C-brand

 

 


 

 

 



 

暴力的なカノジョ。

 

――頼むから、そんな顔をしないでほしい。

そんな全てを諦めたような顔。胸が、苦しいよ。

 

「……もう、俺に用ないだろ?ここから出てって。」

クラウドは俺と目も合わせずに、そう言い放つ。

「用はある。昨日のこと、何度でもお前に謝りたい。」

ここで出ていったら、もう絶対に彼を取り返せない、そんな気がした。

「別に、いいよ。もうどうでも。」

クラウドは、恐ろしく冷たい声だ。

 

考えてみれば、クラウドがこんな風に静かに怒るのは初めてかもしれない。

いつだって口より先に手が出る彼は、キレたら殴り、後を引かない。

だから、余計に恐かった。

その無表情の中に隠された、クラウドの痛みが。

 

「よくないだろ。あんなの、レイプだ。…痛かったよな、ごめん。」

なんだかどうしようもない後悔が襲って、泣きたくなった。

彼を抱いたことに後悔しているんじゃなくて、無理やりことに及んだことに対してだ。

どうしても欲しいなら、土下座してでも頼めば良かった。

好きなんだと、頼むから他の男の元に行かないでくれと…死ぬ気ですがれば良かった。

気もち悪がられるのが、なんだ?

こんな、全てに絶望したような顔をさせるぐらいなら。

 

「痛かった。」

静かな声でクラウドが言う。

「――心が、死ぬほど。」

綺麗な雫が、彼の細い顎を伝って、床に落ちるのが目に映る。

クラウドは、声もなく泣いていた。

 

「ごめん!!!」

 

思わず叫んで、クラウドの足元にしがみついた。

そのまま、床に土下座する。

「殴っていい、踏みつけていい、殺してもいい、だから!」

もはや必死だった。これでもかというほど床に頭を押し付けて。

「……だから、なに。」

 

「…だから……お願い、だから、もう泣かないで……」

 

そう言いながら、俺も泣いていた。

クラウドみたいに静かに泣けない。情けない呻き声がもれてしまう。

 

 

 

 

「なにそれ。……もう、本当に怒ってないよ。」

クラウドは少しだけ、柔らかい声になる。

「…ただ、悲しかっただけ。ザックスに、女だってだけで求められたことが。」

「え…?」

何を言ってるんだ?

そういえば、昨日無理やり抱いた後。クラウドは泣きながら俺に言った。

 

女になったからってこんなことするなんて

 

――違う、そうじゃない!

「クラウド、あのな、俺が欲しかったのは」

聞きたくない、というようにクラウドは俺の言葉を遮って話す。

「ごめん、本当は、謝らななきゃいけないの俺の方。男の自分が愛されないって、勝手にいじけただけだ。」

「クラウド、なに言ってんの」

「気持ち悪いって思っていいよ。実際、俺たぶん普通じゃないから。」

クラウドはまた自嘲気味に笑う。…いや、笑おうとして失敗して。また涙が一筋流れる。

 

「クラウド、待ってよ。俺は別に、おまえが女の子だからあんなことしたんじゃねえよ!」

それだけはやっぱり譲れない。だって本当にずっと前から。

「おまえが男だって女だって、俺にとっては同じだよ!」

どっちの彼にも、俺は夢中だ。それだけは知っててほしい。

俺につられてか、クラウドの声も大きくなる。

「同じじゃ、ない。男とセックスしたいなんて思わないだろ…!」

 

24時間思ってるよ!!!!」

 

「え」

つい、大声で叫んでしまった。まずい、昨日のこと、まるで反省してないみたいだ…。

「いや、もうあんなことしないとか言ったのに、ごめんな?…でも、やっぱりしたい。

エッチしたい!クラとしたい!!」

 

求めないなんて、無理。ごめん、だってこんなに好きなんだから。

「…なに、言ってんの。もう女じゃないんだよ。」

「だから何?

クラウドはしどろもどろになる。

「だから、できるわけないじゃん。いれるとこ、ないし…」

そう言って顔を真っ赤に染める。やっぱり、どこまでも可愛い。

「男としたことないけど。愛があればできる、絶対に。」

確信がある。気持ちいいかはわからないけど、肌を重ねる行為は幸せなはずだ。愛していれば。

 

「バカじゃないの。」

その憎まれ口、たぶんずっと聴きたかった。クラウド!

「バカかも。だって女のクラウドも、男のクラウドも、俺のものにしたい。絶対、誰にも渡せない。」

ずっと言えなかったこと。もう抑えきれない。

こんな溢れてくる愛しい気持ち、抑えきれないよ。

 

「…男でいいって、ザックス変態?」

そう、まさに変態。

だってクラウドのその可愛くない言葉が、どうしようもなく可愛いって思ってしまう。

「変態かも。だって俺、ツンデレとブロンドの子じゃないと、もう抜けねえし。」

それが誰を指しているのかわかって、クラウドは赤面する。

 

 

ばかで変態で、しかも節操なし。三拍子そろったどうしようもない俺だけど。

 

 

「なあ、クラウド。昨日も言ったけど。――『責任』、とらせて。」

昨夜めちゃくちゃに抱きながら、それでも本気で言ったんだ。

一時の快楽で出た言葉じゃない。行為の言い訳なんかじゃない。

「…どうやって?」

上目遣いで見てくるクラウド。新しい技だな、すごいぞ。

「毎日クラウドの食いたいもん作ってやるし、トイレ掃除も俺がやるし、財布もクラウドが握っていい。」

「なんだそれ。」

クラウドはくすくすと笑う。やっと笑ってくれたのが嬉しい。

 

「一生かけて、幸せにする。」

そう、クラウドの手の甲にキスをして、低い声で言ってみた。

いつもならアッパーがと飛んできてもおかしくないこの状況。

でも優しい君は、きっと殴れないね。

 

 

「………面倒だけど、面倒だけど。………面倒、だけど………………いいよ。」

 

 

そう言ってはにかんで笑うクラウドは。

間違いなく、ツンデレ最強伝説を作り上げた。

 

          →オマケ(別窓)ベッドの中でデレになるクラウドが見たい方はこちら。

              Happening in the bed【全身全霊でキミが好き!】

 

 

「――それで、何で俺のとこにいるんだよ、ザックス。」

カンセルが本気で迷惑そうな表情で、広げていた新聞から顔をあげる。

 

「だから、クラウドが可愛いって話!どこまで話したっけ?そうそう、クラウドって、あの時すっげえ可愛い声

出すんだよ。嫌だ嫌だとか言ってさぁ、それがまた燃えるんだわ。しかも大きい声じゃ言えないけどさ、

クラウドのアレって超綺麗なんだよね。同じ男とはマジ思えねえ!女の子のときも本当可愛かったけど、

むしろ男のアイツのが色気がさらにプラス?みたいな。あんな早く持っていかれたの初めてだわ、俺。

しかも寝てるときにあいつ、寝言で俺の名前とか呼んじゃうの。『ザックスのばか』とか言ってさ。

夢の中でもツンデレ?みたいな。どんだけだよ!まじ可愛い!国宝なみ!いや世界遺産!!」

 

「うぜえザックス!!」

カンセルの怒鳴り声と、頭を鈍器で殴られる衝撃≠感じた。

ちなみに、比喩じゃない。見ると灰皿が床に落ちていた。…痛いってカンセル。

 

「なに、カンセル。俺がソルジャーじゃなかったら火曜サスペンスが始まってたぞ?」

ガラスの灰皿で殴られた、自分の頭をさする。

と言っても幸せいっぱいの俺からしたら、何で殴られても耳ツボマッサージぐらいの刺激でしかないけど。

「うるせえ!さっきから人の部屋で、何時間も惚気話しやがって!」

今日はミッションも訓練も休みだったもんだから、カンセルの部屋にあがりこんで、

クラウドとのラブラブランデブーについて好きなだけ喋り倒していた。

「いや、この幸せをおすそわけしよっかなと。」

「いらねえ!」

 

現在、独り者のカンセル君には、少し刺激が強すぎたか…。

クラウドの可愛さを誰かに聞いてほしくてカンセルを選んだけど、失敗?

でも、レノだとクラウドに目をつけそうだし。

あいつはノーマルだけど、俺と同じぐらい節操なし、しかも好みが似てるから危険!

セフィロス相手にクラウドの話をするのは、さすがにデリカシーゼロもいいとこだし。

そもそもあの正宗で一刀両断だな、危険!

 

「ま、いーや。もうすぐクラウドの内勤終わるから、俺行くわ!また聞いてよ!」

「……菓子折りでも持ってくればな。」

結局いいやつ、カンセル君。

 

 

 

 

 

トイレ掃除も風呂掃除も終わってるし、この後はクラウドを捕まえて、夕飯の買出しに行こうか。

時間はちょうど6時――自分の腕にある、腕時計をなでる。

この腕時計はクラウドのベッドの下に隠してあった、俺へのプレゼント。

俺が1STに昇進した、お祝いらしい。

そのために危険な新薬実験のバイトまでしてくれた彼の気持ちが、嬉しい。

 

 

――あの日。『男のクラウド』と肌を重ねた日。

ベッドの中で、彼の金の髪を撫でながら聞く。

「このプレゼント、俺宛てだろ?開けていい?」

クラウドは行為の後で恥ずかしいのか、毛布で顔を隠している。どこまでも、俺のツボだ。

「……なんで自分だって思うの」

「ん?ここにYour dream is everythingって書いてある。1STに成ったお祝い??」

「……どうだか。」

「それにTo my best friendって。やっぱ俺だろ?」

「…自信過剰男。」

「まーね!」

冗談っぽく笑おうとして、少し失敗する。

 

クラウドを毛布ごと抱きしめる。

なんだかこの毛布1枚分の距離さえも、もどかしく思う。

「……ほんとはさ。自信なんかない、かも。」

「ざく…?」

受け入れてもらう自信がないから、ずっと気持ちを隠していた。

選んでもらう自信がないから、暴力で無理やり奪った。

「でも、クラウドの一番は俺だって思いたいから。俺のプレゼントにしていいでしょ?」

つくづく強引すぎるとは思う。でもいつだって――強引にでも、彼を自分ものにしたかった。

なんて自分勝手で、卑怯で、高慢な想いなんだろう。

何でかわからないけど、手が少し震える。

…俺、恐いのかな?

 

「バカじゃない?…そんなの、ザックスに決まってんじゃん。」

毛布をかぶったまま、クラウドが体を寄せてくる。

「クラウド!!」

毛布の上からでも、キスをする。

この愛しさ、どうやったらセーブできるんだろう。好きすぎて泣けてくる!

 

「……なあ、クラウド。女の子のとき、無理やり中に出したりしてごめんな?」

「…さっきも中に出したくせに。」

「う、そうだけど…。でも女の子はさ、妊娠しちゃうかもしれないし。恐かっただろ?」

中に体液を出されれば男に戻るのだから、妊娠はしないだろうけど…でもきっと本能的に恐かったはずだ。

実際、あのときのクラウドの拒絶は必死だった。

 

「…アンタを利用して、軍に残りたくなかっただけだよ。」

「え?」

「何を利用しても、アンタだけは利用したくなかった。だから、ごめん。…いやとか言って。」

「…だから戻る方法、言わなかったの?」

「だって。言えば、好きじゃなくても寝てくれるだろ。…アンタ優しいから。」

そう言って顔を少し毛布から出す。

 

「言ってくれれば、間違いなく泣きながら喜んだと思うけど。」

「…なにそれ。……ほんと、バカじゃない…。」

クラウドは素直じゃないことを言いながら、彼をくるんでいた毛布の中に、俺もいれてくれる。

二人の肌が触れたとき、愛しさに耐え切れず、クラウドを思い切り抱き寄せる。

それだけでは我慢できず、腕も足もからめて、もはや彼を羽交い絞めにして。

そして全身で強く強く抱きしめたまま、ついばむようなキスを繰り返す。

うっとうしい、と緩く抵抗しながらも、天使のように笑う愛しい彼――。

 

 

 

「なあ、クラ。もう一回、言って?」

「…何を?」

 

「バカじゃない?≠チて。」

「この変態っ!!!!!」

 

お約束のように、クラウドの見事な手刀がきまった。

 

 

 

 

 

――ほら、クラウド。

何度でも俺を殴って! 何度でも俺をなじって!

 

それってどうしようもなく愛してるって、

オマエに言われてるみたいだね。

 

可愛くなくて可愛すぎるオマエが、愛しくてたまらない。

 

 

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C-brandMOCOCO (2009.2.22

 

 

 

 


 

 

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