C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

君の腕の中で死にたい。

 

 

 

 ご注意: 残酷な表現を含みます。

  

 

信じる神はいない。

運命論なんて寝言にも、興味はない。

だからそれ≠ニ出逢ったのも、ただ偶然だった。

 

Life3.こんなにどうしようもなく

 れた街で

 

Bランクの任務が終わって、ミッドガルへと帰還する、ヘリの中。

地上を見降ろすと、腐ったピザが見えてきた。

このピザは魔光をエネルギーとして利用するために神羅カンパニーが作ったもので、

神羅は金と軍事力を持って、世界を支配している。

ピザの上では神羅関係者や上流階級の人間が住み、それ以外の者はピザの下――スラムで暮らしていた。

明らかな落差社会、ってやつだ。

 

俺が故郷のゴンガガを出て、ミッドガルに住んでから3年。

3年暮らしても、この街に少しの愛着も湧きはしない。

何も持たない故郷に対してもそうだったが、この街も、俺の帰るところとは思っていなかった。

ただ、なぜか。

ミッドガルを組み立てる、錆びた鉄の色。すえた臭い。

この汚れた街は、何者も拒んだりはしないから…どこか安心する気がする。

 

ヘリの中で、ソルジャーの同僚達の声が聞こえる。

「やっと、ミッドガルに帰ってきたなあ。」

「あ〜風呂に入りたい!」

「この後、ネエちゃんのとこ飲みにいかねえ?」

1週間も禁欲生活だったもんなあ!行こうぜ!なあ、ザックスも行くだろ?」

 

禁欲生活…ねえ。

 

今回の遠征は、一般兵は配属されず――全員が、ソルジャーだった。

こういう時は、暗黙で暴走が始まる。

この遠征中、さんざんクスリと酒を浴びながら、暴れて。殺しまくって。

村の女を、マワしてヤって。

……ちっとも、禁欲的じゃなっかたと思うけど。

 

「おう、行こうぜ!久しぶりに、羽目外しちゃうよ俺〜!」

任務の後は、しばらく休暇に入る。

とりわけスラムで騒ぎたい気分でもなかったが、セックスと酒以外、他にすることもない。

ただの、暇つぶしだ。

 

 

 

 


 

任務の報告を終えて、医局で簡単なメディカルチェックを受けた後、

俺は会社のシャワー室で軽く汚れを流し、プレートの下に向かった。

スラムの上と下を繋ぐ電車の窓から、薄汚れた市街地――スラムが見えてくる。

この埃と喧騒にまみれた街は、俺の帰る場所でもないが、それでも。

汚れた人間には、これ以上ないほど、ひどくお似合いに思えた。

 

時間は、真夜中を過ぎる頃か。

だがここスラムにおいては、時間の秩序など存在しない。昼も夜もない。

そこら中で怒鳴り合う男の声が響き、客引きの女が手を引いてくる。

この街に通うようになって数年、この喧騒にも慣れた。

「ザックスじゃない?!久しぶり!」

「連絡くれるって言ったのに、何してたのよ!」

「今夜これから空いてるの〜?」

見覚えのあるいくつもの顔に、声をかけられる。

商売女だったり、数回寝た女達だったり。

 

ソルジャーである俺は、それなりにイイ女達を大勢囲っている自覚はある。

イイ女といっても――その作られたような美は、どれも皆一様に見えるけど。

自他ともに認める女好きの俺は、来るもの拒まずで幾多の女と寝てきたが、

同時に執着も情も、湧きはしなかった。

恋もセックスも、当然、性欲処理以上の意味などない。

 

今夜も手ごろな女とホテルにしけこんでもいいんだけど、なぜか気分が乗らない。

適当に、調子良くあしらった。「作り笑顔」は得意分野だ。

いつもの人懐こい笑顔を作りながら。

なんだかどの女を見ても、ひどくくだらない存在だななどと考えていた。

任務の疲れも多少あるかもしれないし、ただそれらの女に飽きてきただけかもしれない。

どの女も同じような化粧、同じ様な香水の臭い。

そして同じように媚を売る、そのしたたかさ――その存在のくだらなさに、鼻で笑いたくなる。

 

同僚が集まっているオネエちゃんの店に行くのも、億劫に感じてきた。

酒とセックス以外、することもないっていうのに。

何をするのも面倒くさい。ひどく退屈で。

 

 

世界は陳腐で、全てが色あせている。

 

 

 

 


 

ただふらふらと、約束した店に足を進めていた。

そして廃棄ガスを撒き散らす、交差点に差し掛かったとき。

何かゴミのようなものが目の端に映った。

 

…おそらく、「猫だったもの」だった。

灰色の汚らしい猫が、これまた汚らしい内臓を散らして、道路の真ん中に放置されていた。

俺は横目で少しそいつを見た後、次の瞬間には、その存在を忘れた。

浮浪者の死体だって転がっているスラムだ。

別に、珍しいものじゃない。

コレはしばらく放置されて異臭を放った後、どこかの誰か…衛生局あたりの人間が、掃除するんだろう。

多少目障りだが、自分には関係のないことだ。

 

それにこの灰色の「猫のようなモノ」は、このスラムにおいて、ひどく相応しい気がした。

そこにあって当たり前のような。こんな風に死んで当然のような。

この街に住む多くの人間が、こうしてゴミのように死んでいくのだろう。

 

 

 

一瞬、感じた既視感。

まるでその猫に、未来の自分を見た気がして――もう一度「ソレ」を振り返った。

 

 

 

 


 

その時だった。

――「金色」を、見たのは。

 

 

 

色褪せた灰色の景色の向こうで、光を放つように浮かび上がったもの。

ゆっくりと「ソレ」に近づいて、それが足元にくると、しゃがみこむ。

車のライトが逆光になり、その表情は認識できないが…おそらく、少女だ。

金糸の髪が夜の街に浮かび上がり、どのネオンよりも、眩しいほどだった。

この空間に、ひどく不釣合いなもの。

その存在が現実ではないようで、思考が停止したように、俺は呆けていた。

 

車のクラクションが鳴って、我に帰った。

信号が変わったのだ。

俺と、少し離れたところにいる彼女だけが、道路の真ん中に立っていた。

 

彼女はハンカチのようなもので、例の「猫だったモノ」をくるむと、

まるで宝物でも扱うように、それを抱いて歩き出す。

金髪が光を撒きながら――俺の近くを、通り過ぎた。

俯いていたため顔は見えないが、とても小さくて細い体。

半そでの白い清潔そうなパーカーから覗く、白い腕。

その腕に抱かれた、「猫だったもの」…いや、たしかに猫だ。

ハンカチの布から少し見えた猫の顔は、思いのほか眠っているかのようだった。

まるで、天使に抱かれて召すような。

  

 

 

そんな幻を、視た。

 

 

 

 

再度、クラクションが鳴る。

「おい!何、ぼーっとつったってんだよ!!」

車の運転手から、罵声が飛ぶ。

だが俺はまだ、動かなかった。

 

 

動けなかった。

 

 

 

 

神様も運命論も、信じちゃいない。

……信じちゃいないけれど。

 

 I became to search him when I noticed.

き っ と 、 も う ず っ と 前 か ら 。 君 の こ と を 探 し て た 。

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2009.12.13

 

 

 

 

 


 

 

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