C-brand

 

 


 

 

 



 

 

、はじめました。

 

 

【 ご 注 意 】

*ザックスが年上リーマン、クラウドが大学生かつコンビニのアルバイト店員という現代パラレルです。

*ザックス視点です。

*終わらなかった…だと…_(:3∠)_

 

 

 

 

あいたい、

 

 

epilogue 3

 

やましいことなんか、何もないのだから。

ただ追いかけていって、手首を捕まえて、抱き寄せて、「不安にさせてごめん」と。

そう一言謝罪すれば、済んだかもしれなかった。

それなのに――現実は、思うようにはいかない。

 

「すみません、事務所までご同行願えますか。」

「は?」

「女性と争っていたと聞いています。少し、お話をお伺いするだけです。」

「ちょっと待って、今それどころじゃ、」

「私たちも、警察を呼びたくありませんので。」

「……っ」

 

おそらくは、先ほどの女性とのやり取りを、痴漢の類に間違われたのだろう。

こういう時、ただ「男」であるだけで不利になってしまう現実に、苛立ちを感じる。

けれども、彼ら駅員にとって、これは仕事。

本当は一分一秒でも早く恋人のもとへ行きたいのだが、それを社会人としての理性で踏みとどまる。

駅員二人に挟まれるように、ホームの隅の事務所へと連れていかれる。

こうなればさっさと用を済ますべきだと判断し、ザックスは大人しく従った。

包み隠さず真実を話し、戸惑いなく免許証と社員証の双方を提示すれば、

駅員もザックスの言葉に偽りがないことを感じ取ったのだろう。

「お引止めしてすみません」そう申し訳なさそうに謝罪をして、漸く解放された。

 

しかしすでに、ホームにも改札口にも、クラウドの姿はない。

彼の携帯に通話をかけるも、コール音が虚しく鳴り続けるだけで、いっこうに出る気配はなかった。

 

焦るばかりでうまく動かせない指先で、ライン画面を開く。

【クラウド、話がしたい。今どこ?】そう短く問う。

文字の綴りだけで愛してる≠ニか、さっきの女は何でもないから≠ニか――

そんな弁解をするのは、余計空々しい気がした。直接会って誤解を解かなくてはいけない。

そして、愛しているのはオマエだけだ、そう伝えなくては。

 

ザックスの送った文字はすぐに「既読」になる。そして間をあけることなく、短い返事がくる。

【今までありがとう 甘えてごめん】

一言もザックスを責めることのないそれは、あまりに臆病で、あまりに優しい。

クラウドらしい言葉だ。そして、それを見た瞬間ぞっとした。

弾けたように走る。

 

 

 

 

取り返しのつかないことになる――そう、嫌な予感がする。

 

 

 

 

玄関のドアを開けようとするも、当然鍵がかかっていて、ポケットから慌ててキーを取り出す。

靴を脱ぐのももどかしく、投げ捨てるように脱ぎ散らかすと、リビングのドアを開けた。

いない。人の気配がしない。

「クラ、ウド…」

寝室のドアを開けるのが、恐ろしくて。手が震える。理由は明白だ。

「いる、よな……?」

 

 

 

 

 

愛する人も、愛する人の少ない荷物も、全て消え去っている。

そんな現実、見たくなんてなかったから―――

 

 

 

 

 

 


 

 

「…それで、別れた、のか?」

「別れてない。」

 

企業ビルの最上階。光が眩しいほど差し込むはずのスカイラウンジは、

曇り空のせいか男の纏う空気のせいか、薄暗く鬱蒼としていた。

いつも早起きして作るのだと言っていた、彩や栄養バランスが計算された美味そうな弁当もない。

ザックスの座るテーブルには、温くなった缶コーヒーが置かれているだけ。

もともとスポーツマンだからか(学生時代は体操選手だったらしい)自信に満ちたその性格故か、

いつだって背筋が美しく伸びていたのに――猫背で項垂れるその様は、あまりにこの男らしくない。

これだったら、鬱陶しいぐらい恋人自慢をしていた方がどれだけいいだろうかと、カンセルは思う。

 

「でも、連絡つかないんだろ?…どこにいるのかも、手がかりなし?」

「クラウドのバイト先、毎日行ってるけど。あいつシフト入ってないみたいだし…

店長に、あいつの実家の住所とか大学聞いたけど、個人情報だからって教えてくれねえ。」

「そりゃあ、そうだろうな…」

 

たった、2週間ぐらいだろうか。

最初は恋人と痴話喧嘩をしたのだろうとカンセルは予想していたが、

こんな短期間で痩せていくザックスを見て、考えていた以上に深刻な状況なのだと思い至った。

あれだけ若々しい色男が、そういえばだいぶ老けて見える気がする。目の下のクマも酷い。

ワイシャツはクリーニングに任せているから相変わらず整っているが、ネクタイはいつも同じものだ。

好んでつけている香水の匂いもしない。コーヒーとタバコの匂いが微かに香るだけ。

歯が黄ばむと格好悪いからと言って、ここ半年間すっぱり煙草は吸わなかったはずなのに。

 

「俺、何勘違いしてたんだろうな。」

「ザックス?」

「あいつの恋人気取りでさ、全部わかったつもりになってて。

でも本当は俺、あいつのことなんも知らねえのな。…何も。」

携帯で連絡がとれなければ、それまで。

彼が身を寄せそうな友人関係も、日々通う大学の校舎も、実家の場所も。

何も知らない。彼を探す手段がない。

 

 

 

「…約束、してなかったんだ。」

 

 

 

「なんの、」

「一緒に住もうとか、俺の親に紹介したいとか、一生傍にいる、とか…そういう約束、」

今夜、あの家に帰ってくるという約束さえ、交わさずにいた。

想いあっているから、わかり合えている気でいて、言葉にしなかった。

ちゃんと約束して、彼にも約束させればよかった。真面目で義理堅い彼のことだ。

もしも明確な約束があれば、マンションを出る前に思いとどまってくれたかもしれない。

そんなもしもを想って、無意味なそれにため息が出る。

 

毎日があまりに無意味で、張り合いがなく、ただただ虚しい。

もしもこれが一生続くのだとしたら、そんなつまらないものにいったい何の意味があるのだろう。

 

いっそ、生きることなんてもう、どうでも―――

 

「おい、ザックス!」

バシン、と丸めた書類で頭を叩かれるが、それに文句を言う気力もわかない。

「…なに、」

力なく、視線だけで反応するのが精いっぱいだった。

「お前、俺に言ったこと覚えてるか?1年前にお前の部下が亡くなって、それからずっと腐ってて。

そんでコンビニでクラウドと出逢ったとき、」

「……。」

 

 

「俺が無駄に生きた一日は、必死で生きたかったのに生きられなかった人の一日なんだって。

――お前がそう、言ったんだ。」

 

 

「……。」

「今できることは今やる。明日でも明後日でもない、今日クラウドに会いにいくんだって、

お前、毎日走って帰ってだろ。雨の日も、雪の中でも。」

「…クラウドの居場所がわかってれば、今すぐだって会いにいくよ。

けど、コンビニにもあいつのアパートにもいないんだ。…………もう、会えないんだよ。」

もしもクラウドの居場所を知っているならば、会議もアポも放り出して会いにいくだろう。

仕事は大事だ、けれど仕事のために生きているわけではない。

愛する人との未来のため、仕事をしているのだから。

 

「M大学の7番街キャンパス。」

 

「…え?」

「あそこの近くで自転車通学だっていうんなら、M大かH大ってところだろ。

家が貧しいのに、無理して進学したっていうんなら…6大って呼ばれてるM大の可能性が高い。

さすがに学部まではわかんねえけど、とくにレベルが高いのが法学部か文1、あと薬学か。

薬学は今6年制だから、クラウドの家庭状況を見るに可能性は低い。

とすると、残りのふたつだけど、どっちもホームページで講義のスケジュールが出てたぞ。

大学1年ってのは、必須教科の授業が大半だ。ほぼこの予定通りに授業出てるはずだろ?」

先ほどザックスの頭を叩いた書類をずいと渡される。大学のホームページを印刷したものだった。

 

「…………大学で出待ちしろって?」

「コンビニでさんざん出待ちしたんだろ。おまえの得意技じゃん」

「ストーカーっぽくない?」

「否定はしないが、見方による。近所の主婦には、忠犬ザク公って愛されてるらしいぞ。おまえ。」

「どこの情報だよそれ。」

「これだけSNSが普及してる世の中なんだ。いくらでも情報は得られる。」

「じゃあ、カンセル情報ではさ、」

「んあ?」

「俺、クラウドのこと取り戻せる?」

「そうだなあ、可能性は高くない。歳の差もあるし、同性同士ってのもあるし、すれ違いまくってるし、

そもそも会えるかどうかもわかんないし。あんまり希望的数値は言いたくないが、」

「どれぐらい?」

1パーセントはあるんじゃないか。」

 

1パーセント、それは一般的に捉えれば、まったくもって優しい数値ではない。

カンセルは、敢えて挑戦的な言葉と視線を、ザックスに投げる。

しかしこれは――カンセルが、ザックスの性格を十分に理解しているからに他ならない。

 

1パーセントしか、チャンスはない。

もしもカンセルの言葉が真実を言い得ているとするならば、

「サンキュー、カンセル。」

ザックスにとっては、これほど明るい展望はないのだ。

 

 

 

「――俺、100回クラウドに告ってくるわ!」

たった99回の告白をふられ、100回目で受け入れてもらえるというならば、なんて容易いことだろうか。

 

 

 

「俺の人間ドッグが終わったら、焼き肉おごれよー」

そう言うカンセルの言葉に、ザックスは返事を返すより先に駆け出していた。

焼き肉は勿論、奢ってやる。ザックスも好物であるし。

大きな鉄板プレートを買おうと思っていたから、家に招くのもいい。

肉だけじゃない、クラウドが好きなキノコやカボチャも焼いてあげよう。けれどそれよりも今はまず、

(クラウドを見つけ出す!)

そして焼肉も、互いの両親に会いにいくことも、ずっと一緒にいることも――約束させて。

 

 

 

 

そしてその二人の約束を、自分が命がけで生涯守り抜くのだ。

 

 

 

 

 


 

高層ビルの階段を勢いよく駆け降りると、多少なりとて息があがる。

(エレベーターを使った方が速いかもしれないが、階段を使う癖がついていたのだ)

社内では相応しくないとわかっているが、ネクタイをぐいと緩めたそのとき、

エントランスホールの受付カウンターから、控えめな声で言い争うやり取りが聞こえてきた。

普段は少女のように高い声できゃいきゃいと笑う、受付嬢の若い女と。

そして、ここからでは植木が邪魔をして見えないけれど、話している相手は――

 

「ですから、お約束していないならお繋ぎできません。お引き取りください。」

「…じゃあ、ロビーで待たせていただいていいですか?」

「――あのね、ここは貴方のような学生さんがくるところじゃないの。」

受付嬢の女は、普段ザックスに見せるような人当たりの良い笑顔ではなく、

また取引先相手に見せる聡明で落ち着いた物腰でもなく。ただの『女』の素顔を見せる。

 

「ここは一流の男が働くオフィスなのよ。そんな小汚いGパンにスニーカーで長居されたら、

大切なお客様が不愉快な思いをするでしょ。…それに、わからないの?」

「……なにが、ですか」

「ザックスさんは、アンタみたいなイモ臭い子ども、相手にしないのよ。」

女の言葉を聞いたとき、ザックスの中で合点がいく。

この女と寝た覚えはなかったが、彼女の方は気が合ったのだろう。

そしてザックス自身、好意を寄せてくれる異性であれば、見境なく期待を持たせる態度をとってきた。

 

「どうせ、ふられても未練がましく付け回してるんでしょ。相手の迷惑を考えないで、アンタみたいに

泣きついてくる女、そういうのをストーカーっていうのよ。自覚ない?」

「ストーカー……」

 

 

 

 

 

「――その子、俺の家族なんだけど。」

 

力なく俯いたまま、受付カウンターを後にしようとした少年、彼の華奢な肩を抱き寄せる。

「……ザッ、」

「きゃあ!ザックスさん!」

少年――クラウドのか細い声は、女の悲鳴にかき消されてしまう。

「ザックスさんのご家族?!や、やだ私ったら、勘違いしちゃって。妹さん?親戚の方?」

「んー、違うけど。来客用のID貸してくれる?」

女の質問には笑顔でスルーして、外部の人間を社内にいれる際必須となるIDカードを借りる。

「ありがと!今日の口紅の色、すごく似合ってるね。」

手放しに褒めると、女は赤くチークで染めた頬を、さらに染め上げた。

 

 

 

「――俺の好みじゃないけど。」

 

 

 

フェミニストであるザックスにとって、こんな風に女性に恥をかかすことは、本来好まない。

けれど、一番大事な宝物をけなされたザックスとしては、それがたとえ女の嫉妬からくる、

つまらぬ文句のひとつだったにせよ…黙ってはいられなかったのだ。

 

Gパンにスニーカーで、それだけで死ぬほど可愛いから着飾る必要なくってさ。

男の前で態度変えたりしないし、3Kとか外車とかでいちいち男を評価しない。

恐い受付のお姉さんに嫌味言われても耐えて、相手を傷つける言葉を知らない―――

そういう子が、俺は好きだな。」

「な…っ!?」

 

女は言われた言葉の意味をすぐには理解できないらしく、しばらくの間茫然としていたが。

ザックスがクラウドの手を引き、エレベーターホールへ踏み込んだとき、

植木の向こうで、ヒステリックな女の喚き声とイスを蹴り倒すような派手な音がした。

 

 

 

 

「ザックス、いいの?」

子どもじみた怒りに任せて、クラウドの前で女性相手に酷い態度をとってしまったこと。

後悔はしていないが、気まずさはある。

「別に、受付の女の子にどう思われたって痛くも痒くもねえよ。」

「でも…会社の噂とか、ザックスの立場があるだろ?大人なんだから、ちゃんと考えて…」

「受付嬢って派遣の子だし、社内には影響ないから。心配すんな。」

女性のお喋りから多少マイナスイメージを周囲に持たれようとも、ザックスとしてはどうでもいいことだ。

それ以上の仕事をすればいいだけ。そんなものは出世の足枷になるはずもない。

けれど、クラウドが気に病まないようにと、いちおうフォローはいれておく。

 

「―――それより、クラウド。オマエなんで、」

エレベーターは先ほどまでザックスが休憩をとっていた、最上階のスカイラウンジへと向かう。

話が出来る場所はそこぐらいだろう。

会議室や応接室はカメラがあるし、さすがに私用では使えない。

「あの、俺、ごめんなさい。こんなところまできて…迷惑だってわかってるけど、我慢できなくって、」

「我慢?」

「話したいこと、あったし…ちゃんと伝えてから、諦めようって。」

「…クラウド、」

「ザックスが、女の人にモテるの知ってる。俺なんか、子供だし男だし、相手にされないって知ってる。」

「クラウド、」

「あんなとこ、見られちゃったし。…俺のこと気持ち悪いって、思っただろうし。」

「クラウド。」

 

 

 

「本当は―――ほんとうは、結婚、してるの?ザックス……」

 

 

 

最後はもう、泣き声になっていた。大きな大きな瞳から、涙の雫が零れ落ちる。

もう、我慢なんかできなくて、

「クラウド!」

勢いよく抱きしめた瞬間。エレベーターのポン、という軽やかなメロディが流れて、扉があくと知る。

けれど、誰に見られてもいい。

「離して…っ見ら、れちゃう、」

「かまうもんか。」

エレベーターの扉が完全に開く。

扉の向こうで、濃紺のスーツを着た男性社員が一人、立っているのが視界の隅にうつる。

せめてクラウドだけは隠してやりたいと、包み込むように抱きしめた。

 

先ほどまで抵抗していたクラウドは、もう動かない。

怯えて小さく震えている。

ただただザックスの会社での立場を、ザックスが周りから批難されることを、気にしてくれているのだ。

 

 

 

「―――おい、ザックス=フェア君。聖域たるオフィスで、白昼堂々情事とは何事だ!

 お前のような駄犬は、名刺のかわりにフリスビーくわえて営業まわりしてこい!ガハハー!」

 

 

 

「……おい、なんだよそれ。」

「ハイデッカー部長のマネ。」

「似てない。」

「似てたら泣くぞ。」

 

開いたドアの向こうに立っていたのは―――同僚で友人の、カンセルだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

「…今まで、どこに泊まってたの?」

「最初は、ファ-ストフードとかネットカフェ。でも、なんか変な連中に絡まれること多くて、

結局バイトの先輩のとこで世話になってる。」

「え、おい、変な連中って…ナンパ野郎ってことだろ?!大丈夫だったのか?!

それにそのバイトの先輩って誰だよ?そいつクラウドに変な真似してないのか?!」

「心配性。」

「当たり前だろ!…俺の恋人は世界一可愛いって、言ったじゃん。」

「さっきは、俺のこと、家族って言った。」

「一緒に住んでるんだ。…嘘ではないだろ。」

「もう住んでないよ。」

「帰ってきてくれないの?…いや、帰ってきてほしいんだ。」

 

 

 

結局、社内では二人でゆっくり話すことは出来なかった。

仕事に戻るようにとクラウドに説得され、その間は昼あがりだというカンセルに(夜勤開けらしい)

クラウドの相手を頼んだが、いったい彼らがどんな会話をしたのか知らない。

カンセルは思慮深く、相手の気持ちに聡い男だから、

間違っても二人の仲がこじれるような会話はしていないはず。

ザックスの仕事が終わった20時まで、およそ6時間近くも待っていてくれたのだから、

クラウドだって二人の未来を前向きに考えていてくれているのでは――そう期待してしまうけれど。

けれど、手を繋ごうとしても擦りぬけられ、マフラーを貸すと言っても拒否される。

クラウドの考えていることが、ザックスにはわからない。…それが恐い。

 

「…カンセルさんがね、ザックスはずっと独身だって言ってた。彼女はいっぱいいたけど、

どれも本気じゃなかったって。いわゆるプレイボーイってやつだって。インポになればいいって。」

「カ、カンセルの奴…っ!!」

たしかに、事実だ。良いことばかりを伝えても、いずれメッキは剥がれてしまうもの。

でもだからといって、インポの呪いをかけるのは酷い。

 

 

 

「……俺のことも、本気じゃなかった?」

 

 

 

何度も歩いた、いつもの並木道。

遠くには、クラウドがかつて住んでいた三角屋根のアパートが見える。

彼と出逢って半年、まだ半年しか経っていないけれど…

ザックスにとってこの景色には溢れるほどの想いがある。

 

アルバイトの帰り道、時間が止まればいいのにと、いつだって思っていたこと。

アパートの前で、クラウドの部屋の明かりがつくのを確認すると。

安堵すると同時に、まるで長い長い別れのように寂しくなったこと。

ただ彼の涙を止めてやりたい一心で、アパートの窓ガラスをぶち破ったこと。

あいしてる$カまれて初めてそう言葉にして、雪の中、宝物をそっと抱き上げたこと。

 

本気じゃない、そんな風に言われてしまうのは――全てを否定されたも同然。

 

「クラウドはさ、俺のこと信じられない?」

質問を質問で返す、これは卑怯なことかもしれない。

けれど、きっとそうなのだ。

クラウドは、ザックスがどれだけ言葉を尽くしても、どれだけ約束を交わしたって、変わらない。

ザックスの抱く想いを、信じてはくれない。

そう思うと、あまりに悲しかった。

 

思い返してみれば、クラウドは会うたびいつも、ザックスの左手を確認していた。

あの夜、プラットホームまで迎えに来たのも。今日会社にまで会いに来てくれたのだって――

 

「俺が結婚してるか、他に女がいるのか…確かめたかったんだろ?俺は信用ないか。」

「違う!」

「違くない。」

「たしかに、ザックスが…け、結婚してるのかもって考えたけど。会いに行ったのは、違う。

ほんとに、我慢できなかったから。」

そういえば。昼間もそう言っていた。いったいなにを、我慢できないのか、

 

 

 

 

 

「ただ、会いたくて―――我慢、できなかったんだもん。」

 

 

 

 

 

足を止めたクラウドが、泣くまいと必死で涙をこらえている。

自嘲めいた気持ちから、ばかなことを言ってしまったと。

後悔やら情けなさが押し寄せて、けれどそれ以上にこの子が愛しい。

ただ、会いたいから会いに来てくれた――それはなんて拙くて、不器用で、健気な愛の告白だろう。

 

 

 

 

「…ごめん、」

ごめんなんて謝罪より、ありがとうと伝えたい。

それよりももっと相応しい愛の言葉は、いくらでもがあるはずなのに、もう何も紡げなかった。

 

せっかくクラウドが涙を耐えているというのに、

きっと1秒後にはもう、自分の方がこの小さな恋人に泣き縋っている。

…それがわかっているから。

 

  

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2014.07.21

さっさと仲直りエチさせて、終わりにすべし…

 

 

 

 


 

 

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