3週間経っても、クラウドは男に戻らない。
タイムリミットは、あと2週間。
女の子の体にも慣れてきたのか、クラウドは普通に日常生活を送っている。
覚悟があるのか、焦る様子も見せない。
先週は生理痛で苦しんでいて可哀想だったが、俺がハーブティを淹れてやると楽になったと言った。
もっと何とかしてやりたくてオロオロする俺に、クラウドは苦笑していた。
リビングのソファで、クッションに顔をうずめながら彼が言う。
「ザックスって、優しいよな。……バカだけど。」
でたツンデレ!!もうそれだけで夜も抜けます!
って何を考えている。―――でも。
そう、最低と罵ってくれ………。
最近AVを見ても、いまいち燃えない。
溜まりに溜まって、女の子とホテルにしけこんでもいまいち物足りない。
ずっと俺の頭を支配しているのは、たった一人の子を犯す妄想だった。
今夜も。
夕飯の後、リビングで報告書の整理をしてたら。
…ていうか報告書に描いたパラパラ漫画を、消してたら。(アンジールがキレた。)
クラウドがシャワーを浴びる音がして、しかもカワイイ鼻歌まで聞こえてくる。
俺は興奮する下半身を抑えきれず、そのままリビングで抜いた。
シャワールームに乗り込んで、裸のクラウドをその場で犯す。
なんて妄想をしながら。――わかってるよ、最低すぎる!
でも、止まらない。妄想だけでこんなに興奮できるものなのか?
実行に移さないので、どうか許してください!神様。そしてクラウド!
さすがに親友に欲情する自分に反省し、レンタルビデオショップでAVをあさる。
でも、どうしても『ブロンド』とか『ツンデレ』とかいうキーワードを探してしまう自分がいる。
そしてどの表紙を見たって、クラウドより可愛い子なんていない。
…こんなんじゃ無理。
かと言って合コンに行っても、以前よくレノと遊んだクラブに行っても。
女の子は寄ってくるけど、どの子にも魅力を感じない。
みんなそれなりに美人だけど、クラウドより可愛い子なんているわけない。
別に彼ほどの美人を求めているわけじゃない、そこまで贅沢は言わないけど。
でも少しでも彼の面影のある子がいい。
…そうでないと、興奮できない。
――認めてしまえば。
そう、俺はクラウドに恋している。
彼が女の子になったから?とびきり可愛い子が、目の前に無防備でいるから?
………そんなんじゃない。本当は、俺は気付いている。
4週間経っても、クラウドは男に戻らない。
タイムリミットはあと1週間しかない。
この4週間、科研に何度も足を運んで脅しもかけたが、勝手に戻るのを期待するほか無いと言われた。
上層部にかけあって、なんとかクラウドの解雇を免除してもらおうと思ったが、無理だった。
『前例がない』とか言って。前例ってなんだよ。
そんなんだからいつまでたっても二部上場なんだよ!(深く突っ込むな)
……それはともかく。
クラウドはどうなってしまう?
「除隊になったら…どうするつもりだ?」
聞くのは恐いが、聞いておかなくてはならない。
ソファに座っているクラウドの横に、俺も腰掛ける。
彼はどうやら、俺が大好きな動物番組を見ていたようだ。
クラウドはいつも興味ないようだけど、必ず毎週二人で見ていた。
「田舎には帰れないから。どこかで、仕事探すよ。落ち着いたら連絡する。」
そう、クラウドはまるでもう決まったことのように言う。
「なあ…一緒に、住まないか?この辺にマンション借りて。」
必死だった。ただ傍にいたくて。
クラウドは驚いたようでしばらく沈黙していたが、静かに笑う。
「…ありがと。でも、自分で蒔いた種だから、自分で何とかする。ザックスに、寄りかかって生きたくない。」
「トモダチ、だろ?助け合って当たり前じゃん。」
クラウドを失いたくない。そのためなら卑怯でもトモダチ≠ニいう言葉を使う。
「気持ちだけで十分だよ。一人で、頑張ってみる。」
クラウドは、決めたことは曲げない。彼を止められないのか?
「俺、オマエと離れたくない。」
――つい本音が出てしまった。
クラウドはその大きな眼をさらに見開いて、そして顔を少し歪ませる。
「……ザックス。離れても、トモダチって呼ばせて」
そう言って、話は終わりとばかりに席を立ってしまった。
追いかけたが、洗面所からすすり泣く声が聞こえて。
ドアを、開けられなかった。
本当は。
もう何ヶ月も前から、彼がここでよく泣いているのを知っていた。
彼は、動物番組で泣かないんじゃない。
辛いことがあっても、なんでもない顔をしているのは、強いからじゃない。
いつも、こうやって隠れて泣いているんだ。
同室になってから、クラウドの強がりや素直じゃない性格を知って。
本当はもう、ずっと前から惹かれていた。
ただ、彼が男だからという理由で、恋じゃないと自分に言い聞かせていただけだ。
実際、彼が女の子になる前から――
本当は、何度も。夢の中で彼を抱いたし、彼を想像して自慰だってした。
しかもそれは「もしクラウドが女だったら」って妄想じゃない。
男の彼に想いを馳せて。
…ありのままの、クラウドが欲しかった。
口が悪くて、腕っぷしが強くて、本当は泣き虫な――そのままの彼が欲しい。
正直なところ、彼の後ろに挿れるなんていう、生々しい妄想までしていたんだから。
気持ちがられたくなくて、誤魔化していただけだ。
―――…男だって、女だって、好きなんだ。
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