C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

 

ご注意

@     かなりシリアスなエロ童話、完全パラレルです。

A     原作童話(ヘンゼ○とグレーテ○)とは、まったく設定が異なります。もはやかすってもないです。

B     クラウドが、ザックス以外の男に汚されるシーンがあります。

C     BLはもちろん、近親相姦等、非道徳な要素が多いのでご注意ください。

 

 

 

 

 

お菓子の家で暮らそうか。

<後編>       

 

――――1年。

 

長かった。まるで、永遠のように長い。

それは、人を変える≠ノは、十分な時間――

人と人との絆だとか、愛だとか。そういうものを風化させるには、十分すぎる時間。

…そう言ったのは、銀の髪を持つ上司だっただろうか。

(そんなの、俺は信じない。)

だって、そうであるならば。どうして自分のこの想いは、少しも変わることがないのか。

 

お菓子の家で暮らしたい

いつだったか、弟が口にした願いを、今もなお追い続けている。

 

 

 

 

 


 

母親を捨てて、家を出ることを決めた、あの日。

――母親が、自殺を図った。

「ザックス!行かないで!」

そう叫んですがりついてくる彼女の手を、ザックスが加減なく振り払った、直後のことだ。

女は護身用の小銃で、自身のこめかみを撃った。

 

パン!

 

背後で、その音を聞いたとき。しまった=\―と、背筋が凍った。

初めて聞く銃声に、怯えたのではない。…………母親の命を、危惧したわけでも。

 

「おい!しっかりしろ!」

頭部から大量の血を流す母親を、ザックスは抱き起こす。

「ザ、ックス…、ここに、いて…」

母親は、微かに意識がある。

引き金をひいた衝撃で弾道がずれ、弾は頭部を掠めるにとどまったのだ。

出血は酷いが、貫通はしていない。

 

母親は、朦朧とする意識の中で、目を薄く開いて満足そうに笑う。

最愛の息子が、自分の元に戻ってきた。自分を、選んだ。…その事実に、悦んでいるのだ。

―――だが。

 

ザックスは母親をその腕の中に抱きとめながらも、見下ろす目は冷たく、そこに慈しみの色などなかった。

「クラウドを、どこに連れていった――誰に、売った?」

ザックスの言葉を聞いた母親は、みるみる青ざめていく。

それはまるで、体中の血が流れ出てしまうかのように。

 

女はこのとき、理解したのだ。

もうザックスは、自分を決して母さん≠ニ呼ばないこと。

血を流す母よりも、身を売られた弟を案じていること。

「おい、意識を保て!クラウドの居場所を知ってるのは、アンタだけなんだ!」

その叫び声も、揺さぶる力も、意味はなさず。女は喪失感とともに、意識を手放した。

 

 

 

 


 

母親は、意識がない。

 

クラウドがどこに連れていかれたのか、僅かな情報も手がかりもない。

地元の警察に捜索を依頼し、探偵も雇ったが、クラウドの居場所は依然として不明。

ただし、人身売買で需要があるのはたいてい大都市であり、

ほとんど売られた子供たちは、経済都市ミッドガルに流れていくのだと――警察は言う。

もはや、ゆっくり指を銜えて、待っていることなどできなかった。

クラウドが行方不明になってから4日後、ザックスはこの家と田舎町を飛び出した。

 

大都市ミッドガルで、最初はただ、がむしゃらに捜索をしていた。

だがこの広い街で――なんの手がかりもツテもなく、小さな子供を見つけ出すのは、

それはあまりに非効率であり、同時に、とてつもなく困難なことだった。

ただ弟の居場所を突き止めるためだけに、軍に入隊した。

犯罪組織の情報を得るには、軍が一番良いと思われたからだ。

 

 

 

 

―――ここまでくるのに、1年かかった。

 

まるで、永遠のように長い時間を要したように思う。

今、クラウドはどこにいるのか。どんな境遇にあるのか。

一瞬だって、彼のことを思わなかった時などない。

クラウドの置かれている状況を想像するのは、とても辛くて、頭がおかしくなりそうだったけれど、

それでも、考えるのをやめようとは思わない。

なぜなら、それはただの想像の域ではなく、きっと紛れもない現実として、

クラウドの身に降りかかっていることなのだから。

 

眠れない夜が続く。

 

(だけど、それはクラウドも同じはず。)

クラウドは、ザックスのベッドでないとよく眠れない。

夜になると、亡くなった実母のことを思い出してしまうのだろう。

いつだって自分の腕の中で、背中を丸めて…まるで子猫のように眠っていた。

 

食事が、喉を通らない。

 

(だけど、クラウドもきっと同じだ。)

クラウドは、好き嫌いが多い。

父親が甘やかしたせいか、召使の作った料理では、食べられるものの方が少ないぐらいだ。

けれど、ザックスの作ったものならば、素直に口に運んでくれる。

生クリームの入ったオムレツが、あの子のお気に入りだった。

 

会いたくて、死んでしまいそう――

 

(きっと、クラウドも同じはず…)

今、クラウドは独りでいるのだろうか。…それとも、他人に虐げられているのか?

孤独に、暴力に泣いて。

クラウドが助けを求めるとしたら、それは自分以外の名前のわけがない。

 

――クラウドが、もしも。あくまで、もしもの話だ。

考えたくはないけれど、そうでなければと願ってやまないけれど。

 

 

 

もしも、クラウドが……何者かに、辱められているとしたら?

 

 

 

クラウドは、もう一度。

もう一度――笑ってくれるのだろうか…

 

 

 

 

 

 


 

そして、ついに。

 

人身売買のブローカー組織の情報を、ザックスは掴む。

その組織は以前より、麻薬密売や違法なマテリア合成で、神羅の軍部も目をつけていた。

だが、多額の寄付金を神羅に出資しているため、多くのことは目を瞑られてきたのだという。

――人身売買も含めて、容認されてきたのだ。

 

軍が動くつもりがなくとも、ザックスには関係のないことだ。

クラウドがそこにいるかもしれないならば、探しにいくまで。

もしもそこにいるならば、連れ攫うまで。

個人的に付き合いのあるタークスの協力を得て、

ブローカー組織の首領である「ドン・コルネオ」の屋敷を襲撃した。

 

そこにいたのが――――

 

 

 

 

 

 

コルネオの寝室は、悪趣味な装飾がなされていて、一種の不気味さすらある。

その部屋の中央にある、無駄にでかいベッド。

そこには、あまりに不釣合いな存在が、うつぶせの状態で倒れていた。

 

まるで、透き通ってしまいそうなほど。白く、清らかな裸。

 

ドアを蹴破って部屋に入ったとき、すぐにその体が目にとびこんできて、

ザックスは正直なところ直視できなかった。

何歳ぐらいの子か――おそらくは、クラウドと同じぐらい。

クラウド以上にやせ細った体。そしてそれは、血が通っているのかと心配になるほどに白い。

コルネオの性の捌け口にされた、少女――

 

あまりに、不憫だ。

美しい金髪、美しい白い肌。その美しさのせいで、醜い男に虐げられて。

「こんな小さな子まで、てめえは外道か…」

ベッドの白いシーツには、血が滲んでいた。

見れば、頭部に怪我をしているらしい。

慰め程度に体に巻きついているローブも、ひき裂かれていてあまりに無残だ。

間違いなく、この男に乱暴されたのだろう。

 

「もう、大丈夫だ。恐かっただろ。」

少女は、体を丸めたまま、ただ震えていた。

それがとても痛々しくて、自身の軍コートを脱いで、そっとその体にかぶせた。

女の子の肌をこれ以上見るのは、あまりに可哀想な気がした。

 

コートをかけた瞬間、少女の体がびくりと大きく揺れる。

ショートカットよりも少し長い、少女の髪に、ザックスはそっとふれてみる。

まるでそうするのが当然のように、彼女の髪の毛を優しく撫でていた。

ほとんど無意識に、だ。

 

柔らかい金髪を撫でると、まるで胸の奥から這い上がってくるような衝動を感じた。

いったい、なんなのだろう?この子に感じる、慈しみは。

この子は、いったい――

続くコルネオの言葉に、頭が真っ白になった。

 

 

「金髪なんか、そいつしか知らんわい!俺は、クラウドしか」

 

 

(――え?何て、)

この男は今、

(何て、いった……?)

誰の名を、呼んだ?

 

 

「おい、おまえ…」

その子の頭に置いたままの指先が、震える。

今、自分が髪を梳いているのは、他でもなく、

 

 

 

「くら、うど?」

 

 

 

 

想像しなかったわけじゃない。

――もしも、クラウドが何者かに虐げられているとしたら。辱められているとしたら。

それは「もしも」という仮定の話ではなくて、現実に起こっているのだということを、

本当はわかっていた気がする。

幾度となく、夢にもみた。

クラウドが、何人もの男に犯されている悪夢を。

「おにいちゃん助けて」と……そう、何度もザックスのことを叫ぶ、その叫び声を。泣き顔を。

 

その悪夢が、現実に起こってるだろうことは、たぶんわかっていた。

わかっていながら、そうでなければいいと…都合のいいことを信じたかっただけだ。

 

「クラウド…?」

ずっと探し続けていた子の名前を、もう一度呼ぶ。

この子であってほしいし、この子であってほしくない。

矛盾した想いが、同時にあった気がする。

「クラウド、なの…?」

このときには、すでに確信に変わっていた。

 

微かに聞こえる息遣いが、そして押し殺す泣き声が、ザックスのよく知るものだったから。

「……なあ、顔、あげて……」

なんと声をかけたらいいのか、わからない。

けれど、この子の不安を煽ぎたくなくて、ことさら優しい声でそう続けた。

「……るな…」

「え?」

 

「見るな!!」

 

ザックスのかけた軍コートを、こちらに向かって投げつける。

そうして、まるでザックスから逃れるかのように、ベッドから這い出そうとする。

だけど、足がもつれてしまい、うまく起き上がることができないクラウド。

かなり衰弱しているのかもしれない。

ただでさえ痩せていた体が、もはや可愛そうなほどに細かった。

 

そのまま、シーツとともに、ベッドから転げ落ちる。

「クラ!クラウド!」

差し出すザックスの手を振り払い、クラウドは這うように部屋の隅へと移動する。

壁を背に、身体をちぢこませて――まるで、何かから隠れたがっているようだ。

実際、ザックスから、隠れたいのかもしれない。

 

「クラ、」

ザックスの手が、そっとクラウドの肩に触れたときだった。

その瞬間、クラウドが異常なほど暴れだした。

「いやだ!やだやだ!やーーっ!!」

壊れた人形のように、悲鳴をあげて。何かに、怯えている。

 

「クラウド、俺だって!な?…まさか、忘れちゃったの?」

そう、宥める様に、クラウドを優しい力で制止するけれど。

湧き上がってくる恐怖は、抑え様がないのか。

「やだ!やだ!」

ザックスの手をを振り切って、クラウドは暴れる。

クラウドの指先が、ザックスの左頬をひっかき、血が滲む。

それでもクラウドは、死に物狂いで拒絶を続けた。

 

「恐かった、よな…。遅くなって、ごめん…、ごめん!」

先ほどよりも少し強い力で、クラウドの身体を抱き寄せる。

「やだ!や…!触らないで!触らないでよ!」

「ごめん、」

ただ謝ることしかできない自分は、なんて無力なのか。

「やだ…!…いで…見ないで!!」

「…え?」

 

 

 

「嫌いにならないで!」

 

 

 

クラウドが、何に怯えているのか。何に恐怖を感じて泣いているのか。

ようやく理解したとき、思わず怒鳴り声にも似た声で、ザックスは叫んだ。

「そんなわけあるか!」

 

抵抗するクラウドを、おかまいなしに抱き締める。

それこそ、痛いぐらいに強く、強く――加減ができない。

「クラウド、ごめんな、ごめん…」

いったい、この屋敷で。この1年もの間、どんな目にあっていたのだろう。

どれだけ、泣いていたのだろう。

それは、想像することすら恐ろしくて、恐ろしくて、恐ろしくて。

 

「今さら、もう、遅い…!」

 

そのクラウドの言葉は、正しい。あまりに時間がかかってしまった。

どう考えても、間に合ったとはいえない。

「…もう、お兄ちゃ…アンタの弟じゃ、ない。」

クラウドの、少し掠れた声。

それは1年前までのボーイソプラノではなくて、いつのまにか変声期を過ぎていた。

 

「俺は、もう子どもじゃない。」

 

たしかに、1年前とは雰囲気もガラリと変わった。

細くて折れてしまいそうな身体だけれど、身長は少し伸びて、顔つきも大人びた。

何よりも、その悲しくて仕方がないという、表情――

こんな顔をしたことなんて、今までなかったのだ。一度だって。

 

 

 

 

「…弟じゃ、ない。そうだな。」

 

クラウドの言葉を、そのままザックスが反芻すると、彼は肩を揺らす。

「弟だと思ったことなんか、一度もなかった――本当は。」

その言葉を聴いたクラウドは、顔色を青くさせる。そして、もはや美しいほどに白くなる。

 

「…やっぱり…アンタは。義母さんを、選んだんだ…」

クラウドから、力が抜ける。

それはザックスを受け入れたのではなく、全てを諦めたかのようなそんな絶望感に似ていた。

 

「あの女は、捨てたよ。」

 

クラウドがの目が、わからない、といっている。

ザックスが、実の母を「あの女」と呼ぶことに、違和感を感じているのだろう。

「親も、家も、モラルだって…全部、捨ててきた。俺は、」

――この真実を、弟は受け入れられるだろうか?

 

 

 

「俺は、オマエしかいらない。弟としてなんか、見れない。」

 

 

 

クラウドの目から、抑えていた涙が流れる。

それは、失望だろうか?安堵だろうか?

その意味を理解することは、ザックスにはできなかったけど。

答えなんか、もう聞いてはいられない。

この子を、守りたいのだ。守らせて、ほしいのだ。

 

「答えなんか、聞かないよ。決めたから。」

 

有無を言わさずそう言って、クラウドの小さな体を先ほどの軍コートでくるみ、抱き上げる。

「やだ…はなせ…!」

力なく、抵抗してくるけれど、それはあまりに非力だった。

こんなに、彼は軽かっただろうか?

抱き上げたその身体は、少し力をこめてしまえば、あっというまに壊れてしまいそうだった。

 

(そうだ、こんな風にしたのは…)

クラウドを抱きかかえながら、ゆっくりと振り向く。

「ひい!」

目が合ったその醜い男――ドン・コルネオは、いまだに下半身を丸出しにしたまま、

反対側の部屋の角で小さくなっていた。

もはや腰が抜けて、動けないのかもしれない。

ゆっくり、その男に近づく。

「くくくくるなぁ…ッ!わしに触るなぁ…!」

「…うるせえんだよ。」

先ほどのクラウドと同じセリフだというのに、言う人間によって、こんなにも不快感が生まれるなんて。

 

 

 

 

――そのとき、ザックスには。

この男を「殺す」以外の選択肢は、存在していなかった。

それが正義でないことぐらい、わかっている。

正式な裁判を受けて、法によって裁かれるべきだということは承知の上。

それでも、クラウドに触れたこの男を、これ以上生かしてなどおけない。

今、こうしてクラウドと同じ空気を吸っていること自体が許し難かった。

 

「なあ、コルネオさん?最期に言いたいことは?」

別に、この男の悔いだとか、懺悔だとかを、聞くつもりなどない。

ただ、クラウドに詫びる言葉があるのなら、一言でも謝罪させたかっただけだ。

クラウドに謝りたいという想いがあるのなら、楽に死なせてやってもいい。

 

「ひいいいいいい!助け!たしゅけてくれええ!」

期待した自分が愚かだったか――

結局、この浅ましい男は、己の生に縋ることしか考えていない。

「本物の、下衆野郎だな…てめえは…。」

ザックスの目が、殺意の色に染まる。深い、藍色へと変化する。

 

「―――死ね。」

魔力を一気に高め、マテリアを発動させおうとした、そのときだった。

 

 

 

「おにいちゃん!!」

 

 

 

その、いつか聞いた懐かしい言葉に、思わず詠唱をやめて、腕の中のクラウドを見る。

「おにいちゃん、もう、いいから…」

クラウドが、ザックスの服を掴む。

「おにいちゃん、悪いのは、そいつじゃ、ない…」

「なに、言ってんの?だってこいつがオマエのこと、」

この男が、クラウドに乱暴した。

クラウドの額から血が流れているのだって、この男がやったに違いない。

そして、何も知らなかったクラウドを辱め――

 

「悪いのは、俺…だから。」

 

ザックスにはその言葉の意味がわからず、クラウドの瞳を覗きこむ。

それは、あまりに透き通っていて、少しの曇りもない――アイスブルーの色。

あのときと、少しも変わらない。1年前と、同じ色だった。

「俺が、悪いんだ。」

「何言ってんの?こいつが、オマエを泣かしたんだろ?」

見ていたわけじゃないけど。きっと、何度も何度も、泣いたに違いない。

泣いて、助けを呼んだに違いないのだ。

――どれだけ、苦しかったことか。恐かったことか。

 

 

 

「俺が、おにいちゃんのこと、好きだったから…」

 

 

 

「え…?」

クラウドの声は、だんだん小さくなって、しまいにはすすり泣く。

「おにいちゃんを好きになったから。お義母さんも、お兄ちゃんも、俺を嫌いになったんだろ。」

「……クラウド?」

「そいつにやられながら、お兄ちゃんだったら、って思ってた…。だから、」

最後の方はもう、泣き声に近かった。

 

 

 

「汚い、のは…俺だよ。」

 

 

 

この子は、本当に汚れを知らない。

少しの汚れもしなかったクラウド――それは、性への本能だけではない。

人の悪意だとか、憎悪だとか。そういう負の感情を、知らなかったから。

だからこそ、汚れていく自分が許せなくて、泣くのだ。

 

 

なんて、綺麗な生き物なんだろう。

 

 

「汚くなんか、ない。オマエは、綺麗なままだよ。…だから、」

綺麗な心、綺麗な涙。それを汚すのは、どうあっても躊躇われた。

 

 

 

 

「だから――オマエを、血で汚すわけにはいかねえな。」

 

 

 

 

コルネオに背をむけて、クラウドを抱いたまま、蹴破った扉から部屋を出る。

部屋の前ですれ違ったのは、タークスの友人だった。

「気はすんだか?」

「……レノ。いろいろ、助かったよ。さんきゅな。」

レノは、軍に入隊してから一番親しくしている友人で、そのタークスの情報網でクラウドの捜索を

手伝ってくれた。故郷に幼い弟がいるらしく、思うところがあったのかもしれない。

飄々としているが、悪いやつではない。

 

「ふーん。その子が、オマエの可愛い子?」

「そういうこと――やっと、見つけた。」

「弟だと思ってたぞ。妹だったのかよっと。」

レノに勘違いをされたようだけど、腕の中のクラウドは、羞恥心のためか顔をあげない。

ザックスの肩に、顔をおしつけたままだ。

 

 

 

「妹でも、弟でもない。…俺の、世界で一番大切な子。」

 

 

 

そう言って、レノに目配せをする。

「あの男――ちゃんと、罰を受けるか。」

「逮捕状はとってあるぞと!後はタークスにまかせとけ。お前はその子を、慰めてやるんだな。」

そう言って、どこから現れたのかスキンヘッドの相棒――

ルードとともに、コルネオの部屋の中へと入っていく。

 

「待って…あの…」

意外にも、ザックスの腕の中にいるクラウドが、レノを引き止めた。

そのクラウドの顔を、初めて至近距離で見たレノは、赤面した。

きっと、クラウドの愛くるしさに見とれたのだろう。

 

「ザックス、おまえ達、本当に血が繋がってんのかよ…」

「どういう意味だよ!言っておくけど、クラウドはやんねーぞ!」

思わずクラウドを抱えなおして、ザックスはレノに牽制する。

クラウドは二人のやり取りの意味がわかっていないのだろう、少し首をかしげながら、

けれどレノの顔を今度こそまっすぐ見つめて。

「地下に、たくさんの子が…監禁されてる。すぐに、助けてあげて…ください。」

 

 

 

その夜、コルネオの館は摘発され――

ドンのほか、部下総勢100人あまりの人間が逮捕されるに至った。

 

 

 

 

 


 

監禁されていた数十人の子どもたち――彼らはいったん神羅の医療施設に保護された。

脱水症状や栄養失調だけでなく、何か病気に感染していないか検査を受ける必要があった。

それはクラウドも例外ではなく、2週間の検査入院を、余儀なくされた。

4人部屋の白い病室――その窓際のベッドで、クラウドはほとんど一日中、窓の外を見ていた。

 

ザックスは、毎日見舞にいく。ほぼ終日、クラウドの傍から離れなかった。

それでも、ほとんど二人の間に会話はなかった。

1年』

それは言葉にしてしまえばたった二文字だけれど、あまりに長い。

二人が離れていた時間は、あまりに長かった。まるで永遠のように。

 

「寒くない?」

雪が降りだしたのを確認して、そうクラウドに問う。

そうは言っても、二人が過ごした田舎街に比べれば、ミッドガルの気温は温かい。

「………。」

クラウドは、うん、と答えたのかもしれないけれど、

その声はあまりに小さくて、ザックスには聞き取れなかった。

 

会話が、見つからない。

「大丈夫か」と聞くのは、ひどく無神経な気がしたし、

「大丈夫だよ」と言うのも、ひどく無責任な気がした。

…そう思われてしまいそうで躊躇われた、というほうが正しい。

クラウドの心に触れるのが、ひどく恐かった。

  

 

 

 

「――――――♪」

 

小さな声で、クラウドが口ずさむのが、耳に入る。

目の奥が、一気に熱くなる感覚がした。

それは、クリスマスソングだった。一緒に歌ったことだってある、故郷の歌だ。

去年のクリスマス――クラウドが家を出される直前に、樅の木に飾り付けをしながら、

二人で歌ったのだ。彼は、覚えているだろうか?

 

クラウドの声に合わせて、ザックスも歌う。

クラウドの天使のような歌声が、自分の声によって消されないように、あくまで控えめに。

「…へたくそ。」

案の定、そう言ってくるクラウドに、ザックスは笑う。

憎まれ口であっても、クラウドの言葉が嬉しい。

1年前も、そう言われたっけ。」

「…覚えてない。」

「俺は、覚えてる。」

また黙って、窓の外に目をやるクラウドに、寂しさを覚える。

 

1年前は――クラウドに好かれている自信が、強くあった。

おにいちゃん、おにいちゃん、と、何度もザックスを呼び、不器用ながらも甘えてきたものだ。

「なあ、クリスマスプレゼント、何がほしい?」

柄にもなく、少し声が震えてしまった。

「……」

クラウドは、言葉を返してくれない。

 

病院を出たら。二人は、どうなるのだろう。

自分の元へ、帰ってきてくれるのだろうか。

はっきりとそう問うのが恐くて、どうしても遠まわしな言い方になってしまう。

「クリスマスにはさ、退院させてもらえるって。」

だから戻ってきてくれと、そう言えない自分がひどくもどかしい。

 

「本当に、覚えてるなら。……欲しいもの、知ってるはずだよ。」

窓の外を見たまま、そうクラウドは小さな声で言った。

小さな手で、ベッドのシーツを握りしめている。

震える小さな指に気づいて、自分の情けなさに、心底幻滅した。

 

恐いのは、クラウドの方なのだ。

…全てがもう、取り戻せないのではないかと、怯えているのは。

それなのに、兄である自分が臆病になって、どうするのだろう。

(俺らしくも、ない。)

クラウドを不安にさせるなんて、自分らしくない。

ザックスはクラウドのベッドに座りなおして、その手を優しく握る。

 

 

 

 

「お菓子の家で、暮らしたい。」

 

 

 

 

ザックスの言葉に、クラウドははっとして振り向く。

1年前に、クラウドが口にしたこと…忘れたことなど一度もなかった。

何年経とうとも、何百年経とうとも、それを自分も願い続けている。

 

「一緒に、暮らそう。兄ちゃんと、二人きりで。」

 

1年――

失くしたものを全て取り戻すことができなくても、唯一、取り戻したいものがある。

家じゃない、母親じゃない、モラルでもない。

 

 

 

「大丈夫、きっと楽しいよ。」

 

 

 

取り戻したいものは、ひとつだけ――たった一人、だけ。

「……でも…」

躊躇するクラウドの言葉を、それ以上言わせるものかと。

強引に、唇を奪った。

初めて触れた弟の唇は、甘く切なく、何かに似た味がした。

砂糖菓子だろうか?それとも――

 

 

 

しあわせのあじ、だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

――なあ、クラウド。

お菓子の家で、暮らそうか。

 

キャンディみたいな愛を囁いて、

チョコレートみたいなキスを交わして、

 

「そして二人はいつまでも幸せに…」

そんな優しいお伽話を、キミに贈りたい。

 

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2010621

説明くさくて本当すみません!

きっとエロロに続くはず。(やっぱりか)

 

 

 

 

 


 

 

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