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初めて会ったとき、キレイな生き物だと単純に思った。

……彼が何を背負っているのかもわからずに。

                                                            (side Zack)

 

 

ザックスは、拷問を受けていた。

戦場で、ザックスを含む数人のソルジャーと一般兵が、捕虜として捕えられたのだ。

敵の基地に連れていかれ、拘束される。

およそ一週間、仲間たちと拷問部屋のような牢獄に閉じ込められている。

今回の作戦のこと、軍の内部情報、ソルジャーの秘密など。敵兵は尋問を続けた。

悪趣味な体罰とともに。

だがザックス含むソルジャーにとって、こういったことは慣れている。

拷問は初めてではないし、もとよりそのための訓練も受けているのだ。

少しのことでは根をあげない。

 

だが、問題は一般兵だ。

少し痛ぶられるだけで、簡単に口を割ってしまう。

今も目の前で、指を切り落とされた兵士が、泣きながら情報を話している。

軍人として情けないと言えなくもないが、しょうがない、とザックスは思う。

(一般兵には肉体的にも、精神的にもまだ辛い。)

肉体改造を施したソルジャーと一般兵とでは、痛みに対する感覚自体が違うのだ。

それに命がかかっている。

忠義や誇りも大事だが、年若い自分達の命を優先したとして、責められない。

ザックスは自分は沈黙を守りながら、そう感じていた。

 

 

 


そのとき、重い鉄の扉が開き、新たな捕虜が放り込まれた。

一般兵のマスクを被り、後ろ手に縛られている。

放り込まれた勢いで床に倒れこみ、ザックスの前に転がった。

ガタイのいい敵兵の男が、彼の背に馬乗りになると、小さく呻いた。

そのまま背中に銃を突きつけられると、彼の体が強張る。

「神羅の兵隊さんよ、面倒だから一度しか聞かねえ。てめえの部隊は何人だ?通信コードを答えろ。」

 

ザックスはそれを目の前で見ながら、この兵士は喋るだろうと思った。

床に押さえられた体は、軍服の上からでも分かるほど細く、小さい。

階級は一等兵のようだが、きっとまだ、少年兵だ。

 

だがそのザックスの予測に反して、彼は一言も喋らなかった。

少年兵の沈黙に苛ついた敵兵が、彼の右肩の辺りを銃で撃つ。

だが彼は、呻き声すらあげない。

それどころか、微動だにしない。

「なんだこいつ、生きてんのか?!

背に乗ったまま彼の頭を引っつかみ、マスクを乱暴にはずす。

 

放り投げられたマスクが、ガコンと音をたてて反響し――。

 

驚いたのは、ザックスだけではない。

マスクの下の顔は。

薄暗い地下の牢獄で、光を撒く金糸の髪、白く浮き立つ肌。

まるで魔力でも秘めているかのような、強い輝きを放つアイスブルーの瞳。

少年なのか、少女なのか?…そもそも人間なのかさえわからない。

人形のような無表情で、恐ろしく冷たく、恐ろしく美しく言い放つ。

「――殺せばいい。情けなく生き残りたくない。」

その何とも表現できない存在感のある声で、拷問部屋にいた全員が振り返る。

ザックスには、時間が止まったように感じた。

 

 

「おい、こいつ、連れていこうぜ!!

呆然としていた敵兵達が、今度は興奮して騒ぎ出す。

リーダー格らしい男が、少年兵を無理やり起こす。

突然、さっきまで動じなかった少年が暴れだした。

「おい、大人しくしやがれ!!

だが、少年は渾身の力でもがく。

「放せ!死んだ方がマシだ!!」

「てめえが大人しくしねえなら…ここにいるお前のお仲間さんは、みんなあの世行きだ。」

その敵兵の言葉に、少年は動きを止める。

そのまま引きづられるように部屋から出て行く。

 

「待てよ!!

ザックスは思わず叫んだ。

「そいつ、まだガキじゃねえか。すげえ出血してるし、ほっとくと死んじまう…。そもそもそんな少年兵、

何の情報も知らされてねえよ。拷問なら、俺が代わりにいくらでも受けるから…」

彼はまだ、145歳ぐらいだろう。

幼い命が奪われるのを、ザックスは危惧した。

 

敵兵が一斉に笑う。

「馬鹿が!!てめえじゃ出来ねえ様なことをするんだよ!」

そこに性的な意味があることを、ザックスは気付かなかった。

少年はザックスを見て、大きな目を更に見開く。

 

「人の心配より、自分の心配しろよ!

一人の敵兵が、ザックスの後頭部を銃の角で殴打する。

それに続いて、10人ほどの敵兵が一斉に殴りかかる。

ザックスは身動きがとれないまま、耐えていた。

捕えられてからずっと、辛辣な拷問を受け、水一滴すら与えられていない。

永遠のように続く暴力に、ザックスの意識が遠ざかる。

遠ざかる意識の中、やめてくれと叫ぶ声を聞いた。

それは誰かが自分を庇う声だった、と思う。

 

 

 

次に目が覚めたときには、もう金髪の少年の姿はなかった。

その後もザックス達は長い拷問を受け――意識を何度も失いながら、チャンスを待つ。

数日経ってやっとその好機があり、ザックスは自力で拘束を解いて見張りを倒した。

すぐさま神羅軍の助勢を、皮膚に埋め込んで隠し持っていた通信機で呼ぶ。

仲間の縄を解きながら、緊急処置を施す。

一般兵のうち数人は、すでに死んでいた。

他の兵士やソルジャー達も、意識がない。

そしてザックスもまた、限界だった。

わずかなMPでケアルを仲間にかけながら――意識が遠のいていく。

 

(…アイツは、無事だろうか……)

目を閉じれば。思い出される、意思の強い瞳。

 

 

 

 


ザックスが目覚めたのは、神羅軍本部の医務室だった。

後からきた神羅軍によって敵は壊滅、ザックス含む捕虜達は無事にここまで運ばれたらしい。

軍医に金髪の一般兵について聞くが、運ばれていないと言われた。

(軍以外の病院に運ばれたのか?それともまさか……死んだのか?)

名も知らぬ少年の死が、恐かった。

 

「統括!」

ブリーフィングルームに勢いよく入る。

包帯だらけのザックスに困ったような顔をして、ソルジャー統括のラザードはため息をつく。

「ザックス、そんなに動きまわって大丈夫なのか?」

「ソルジャーなんだからこんくらいヘーキ!んなことより、金髪の一般兵がどうなったか知らねえ?」

…ミイラのような格好で、平気なわけがない。

自分の怪我より他人のことを気にするのが、彼らしいとラザードは思う。

「一般兵?」

「ああ、同じ部隊じゃねえけど…あそこにいたはずなんだ。まだガキで、ものすごい綺麗な顔の…」

ラザードは少し思案した後、思い当たったように言った。

「ああ、第7部隊のクラウド=ストライフだな。」

「クラウド=ストライフ…」

「彼なら、先ほど医務室に運ばれたばかりだ。少し救助が遅れたようだな。」

「え?!無事なのか?!」

焦るザックスを、落ち着かせるようにラザードは言う。

「命に別状はないそうだ。ただ……今は面会など行ってやるな。彼もそういう気分ではないだろう。」

「面会できないほど、悪いのか?!」

いや、と否定する。

「……君のような騒がしい奴が行ったら、安眠妨害だということだ。」

少し考えてから、ラザードは困ったように笑った。

数日経って、ザックスは医局に行ったがクラウドは退院したときかされた。

 

 

 

 

ザックスはそのソルジャーの回復力をもって、包帯は3日でとれた。

そしてすぐに別の任務に駆け出された。

兵舎の自室に帰ってこれたのは1週間後の真夜中。

リビングのソファに、疲れた体ごと勢いよく倒れこむ――そのときだった。

ザックスの体の下から、柔らかい感触とともに叫び声が聞こえ、凄い力で吹っ飛ばされた。

だが、さすがソルジャー、何とか尻餅はつかず踏みとどまる。

ソルジャー特有の夜目を凝らして見ると、シーツにくるまった何かが蠢いていた。

「……誰だ?」

もしかして、今まで連れ込んだ女の子?…それにしてはすごい力だ。

ダチが、勝手に入って寝てたとか?

 

「なあ、おい…」

ザックスがシーツをはずそうと、それに触れようとしたとき、叫ばれた言葉に呆然とした。

「触ったら殺す!」

「え?ころすってオマエ…え?なんで?え?」

テンパっているとシーツが舞い、その人物がソファから跳ねた。

綺麗な弧を描き、ザックスから距離をとったところで音もなく着地した。

 

窓から月明かりが差し込む。

そのわずかな光さえも反射させて、きらきらと光を撒く金の髪。

白いシーツに包まれた彼は。

間違いなく、あのときの少年兵だった。

「アンタ、誰だ?」

あきらかな殺気をもって彼は問う。

その瞳はあの時と変わらず、射抜くように強い。

――ザックスの、心の臓を射抜くように。

 

怪我はもういいのかとか、ここは俺の部屋だけどとか、そもそも男の子であってますよね、とか。

聞くべきことは色々ある。

だがザックスが最初に口にしたのは、最もマヌケな問いだった。

 

 

 

「…………天使?」

 

 

 

 

――なあ、クラウド。

お前はそう言われるのを酷く嫌がったけど、本当に天使みたいだと思ったんだ。

俺、バカだけど、でもわかるよ。

オマエが綺麗なのはその外見だけじゃない。

どんなにねじ伏せられても心を支配されない、オマエの魂が綺麗なんだって。

 

…そう、伝えれば良かったのにな。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.8

 

 

 

 


 

 

 

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