C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

さあ、笑って。―――世界はこんなにも美しい。

                                                                                         (side Zack)

 

 

降り積もる雪の中、ザックスは愛しい人を背負って歩く。

この背中の重みが、嬉しいと思う。

「…ザックス、いいよ。もう降ろして。」

教会で気を失ってしまったクラウドが、目を覚ましたらしい。

「だーめ。あったかいから。」

でも、もう少しこの幸せを噛み締めていたくて、ザックスは放さない。

 

数時間前には教会で愛を誓い合って、そのままお互いを求め合って。

愛しさが止まらず、場所もわきまえずに、つい夢中になってしまった。

ソルジャーの自分とは根本的に体力が違う彼に、少し無茶をさせてしまったかなとザックスは思う。

しかもクラウドは自分を受け入れてくれる側。負担をかけすぎたかもしれない。

彼の体を前にすると信じられないほど興奮してしまう自覚はあるが、もう乱暴なことだけは絶対にできない。

少しでも苦痛を与えるようなことは、死んでもしたくない。

…そう思うから、決して乱暴にしたわけではない、むしろできる限り優しくしたけれど。

 

教会でのクラウドは、恥じらいながらも、少しだけ積極的だった。

きわどい場所だったにもかかわらず、ザックスに必死にしがみつき、キスを何度も求め。

あの可愛い顔を快感で歪ませ、抑えようと必死だったようだが甘い声がしきりに漏れていた。

そんな風に、愛しい人が自分によって感じてくれるのがたまらなく嬉しくて。

――結局、クラウドが気を失うまでしてしまった。

目が覚めた彼に、さすがに殴られるだろうかと思っていたが。

 

だが背中で目を覚ましたクラウドは怒るでもなく、ザックスの首に遠慮がちに腕をまわしてくる。

(もっとぎゅってして、くっついてくれていいのに。)

背中からじんわりと伝わる熱に、顔が綻んでしまう。

視界の左後ろにゆれる金髪が、嬉しい。

 

 

 

 

あたり一面、雪で覆われ真っ白だ。

その白さはまるで。これから二人、どんな色にでも染めていける未来のようだなんて――

ロマンチックな男は彼に嫌われるだろうかと、そんな風に考えていると。

 

「ザックスって、寒がりだよな。ソルジャーなのに。」

「俺の故郷、暑いとこだからね。」

ソルジャーは肉体改造を施しているため、基本的に環境変化に強い。

それでも南方出身であるザックスは、寒いのは得意でない。

…それとも寒いのが苦手だった≠ニいう感覚を忘れたくないだけかもしれないが。

人間であることにすがっているようだ、とザックスは思う。

 

「ゴンガガ?だっけ。どんなとこ?」

「一年中蒸し暑くて、女の子がキャミ一枚で嬉しいところ。」

「単細胞だな。」

呆れたように言うクラウドに、笑う。

「冗談だよ。魔光炉以外何もないけど、住んでる人は皆あったかい。」

「…うん。ザックス見てればわかるよ。」

小さな声でそう言われ、ザックスは胸が熱くなった。

声が震えてしまいそうで、努めて明るく返す。

 

「ニブルヘイムもそうだろ?狭いとこはみんな仲がいいんじゃない。」

「ニブルは、違うかな…。何もないとこだから。」

クラウドがどんな顔をしているのか、ザックスにはわからない。

でも、その声はひどく寂しげに響いた。

 

「……俺の父さん、戦争犯罪人だったんだ。」

ぽつりとクラウドが話し出す。

「軍人だったってこと?」

「そう。でも戦争に負けて、処刑されたって。俺は赤ん坊だったから、何も覚えてないけど。

でもだから、母さんも俺も村の人に少し疎外されてて。」

だからクラウドは、故郷の友人の話などを全くしないのだろうか。

(それに戦争の相手は、神羅軍だな。)

以前神羅は、魔光炉建設のために各地で戦争を繰り返していたと聞く。

ニブルにも魔光炉があるのだから、間違いなく神羅に制圧された証拠だ。

 

「父ちゃんのこと、恨んでる?それとも…神羅を恨んでる?」

「ううん。父さんは軍人で、誇りのために死んだと思う。神羅側だって、掲げる正義はあったはずだし。

戦争は嫌だけど……今、俺や母さんが生活していけるのは神羅のおかげだろ。…ザックスに、逢えたのも。」

罪を憎んで人を憎まず、とはまさに彼らしい。

「俺に友達がいなかったのは、別に誰かのせいじゃなくて…俺のせいだから。

俺がザックスみたいなやつだったら、そういうの関係なく友達いたと思うよ。」

「オマエのこと好きなやつ、いっぱいいたと思うけどな。」

 

ザックスにとっては、彼ほど魅力的な人間はいない。恋愛感情を抜きにしてもだ。 

彼は最愛の人であると同時に、無二の親友なのだから。

人として、彼を尊敬しているし、惹かれている。

それはザックスの欲目ではないだろう。実際、カンセルだってレノだって、みんな彼に惹かれている。

それでも自分を否定するのは、彼らしいというのか。

そんないじらしささえ、魅力だとザックスは思うのだが。

「俺、つまんない人間だから、好かれるわけないんだ。……でも。母さんがああいう風に、

仲間はずれにされるのは…やっぱりおかしいなって思ってた。母さん、俺とは違って、よく笑う人だし。だから」

 

「だからニブルヘイムは、何もないとこだよ。本当に何も。」

一瞬、ザックスは彼が泣いてしまわないかとひやりとした。

 

「何もなくない。――クラウドがいたじゃん。」

 

自分がもし、もっともっと昔に彼と出会っていたら。

そんな寂しい思いなぞさせなかった。彼も、彼の母も。全力で守ってあげたのに。

そうザックスがせん無いことを考えていると、背中にいる彼が、自分の肩に顔を押し付けるのがわかった。

「……ありがとザックス。」

 

本当は。

それはザックスの想いだ。

クラウドと出会わなければ、世界はあまりに無機質だった、と思う。

…彼と出会う前の自分は、確かに毎日笑っていたけれど。

でもそれは、ただ『無知』だったのだ。

自分の汚い感情や、闇を知らず――それはなんて安楽な人生で、何て無意味なものだろう。

彼と出会ってたくさん笑い、泣き、憎み――そして、ひたすらに愛した。

 

 

彼といるだけで、いつだって泣きたくなる。泣きたくなるほどに。

 

 

「ありがとな、クラウド……。」

「え?」

「俺を選んでくれて、ありがとう。……幸せに、するよ。命をかけて。」

キザすぎるセリフだろうが、言わずにはいられなかった。

それほどまでに、湧き上がる愛しさがもう止まらない。

背中にいる彼は、恥ずかしいことを言うなと怒るだろうか。

「…ばかじゃない?そんなのいらない。」

「バカかも。でも、愛してる。」

想像通りのクラウドの言葉に、ザックスは笑ってしまう。

 

「命なんて、かけてほしくない。……生きてよ。」

「え」

ザックスに回された腕に、力が篭もるのを感じる。

 

 

「……俺より先に、死なないで…………」

 

 

クラウドの言葉に、胸を突き破るような衝撃を感じて、ザックスは肩を震わす。

いい加減、彼の前で泣き過ぎだ。

何とか涙を耐えていると、背中から微かな、すすり泣く声が聞こえる。

―――人は、愛しくて泣ける。

 

そんな当たり前のことを、クラウドと出会って初めて知ったのだ。

肌が凍りつくような、クリスマスの明け方。

ザックスは自分の頬に伝う、温かいものを感じていた。

そしてそれはきっと、後ろにいる彼も同じ。

 

……泣きたくなるほどの、幸せ。

 

 

 

 

『二人の』部屋に帰って、幸せをかみ締めたまま、少しだけ眠った後。

ザックスは、クラウドからクリスマス・プレゼントを受け取った。

なんと可愛いことに、それはザックスの靴下に突っ込まれて、枕元に置いてあった。

「クラ!オマエ、可愛すぎる!!」

無理に突っ込まれた靴下は、明らかに伸びきり再起不能だが、そんなのはご愛嬌だ。

「朝からうざいよ、ザックス。」

「オマエは朝から可愛すぎるって!ツンデレ最高!」

 

プレゼントは青い袋に銀色のリボンがかけており、それを解くと中から手袋が出てきた。

「……アンタ、寒がりだから。」

黒の手袋はシンプルなものだが、控えめなファーがアクセントになっていて、オシャレだ。

よく見ればザックスの好きなブランドのもので、どこかで見たことだある。

確か何かの雑誌でザックスがいいと思ったもの――それをクラウドは見ていたのだろうか?

彼が自分を見ていてくれたことが、たまらなく嬉しくて、顔がにやけてしまう。

「高かっただろ?ありがとな、クラ。マジ好き、超好き!」

ザックスが飛び上がる勢いで言えば、クラウドは耳まで赤くして言う。

「アンタの指輪に比べたら、しょぼいだろ。……金なくてごめん。」

 

「オマエ、どこまで可愛いこと言ってくれんの。ね、似合う?かっこいい?惚れる?」

手袋をはめてみせると、クラウドが小さく笑う。

「うん、かっこいいよ。」

普段つれなくて、時々素直になるこのバランスがたまらなく可愛い。

「惚れる?」

「惚れてる。ずっと前から。」

そうクラウドに言われ、ザックスはベッドに座る彼に乗り上げる。

「やばい、襲っていい?」

「ふざけんな、さっさと飯作れ!」

朝からじゃれあうこの時間が、たまらなく嬉しいとザックスは思う。

 

 

 

今日は朝から、ご馳走を作ろう――。

クリスマスだから、というより、ただクラウドがここにいる奇跡を祝いたい。

見つめられるのがうっとうしいのか、恥ずかしいのか、彼に頬をつねられる。

それすら愛しく感じて、ザックスは顔が綻んでしまう。

 

「…ザックス。クリスマスは恋人と過ごすんなら。」

「ん?」

「去年は誰と過ごしたの?」

「え」

ほとんどのことに即答できる性格のザックスだが、今回は難しい。なぜなら。

「きょ、去年は…レノと、パーティー行って、騒いでた。」

「……その後は。」

「う、……その、女の子と、した、ような。しなかったような。そうでもないような。」

自分でも、どっちかはっきりしろと言いたいほど情けない。

 

「そ、そうだ!クラは?去年のクリスマス、何してた?」

「……パーティー。」

咄嗟に話をそらせたはいいが、『パーティー』の単語にザックスは反応してしまう。

「え、ま、まさか女の子もいた?!」

クラウドは無表情のまま、首を振る。

「男だけ。フリードとあと何人か。そいつらのパーティー連れていかれて」

(――まさか。)

 

「自分でしろって言われて、一人でしてるとこ、ビデオにとられた。でも、やり方わかんなくって…

そしたらフリードに、殴られた。その後は全員にやられて」

「クラウド!!」

勢いよく抱き締める。抱き締めた後で、力の加減ができているか心配になって、少し緩める。

「ごめんな、ごめん!俺、ほんとデリカシーないよな。」

いつも配慮が足りない自分に、嫌気がする。

これまで、どれだけ無神経に彼を傷つけてきただろうか?

 

腕の中で、クラウドが首を振る。

「…違うよ。俺もう、嘘をつきたくないから。嫌なこと言って、ごめん。」

「クラ。な、クリスマスはまだこれからだろ?今日はめちゃめちゃ甘やかしてやるからな。」

彼の髪に何度もキスをする。

「……いつも甘やかしてるくせに。」

「もっと。もっともっと!クラが鬱陶しいって嫌がるぐらい、甘やかしてやる!」

鼻腔を甘い匂いでくすぐる金髪が少し揺れて、彼が笑ったのがわかった。

「今日は俺、オマエの奴隷な!むしろ一生奴隷でいい!お前の恋の奴隷!」

今度ははっきりと声をあげて、笑ってくれた。

「ばかじゃない。」

 

 

その『ばかじゃない』のためなら、きっとどんなことだってできる。

天邪鬼な彼の、精一杯の愛の言葉だって、知っているから。

 

 

 

 

「そう言えば、レノがこれオマエにって。」

昨夜、レノから受け取った包みをクラウドに渡す。

「え?レノ…さん?何これ。」

黒い箱に、金のリボンがセンスよくかけられたそれは、明らかにクリスマス・プレゼントだ。

クラウドが丁寧に包装をといて中を開けると、白いマフラーが入っていた。

「前に、レノさんにマフラー借りて、受付の人に返してもらったんだ。なのになんでまた……?」

「ん、クラウドに似合いそうだし貰ったら?」

「なんで、俺?たまたま誰かにあげようとしたのが、余ったのかな…。」

 

クラウドはそう言うが、ザックスにはわかる。

このマフラーは、明らかにクラウドのために選ばれたものだと。

真っ白で、ふわふわなそれは、クラウドの美しさそのものだったから。

正直に言えば、嫉妬を感じるほど、そのマフラーはクラウドのイメージに合い過ぎている。

「レノのアドレス、教えてやるから。後でメールでもしてやんなよ。(……………なるべく短めに。)」

クラウドは首をかしげながらも、頷く。

戸惑いながらも、人からのプレゼントがやはり嬉しいのか、クラウドはそれを広げて目を細める。

 

「あとカンセルから、これ。」

カンセルから貰ったシャンパンを、クラウドに渡す。

「カンセルさん?」

やはり、クラウドが笑顔になるのは少し妬けるが、今回はしょうがない。

昨日、輸送機の中で、カンセルは二人を祝福してくれた。

幸せになってほしい、あの子とオマエに。

そう言った彼の顔は、ザックスからは見えなかったけれど。

――きっと、優しく笑っていたのだろう。

 

「クラウドにって。今度遊びに来たいって言ってたぞ。」

「うん、俺も会いたい。」

クラウドが誰かに好意を示すのは、非常に珍しいことだ。

それは少し寂しいけれど、同時に嬉しいことでもある。

ずっと孤独に脅えていた彼が、少しずつ世界の優しさに触れていく。

 

「カンセルも、レノもさ――オマエのことが好きなんだって。」

「え?」

「みんな、オマエのことが好きだ。だから、知っててほしい。」

 

ザックスは手袋をはずすと、自分の指輪をゆっくりと抜き、その裏をクラウドに見せる。

そこに彫られた文字。

T give you my everything―――全部キミにあげる

クラウドは慌てて自分の指輪を抜く。そこには。

So,Say YES―――だから、YESと言って

 

 

この先何があろうとも。たとえ――

たとえ、自分が彼より先に死ぬようなことがあったとしても、絶対に変わらない真実。

この世界も、自分自身も、全て全て彼のもの。

それだけは、どうしても知っててほしい。

 

 

「オマエは独りじゃないって。……俺達の世界の中心は、オマエだってこと。」

 

 

クラウドは宝石のような澄んだ眼を見開き、頬を染める。

ザックスが笑うと、クラウドも笑う。まるで花のような笑顔で、笑う。

 

「――愛してくれて、ありがとう!」

そう言って愛しい彼が、ザックスに飛びついてきた。

 

 

 

彼を中心に回るこの世界は、ただただ美しい。

この目も開けられぬほど眩しい未来へ、二人手をつないで歩いて行こう。

いつまでも。どこまでも。

 

―――何度だって、幸せに涙しながら。

 

 

 

 

――なあ、クラウド。

カミサマよりも、世間よりも、他の誰よりも。俺を選んでくれて、ありがとう。

どうかオマエのために生きて、オマエのために死ねますよう。

愛してる。

 

愛してる。

 

  

 →あとがき

    

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C-brandMOCOCO (2009.1.11)

 

 

 

 


 

 

 

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