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ありきたりの言葉で他人を表現するのは、ばかばかしいと思う。

けど恥をしのんで言葉にするなら。

――彼は、太陽のような人だった。

                                                                 (side Cloud)                        

 

  

クラウドにとって、ザックスという存在は謎だった。

ザックスは、笑顔が似合う。

言葉を交わした朝も、日の光の中でザックスは笑っていた。

……眩しくて目が痛かったのは、朝日のせいだったか。

 

あの捕虜になった日、クラウドが性的暴行にあったことを、ザックスはいまだに知らない。

そして何故かこの男に知られたくないと、クラウドは思った。

だからすぐに保護された、などという嘘をついた。

 

よろしくと言って差し伸べられた手を、クラウドは掴めなかった。

汚れた手で、彼に触りたくなかったから。

 

 

 

 

共同生活が始まり、ザックスはクラウドを構おうとしたが、それを全て拒絶した。

今までと同様、他人に関わりたくないと思う。

ザックスは、食事や買い物にクラウドを誘ったり、クラウドが帰るまで起きて待っていたり、

道で会えば大声で駆け寄ってきた。

いつでも、まぶしい笑顔で。

それが恐かった。

 

ザックスは確かに、これまでクラウドが出会ったことのないような人間ではある。

だが、彼をこれ以上知りたいとは思わない。

彼に近づいて、自分の軍での位置を知られたくない。

男に犯されるような弱い人間なのだと、ばれるのが恐かった。

 

そしてクラウドはもう、人を信じるつもりはなかった。

どんなに信じても、最後には裏切られる。

それも、もっとも残酷な形で。

 

ザックスが良い人だというのは認める。

同室になって知ったことだが、彼は面倒見がよく、気配りがすごい。

明るくくったくのない彼の人間性で、友人関係も驚くほど広く、女性にも人気がある。

軽いノリに反して、実は仕事に対して真面目で、任務中も周りをとにかく配慮している。

そして不正が嫌いな、正義感だ。

何に対しても、まっすぐな人間なのだと思う。

 

だが、彼を信じたりはしない。

クラウドには確信がある。

――綺麗なだけの人間など、いるわけがないと。

 

 

 

 

トレーニングの後、兵舎の入口で数人のソルジャーにからまれ、そのままどこかの部屋に連れていかれた。

外から見えないところばかりを殴られ、抵抗したが最後には犯された。

あの自殺を図った日、生き延びた意味はなんだったのか。

今はもうわからない。

 

男達に解放され、自室に帰る。

時刻は深夜。だが同室のソルジャーは、きっと寝ていない。

ザックスは、クラウドが帰るまでいつも寝ずに待っている。

それも、たまたま起きてましたというように。

それが、クラウドにとって憂鬱だった。

自分に起きたことが、ばれないか。

そう思いながら自室に入ると、やはりザックスに声をかけられた。

心臓が、凍りつく。

 

なるべく会話をしないように、ザックスの横を通り過ぎる。

すると、ザックスの手がのびてきて、思わず後ろに後ずさった。

近づけば、穢れた臭いを感づかれると思った。

彼に、知られたくない。そうクラウドが危惧したとき。

彼が自分の服をたくしあげて、肌があらわになる。

必死で抵抗した。

ザックスが、あの男達とだぶる。

別に信じていたわけじゃない――だけど裏切られた気持ちで、絶望を感じた。

「なんだよ、アンタも結局」

アイツらと一緒かよ、と叫ぼうとしたとき。

「おまえ、虐められてるのか?」

と見当違いの発言。そして誰にやられたんだと、すごい剣幕で詰め寄られる。

 

……彼はなぜ、まるで自分のことのように必死になっているのか。

どうしてクラウドの性的な汚れに、気づかないのか。

 

「…ちゃんとやり返してきたから、大丈夫だよ。」

またひとつ、嘘を重ねる。

その嘘が悲しいけれど、そうすることで何かを護りたいという思いがそこにあった。

 

――彼は、汚れていない。

彼は、『向こう側』の人間なのだ。

 

愛しいと思った。

そう気づいて、無意識に笑った。

するとザックスは、その何倍も明るい笑顔で笑った。

 

 

 

 

クラウドは、シャワーで汚れを落とす。

血が出るほどこすっても、もう綺麗にはならない。

この嫌な臭いは、消えない。

ザックスの笑顔は、太陽のようだ。

彼はきっと、陽だまりの匂いがするのだろう。

 

誰よりも優しく、誰よりも強い。汚れのない人。

彼のようになりたい、と思った。

そしてそれが叶わないことを、クラウドは知っている。

 

 

クラウドは、泣いた。

シャワーの音に隠れて。

 

 

 

――なあ、ザックス。

嘘ばっかついてごめん。

あんな風に優しくされたのは、生まれて初めてだったから。

護りたいって思ったんだ。

そんな資格、あるわけないのにね。

 

許してくれなくて、いいよ。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.8)

 

 

 

 


 

 

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