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男とか、トモダチとか――そんな逃げ道はもう。

きっと彼を初めて見たときから。

どうしようもなく、惹かれていたんだ。

……これを人は恋、と呼ぶのだろうか?

                                                                                         (side Zack)

 

 

コスタで過したひとときの夏は、二人の距離を大きく変えたような気がする。

ザックスはクラウドを一番大事だと言い、クラウドは泣きそうな顔で笑った。

それは、今までで一番の、南国に咲く花のような笑顔だった。

 

あの奇跡のような夏も終わって、秋がくる。

だけど隣には変わらず、彼がいるから。

めぐる四季全てが――特別。

季節が移りゆくように、彼の表情も変化する。

今までザックスに見せなかったクラウドの顔を、知っていく。

秋も、冬も、彼と出会った春がまたやってくるのも、全てが楽しみだなんて。

こんな気持ち、知らなかった。

 

 

 

 

休日、部屋のリビングで二人はDVDを見ていた。

今話題のアクション映画だ。

ザックスがソルジャー仲間から借りたものだが、内容は正直何でも良い。

ただ、彼の隣を独占できるていることが大事だから。

とても穏やかな気持ちで、同じソファに座るクラウドの方をチラリと見る。

形の良い白い耳に、狼のピアスが収まっている。

 

クラウドは映画のストーリーに入りこんでいるのか、画面を凝視している。

膝を抱えながら、ハラハラしたり、安心したような顔をしたり。

外では無表情で通してるくせに、本当のクラウドはとても純粋だとザックスは思う。

全てのものが珍しいのか、どこに連れていっても、何を見せても、何の話をしても。

宝石のような眼を輝かせる彼は、年相応の少年で。

 

「可愛いな…」

 

無意識に出てしまった言葉に、ザックス自身がかなり慌てた。

「え?」

クラウドは、ザックスの方に顔を向ける。

カワイイとか美人だとかいう言葉は、クラウドにとって鬼門だ。

きっと今まで、男達から性的なからかいやアプローチを受けたことがあるのだろう。

(やべえ!俺、なに口に出してんだよ。)

ザックスは自分の失言をどう誤魔化すべきか、ひたすら考えていた。

するとクラウドは、何故か怒りもせず、また戸惑いもせずに「ああ、」と肯定する。

 

「ザックスの好きそうな人だよね。」

「へ?」

「この、ヒロインの人。」

画面を見てみると、確かにザックスのタイプといえる年上美人がいる。

グラマーで、肉厚のある唇がセクシーな美女だ。

だが。

「違うって!」

こんなマスカラ3度塗りの女性よりも、隣にいる彼の方がよっぽど。

「え?じゃあ、誰のこと?」

まるで自分のことだと気付かない彼に、安心するが少しもどかしい。

彼は自分の魅力を少しもわかっていない。

 

「……ちょっと、好きなやつを思い出して。」

彼の顔を真っ直ぐ見ながら言う。

クラウドは少し沈黙したあと、彼女か、と呟いた。

「休みなのに会いに行かなくて、いいの?」

やはりクラウドは気付かないらしい。

「いつも会ってる。」

そうザックスが答えると、クラウドは顔をかしげた。

「でも、最近、休みの日はいつも家にいるじゃん。」

「……そう?」

「今だって。」

 

そうクラウドが首をかしげる仕草に、ザックスは衝撃を感じる。

……つまりは下半身の、だ。

ヒロインの綺麗な女性より、グラビアアイドルより、秘書課のマドンナよりも。

今、ザックスが欲しいのはただひとりだ。

 

どんな意味で彼を欲しいのか。

もう、ザックスはわかっていた。

ただのトモダチではいたくない。

彼と似た女性を抱くだけでは、もう我慢できない。

……同性で、少年で、しかも親友相手に何を、とは思う。

だがさすがにもう、認めてしまうしかない。

大事に護りたいという想いも本当だし、彼を抱きたいという欲望も、また本当なのだと。

 

彼に、恋をしている。

そして彼を、愛している。

 

愛しさに、自分の顔がほころぶのがわかる。

「なんか、羨ましいな。」

「――え」

「ザックスの、彼女。」

そう言って、クラウドは画面の方を向く。

今クラウドに言われた言葉が、一瞬理解できなくて彼を凝視していると。

「見るなよ!」

クラウドが耳を赤くして拗ねている。

それがあまりに可愛くて。ザックスは思わず、クラウドを抱き寄せる。

 

「何すんだ!」

クラウドは、ザックスがふざけていると思っているのだろう。

文句を言いながらザックスの胸を押し返そうとする。

それを無視して、ザックスはクラウドの髪に顔をうずめる。

「クラって、何でいい匂いすんの?」

女の子の香水の匂いなんかよりも、ずっと甘くて、興奮する。

「……ザックスって、いちいち口説くみたいに言うよな。」

クラウドに言われた言葉に、ドキリとしてザックスは顔を離した。

「…トモダチ相手に、やっぱ変だよ。」

クラウドは俯いていて表情が見えないが、不機嫌な声に怒っているのかと不安になる。

「嫌?」

「いつも、可愛いとか言うし。天使みたいとか言うし。それって、女の子に言う言葉だろ。」

「でも、ほんとの事だし。」

「どこが」

 

クラウドはまた画面の方を向いてしまう。

こっちを見てほしいと、ザックスはよくわからない焦りを感じる。

「――少なくとも、俺にとっては天使。」

冗談めかして言うつもりが、何やら真面目な声が出てしまった。

それに驚いたのか、クラウドはしばらく言葉を発さない。

「……ザックスは、俺を知らないからな。」

そう言って、クラウドはキッチンの方に行ってしまった。

 

クラウドが席を立ったとたん、隣からソファの重みが消える。

ザックスは、それに少し寂しさを感じる。

…クラウドは確かに、ミステリアスだ。

相手のこと全てを知るなんて、きっと不可能だろうけど――

それでもクラウドのことなら、何でも知りたいとザックスは思う。

例えば、誰にも見せたことのないような。

自分だけしか知らない、彼の顔を。

 

そんな欲がザックスの中で疼き出す。

別にクラウドをここでどうにかしようとか、そういうつもりはないし勇気もない。

ただ、ちょっとした悪戯心が生まれて。

「なあ、クラ。DVD、変えていい?」

コーヒーを汲みなおしてきたクラウドが、戻ってくる。

「いいけど。なに?」

「ダチが貸してくれた、新作。」

再生ボタンを押すと、淫猥なタイトルが出る。

「これ…もしかしなくても」

AV、見たことある?」

ニヤリと笑ってクラウドを見る。

 

別に、この先をクラウドに見せて一緒に楽しむつもりじゃない。

ただ、クラウドが赤くなったり焦る姿が見たかっただけだ。

「…俺が、慌てると思ってんの?そんなガキじゃない。」

クラウドは無表情でコーヒーに砂糖を入れている。

その意外な反応に驚きつつ、気になった。

「え、見たことあんの?」

「珍しくないだろ。」

「ふーん…」

確かに15歳の少年ならば、性に興味があって当然だ。

男社会の軍なのだから、その手の猥談や情報もあるだろう。

むしろ15歳なんてやりたい盛りだ。

(でも、クラウドがAVで抜いてるなんて想像できねえ…。)

目の前の彼は、とても清楚で美しく、どこか浮世離れしているから。

彼の口つけているコーヒーカップは神羅で支給されているものなのに、

まるでどこぞの王室の食器かと思わせるような、そんな気品に満ちている。

 

「じゃあ、どんな子が好き??」

話があらぬ方に行っていることを自覚しながら、クラウドについ聞いてしまう。

「どんなって…別に、ない。少なくてもこういう女の人は好きじゃない。」

画面に映るAV女優は、巨乳がエロいお姉さんだ。

「ないってことはないだろ?教えてよ。」

しつこく聞いてしまう。だって気になるから。

「…あえていうなら…笑顔がよくて…真っ直ぐで…優しい人…?」

「そんなAV 女優いないんじゃ。」

伏せ眼がちに言うクラウドにクラリとしながら、突っ込む。

「別にAVの話じゃなくて!」

顔を赤くするクラウドが可愛くて、もっと意地悪なことを聞いてしまう。

「じゃあどんなのが燃える?どんなAV見んの?」

「…別に、ない。でも……、その、痴漢とか無理やりとか…嫌だ。」

「じゃあラブラブなエッチがいいんだ?クラ、かわい〜な!」

「…うるさい!…だって…好きじゃない人とするなんて、可哀想じゃんか。」

 

クッションで顔を隠すクラウドに、鼻血が出そうだ。

AV女優なんてみんな、好きじゃない人とするんだと思うが。

(何?クラウド、それ…犯罪並みに可愛いんですけど)

 

クラウドの初心さに、ザックスが興奮していると。

画面から女性の悲鳴が聞こえる。

『嫌!やめて!!』

ありがちな棒読みで、女の子が叫ぶ。

どうやらこのAVの内容は、クラウドが嫌だと言っていた、嫌がるお姉さんを無理やり…というやつのようだ。

複数の男達に服を破られ、体を弄ばれる。

『この淫乱が!いいんだろ?』

とかなんとか、これまたありがちなセリフを男たちが言う。

ここまでクラウドと見るつもりなかったのになと思いつつ、止めるにも止められずにいると。

 

「嫌だ!!」

クラウドが突然叫ぶ。

ザックスはその普通でない彼の声に驚き、クラウドの方を見る。

クラウドは青い顔で耳を塞いでいる。

「見たくない!嫌だ!」

そのあまりの切羽つまった声に、ザックスはからかう気もおきず、慌てて画面を消した。

 

「悪い、クラウド。悪ふざけがすぎたな」

そう言って頭を撫でると、その手をはねのけられる。

そんな反応は初めてだった。

「クラ…?」

「……アンタも、こういうの、好きなの?」

こういうのとは、AVのことだろうか。

「そりゃ、男だし…」

困ったようにザックスが答える。

「そうじゃなくて…、こういう、無理やり、するやつ…」

クラウドはクッションに埋めたまま、顔をあげてくれない。とても焦る。

「そりゃ、男だし…」

同じ返答しかできない自分がバカ丸出しだと思う。

 

「――なんでみんな、力でねじ伏せたりするのかな。」

「え?」

「そういうの、すごく嫌だ。軽蔑する。」

(え、クラウドに、嫌われた???????)

よくわからないが、このままではクラウドに軽蔑されてしまう。

ザックスは軽くパニックになっていた。

 

「ちょっと待て、クラウド!!誤解だ!俺はメイドの方が萌えるから!!」

「…は?」

「俺は、ツンデレが好きなんだ!!」

すごい勢いでアピールして、ザックスは我に帰った。

クラウドはポカンと呆けている。

「……だから、その、嫌いにならないでほしいな、なんて…」

 

無意識に、ザックスはソファの上で土下座の体制になっていた。

その情けない姿勢のまま、しどろもどろになるザックスに、クラウドは噴出す。

「あの、クラウドさん…?」

まるで怒られた子犬のような情けないソルジャーの頭に、クラウドは片手をぽんとのせて。

「わかったから。」

穏やかに笑ってくれた。

「ザックスがザックスで良かった。」

そう言って眼を細める彼に、ザックスは愛しさが募る。

 

「俺、好きなんだ…」

「だから、ツンデレが、だろ?」

クスクスとクラウドが笑う。

「うん、好きだ。」

 

――クラウドが、好きだ。

 

彼を、何ものからでも護りたい。

力でねじ伏せるのが許せないというならば、優しく優しく、大切にしてやりたい。

情けなく土下座をしたまま、ザックスはそう心に誓った。

 

 

 

――なあ、クラウド。

女は恋をすると綺麗になるって言うけど。

男は恋をすると情けなくなるって、本当なんだな。

でも、そんなカッコ悪い自分が、結構好きだったよ。

 

…そんな愛しい日々は。もう、取り戻せないのかな?

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.9)

 

 

 

 


 

 

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