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彼と過ごした日々は、人生の花だったと思う。

永遠なんて信じていなかったけど、柄にもなくそう願った。

それは、眩暈がするほどの。

                                                                          (side Zack)

 

クラウドの笑顔を見てから、ザックスはこれまで以上にクラウドを構った。

もっと笑ってほしくて、仕方がなかった。

クラウドの態度は相変わらずつれなかったが、ザックスの勢いに押されたのか――

少しずつ、変化を見せた。

 

クラウドは押しに弱いようで、強引に誘えばしぶしぶ付いてくる。

お互いが休みの日には買い物に行き、ザックスがクラウドの服を見繕ったりした。

クラウドは外見が華やかであるため、シンプルで上品な格好が似合うと思う。

むろんどんな服装でも似合うに決まっているが、ザックスにとっての彼のイメージとして、

清楚で綺麗目のものを選んだ。

ザックスは弟が出来たような気分で、クラウドの着せ替えを楽しむ。

だが、クラウドの目立つ容貌。どうしても注目を浴びてしまい、店に人だかりができてしまう。

ザックスは急いで会計をすませ、クラウドの手をひいて店を出る。

道行く人は美しいクラウドを振り返り、それが自慢ではあるが、少し心配だとも思う。

 

 

 

 

クラウドは、目立つことが嫌いだ。

ただそこにいるだけで目立ってしまう彼は、いつも下を向いている。

軍の中では、たいていヘルメットもはずさない。

食堂でもはじに座り、かつ時間をずらし人の少ない時間に行っているようだ。

自分の意見は持っているが、公の場で進んで発言することもない。

彼は自分に、自信がない。

 

それは、ザックスと正反対ある。

ザックスは社交的で、友達も多い。

気にいった女の子がいれば即アプローチ、10秒で落とす。

ザックスはソルジャーにふさわしい体躯で、しかしスラリとしていて身長も高い。

日に焼けた肌も、笑うと光る白い歯も、絵に描いたようなイイ男だ。

髪型や服装もそれなりに気を使っていて、だが爽やかで嫌味がない。

言いたいことは言うのがモットーだが、それで他人を傷つけたりはしない。

何よりも裏表がない彼の笑顔に、男も女も惹かれるのだ。

 

そんなザックスは、自信を持てないクラウドの気持ちがわからない。

皆が憧れるソルジャーにもわりと容易になれて、恋人にも困らない彼は、

今まで劣等感というものとは無縁であった。

人生において挫折が全くなかったわけではないが、自分の人生にも、自分自身にもそれなりに自信がある。

 

ザックスからすれば、クラウドはとても魅力的だ、と思う。

その美しさは、誰がどう見ても圧倒もので貴重だ。

ミッドガルでは珍しい混じりけのないブロンドに、女性が羨むだろう貫けるように白く透明な肌。

恐ろしく長い睫に、その下で輝くアイスブルーの瞳。

今までザックスは綺麗な女性と数多のお付き合いをしてきたが、クラウドほど美しい人は見たことがなかった。

彼を見ているだけで、幸せだとザックスは思う。

兵士としても優秀で若くして一等兵、彼が援護してくれる任務はとてもやりやすかった。

身長の低さや細い体格は、兵士としてはまだ不利かもしれないが、これからいくらでも成長するだろう。

 

そしてクラウドの控えめな性格。

まるで自分など価値がないと思い込んでいる――そんなところが、どうしようもなく放っておけない。

誘うたびにクラウドが渋るのは、嫌悪からではないとザックスは気づいた。

なぜ自分なんかが、という戸惑い。

「トモダチ、だろ?」

ザックスが言えば、彼は泣きそうな顔になった。

そして笑ってくれた。

 

 

 

 

ある晴れた日の休日、二人で買い物をした後、喫茶店でお茶をした。

ザックスはいつもコーヒーを好む。

クラウドは甘いものが好きだと知ったので、ザックスは彼のためにミルクティーとスイーツを注文する。

ザックスはまだ新兵で給料の低いクラウドに、何かと奢ってやるのが好きだった。

彼のような美しさならば、誰もが甘やかしてしまいたくなるだろうに、彼は奢られ慣れてもいないようで。

いつも自分で払うと言い張る。

クラウドはれっきとした男なのだから、比較すること自体おかしいのだが――

今まで付き合ってきた女の子達は、奢られるのを好んだし、それが当然というところもあった。

偏見かもしれないが、綺麗な子ほどは特にそういう欲求が強かった気がする。

もっとも、ザックス自身がフェミニストであるため、それを不快と思ったことはないのだが。

そんなクラウドの控えめなところが新鮮で、ますます甘やかしてしまいたくなり、ザックスは強引に奢る。

…兄のような、親のような、恋人のような気分だった。

 

クラウドの前に運ばれたのは、フルーツがたくさん乗ったカラフルなタルトケーキ。

田舎から出てきたクラウドは、こういったものにまだ慣れていないらしい。

目を輝かせて頬を紅潮させ、嬉しそうに食べる。

そしてザックスにそれを見られていることに気づくと、慌てて何でもないような冷めた顔を作るのだ。

そんなところが可愛くなくて。

――どうしようもなく、可愛い。

 

「おまえ、本当こういうの好きだよな。」

「……だって、俺の田舎じゃ母さんの作ったクッキーくらいしかなかったし…。」

睨みあげてもフルーツタルトが似合いすぎて、迫力は皆無だ。

「へえ?田舎どこ??」

「……ニブルヘイム。」

クラウドは、基本的に自分のことを喋らない。故郷の話も、初めて聞く。

すごく興味があると、ザックスは身を乗り出して質問する。

「どんなとこ?」

「……」

 

クラウドは少し沈黙した後、小さな声で言う。

「魔光炉と雪しかない、とこだよ。」

「やっぱ雪国なんだな!」

うんうんとザックスは納得する。

「やっぱって何だよ。」

「だってクラウドの白い肌!雪国ならではでしょ!その透明感、うらやましいわ〜」

ザックスが頬に手を当ててふざけて言うと、クラウドは笑う。

――笑った顔が、あどけなくて好きだ。

同室になってから一ヶ月、最近クラウドはこんな笑顔を見せてくれるようになった。

もっともっと、笑ってほしいと思う。

 

「それにさ、その十字架。」

「え?」

「クラウドがいつも首から下げてるやつ。北の方の神様だろ?」

北の方で信仰されている神は、銀の十字架を祈りに使うと聞いたことがある。

その十字架のネックレスは、とてもストイックな印象で、クラウドによく似合うと思っていた。

コーヒーカップに口をつけながらザックスが視線をやると、クラウドは恐ろしく冷たい表情になっていた。

「……クラウド?」

何か彼が不機嫌になるようなことを言っただろうか。

ザックスは焦った。

(せっかくクラウドが笑ってくれたのに。俺何やってんだ!)

だがかける言葉がわからず、重い沈黙が続く。

 

 

 

「……神様なんか、信じてない」

クラウドはそう一言だけ、口にした。

 

 

 

――なあ、クラウド。

ただオマエといれば幸せで。それしか考えていなかった俺は、勝手だったな。

オマエの傷に少しも気付かずに、舞い上がってたんだ。

 

……あの小さな十字架は。

神様なんか信じないと言ったオマエが、それでも捨てられないでいたんだろ?

それがおまえの最後の祈りなんだってこと、今ならわかるのに。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.11.8

 

 

 

 


 

 

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