎。意外にも長い睫。
女の子なら、見惚れてしまう寝顔かもしれない。
だが。
「クラウド〜〜ちゅき。」
「あほか!」
にんまりと笑って、幸せそうに顔を綻ばせるこの男。
トモダチ相手に言うセリフなのだろうか?いや、それ以前になんで幼児言葉?
百年の恋も冷めてしまうような、寝言。かつマヌケ面。
ザックスの『トモダチ』の扱いは、ときどき不可解だ。
過剰なスキンシップ、過剰な甘やかしぶり――。
ザックスはいつもクラウドを、女の子にするように甘やかす。
それこそ、至れりつくせりだ。…たとえば。
クラウドが風呂から出ると欠かさずアイスティやらジュースやらを用意してくれてたり、
髪まで乾かしてくれる。
実は、ザックスがドライヤーをかけてくれるのは、たまらなく気持ちよい。
いつもザックスの足の間で、うとうとしてしまうほど。
(…考えてみれば、男に髪を乾かしてもらうってどうなんだろ。しかも足の間に座って…)
まるでカップル座りではないか?
しかも乾かした後、ザックスは決まってクラウドの髪に顔をうずめる。
ザックスの使っているのと同じシャンプーなのに、なぜか彼は『いい匂い〜』と嬉しそうに
笑いながら。
――そんなことをクラウドが思い出していると。
「クラ、好きだよ。好きだ。」
クラウドは、はっとした。…ザックスは、変わらず眠っている。
彼は眠ったふりをしているわけではない。
この男に寝たふりなんて器用な真似はできない。
だがザックスは、さっきまでのマヌケ面ではなく、とても優しい顔で。
クラウドの『枕』を再び抱き寄せて、顔をうずめる。
それはまるで、『恋人』にするような甘い行為で。
クラウドの心臓が高鳴った。
「ちょっと、やめてよ…」
ザックスが枕にキスをする。そしてそのまま、胸に強く抱きしめる。
「ザックス…そんなの…」
――まるでクラウドが、そうされているよう。
抱き締められて、キスされて、まるで愛を囁かれているような。そんな――
きゅん≠ニ鳴った気がした。
実際は音なんかしていないけど、クラウドには確かに聞こえたのだ。
胸がきゅんと、高鳴る音が。――この男に堕ちる、その音が。
「クラウド…すげ、エッチ。」
(は????)
ザックスを見れば、彼はだらしない顔で、へらへらと笑っていた。
もちろん、彼はまだ夢の中だ。
クラウドの肩がわなわなと震えた。
「ザックス、アンタ何の夢見てんだよ!!」
思いっきりザックスの顔面に肘鉄を食らわす。
ソルジャーでなければ、全治2週間はくだらない、日ごろの訓練の成果だ。
「ぐわ!!…く、くら??」
ベッドの上で数回転げまわった後、ザックスは目をぱちくりさせる。
「ゆめ…夢か?っていうか何で俺、クラにエルボくらったの?」
普通なら寝ているところを殴られれば怒りもあるだろうに、
ザックスはただ首を傾げるだけ。
とことんクラウドに、甘い男だ。
それどころか、むしろ少し機嫌がいい。
「なんの夢、見てたんだよ。」
ザックスの質問に答えずに、クラウドが逆に聞く。
「…え〜〜っと。すっげ、いい夢。マジでいい夢だった…。」
何を思い出しているのか。ザックスはだらしないほどの、緩んだ笑顔だ。
「アンタ、寝言で俺の名前、呼んでた。」
「え!!!!!」
ザックスは一気に赤面し、動揺している。
「そ、それで他に、何か言ってた?!」
好きだ≠ニかエッチ≠ニか、好き放題言っていたとは言えない。
「…別に。いつもいつも、アンタの寝言うるさいんだよ。
自分では気付いてないだろうけど。」
思い出せば、クラウドの顔が熱くなってしまう。
あの寝言に、深い意味はないのかもしれないのに――
ザックスの腕の中の枕が『うらやましい』なんて、
自分はどこかおかしいのだろうか。
「そっか、よかった。いや、お前の夢見たからさ〜。
…言っておくけど、いやらしい夢じゃないぞ?!」
その慌てぶり、いったいどんな内容なのか。
…知るのが恐ろしいから、これ以上、追求はしないけれど。
「初夢は人に喋ると本当じゃなくなるから、絶対教えない!!」
「そうだっけ?なんか違うような…ていうか別に知りたくないし。」
そんなムキになるほど、大事な夢なのか。
「なあ、クラも俺の夢、見ないの?」
「見ないね。」
あっさり言ってのけたクラウドに、ザックスはわかりやすいぐらいに落ち込む。
「俺の夢、見ろよ!」
ザックスの目は本気だ。まるで、駄々をこねる子供のような彼に、クラウドは苦笑する。
人に言われて見る夢なんか変えられないというのに、無茶を言う。
もう出社しなければいけない時間。
ちらりと時計を見て、クラウドが寝室から出ようとすると。
「クラウド!俺の夢見るって、約束して!」
しつこい男だ。そんなザックスに呆れながら、クラウドは肩をすぼませて言う。
「これ以上、なんの夢を見るの?」
「え」
「…いつも叶わないこと、夢見てる。」
そう言って顔を赤くさせるクラウドに、ザックスはしばし沈黙して。
何かに気付いたようにベッドから飛び上がる。
そしてクラウドの目の前まで、一足飛びでジャンプ。軽く4メートルはある。
(ソルジャーみたいだな…。)
いや、どんなにマヌケ面でも、パンツ一丁でも、彼はソルジャーなのだが。
――そんな風に考えていたら。
クラウドは強く腕をひかれ――唇を奪われた。
胸がきゅんきゅん鳴って、うるさかった。
本当はいつだって。
キミに恋という名の、夢を見ている。
――夢、見てるよ。
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