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※ご注意:性的描写有り。

 

こんなに優しい人を、好きにならなければ良かったのに。

                                                                             (side Cloud)

 

 

二人、ベッドの上で。しばらくキスをしていた。

まるで永遠に続くような、続いてほしいと思うような、長い長いキス。

でもキスに慣れないクラウドは、息をするタイミングがわからない。

「…息、できな…い…」

「なら、すんな。」

無茶を言う――でも、離したくない。

 

苦しさにとうとう我慢できず、ザックスの胸を押してキスをやめさせる。

ザックスが目を細めて笑う。

「オマエ、本当に可愛いな。」

息を乱しながら、ふと何かを思い出しかけた。

以前にもこんなことがあったような――こんなキスを、したような?

 

ザックスと目が合う。

「先に脱がせてほしい?それとも脱がせてくれる?」

「……脱がせてあげる。」

そう返して、ザックスの服に手をかけるが、手が震えてうまくボタンが外せない。

 

「恐いの?」

ザックスに、震える手を握られる。

「恐くなんか、ない。」

――本当は、恐いのかもしれない。

ザックスに体を開いたとき、嫌悪されることが。

愛しい人に、やはりオマエでは無理だと、拒絶されることが。

(恐いよ、ザックス……)

気を抜けば泣きわめいてしまいそうなほど、恐くてたまらない。

 

でも、一度だけでいい、一度だけ受け入れてもらえたら。

それだけで生きていけるから。

 

 

 

「――俺は、たぶん恐い。」

ザックスに言われ、クラウドは目を見開く。

「オマエに、嫌われそうで、恐い。」

そう言って、クラウドの手の甲にキスをする。

それがあまりに切なくて。クラウドは唇をかんで、涙が出そうになるのを耐えた。

 

「それにさ、」

ザックスが悪戯っぽく笑う。

「この早漏野郎!とか思われそうで。」

思わず噴出す。

「早漏なの?」

「オマエ相手だと、たぶん。笑いごとじゃねえぞ?」

ザックスはゲンコツを作って、クラウドの頭に優しく押し当てる。

二人でふざけ合っているうちに、さっきまでの恐怖が薄れていく。

ザックスはきっと、クラウドの不安を軽くするために、冗談を言ってくれるのだ。

 

なんとかザックスのシャツを脱がすと、逞しく割れた彼の腹筋が現れて、クラウドは思わず目をそらす。

ザックスの裸なんて、一緒に住んでいるときからしょっちゅう見ていた。

…彼はいつもパンツ一枚で、部屋の中を歩いていたのだから。

でも、こうやって向かい合って肌を見せ合うのは、あまりに恥ずかしい。

「もう脱がせてくれないの?」

「……もう、無理。……ごめん、なさい。」

さすがに下半身の服に手をかけるのは、無理だと思った。

「そういうとこ、好きだからいいけど。」

ザックスは嬉しくてたまらないという顔をして、自分でボトムを脱いで床に投げる。

 

ボクサーパンツだけになったザックスが、今度はクラウドの服に手をかける。

一枚一枚丁寧に脱がされ、クラウドはその手に緊張してしまう。

ザックスが笑って言う。

「そんなに見られると、緊張しちゃうんですけど。」

ザックスの手が、クラウドの下着に触れたとき、クラウドは慌てる。

「明かり、消さないの…?」

「なんで?」

「…だって。俺の裸なんか見たら、気持ち悪いだろ。男なんだから。」

 

ザックスはしばらく固まり、肩を落として言う。

「こんだけ人を欲情させといて、オマエは」

そしてそのまま下着を下ろされる。

「ザックス!」

「俺は暗闇でも見えるけど、やっぱ明るいとこで見たい。こんなに綺麗なんだから。」

そんな気障なセリフを普通に言ってしまうザックスに、赤面する。

「…綺麗なわけ、ない。」

「綺麗だって。俺と同じモノとは思えねえ。」

それが何を指しているのかわかってしまい、ザックスをはたく。

結構本気で叩いたのに、ザックスは嬉しそうな顔をして、少しも避けようとしない。

ザックスの指が、クラウドの腹の辺りをさまよう。

 

「…なに。」 

「この痣。」

クラウドの腹にある無数の青い痣に、ザックスは優しく触れる。

フリードに殴られた痕が、まだ生々しく残っている。

「痛かっただろ?」

「別に。」

殴られるのなんて、慣れている。

ただ目をつぶって待っていれば、いつかは終わるのだ。

「………恐かったろ。」

「………。」

 

恐かった。

欲望のはけ口にされる日常。どこまでも堕ちていく自分。…でも何よりも恐かったのは。

「ザックスに……ばれるのが。」

彼に知られないために、どんな嘘でもついてきた。――なんて狡猾で、臆病な。

「…そっか。ごめんな、ずっと気付いてやれなくって」

非難されて当然なのに、ザックスは眉を下げて謝る。

そしてクラウドの腹の痣を、舌でそっとなぞる。

「もう、何も恐いことなんかないから。……もう大丈夫だよ。大丈夫。」

ザックスが繰り返す言葉。まるで、言霊のようだ。

 

 

優しすぎる、呪文。

 

 

そのまま体中にキスを落とされ、長くて綺麗な指で優しく撫でられる。

ときおり目が合っては、優しく微笑まれ――。

ひどくしていいと言ったのに、まるで壊れやすい宝物に触るようだ。

それをザックスに言うと、「だって俺の宝物だし」と普通に返される。

切なくて、もう我慢できず――涙が、出た。

ザックスはそれを舐め上げて、慈しむような顔をする。

 

 

こんなに優しい行為、知らない。

 

 

ザックスが、クラウドの後肛に指をはわす。

そっと撫でるようにしてから、遠慮がちにその長い指を一本入れる。

そして慣らしてくれているのか、円を描くように少しずつ指を動かす。

ザックスの唾液で濡らしたのか、そこから卑猥な音がするのがあまりに恥ずかしい。

「や、やだ…もう、いいから」

「だーめ。絶対、傷つけたくないから。」

そう言って笑いながら、なおも指で慣らし続ける。

 

ザックスの指が奥に当たったとき、突き抜けるような快感にクラウドは身を震わせる。

「ここ、気持ちいいの?」

そう言われた瞬間、羞恥と自己嫌悪に襲われた。――淫猥な、自分。

「ちょ、なんでそんな顔すんの」

耐え切れず、顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めたクラウドに、ザックスは慌てる。

「俺、汚い、から」

「汚くないって!!」

「…汚いよ。そんなことザックスにされて、いいなんて、汚い…」

クラウドはザックスの下で、体を丸めてしまう。

 

「気持ちよくなっていいんだよ。クラが良くないなら、セックスじゃない。…そんなの、レイプだろ。」

ザックスの方を見ると、彼は困った顔をしていた。

「違う…レイプなんかじゃ、ない…」

もともとクラウドが頼んで、してもらっていることなのだ。

ザックスを困らせてどうするのだろう。

思い切って彼に腕を伸ばすと、満面の笑みになって抱きつかれた。

 

 

求めるって、恥ずかしいことではないのだろうか?

 

 

ザックスが中に入ってきたとき、その大きさに驚愕した。

でも、苦痛などなかった。

今まで男を受け入れる行為は、何度経験してもひどく苦痛を伴った。

でも、相手がザックスだというだけで――ただ、嬉しいなんて。

ザックスは、何度も「痛い?ごめんな」を繰り返し、ゆっくりと腰を進める。

「…壊したって、いい。ザックスなら。」

そうクラウドが言うと、ザックスが余裕のない顔で笑う。

「頼むから、あんまかわいいこと言わないで。」

 

ザックスが優しく腰を動かす。

クラウドがシーツを掴んでいると、ザックスがそれをやんわりと外してくる。

そしてクラウドの手に、彼の大きな手を重ねる。

「握るなら、こっち」

「ざ、く…?」

「ごめん、無理やりじゃないって、思いたい。」

 

 

この握られた手は、愛ゆえの行為だと、証明しているよう――。

 

 

「あ、あ、ふぁ!」

ザックスの前で淫らな声なんか出したくないのに、抑えきれない。

ザックスに奥を突かれるたびに――たまらなく気持ちいい。

男女の行為じゃないのに、なんでこんなに感じてしまうのか。

ザックスが器用なのか、それとも愛しているからなのか――

そんなことをとりとめなく考えていると。

「何で、こんな、気持ちいいんだろ?」

そうザックスが言う。

「オマエの体が、いいのかな?それとも、すっげえ好きだからかな?」

 

まるで同じことを考えていた彼に、思わず笑ってしまう。

「オマエ、余裕だな…。なんか、自信なくす。」

余裕のないザックスの表情が、嬉しい。

「余裕、なんか…、ないよ。」

彼に揺さぶられながら、何とか答える。

「もっと俺に溺れてよ。俺がお前に、溺れてるみたいに。」

そんなの、ザックスに言われなくたって。

 

「……溺れてるよ。」

きっとザックスが思うよりも、深く、深く。

「もう、息の仕方もわからない。」

ずっと前から、ザックスに溺れていた。

切なくて、苦しい。愛しくて、苦しい――いつだって死んでしまいそうだった。

 

ザックスが、急にクラウドの方に倒れこむ。

クラウドの肩に顔を押し付け、動かない。

「……ザックス。」

「ごめん、少しだけ」

――ザックスは、泣いていた。

 

 

こんな愛しいキモチ、知らない。

こんな優しいキモチ、知らない。

 

 

 

 

行為の後、ザックスは何度も何度も髪を撫でてきた。

そしてクラウドの髪や顔に、何度も優しいキスを落とす。

 

「なあ、クラウド…。俺、オマエに話してないこと、あるんだ。」

クラウドが心地よい睡魔にまどろんでいたとき、ザックスが言う。

「ん…なに…?」

クラウドにまわされた彼の手が、微かに震えているような気がした。

 

「…許してもらえないかも、しれないけど。俺、ずっとオマエに汚い妄想とかしてて」

「妄想…?」

ザックスの方に顔をあげると、彼はどこか怯えた表情をしている。

「…………オマエを、無理やり犯す、妄想。」

そんな正直に言われると、クラウドは反応に困る。

「…ビデオ見たときなんか、その、興奮したりして…」

この男は、オブラートに包むということを知らないのだろうか。

「……そこまで、言わなくていいよ。」

 

気恥ずかしくてクラウドがそう言うと、ザックスは真剣な顔で見つめてくる。

「いや、言わなきゃ。オマエが無理やり酷い目に合ってたのを勘違いして、すげえ嫉妬して。」

「…うん。」

ザックスには自分が何も喋らなかったのだから、誤解されたって仕方ないと思う。

「だから、騙してたの俺なんだ。俺、オマエに取り返しのつかないこと」

「―――ピアス。」

 

クラウドの突然の言葉に、ザックスは呆ける。

「え?」

「ピアス、まだ返してくれないの?」

「…………。」

 

ザックスはしばらく放心した。

そしてクラウドの言葉を理解したのか、目を見開き、真っ青になる。

「気付いて、た?」

「さっき、気付いた。…あんなにうざいほどキスしてくるの、ザックスしかいない。」

「……ごめん。」

 

ザックスはクラウドに体ごと向き直り、土下座の体制になる。

「ごめん!……ごめん、なさい…。」

そう言って頭をあげない。

いったい何度、この男の土下座を見てきただろう。

しかも今は、素っ裸で。この上なくマヌケな図だ。

その情けない彼が、たまらなく―――

 

「嘘、だよ。」

「……え?」

「あんな風に優しくしてくれるの、ザックスしかいないって思って。だから気付いた。」

 

クラウドに触れる手が、唇が。

いつだって愛している≠ニ言っていた。

とても愛されていると、苦しいほどにわかったから。

「クラ!!」

 

力強く抱きつかれる。

図体はでかいのに、まさに尻尾を振る子犬のようだと思う。

「ごめんな、あんな酷いことして…。オマエが嫌がることは二度としない、

嫌だったら二度とセックスできなくてもいい。だから」

(だから…?)

何と言われるのだろう、とクラウドが思っていると。

 

「俺を捨てないで!」

 

なんてかっこ悪い告白だろう――

その言葉にクラウドは笑い、そして愛しさに泣いた。

 

 

……彼の腕の中で。声をあげて、いつまでも泣いていた。

 

 

 

 

――なあ、ザックス。

俺がどんなに汚れても、結局アンタは俺を見捨ててくれないね。

いっそ馬鹿みたいに優しいアンタが、どうしようもなく。

どうしようもなく……愛しいよ。

 

 

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C-brandMOCOCO (2008.12.23)

 

 

 

 


 

 

 

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