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教会のオルガンが響いて、悪夢がずっと終わらない。

彼に、逢うまでは。

                       (side Cloud)

 

 

クラウドは退院した後、寮の部屋を移ることになった。

入隊してから約1年、部屋を変えたのは4回目。

たいていルームメイトに暴行されかけ、クラウドが抵抗し、暴力事件に発展。

その結果、部屋を渡るように移動した。

今度はソルジャーと同室ということで、クラウドは憔悴する思いだった。

ソルジャー相手では、抵抗もできない。

(黙ってヤられてろというわけか。)

 

 

 

 

クラウドは1年前に入隊した時から、軍内で性的な対象として見られていた。

ただでさえ、男ばかりの環境である上に、クラウドの外見である。

シャワールームでのなめるような視線や、明らかな卑猥なからかい。

クラウドはそれらを、見事な無表情・無反応で無視した。

だがそれだけでは収まらず、クラウドを欲望の捌け口にしようとする輩もいる。

クラウドはその外見に反して運動能力が高く、兵士として優秀であった。

しかし、大数の前では無力である。

 

入隊して初めて犯されたのは、自分の部屋の、自分のベッドの上だった。

ルームメイトが連れ込んだ数人の男達によって、集団で暴行を受けた。

初めてクラウドに友達だ、と言ってくれたルームメイトが、自分の上に覆い被さっている。

さんざんクラウドをオモチャにした後、オマエは本当にイイ友達だよ、と下卑た口調で笑った。

 

男達が寝室を出ていき、一人ベッドで呆然としながら、クラウドは何かを諦めた。

諦めたのはトモダチ、という繋がりか。

人を信じる、という気持ちか。

悔しくて、情けなくて、声もなく泣いた。

故郷から出てきても、自分は虐げられる側の人間なのだ。

力が欲しい、と切に願った。

――信じられるのは神ではない、トモダチでもない、自分だけなのだから。

 

その後も同僚や上官にさんざん性的暴行を受けたが、村と同様、救いの手などあるわけもなく。

その度に、クラウドはいつも死ぬ気で抵抗した。

抵抗すれば、暴力は酷くなると知っている。

それでも、せめてものプライドが彼をそうさせた。

…心までは、支配されたくないと。

それが彼にとっての、最後の足掻きだった。

 

 

 

 

入隊して1年経った今、クラウドは全ての人間を拒絶していた。

暴力は止まない。

中にはクラウドに害を与えない人間もいるが、彼らが助けてくれるわけではない。

安全な位置からの傍観も、クラウドは敵と認識していた。

 

そんな時、遠征先で敵の捕虜になるという事態が起きた。

情報を吐かないなら殺すと言われたとき、恐怖はなかった。

今まで、死んだ方がマシだと思ったことは何度もある。

むしろ、誇りのために死ねたら本望だと思った。

だが敵の意図が性的な関心に移ったとき、急に恐くなった。

……我慢できなかったのだ。

誰かのオモチャになることが。

また惨めな思いを重ねて生きていくのが。

 

目の前にいたソルジャーらしい男が、クラウドを庇うような事を口にした時、耳を疑った。

クラウドの肩の傷よりも、その黒髪のソルジャーの方が血まみれだったから。

それに彼は、敵がクラウドに向ける性的な意図を、少しも理解していない。

彼は自分とは違う世界の人間なのだと、そのときクラウドは感じた。

クラウドはそのソルジャーが敵兵に殴られるのを見て、やめてくれと叫んだ。

自分は大人しくするからと、懇願した。

何故かわからないが、見ていられなくて。

 

別の部屋で、クラウドは死にたいと思うほどの陵辱を受けた。

代わる代わる犯されながら、脳裏に先ほどのソルジャーの顔がよぎる。

壊れそうな意識の中で、彼にはこんな風に汚れてほしくないなと、ふと思った。

そしてどこまでも汚れていく自分を、自覚する。

あのソルジャーと自分の、この落差はなんだろうか――…

ずっと憧れて止まなかったソルジャー≠ニいう強い存在と。

ただ男の欲望の捌け口でしかない、自分。

 

数日後、どうやって場所がわかったのか神羅の助勢が来て、敵は壊滅した。

クラウドは保護されたが、隙をついて現場から抜け出し、毒を飲んだ。

どうしても死んだ方がよい状況の時の為に、兵士が奥歯にしこんでいるものだ。

これ以上、恥を上塗りして生きるのが、耐えられなかった。

 

未来をもう、信じられなかった。

 

 

 

 

クラウドが目を覚めすと、そこは軍の病院だった。

瞬時に死ねなかったことを悟る。

クラウドが服毒自殺をしたことで、内管から精神上の指摘があり、寮の部屋を移されることになった。

なぜその部屋なのか、クラウドにはわからなかったが、誰と同室でもみな同じだと思う。

最後には自分を裏切り、汚い欲望をぶつけてくるのだから。

「――彼がキミの薬になるといいが。」

病室にきたソルジャー統括のラザードが、クラウドにそう言う。

その意味を、クラウドは理解していなかった。

 

 

 

 

遠征中だという、これから同室になるソルジャー。

その男が帰還したのは、クラウドが新しい部屋に移って二日目のことだ。

まだベッドが搬入されていないため、クラウドはリビングのソファで寝ていた。

真夜中、そのクラウドの上にダイブしてきた彼を、襲われたのだと思って蹴り飛ばした。

もしや同室のソルジャーが、早くも自分を…と思い、恐怖を感じる。

これ以上、惨めな思いはごめんだと思う。

ソファから飛び降り、刺し違えてもいい、と死ぬ気で抵抗しようとしたそのとき。

 

「………天使?」

 

暗闇の中、なんともマヌケな声がした。

相手を殺す気も、自分が死ぬ気も失せていた。

 

彼があの捕虜になった日に見たソルジャーだと知るのは、朝になってからのこと。

その男はクラウドをベッドに無理やり勧め、自分がソファに寝るからと強引に、そして勝手に寝てしまった。

翌朝。日の光の中でソルジャーの馬鹿ヅラすぎる寝顔を見たとき、少し笑えた。

 

  

 

あの日、教会で悪夢を見てからずっと。

8才の頃から鳴り止まない、教会のオルガンの音が――止まった気がした。

代わりに聞こえてきたのは、彼のイビキの音だった。

 

  

 

――なあ、ザックス。

天使みたいだって言われるたびに、本当は辛かった。

アンタに嘘を重ねているようで。

だけどアンタのためなら、天使にだって悪魔にだってなりたかった。

アンタが望むなら、何にだってなりたかった。

 

キレイなフリしてて、ごめんね。

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.8

 

 

 

 


 

 

 

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