C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

 

 

*トモダチ以上恋人未満。シリーズ8

*「動物園に行こう!」の続編のような、関係ないような(オイ)

*最初に言うのもなんですが、めちゃくちゃです。すみません…

 

彼と初めて見た映画を、覚えています。

へそ曲がりなシマウマと、弱虫ライオン

友情物語でした。

 

 

映 画 館 に 行 こ う !

〜へそ曲がりなシマウマ編〜

 

 

53日、ゴールデンウィーク。昼下がりの青い空の下。

連休の初日だというのに、クラウドは現在、この上なくイライラしていた。

というのも――

 

「キミ、すっげえ可愛いね!お友達待ってんの?」

「本物の金髪じゃん!どこ出身?」

「俺らとさ、ドライブ行こうよ?海とかさ〜」

 

今日だけで、6回目だ。

8番街の噴水の前で、ただ立っているだけなのに顔も知らない男たちに話しかけられる。

出身はどこだとか、好きな料理は何だとか、個人情報をあれこれ聞かれ…

人の顔をじろじろ眺めては、肌が白いだの、金髪が珍しいだの、睫がバンビみたいだのとやかましい。

――つまり、ナンパというやつだ。

 

出身なんかを尋ねる前に、もっと聞くべきことがあるだろう。

性別は?となぜ聞いてこないのか。

「…俺、男だから。」

「またまた〜!自分のこと『俺』って言うの?それ可愛いね〜。」

男だと言っても、彼らは少しも信じていないようだ。…それは、クラウドの予想通りではあったが。

今まで、初対面で自分を男だと見破った(?)人間は、一人としていないのだ。

それはクラウドの人生にとって、このうえないコンプレックスであった。

 

(ふざけんな!これも全部…ザックスのせいだ!)

 

などと、理不尽にも友人に責任追及してみる。

クラウドが女顔なのは友人のせいではないかもしれないが、ここで立ち尽くすはめになったのは

他でもない彼のせいなのだから、責められても仕方がない。とクラウドは思う。

(もう、30分過ぎた…)

――そう、今クラウドは、ザックスを待っている。

ザックスがどうしても見たいと言っていた映画のチケットが、今日までだからどうしても、と。

クラウドは半ば強引に、誘われたのだ。

だが、ザックスは約束の時間をとうに過ぎたというのにやってこない。

電話も、メールもない。

 

(もう、帰っちゃおうか――)

ナンパやらキャッチやらに、もはや我慢できそうにない。

人のことをからかって何が面白いのか…見知らぬ男たちから無駄に口説かれるのは、

男として不愉快極まりない。

肌の色や髪の色のせいで、北国出身だというのは一目瞭然。田舎者だと笑われているのだろうか。

男たちに指さされたり、口笛を吹かれたりするたびに、自分が虚しくなってくる。

彼と一緒に街を歩いているときは、そんな風に感じたことなどないのに。

通りすがる女性の視線がザックスに集中するたびに、クラウドの性格上自分が情けなくも

思えてしまうが、そう卑屈になるたびにそれを理解しているかのように、ザックスに手をひかれた。

体格も、スキルも、地位も、そして何よりその心――全てが釣り合わないとわかっていたけれど、

ザックスの手が、「対等」であると認めてくれているように感じた。

…彼に、その隣にいることを許されているような。

 

(早く、きてよ…)

きっと、ザックスは寝過ごしたのだろう。

早朝出勤だったクラウドと入れ違いで、遠征から帰ったばかりのはずだから。

もしくは、クラウドとの約束など忘れて、他の女の子とデートしている可能性だってある。

何しろザックスの交友関係は、クラウドとは違ってかなり広い。

男女問わず、親しい友人がたくさんいる。

友人以上の相手だっていれば、映画を一緒に見る相手だって…きっと何人もいるのだろう。

…そう思ってみても、その場を動けないのは。

 

ザックスがクラウドとの約束に遅れるのは、初めてのことだった。

ザックスは、あらゆる事にだらしのない男だけれど、クラウドとの約束を破ったことはない。

待ち合わせしたって、それこそ忠犬のように、何十分も前についてクラウドを待っているのだ。

「子犬のザックス」と誰が呼んだか知らないが、的を得ていると思う。

…子犬、というには少し育ち過ぎているけれど

(もしかして、お腹痛くなったとか…事故、とか…?)

何かあったのかもしれない。

(あと1分だけ、)

そう何度も何度も繰り返し、結局は帰れないでいる。

 

…あと1分待てば、きてくれるかもしれない。

どうしても、期待してしまう。

あの信号の向こうから、ザックスが手を振って駆け寄ってくるのを。

 

「ねえ、キミ、彼氏にすっぽかされたんじゃない?そんなチャラオ、シカトしてさ〜俺らと遊ぼうよ。」

牛みたいな鼻ピアスした男に、「チャラオ」などと言われたくない。

ザックスのことを、何も知らないくせに。

確かに軽いし、女好きだし、だらしないし、パンツもときどき派手なものを履いているけど

彼は約束を破ったりしない。

クラウドに向けてくれる態度も、言葉も、いつだって真っ直ぐな男なのだから。

 

「すっぽかされてなんか、ない。…くる。絶対くる。」

繰り返し口にすることで、まるで自分に言い聞かせているよう。

ザックスの隣にいるべきなのは自分ではない、そう思いたくなくて――

「あれ?なんか、涙ぐんでない?健気だね〜。俺らが慰めてやるからさ!」

 

男の手が、クラウドの肩に回される。よろめいて、男の胸のあたりに頭がぶつかった。

男からする煙草の臭いが、気持ち悪い。

「触んな。」

クラウドがその腕から逃れる前に、低い声が後ろから聞こえて、男の一人が悲鳴をあげた。

「いってえ!何しやがる!」

捻りあげられた腕を放そうと、必死にもがくも意味をなさない。

当然だ――相手は、ソルジャーなのだから。

 

 

「…こっちのセリフ。人のもんに、気安く触んな。」

 

 

「遅い!ばかザックス!」

そうクラウドが怒鳴れば、とたんにザックスは表情を変える。

ついさっきまでは殺人でも犯せそうな目つきをしていたのに、急に眉をハの字に下げて。

「ごめん!ごめんなさい!」

「謝ってすんだら、神羅はいらない。」

事故にあったわけじゃなくて、良かった。女の子のところじゃなくて、ここに来てくれて良かった。

本当はそう思ってみても、それを素直に言葉にできるわけがなくて、

どうしても可愛くないことばかり口をついて出てしまう。

「チョコパ奢ってやるから。ケーキセットもつけていい!な?許して?」

 

クラウドに後ろから抱きつくように、じゃれるザックス。

ここまできて、存在を完全に無視された男たちは、当然ながら憤る。

「おい!ふざけんな!綺麗にシカトしてんじゃねえよ!」

ザックスの肩をぐい、と引っ張ったのは(みたいなピアスをした男)だった。

ザックスは、鋭い視線を男たちに向ける。

それはまるで、視線だけで人を八つ裂きにでもしてしまいそうな――そんな、狂気にも似た、

「待って、ザック…」

背筋が凍って、止めに入ろうとしたした、そのとき――…

 

 

いやあ〜〜〜っ!!痴漢よ〜〜!!

 

 

なぜか、お姉言葉で叫びだしたのは――人間兵器と謳われるソルジャーたる男、だった。

「は?ちょ、」

お尻さわったわね!乙女の敵よ!

「ちょ、なに言って…」

お嫁に行けなくなったらどうするの?!

「おおおい、」

 

ざわざわと、周りにどよめきが走る。

「最近は恐いわね。ホモの痴漢ですって…ヒソヒソ…」

「ワシらも気をつけないといかんな…」

などと、周囲は様々な反応。

この不利な状況に、ナンパ男たちは慌てふためいて逃げ去っていった。

 

 

 


 

 

「完全勝利!正義は勝つ。」

 

勝利のファンファーレを鼻歌で歌いながら、ザックスがガッツポーズをとる。

「ザックス、アンタ恥ずかしすぎる!」

「なんで??ナンパ男の魔の手から、かっこよく助けたのに…。」

いったい、どのへんが格好良かったのか。

 

「そもそも、アンタが遅刻してくるからだろ!」

「ごめん、ごめん!寝坊しちゃって!」

「だったら、電話ぐらいしろよ!」

「携帯、部屋に忘れた。取りに帰る時間ももったいなくて…!マジでごめん!」

こっちがどれだけ心配したと…!

「え?」

 

「……別に、どうでもいいけど。」

 

無事だったなら、別にいいのだ。どうでも。

…なんて、そんなことは口が裂けても言えないけれど。

 

ザックスを見上げると、彼の髪が少し乱れているのに気付いた。

右側だけが、変な方向に跳ねている。いつも髪型はきっちりセットしているのに、ザックスらしくない。

いや――らしい、というのだろうか。

「…ごめん、寝起きで来ちゃって。俺、すんごいカッコ悪いよな。」

どうやら自分でも、そのハネが気になるらしい。

きっとザックスは、ベッドで飛び起きてから、大慌てでここまで走ってきたのだろう。

身だしなみを整える余裕が、ないぐらい。

 

真っ直ぐに、クラウドの所まで。

…いつだって、真っ直ぐすぎるぐらいのひと。

 

「ザックスらしい、ね。」

思わず笑みがこぼれて、くすくすとクラウドが笑うと、ザックスが抗議する。

「笑うなよ!」

そう言いながら、ザックスの方が笑っている。

自分が笑うと、ザックスはいつも目を細めて笑う。そういう風に笑うザックスが、いいなと思う。

ザックスが、迷彩柄のショルダーの中からニット帽を取り出してかぶる。

それは、いつかクラウドが彼にあげたもの――

 

「似合う?」

全然。

もともとユニセックスな店で買ったもので、どちらかというと女の子向けの帽子。

でも、ザックスがかぶっても、これが意外に似合う。

 

「かっこいい?」

全然。

男らしい端整な顔つきが、少し優しそうに見えて。なんというか――可愛い。

 

「俺のこと、好き?」

「…………。」

 

なんでそういう問いになるのか。

そもそも、好きだなんて答えるわけがないのだし。

でも嫌いだとも言えなくて、思わず言葉に困ってしまう。

その沈黙こそが、答えでしかないのだけど。

 

 

せめて、別の聞き方をしてくれないだろうか。

そう思っていると、「ごめん、聞き方間違えた。」と、ザックスが白い歯を見せて笑う。

 

 

俺のこと、嫌い?

……………………全然。

 

 

興味なさそうに、そう答えるので精一杯だった。

ザックスが、満足そうに頷いた。

 

 

 

 

全然、全然、嫌いじゃない。

それしか言えない、へそ曲がりでごめんね。

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2011524 初出)

なにこれ。

意味もなく、まだ続いてしまいます…

 

 

 

 


 

 

 

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