C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

知らないということが罪ならば。

俺は許されないほどの大罪者だ。

                                                                             (side Zack)

 

友人関係と呼ぶには、少し異常な執着だったとしても。

『大切ニシタイ』という感情だけなら、いい。

だが日に日に、彼に対する汚い欲が頭をもたげて、いつ破裂してもおかしくなかった。

 

――夢の中で、クラウドを抱いてしまった。

自慰をするときも、気付けば彼のことばかり考えていた。

妄想の中では彼をメチャクチャに犯したり、恋人のように優しく抱いたりした。

それは今まで経験してきたどんなセックスよりも、興奮した。

ただの妄想で、ここまで興奮できるものなのか。

クラウドに、はまっている。……彼を、汚したくなんかないのに。

まったく矛盾していると思う。

 

その性的な欲求をぶつけるように、女の子達と体を重ねた。

そして気付いた。

クラウドへの想いを忘れるために抱くのに、気づけばクラウドの代わりに彼女達を抱いている。

行為の最中に必ず、自分はクラウドの名を呼んでいるのだから。

 

 

 

 

クラウドが遠征に行って長く不在になった。

会えないのは死ぬほどつらい。

だが彼に汚い欲をぶつけてしまうこともないから、彼にとっては安全だろうなどと考える。

 

女の子を部屋に呼び、いつものように行為に及んでいると。

リビングの方で、微かに衣擦れの音がした。

クラウドだ、と思った瞬間、セックスもそっちのけで寝室から飛び出していた。

 

「やっぱクラ!おまえ何で?帰還までまだあんじゃねーか。怪我でもしたのか?!」

クラウドが帰るまでまだ5日ほどあったはずで、何かあったのかと危惧した。

だが怪我は無いようで、何やら顔を赤らめている。

それが自分が裸であるせいだと気づき、慌てて服をとりにいく。

男同士だというのに、その初心さが可愛いと思う。

 

すると連れ込んでいた女の子が怒り出す。

セックスの最中に飛び出し、他の子にニヤけていれば怒るのも無理はないかもしれない。

だがクラウドが、いつもの控えめな意見を言うもんだからザックスは焦った。

「俺、今夜トモダチのとこ行くよ…だからその人、泊めてあげて。」

 

ばかげている。

本当はクラウドと一緒にいたいのに、何でこの気の無い女の子を泊めねばならないのか。

勝手な思考がめぐって、最低にも、女の子に出て行ってほしいと言っていた。

当然のごとく、女の子が逆上する。

クラウドのシャツを捻り上げ、彼に手をあげようとするのをザックスは止めた。

思いのほか手に力が入ってしまい、もしかしたら女の子は痛かったかもしれない。

「そんな子、まだ子供じゃない?!どこがいいのよ!!」

 

またふざけた調子で返そうと思ったが、腕の中にいる彼の体温を感じて。

適当な言葉でごまかしたくないと、思った。

「――全部だよ。」

そう迷いなく、答える。

だってそれが真実だから。

 

 

 

 

その騒動が終わった後。

クラウドが自分の作ったシチューを食べるのを、ザックスは愛しげに見ていた。

「…なに」

視線に気付いたのか、クラウドが顔を歪める。

その拗ねた顔も、可愛いと思う。

「ミッション。何が、あったんだ?」

クラウドはスプーンを止めず、答える。

「敵を前にして、逃げた。恐くなって。」

 

彼が悲し気に微笑ったのを見て、嘘だと直感で思った。

「嘘だろ。」

その言葉に動揺してか、クラウドは持っていたスプーンを皿の上に落とす。

何て、嘘が下手なんだろう。

「なんで、嘘をつく?」

そうザックスが聞くと、彼はもう眼をあわせることもなく、俯いて言う。

「…言いたくない。」

その眼が二度とこちらを見てくれなかったらと思い、恐くなった。

「まあ、オマエが言いたくないなら聞かないよ。」

そう言って、彼の頭を撫でて誤魔化した。

 

 

……クラウドは、なぜ嘘をつくのだろう。

いったい何を、隠したいのだろう。

 

彼が嘘をつくときに悲しそうに笑う癖。

以前にも、見たことがあったはずだ。

でもそれらに気づけば、彼が離れていってしまう気がして。

 

気付かないふりをした。

 

 

 

 

翌日、ザックスはクラウドの上官の報告を聞く。

クラウドが敵前逃亡を図り、戦力外として戦線を離脱させた、とあった。

クラウドの報告書にも同じようにあった。

(クラウドが、仲間をおいて逃げるわけがない。)

死ぬことよりも生き恥をかくのを嫌う彼だ。

ザックスには確信があった。

 

そう自分の執務室で思いあぐねていると、カンセルがノック無しに入ってくる。

こないだのこともあるので、最近はあまり顔を合わせていなかった。

「ザックス、久しぶり。」

「ああ。どうした?」

こないだの件に触れないように、努めて明るくザックスは返す。

「クラウドのこと、聞いた。戦線離脱で減給だって?降格はなかったらしいけど。」

「アイツは、逃げるようなやつじゃねーよ。何か隠してる。クラウドも軍も。」

てっきりまた呆れられるかと思っていた。

 

だが、カンセルは「だろうな。」と言う。

「何か知ってんのか?」

「隊の指揮官が、クラウドに不当な命令をしたって。」

人の噂に戸は立てられないってな、と。

「不当な命令?」

「…夜の、相手だとさ。腐ってやがる。」

ザックスは、頭に血が上った。

クラウドが、上官にセックスを強要されたというのか。

甚だ信じ難かったが、だがそれなら、クラウドが隠したがっていた理由も納得できた。

 

「なあ、ザックス。」

怒りを露にするザックスに、カンセルは殊更落ち着いた口調で言う。

「クラウドをそういう目で見てるやつ、いるってこと。ちゃんと知っておいたほうがいいぞ。

……俺は、知らないってことも…罪だと思う。」

その言葉の意味はよくわからずとも、えも知れぬ不安がザックスによぎった。

 

「……こないだの…ビデオの、ことだけど。」

搾り出すように、ザックスは言った。

触れたく無い、ことだったが。

きっと、答えを聞くのは避けられない道なのだ。

「おまえ、見たって。ほんとなのか?」

 

するとカンセルは一度目を伏せ――再び茶色の瞳をザックスに向けると、力強く言い切った。

「いや。あれは勘違いだった。クラウドに似ていただけで、別人だ。よく知りもしないであんなこと言って、

悪かったな。」

そのカンセルの言葉の中に、とても優しい響きを感じる。

「もしかして、クラウドに会ったのか?」

「少し、な。オマエの言う通りの、いい子だったよ。」

ザックスは安堵した。

 

 

『知らない』という罪を、またひとつ犯して。

 

 

 

 

――なあ、クラウド。

いつからだろう、オマエの背負う何かを感じたのは。

でもそれに気付いてしまったら、オマエがもう傍にいてくれない気がして。

知ることから、逃げちまった。

 

甘い夢から覚める勇気。

それさえなかった自分を、俺は許せない。

 

 

NOVEL top

C-brandMOCOCO (2008.11.8

 

 

 

 


 

 

inserted by FC2 system