C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

 

*ご注意

1. 「お菓子の家で暮らそうか。」 その後のお話。相変わらずシリアスです。

2. BLはもちろん、近親相姦等、非道徳な要素が多いのでご注意ください。

3. 途中で、かなり露骨な性描写が入ります。(というか、EROいだけの話です…)

 

 

お菓子の家で暮らそうか。

<in the CANDY HOUSE-T>       

 

 

ずっと子供でいたくても、それが無理だということはわかっている。

ずっと兄と一緒にいたくても、それが叶わないことは知っている。

 

どうしたって、取り戻せない日々はあって、

どうしたって、手に入らない人はいる。

 

 

お菓子の家で、暮らしたい

 

 

そう拙い夢を見たのは、いつのことだっただろう。

それは、遠い昔の過去のようだ。

もう、とり戻せないほどの、遠い思い出――――…

 

 

 

 

 


 

一年ぶりに再会した兄――ザックスは、変わらず優しい。

「クラ、馬車に酔った?平気か?」

クラ≠ニ呼ぶその呼び方に、懐かしさを覚える。

それはとても優しくて、労わるような響きを持つ。

「寒くない?ほら、もっとこっちおいで。」

自分のコートをクラウドにかけて、その細い肩を優しくさするザックス。

 

その馬車は、郊外の小さな森へと走る。

ガラガラガラガラ…

あまり舗装されていない砂利道を走る車輪は、遠慮がちでない音をたてて、

中に乗る二人を何度も揺らした。

車体が激しく揺れるたびに、ザックスはクラウドを支えるように抱き寄せた。

その腕に逆らうことはできず、だからといって甘えることもできずに、クラウドはただ俯くしかない。

 

 

――長い長い、砂利道。この道の先に、待っているもの。

 

 

「もうすぐだよ、俺たちの家。小さな家だけど、二人で住むには十分だと思うんだ。」

「……ふたり、で?」

「二人で。二人だけで、暮らすんだ。」

繰り返すその言葉に、何か強い意志を感じる。

「クラウドが、気にいってくれたら嬉しい。」

 

たとえば、もしも…これがお伽話だったなら。

この馬車の走る先には、きっと、色とりどりのお菓子で出来た家が建っているのだろう。

板チョコレートのドア。ビスケットの屋根。マシュマロでできた、ふかふかのソファ。

庭にはジェリービーンズの花が咲いていて、オレンジジュースの泉が湧いている。

(だけど、俺はもう、子供じゃない。)

そんないつか読んだ夢物語を、信じていられる子供ではない。

 

ずっと一緒に、なんて。期待する子供ではないのだ。

 

 

 

 


 

「ついたよ。おいで、」

「自分で歩けるから、触るな。」

クラウドの体を抱きかかえようとする、そのザックスの腕を拒絶する。

さすがに、今の言い方は…まずかったかもしれない。

そんな手放しで甘やかされるのが、気恥ずかしかっただけなのに。

 

ザックスは、一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに何でもないかのように、ニカリと笑った。

「でも、ブーツはいてないだろ?雪の中に埋まっちゃうからさ。」

馬車の扉の隙間から、冷えた空気が入り込んできた。

ミッドガルから北に向かって走っていただろうその間に、気付けば辺りは銀世界だった。

儀者に運賃を払ったザックスが、なかば強引にクラウドを自分のコートで包み、抱えて歩き出した。

 

「…寒い。」

抱えられることに羞恥を感じて、そう悪態をつく。

雪が降っているのは当然ザックスのせいではないし、そもそも自分のコートをクラウドに

着せてしまっている彼の方が、数倍寒いはずだ。

「じゃあ、もっとくっついてて。」

ぎゅってしてれば、あったかいだろ?と。少しも嫌な顔をせず、笑いかけてくる。

サク、サク…と、ザックスが雪を踏む音を聞きながら――

言われた通り、少し力を入れてしがみついた。

…あくまで、寒いからだ。

 

そのとき、違和感を覚えた。気のせいだろうか?

「……なんか、アンタ、熱い。気がする。」

ザックスの体温が、少し高い気がする。それはクラウドにとって心地よいものだったけれど、

常でないその体温に、具合でも悪いのかと危惧した。

「ああ、ソルジャーだから。」

「え?」

「ソルジャーってさ、肉体改造っていうの?ちょっとした手術してるから、気温の変化に強いんだよ。」

何でもないことのように、ザックスは言うけれど。

クラウドにとって、その事実は衝撃的で、言葉を失った。

 

馬車の中で、抱き寄せられて気付いたけれど。

ザックスの首筋や、腕――見えるところだけでも、多くの傷跡があった。

 

体中の傷跡。肉体改造。ソルジャーという、戦士になったこの一年のこと――

クラウドは、何も知らない。何も聞いていない。

入院していた二週間ばかりの間。

ザックスはそれこそ毎日病室を訪れて、クラウドの世話を焼いてくれた。

言葉で、視線で、行動で。全身で労わってくれているのが、クラウドにだって分かっていた。

だけど、どうしてもザックスと目を合わせることが出来なかった。

 

 

――汚れた自分が、恥ずかしくて。

 

 

自分が惨めだと思って、自分が被害者だと思って。

ザックスのことを、考えていなかった。

彼が、この一年をどう過ごしてきたのか。どんな気持ちで、過ごしてきたのか。

どうして、ソルジャーになったのかなんて――そんなの、ひとつしかない。

 

彼は、全てを捨てたのだ。

 

クラウドを探し出すために、救い出すために。

家も、母も、将来も捨て。ミッドガルまで出てきて、軍に入隊した。

その事実に今更思いあたり、クラウドが泣きそう顔で見上げると、彼は弱々しく笑う。

 

 

「ソルジャーになって、さ。物も壊した。人も、殺した。……お前のこと、泣かした。」

 

 

自分以上に泣きそうなザックスの顔―――

彼が経験してきたこと、背負ってきた想いを想像して、思わず、クラウドは目を逸らしてしまった。

逸らした後で、激しく後悔した。

 

 

「…嫌になった?」

 

 

(そんなわけ、ない。)

そう、答えは出ている。ザックスがこの一年、のらりくらりと暮らしていたわけがない。

自分と同じように、孤独に怯えて、罪悪感に追つめられて――苦しんできたはずだ。

わかっているのに、言葉が見つからない。

どう返したらいいのかわからず、ただオロオロしていると、

ザックスが「ごめん」と言って、切り替えるようにことさら明るい声を出した。

 

 

 

「ただいま!」

 

気づけば、二人は小さな家の前に立っていた。

ザックスは片手で器用に鍵を開け、玄関先のランプに灯をともす。

 

「どう?お菓子の家、ってわけにはいかないけどさ…なかなかいいだろ?」

それは、木の香りがする小さな家だった。

リビングの隣にダイニング。奥には寝室。全てが見渡せるほどに、狭い。

狭いけれど、木の温もりが感じられる、優しい空間だった。

 

ザックスはクラウドを抱えたまま、リビングの暖炉の前まで歩いてくると、

小さな二人がけのソファに、そっと下ろした。

「すぐ、あったかくなるから。」

クラウドの髪を一度かき混ぜるように撫で、暖炉に火をつける。

冷えた体が、急速に温まっていく。

もう一度、髪を撫でてくれないだろうか、と。

どうしてかそんな子供みたいなことを考えて、ザックスを見上げた。

「今、何か美味いもん作るよ。待ってて。」

クラウドの視線に気づかず、ザックスはダイニングへと姿を消してしまう。

ただそれだけのことなのに、寂しさを覚えて。

 

 

 

「て、手伝う…」

ザックスの後を追いかけて、クラウドもダイニングに入っていく。

何となく、視界からザックスがいなくなるのに不安を覚えた。

そもそも、ただ暖炉の前に腰かけているだけでは、あまりに手持ちぶたさだ。

 

…いったい、いつ準備をしていたのだろう。

すでにたくさんの料理が、ダイニングテーブルの上に並べられていた。

その色とりどりの料理に、クラウドは目を丸くする。

 

「クリスマスイブだろ?それに、クラウドの退院祝い。今夜はご馳走な!」

オレンジ色のチキンや黄金色のポテト。カニやエビがたくさん乗ったピザ。フルーツの盛り合わせ。

それに、ザックスが火にかけている小鍋の中身は、何だろう。

ミルクのいい匂いがする。

好奇心で思わず覗き込むと、ザックスがくすりと笑う。

意地汚いことをしてしまっただろうかと、クラウドが顔を赤らめると。

 

「じゃあ、クラウドが味見して。」

 

小さなスプーンを唇の前に差し出され、無意識に口を開けてしまう。

瞬間、ミルクの匂いが広がって。

ミルク味のシチューは、クラウドの好物だった。

「こうしてっとさ、お前って」

「…なんだよ。」

何がそんなに嬉しいのか、ザックスはニコニコと破顔している。

「チョコボの雛みたいで、可愛いよな。」

「は?!」

「俺の後、追いかけてきてくれてさ。餌あげるとアーン、って口あけてくれてさ。」

 

言われてみれば、そうかもしれない。

これではまるで、親鳥の後を追いかける雛鳥だ。

恥ずかしくて、情けなくて…ダイニングから逃げ出そうとすると、腕を捕まれた。

 

「こら、俺の視界から消えるなよ。」

「消えたのは、アンタの方だろ。」

 

しまった、と思った。

それは別に、深い意味があっての発言ではなかった。

ダイニングで料理を作っていることに対して、言っただけ。だけど。

「…そうだな。」

悲しそうな表情をするザックスは、おそらく違う意味を感じたのだろう。

 

 

「ごめん。」

 

 

一年、独りにしたことへの謝罪。

だけど、それはザックスのせいではない。

ザックスが自分を見捨てていたわけでないことぐらい、クラウドはもう十分すぎるほど知っていたし、

むしろクラウドの方が、彼に謝罪をしなければならなかった。

…彼に、いろんなものを捨てさせてしまったこと。

自分などを選ばせてしまったこと。

 

 

「ごめん、なさい。」

 

 

それをどう説明したらいいかわからず、ただ一言そう謝った。

するとザックスは、わからないといった風で、クラウドの顔を覗き込んでくる。

「…なんで、クラウドが謝る?」

「だって………」

 

彼の人生を、台無しにした。彼の帰る家を無くさせた。

彼の体も心も、たくさん傷つけてしまった。

そして何より、実の弟でありながら―――

 

「俺が、おにいちゃんのこと、」

「俺の方が、好きだよ。」

 

クラウドの謝罪の言葉を遮るように、ザックスが言う。

「大嘘つきの、なんちゃって兄貴は、俺の方。

本当はずっと前から、お前のこと、弟として見てなかった。」

「………。」

それは、お互いさまだ。

いつからかザックスが、兄弟としてではなくもっと違う何かだったなら――

血縁ではなく、もっと違う何かで繋がっていられたら、と。いつも思っていたから。

 

 

 

「ずっと、俺のものにしたかった。」

 

 

 

見つめてくるザックスの視線、それがあまりに熱がこもっていて。

いつもの軽口ではないのだと、そう感じた瞬間――急に恐くなって、ザックスの腕を振り払ってしまった。

「…悪い、俺、なに焦ってんだろうな。」

ザックスはそう笑って誤魔化すけれど、その瞳はやっぱり寂し気で、

彼をひどく傷つけてしまったのだとわかった。

 

そうではない。拒絶をしたわけではない。

そうではなくって、ただ怖かった。

 

それはあまりに大それたことかもしれないけれど――もしも。あくまで、もしもの話だ。

 

もしも二人の間で、一線を超えてしまったとき…例えば、ザックスに自分の体をさらけ出したとき。

ザックスに、失望されること。汚いものを見るような視線で、見下ろされること。

それらを一瞬想像してしまって、体の芯から震えあがるような、言いようのない恐怖を感じた。

 

「お前が嫌がることなんか、絶対にしないよ。だから…」

そんなに怯えてくれるな、と。そう笑うザックスが、悲しい。

 

 

 

愛する人に差し出す体がないことが、悲しい―――

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2010.10.15

眠い話ですみません。兄ちゃんゴンガレ!

 

 

 

 


 

 

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