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彼に知られるぐらいなら。

死んだ方がマシだと思った。

                                                                                               (side Cloud)

 

 

 

ザックスが二人の部屋から出ていった。

1STに昇進したことで、部屋を移ったのだ。

それは、とてもタイミングのよいことだった。

あの日教会で、二人の関係には終止符がうたれたのだから。

 

ザックスは「またな」と言ったけれど、きっともう会うことはないと思った。

だから「さよなら」と返した。

もう二度と会えなくても、トモダチだと呼ばせてほしい。

ほんの一瞬だったけれど。

彼と過ごした奇跡のような日々があるから、もう何もいらない。

 

――いつでも、死ねると思った。

 

 

 

 

仕事の後は毎晩のようにフリードに呼び出され、彼の部屋で暴かれた。

「ビデオをザックスに見せるぞ。」

その一言で、今まで何度犯されようと死ぬ思いでしてきた抵抗が、一切できなかった。

ザックスに、醜い自分を知られるぐらいなら。

残された最後のプライドさえ放棄して、男に従った。

そしてクラウドは――死ぬことをよく考えるようになる。

 

フリードは、ザックスにばらすことはしなかった。

考えてみれば、フリードも命が惜しいのだろう。

ザックスに知られれば、どんな目に合うかわからない。

たとえクラウドでなくても、彼は歪んだことを嫌う人だから。

 

しかし、行為はエスカレートする。

フリードは、ソルジャーや兵士達に金を払わせ、クラウドを彼らに売った。

「顔がいいと得だよなあ、オマエは高く売れる。」

クラウドが男たちに散々犯された後、部屋に戻ってきてフリードが言う。         

5万の価値しかない自分の、何が高いと評価できるのか。

涙を流しながら、クラウドは静かに笑った。

 

人は、どこまでも狂う。

フリードや仲間達は、そのうちクラウドのビデオを売り始めた。

それも、上層部のそういう趣味のあるものに限っているようで、高い値段で売られた。

クラウドにとってそれはある意味、ザックスにばれないという点で安心できたが。

もはや彼にばれるかどうかでしか物事を判断できない自分が、ひどく滑稽だと思う。

 

 

 

 

訓練や講義のときだけが、クラウドにとって安心できる日常だった。

マテリアの講義を受けているとき、窓の外にザックスの姿が見えた。

ザックスは何人かの彼の友人達と、日の光の下を歩いている。

(……もう、あそこに俺の居場所はない。)

日の光の中にも、彼の隣にも。

遠い存在になってしまった親友が、とても眩しく感じて、クラウドは目をそらした。

 

 

 

クラウドは、堕ちていく。

堕ちていく――…

 

 

毎日毎日、代わる代わる男に犯され、殴られ、罵声を浴びる。

どこまでも汚れていく自分に、もはや価値など見出せないし、見出す気にもなれない。

(いつ死のうか?)

もはやそれだけを考えるようになり、クラウドは自殺を図った。

 

――死ぬなら、部屋がいい。

二人で笑って過ごした、あの部屋で終わりにしたい。

ここだけは、フリードにも、誰にも汚させはしない。

クラウドにとって、ザックスとの思い出と、あの部屋だけが聖域だと思った。

 

だが、実際は死ねなかった。

手首を切って死にかけたところを、カンセルに発見されたのだ。

それからというもの、カンセルは何度も部屋に来てくれた。

「なあ、クラウド。俺だってオマエのトモダチだと思ってる。俺が力になるよ。」

ザックスによく似た、真摯な瞳だった。

でも、クラウドはカンセルを拒絶した。

死への覚悟が鈍ることを、恐れた。

それに彼もまた、自分と同じ世界の人間ではないと思ったから。

カンセルは、ザックスのように、日の光が似合う。

「もう、二度とこないで。」

そうクラウドが言っても、彼はその後も訪ねてくる。

だがクラウドは、絶対にドアを開けなかった。

 

 

 

 

その後、手首の傷をフリードに見られ、さんざん殴られた。

「てめえは俺の商品なんだよ!死んだら金になんねえだろうが!」

死にたいと思わせる男が、勝手なことを言う。

フリードはクラウドを監視するために、クラウドの部屋に入り浸るようになった。

この二人で過ごした部屋を、思い出を、汚してほしくなくて。

これまでさんざん拒んできたのに、結局は踏みにじられた。

いつのまにかフリードの部屋から、クラウドの部屋に男たちは集まるようになる。

 

――この部屋で過ごした、あの素晴らしき日々はどこに?

 

あるとき、ザックスの使っていたベッドでクラウドは犯された。

さすがに、それには抵抗した。

「ここは嫌だ!俺のベッドにして!!」

必死で懇願したが、おそらくフリード達はその理由を知っているのだろう。

クラウドが嫌がるのを面白そうに笑って、盛り上がっていた。

ザックスの匂いなんて、きっともうこのベッドに残っていない。

だけどベッドに顔を押し付けられたとき、なぜかザックスの匂いがした気がして。

絶望を感じた。

ザックスを近くに感じながら、男の凶器が自分の中を出入りする。

これほどの拷問を、今まで味わったことはない。

 

それからクラウドは、続けて2度も自殺を図った。

全てフリードに見つかってしまったが、クラウドは本気だった。

そのたびに、殴られオモチャにされたが、気持ちは変わらない。

死ねるまで、何度でもやろうと思った。

死への恐怖なんて、もはや微塵もない。迷いもない。

 

だが。

 

フリードが、とんでもない行動に出た。

クラウドの母親に――例のビデオを送ったという。

男たちに犯され、堕ちるところまで堕ちた自分の映像を。

それを聞いたとき、クラウドはリアルに脅えた。

 

クラウドが死ねば、フリードは間違いなくザックスにビデオを送りつけるだろう。

腹いせのために手段を選ばない男だ。

きっと、その牽制の意味で母親に送ったのだ。

「従わないならザックスにばらす」という脅しだ。

そのときクラウドは、死という逃げ道さえ失った。

 

 

 

 

ザックスと離れて一ヶ月が経った頃。

いつものように部屋で、フリードに行為を強要された。

悪趣味にも目隠しをされ、手を縛られ、狂った行為が行われた。

男は満足した後、シャワーを浴びて出て行った。

クラウドはもう涙さえも枯れ、ベッドに縛られたまま全裸で放置されていた。

 

リビングの方で、何か音が聞こえた。

朦朧としていた意識が、覚醒する。

フリードのやつが、戻ってきたのだろうか。

それとも、また別の男に売られたのだろうか。

 

どちらにせよ、クラウドに選択肢などないのだ。

醜い欲望を持った男たちは、放っておいてもこのベッドにやってくる。

あとは人形のように、悪夢が過ぎ去るのを待つだけだ。

 

部屋の、ドアが開けられる。

誰かが寝室に入ってきて、床がぎしりとなった。

目隠しをされて見えないが、フリードではない、とクラウドは思う。

あの男の物腰はこんなに静かでないし、いつもクラウドを罵りながら入ってくる。

ではこの男は。

 

「だ、れ……?」

返事はない。

誰かの息遣いは感じるが、一言も喋らない。

それに恐怖を感じる。

「……誰だか知らないけど、金持ってきたならさっさと終わらせてよ。」

恐怖をごまかすために、強がるしかなかった。

 

するとその男が、ベッドに乗ってギシリと音をたてる。

そしてクラウドの耳のピアスに触れた。

「触るな!」

それは、ザックスからもらった狼のピアスだ。

『高貴な魂』を意味するそれを、汚してほしくない。

「ヤれれば満足だろ?抵抗もしないからさっさとヤれよ。」

足を少し広げて、男を誘うようにする。

 

 

「……本当に、淫乱なんだな。」

 

 

そう声が上からして、男が覆いかぶさってきた。

それは、いつか聞いた愛しい人の声によく似ていたけれど、そんなわけはない。

 

きっと、自分の願望がそう思わせるのだと思った。

 

 

 

 

――なあ、ザックス。

いつから俺たち狂っちゃったんだろうね?

それはきっと、俺がアンタに嘘をついたときから。

だから、アンタは何も悪くない。

 

何にも、悪くなんかないんだよ。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.21)

 

 

 

 


 

 

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