C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

もう、我慢できない。

彼の全てを手にいれたくて。トモダチなんかじゃ、嫌だった。

                                                                                   (side Zack)

 

 

欲情は、止まらない。

独占欲も、際限などない。

いつからか、トモダチの距離が測れなくなっていた。

 

 

 

クラウドを夏の旅行に誘ったとき、ふざけた調子を装ったが、内心ザックスは必死だった。

彼の全てを独占するために。

そしてクラウドは「トモダチだから対等でいたい」と言った。

無理な話だと、ザックスは思う。

だってこんなに好きなんだから、自分と対等なわけがない。

自分よりも何よりも、優先したい相手だ。

 

愛しさが込み上げて、このもどかしい距離を近付けたかった。

彼の眼を見つめたまま、少しずつ近付く。

クラウドは、逃げない。

いったい自分はこのままどうしたいのか。

ザックスはわからなかったが、吸い込まれるように顔を寄せた。

クラウドの艶やかなピンクの唇から、吐息が漏れるのを感じた。

その瞬間ザックスに言いようのない情欲が生まれて、この唇を貪りたいと思う。

 

ガタン!

 

クラウドが拒絶するように引いたのを見て、はっとした。

大事に守ってきたこの境界線を、危うく越えてしまうところだった。

クラウドは小さく怯えている。

「恐がらせちまったな。ほんとごめん。」

そう言って彼の金糸を撫でる。

本当は、こんな優しく髪に触れるだけじゃなくて。

――乱暴に、したい。

噛み付くようにキスをして、体中を舐めまわして、彼の中に強引に割って入りたい。

…その醜い自分の欲望に、嫌悪した。

 

 

 

 

夏の夜。

ソルジャー仲間と飲む機会があり、クラウドを連れていった。

クラウドは交友関係が狭く、それを気にしている風だったから、これがいいきっかけになればいいと

ザックスは思った。

クラウドを誤解している者も、彼と話せば考えを変えるだろう。

彼は本当に優しく、無垢で可愛いから。

 

二人で店に行くと、3rdのフリードを見てクラウドが反応した。

どうやら知った仲のような二人に、ザックスが関係を聞くと『親友だった』とフリードが答える。

ザックスがクラウドの顔を見ても、彼は何も言わない。

――嫉妬か、独占欲か。

『親友』という言葉に、敏感に反応する自分がいた。

 

 

飲んでる最中、クラウドは楽しそうだった。

ソルジャーの仲間も、クラウドを気に入ったようで、みんなかまい倒していた。

だがザックスは、端の席に座るフリードが気になった。

彼がクラウドを見る視線が、何か好意的とは思えなかった。

(クラウドの親友なんて言われたから、俺は嫉妬してんのか。)

そうザックスは思ったが、だがカンセルの態度に疑問を覚える。

カンセルが時々フリードに対して、冷たく辛辣な視線を送っている。

――まるで牽制のような。

それに、カンセルのクラウドを見る視線が、とても温かい。

以前一度話したと言っていたが、そこまで二人は仲が良いのだろうか。

 

 

そしてクラウドの後を追うように、カンセルはトイレに立つ。

不思議に思って、自分も後を追う。

 

「あんなやつでも、ザックスのトモダチなんですね。」

トイレから聞こえてきたクラウドの声に、ザックスは思わず気配を消す。

「……ザックスは、さ。」

カンセルの声が聞こえる。

別に隠れる必要なんてないのに、一度気配を消した手前、出るに出れない。

「人の汚いとことか、嘘とか。そういうのに鈍いんだよ。それが見てて危なっかしいけど、アイツのいいとこでも

あるよな。」

 

…何に対して言っているのだろう。

ひとつ言えるのは、あのフリードとクラウドは、やはり良好な仲ではなかったということだ。

(もしかしたら前に、同室で病院送りにした相手の一人が、フリードだったのか?)

フリードを店に呼んだことを、今更ながら後悔する。

二人にどんな因果があるか知らないが、きっとクラウドにとって良い思い出ではないはずだ。

 

それにフリードの、あのクラウドを見る眼。

自分がクラウドに負い目があるからこそわかる。

何か性的な淫猥さを含む視線だ。

(俺が、クラウドを護ってやる――)

 

だが。

「そうですね。だから、俺なんかに騙されてる。」

クラウドの言葉に、衝撃が走った。

 

 

(騙されてる?)

(俺は、クラウドに騙されてる?)

(――いったい、何を?)

 

頭がうまく回らない。

その後クラウドは、カンセルとの関係も隠したがった。

二人は以前一度会ってるはずなのに、初対面だと嘘をつく。

……今だって、クラウドが愛しい。

彼が望むなら騙されたふりもいいかもしれなかった。

でも、ザックスはどうしてもいつもの調子で笑えない。

そして。

 

「もう、嘘はいらない。」

 

クラウドに、きつい口調で言ってしまった。

クラウドはこの世の終わりのような顔をしていた。

 

ザックスは、焦っていたのだ。

二人の間にあるひとつの嘘も許せないほど、彼の近くにいたくて。

 

店の出口で、フリードと鉢合わせる。

「また連絡するよ、クラウド。」

その嫌な笑みに、クラウドへの強い独占欲が沸騰して。

「連絡なんかしてくんな。」

ザックスは、ひどく冷たい口調でフリードに言う。

 

フリードとザックスは大して親しい仲ではいが、別に険悪なわけでもなかった。

それなのに、今まで感じたことのないほどの憎しみを、彼に感じて。

フリードとクラウドの過去に何かあったことも。

自分たちの仲に入り込もうとするその行動も。

彼がクラウドを性的な視線でみるのも。

全てが、許しがたかった。

 

 

フリードが出て行った後、ザックスはクラウドに問う。

「オマエの親友は、俺だろ?」

だから、誰のことも見ないでほしい。

二人の間に秘密を、作らないでほしい。

「え……。親友……?……うん。」

肯定の返事に、もう安堵はできなかった。

 

「騙されてなんか、ないよな?」

 

その一言で、いろんなものが失ってしまう気がしたが――聞かずにはいられなかった。

ザックスはトイレでの話を聞いていたのだから、騙されてると知っている。

それが何かはわからずとも、きっと何か大きなことだ。

 

 

 

だけど、それでも。

騙してなんかないって、クラウドにまた嘘をついて欲しかった。

 

 

 

――なあ、クラウド。

俺は、嘘を付かれたことが辛かったんじゃない。

騙してなんかいないと。

そう嘘をついてでも、傍にいることを望んでほしかったんだ。

 

歪んでて、ごめんな。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.8

 

 

 

 


 

 

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