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彼のつく嘘は、いつでも優しかった。          

その優しさに安心しきっていた自分は、何て愚かだったんだろう。

                                                                        (side Zack)

 

クラウドとの同室は、後日辞令が出た。

もっと早く言ってくれればクラウドに蹴られることもなかったのに、とザックスは思う。

でもあの時の少年が無事でいてくれて良かったと、心から喜んだ。

 

 

 

朝になってザックスは、クラウドに改めて自己紹介をした。

リビングのソファで向かい合う。

「俺、ザックス!ザックス=フェア!ソルジャーセカンド。よろしくな、クラウド!!

「……自分の名前、知ってるんですか?」

クラウドが少し緊張したのが、ザックスにはわかった。

「ああ、こないだ統括におまえの容態を聞いたとき、知った。俺が病室で目が覚めたとき、いなかったからさ。

すっげえ気になってて。っておまえ、ケガはもう平気なの??見た目治ってるっぽいけど。平気?

もう平気なんか?きっとひどい拷問受けたんだろ?まだ小せえのに…頑張ったな。あの時なんもできなくて

ごめんな?ソルジャーのくせに俺は」

 

ひたすら喋りまくるザックスに、クラウドは唖然としていた。

「怪我は…平気です。もともと外傷は対したことありませんでした。あの、昨日は大変な失礼をしてしまい…

申し訳ございませんでした。」

「あ、昨日のハイキック?かなりいい感じに決まったよな!俺、ドМだから全然問題ナシだって!」

クラウドがあまりに萎縮しているようだったので、ザックスはそう冗談めかして返した。

「でもオマエ、拷問なんて始めてだったんじゃないか?辛かったよな…」

こんな幼い少年が、自分が受けたような暴力を受けたのかと思うと。

自分のこと以上に辛いとザックスは感じる。

 

そんなザックスの態度に驚きながら、クラウドは言う。

「…いえ、ほとんど拷問は、受けていません。すぐ、保護されましたから。」

「すぐ?」

「…はい、すぐ。だから、みんなと同じタイミングで運ばれなかったんです。」

 

ザックスは違和感を感じた。

すぐと言っても、助軍を呼んだのはザックスなのだ。

それまでだいぶ長い間、クラウドも拷問を受けたはずだ。

そもそも、クラウドは別室にいたため、救助が他より遅れたと統括に聞いている。

(ならなんで、拷問受けてないなんて…)

だが、ザックスが見たところクラウドに外傷は見られない。

肩の銃創はまだ完治していないだろうが、昨日の動きからするに、

確かにそれほどの拷問は受けなかったのかもしれない。

そう安堵してザックスは笑った。

「これからよろしくな!クラウド」

 

 

 

 

その日から、二人の共同生活が始まる。

社交的なザックスは、初めてのルームメイトということで心を弾ませていた。

辞令の理由は知らされなかったが、どうでも良かった。

一人より、二人の方が絶対楽しい。

 

それに、相手はあのクラウドだ。

ザックスは彼を一目見た時から、ずっと忘れられなかった。

それは彼の凄まじい美貌だけではない、と思う。

あの小さな少年が守ろうとした、自分の誇り。それが気になってならないのだ。

クラウドのことを知りたい、と思う。

そして彼が護りたいものを、自分も護ってやれたらと、そんな風に感じた。

 

 

 

だが現実は期待とは違う、とザックスは知る。

クラウドは、ザックスと馴れ合うことはしなかった。

よろしくと言った朝から、彼はザックスに近づこうとしない。

部屋にいるときは自分の寝室に閉じこもっているし、声をかけてもYESNOの連れない返事。

食事に誘っても、遊びに誘っても見事に断られる。

会社内で見かけたときはさらにひどく、もはや他人のふりといった始末。

視線すら合わせないのだ。

 

ザックスは自分が嫌われているのかと思ったが、しかしクラウドを追いかけて観察するうちに、

それは誰に対してもそうなのだと気付いた。

彼は、いつも一人でいる。

社内を歩いているときも、社食で食事をしているときも。

美しい彼を皆が注目しているが、声をかけるものはいない。

 

…いや、声をかけるものはいる。

だがそれは友好的なものではなく、彼を批判したりからかったりするような、そんな類のものだ。

なぜ、とザックスは思う。

クラウドは確かに無愛想で反応が冷たいが、自分から他人を攻撃するような性格ではない。

周りに流されないその正当性・公平性も、気持ちがいい。

彼は幼いながらも兵士として優秀だし、講義や銃の成績に限ってはトップだと指導教官から聞いた。

品行方正で、生活態度もまじめだ。

それにクラウドについて知ったことが、ある。

 

 

 

 

ザックスはクラウドと同室になってから、数回彼と同じ任務に当たった。

もしかすると以前から一緒の任務もあったかもしれないが…

一般兵はマスクをとらないため(特にクラウドは絶対にとらない)、気付かなかったのかもしれない。

一緒の任務で、ザックスはクラウドの援護を何度となく受けた。

そして気づいた。

クラウドは常に的確な援護射撃で味方を助け、怪我人のために自分の回復アイテムをおしみなく使う。

いつも、周りを気遣って戦っている彼。

ザックスも同じではあるが、しかしクラウドはまだ一般兵、しかもその中でも最年少だ。

そんな彼が、自分の命より他人を優先するのは。

実力が伴わない今は、危ういとザックスは思う。

しかし同時に、彼を尊敬した。

 

 

 

 

そんなクラウドを、周囲は誤解しているのだろうか。

それとも、彼の持つ全てに妬んだ結果か。

そんなことを考えながら、ザックスが自室のシャワー室から出ると、クラウドがちょうど帰宅してきた。

時間は深夜2時すぎ。

クラウドは夜勤でもないのに、時々こんな風に遅くなることがあった。

 

「クラウド!お帰り!遅かったから心配したぞ〜」

無視されるのを覚悟して、いつものように明るく話しかける。

「……トレーニングしてて、だから…」

答えがくるとは思わなかった。

「トレーニングって、こんな時間までやってたら明日に響くだろ?一生懸命なのはいいけど、

自分の体は大事にしないとソルジャーには、」

ついおせっかいの癖でザックスが喋り出すと、クラウドは綺麗に無視してシャワールームにいく。

「先輩には関係ありませんので。」

冷たい一言だけを残して。

 

「かわいくねえなあ…」

そう口にしたとき、ザックスはクラウドの白い二の腕にある、大きな痣が目に入った。

「おまえ、それどうした?」

ザックスがクラウドのTシャツの袖をめくろうと手をのばすと。

クラウドは小さな悲鳴をあげて、後ろに飛びのく。

そのあからさまな拒絶の反応に、ザックスは戸惑った。

クラウドの顔色は真っ青で、小さく震えているように見える。

 

「体調でも悪いのか?それとも、怪我してんのか?」

ザックスは心配になって、クラウドのTシャツの裾を思い切りめくりあげた。

ザックスは目を見開く。

白くきめ細かい、それはそれは美しい肌に――無数の打撲の痕があった。

新しいものや、古いものもある。

どんなトレーニングをしたらこんな風になるのか。

 

ザックスがTシャツの裾をつかんだまま固まっていると、クラウドがすごい勢いで暴れだした。

「やめろ!!触るな!!」

驚きザックスが手をはなす。

クラウドが息を乱しながら、睨みあげる。

「なんだよ、結局アンタも…!」

そう言って怯えるクラウドの尋常でない様子に、ザックスは思い当たった。

ひょっとして、クラウドは。

 

「おまえ――虐められてんのか?」

「……は?」

「イジメにあってんだろ?!誰にやられた?俺が殴り返してやる!」

 

クラウドは目を見開いていた。

「全く、イジメなんて小学生みたいなやつらだな!」

リベンジしてやる、と必死な形相でクラウドに詰め寄る。

ザックスは、イジメとかリンチとかを、ひどく嫌う。

その上、こんな小さく細いクラウドを……と思うと、腹がたった。

 

クラウドは肩の力を抜いて、呆れたように言う。

「アンタって、本当にどこまで…」

そして小さく笑った。

「ちゃんとやり返してきたから、大丈夫だよ。」

 

 

そのふわりとした微笑に、ザックスの脳髄は振動した。

初めて見たクラウドの微笑に歓喜し、舞い上がった。

クラウドがシャワールームに入っていくのを、笑顔で見届けながら。

 

 

 

――なあ、クラウド。

オマエはいつも何でもないような顔をしてたけど。

その小さな体で、今までどれだけの痛みを抱えてきたのかな。

あの時、シャワーの音に消えたオマエの泣き声に、気づいてやれなかった。

オマエの優しい嘘に騙され続けた自分が、今はどうしようもなく憎いよ。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.8

 

 

 

 


 

 

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