C-brand

 

 


 

 

 



 

暴力的なカノジョ。

 

結局、一睡もできなかった。

あの後、目の前から消えてほしい、とクラウドに言われ。

しばらくその場にいたが、いたたまれずに部屋をあとにした。

でも、彼を残して外に出るのは心配で、結局自分の寝室でずっと胡坐をかいていた。

クラウドの言葉が、耳の奥で貼り付いたように消えない。

 

もうザックスなんか信じない

 

手に入れたくて抱いたのに、手に入れるどころか――

俺を見上げるクラウドの瞳は、失望の色に染まっていた。

俺はあんな顔をさせたかったのか?

…あんな風に、泣かせたかったのか。

 

 

 

 

日が高くなってきたころ、微かな物音が聞こえる。

クラウドが、起きたのだろうか。

謝罪して許されるわけじゃない、だけど、このままでいいわけない。

リビングに出て、クラウドを探すがいない。彼の部屋も、風呂場にもどこにもいない。

どこに行ったのだろう?

電話をかけようかと思ったが、俺と顔を合わせるのが嫌で出ていったであろう彼に、かける勇気がない。

どうしようもなく不安にかられたまま――恐れていた、夜がきた。

クラウドが、セフィロスのところに行ってしまうときだ。

 

 

 

 

自分のするべき行動が、わからない。

もうクラウドを、止めにいく資格すらないのはわかっている。

でも、それでもやっぱり、耐えられない。

彼が、他の男に抱かれるなんて…。考えただけでも、吐きそうだった。

 

気付けば、セフィロスの執務室に来ていた。

いつもどおり、ノック無しで入る。

もしすでに事が始まっていたら、と心配もしたけれど。

幸運なことにまだクラウドは来ていないようで、セフィロスは窓辺に座って書類を読んでいた。

「ノックぐらいしろ、と言っても無駄だな。おまえには。」

セフィロスは書類を見たまま、視線すら上げない。

「…言いたいことがある。」

 

セフィロスは落ち着いている。むしろ穏やかな雰囲気。

これからクラウドがくるから?…優越感なのか?

「俺、クラウドのこと。ただのルームメイトだと思ってない。」

「だろうな。」

「俺、あいつが好きだ。あいつが女になる前から、ずっと。」

セフィロスは少し顔をあげる。

「…それで?」

「だから…。だから、今ここで殺されたって、あいつに手は出させない。」

ここで、こいつに勝てるとは正直、思えない。

神羅の英雄と謳われるセフィロスと、つい最近1STへの昇進が決まったばかりの俺。

力の差ぐらいわかっているつもりだ。

でも、好きだから。――何に変えても。

 

セフィロスはため息をついて、書類を机に投げる。

ゆらりとセフィロスが立ち上がったとき、ここで殺されるだろうとなぜか普通にそう思った。

油断したわけじゃない、だけど気付けばセフィロスの間合いに俺は入っていて。

ぞくり、と背筋が凍った。

でも――無駄死にはしない。

刺し違えてもいい、クラウドを渡してたまるか。

指一本でも動かせば、おそらく首を刎ねられる。

あまりの緊張状態に、膝が震えた。

 

 

「――――バカで、変態で、節操なし。」

 

 

は?

おかしくなりそうな緊張状態の中、セフィロスが放った一言。

「………と、クラウドが言っていた。」

ニヤリと笑う英雄に、俺は唖然とした。

 

セフィロスが、笑っている?誰この人?

それなりに長い付き合いだけど、こいつが笑っているとこなんて、見たことない。

去年の忘年会で俺が腹芸やらされたときだって、くすりとも笑わなかったくせに。

ああいうときに反応ないと、どれだけこっちが恥ずかしいかわかってない!

ていうかそんなことより。

「なにそれ?!どゆこと?!」

 

「クラウドは、もうここには来ない。」

「…え?」

「男に、戻ったからな。」

「え?!」

クラウドが男に戻った??いつ?

昨日抱いたときは女の子だったのに…

 

「昼間ここにきて、男の姿を見せた。男でもいいからと柄にもなく言いよってみたが」

みたが?なに?ってか男でもいいって、変態かよ。

…俺に言われたくないだろうけど。

「もう抱かれる理由もないからお断りだとさ。…1STに向かってすごい度胸だな。」

「…どういう意味?」

セフィロスは珍しく楽しそうだ。

「ハイキックをくらったぞ。それもかなりキレのいい、な。あいつは大物になるな。」

さすが、男前クラウド。

あの正宗ぶらさげた英雄にも、キックをかませるのか。

俺はここにくるのに、命を捨てる覚悟だったのに…なんたる恐いもの知らずだ。

 

「じゃあ、おまえフられたんだ?」

問題が解決すると、とたんにデリカシーゼロになる俺。

セフィロスは大きくため息をついて、呆れ顔で言う。

「おまえのせいじゃないのか?」

「え?」

「昨日、クラウドに手を出したんだろう。」

「げ!」

なんでそれを知っている?まさかクラウドが言ったのか?

 

「クラウドは別に、何も言っていないがな。あいつが男に戻る方法、知ってたのか?」

「知らない。…なに?」

「男の体液を、摂取することだと。科研の連中に吐かせたから、間違いない。」

男の、たいえき?体液?

つまり、クラウドは…昨夜のセックスで男に戻ったってこと。

「そうなん、だ…?」

「つまり俺は、男に戻るための手段だったわけだ。」

セフィロスは自嘲気味に言う。

 

だけど、それならば何でクラウドは、俺をその手段≠ノ選ぼうとしなかったんだろう。

誰でもいいなら、セフィロスより俺なんじゃないか?

ずっとトモダチで、一緒の部屋に住んでいて、誰よりも近い存在だった。

――少なくても、俺はそう思っていた。

「つまり俺は、その手段にすら選ばれなかったんだな……。」

俺に抱かれるぐらいなら、女のままでいいと思うほど嫌だったのか。

なにが親友だったんだ。

どこまでも一方通行だったんだな……。

 

「………ザックス。悪かったな。」

「なにが」

「恋路の邪魔して。」

英雄から、そんな俗っぽい言葉を聞けるとは。

「…ほんとだよ。あんたが邪魔しなければ、あいつにあんな乱暴なことしなかったのに。」

「そうか。」

静かにセフィロスが笑う。

 

「嘘!…ほんとはたぶん、もう我慢できなかったんだ。女の子になる前から、いつ爆発してもおかしくなかった。」

ずっと隠してた欲望。

最低なのは、セフィロスじゃない、あいつを泣かせた俺だ。

セフィロスが今度は少し、声をあげて笑う。

あまりに珍しいものを見てぎょっとしたけど、もしかするとそれが本当のこいつなのかもしれないなんて。

嫌いじゃないな、と少し親近感がわいたそのとき。

 

「バカで変態で節操なしのクソ野郎が――好きなんだと。」

「へ?」

「なんでも完璧な男では駄目なんだと。まるで安い白菜しか食べない、もの好きなチョコボだな。」

…え。

意味ありげに笑うセフィロスに、俺はあいた口がふさがらなかった。

白菜ってちょっと、ひどくない?せめてホウレン草とか小松菜とか、もっとビタミン豊富な野菜。

いや、そうじゃなくって。そうじゃなくって―――

「クラウド!!!」

次の瞬間にはバカみたいに叫びながら、セフィロスの執務室から飛び出した。

 

 

クラウドに、謝らなければ――…!

何度でも。何度でも。

どれだけぶん殴られても構わないから。

むしろ頼むから。――もう一度殴ってほしい、クラウド。

バカで変態で節操なしのクソ野郎って、またなじってほしいんだ。

 

 

 

 

部屋に戻るが、彼はいない。

どこに行ったんだ?

科研で、事後検査でもしているんだろうか。

クラウドの部屋に入ると、昨日の行為が思い出された。

ベッドはあのときのまま、破れた服やボタンが散らばり、わずかな血痕がシーツに残る。

罪悪感と、またよからぬ興奮を感じ、頭を抱えるように床に座り込んだ。

 

ふと、手に何かがあたる。

ベッドの下に、堅いものがある。なんだ?

何となく手に取ると、それは黒い小さな箱だった。

青と銀のリボンがかけられており――プレゼントだとわかる。

そのリボンに挟まれたカードにはTo my best Friend≠ニ書かれている。

 

一瞬で、わかった。

――それは俺のために用意されたものだと。

まとまった金が必要だったんだ

俺だったら、そんな金で何かしてもらっても嬉しくない

一ヶ月前の会話がよみがえる。

あのとき、泣きそうになっていたクラウド。…当然だ。

俺って、どこまでデリカシーないの?

 

 

 

 

「――また、夜這い?」

そう、後ろから声が聞こえた。この気配は、彼だと気付いていたが。

振り向くと、クラウドが寝室のドアに寄りかかっている。

クラウドの外見は、昨日と変わっていないように見えるけど、確かに男に戻ったことがわかる。

わりとぴったりとしたロンTを着ているにも拘らず、胸の膨らみはもうないから。

体全体がほんの少しだけ細くなったように感じるのは、やはり丸みのない男の体ゆえなのだろう。

そんな細かい変化に気付くのは、俺とセフィロスぐらいしかいないと思うけど。

クラウドをいつも見ていた、から…わかるんだ。

そう、きっとセフィロスも。俺と同じように、ずっと叶わない片想いをしていたんだろう。

 

「昨日は、ごめんな…。もう、あんなことしない。命にかけて。」

とにかく最初に、謝罪の言葉が出た。

情けないほど怯えたような声をしているのが、自分でもわかった。

 

「…だろうね。」

そう、クラウドは自嘲気味に笑う。なんでそんな笑い方をするんだろう。

「クラウド……?」

 

「男の体に戻ったら、俺なんかにもう用はないもんな。」

なんで、そんな言い方をする?まるで、男の自分に価値がないような。

―――そんな全てを諦めたような顔。

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2009.2.7)

 

 

 

 


 

 

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