C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

【ご注意】

@      ザックラ同室設定、相性最悪のルームメイトです。

ザックスがクラウドにメロメロ〜!な、いつものノリはありません。

A      とか言って、どーせそのうちデレッデレになるんですよね。ざっくん…

B      露骨な性的描写あり(予定)。18歳以上の方の閲覧推奨です。

 

 

 

LIAR5

オマエのことなんて

嫌いじゃない。

 

 

 

トントントントントントントントン…

必殺、微塵切り!!

 

ジュージュー…ジャッ

リミットブレイク、フライパン返し!!

 

倒しても倒しても湧いてくる敵(あく)を撃退し、別部隊の仲間(ホワイトルー)と合流すれば、

キッチンに広がるミルクの匂い…

 

 

 

 

「クリームシチュー、完成!!」

勝利のファンファーレを口ずさみながら(いやつい熱唱していたかも?)、小さなスプーンで一口、味見。

うん、ブイヨンとハーブの香りが、なかなかいいかんじだ。

ちらりと俺の隣に視線をやると、自分に与えられた仕事に奮闘するクラウドの姿があった。

 

恐ろしく細い腰(目分量で50センチぐらい?)に巻かれた黒いエプロンが、結構似合っている。

お洒落なイタリアンレストランの店員さん、そんな雰囲気。

一方―――俺はというと……なぜか『ふりふりの花柄エプロン』を身に着けている。

本当なら、クラウドがこのふりふりエプロンを使うべきだと思うんだけど(サイズ的に女物だからね)、

この子ったら「男らしくないから嫌だ。」と我儘を言うもんだから。

しょうがなく、俺の黒いエプロンを貸してやったってわけ。

 

この新妻のためにあるかのような『ふりふりエプロン』は、誰のものかって?もちろん俺のじゃないぞ。

少し前に女の子が部屋に泊まりにきたときに、忘れていったやつだ。

それがジェニファーちゃんだったか、アリッサちゃんだったか、ドーラちゃんだったか、イサベルちゃんだったか…

誰のものだったか、そのへんは覚えていないんだけど。

たぶん彼女たちとは二度と会うことはないから、これを返す機会もないんだろう。

 

…それはともかく。

身長186センチのソルジャーたる屈強な兵士が、ふりふりエプロンを身に着けて鼻歌まじりにクッキング。

――わかってるよ!軽くホラーだっていうんだろ。

俺だって、好きで着けてるわけじゃない。

もし隣にいるクラウドが、このふりふりエプロン姿で料理してくれたら…

なんて想像をして、つい鼻の下を伸ばしかけたところで、唸るような声が上がった。

 

「…くそ、こいつ、じっとしてろ…!」

 

まるで、戦場で敵を追い詰めんとしているかのように。彼の声には、殺気にも似た緊張感がある。

…まな板の上のトマトはあくまで『じっとしてる』と思うんだけど、ね。

クラウドが慣れない手つきで包丁の刃を当てると、ツルツルと滑ってしまってうまく切れないらしい。

刃を入れられないのがもどかしいらしく、イライラと一人ごちるクラウドが。

なんていうか…少し、可笑しい。こういう顔もするんだな。

いつだってツンとすましたこのシャム猫の、こういう意外な一面を知っているのは、

きっと、隣で鍋をかき混ぜている俺だけじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

クラウドは、器用なやつだ。

 

……と、たぶんみんな思っている。同僚や教官も含めて。

同期の中でマテリアや銃火器の扱いは跳びぬけて成績がいいし、筆記においてはほぼ全て首位。

実技で唯一、体術の成績が伸び悩んでいるらしいけど、それでも上から数えた方が早い。

むしろこの細い腕と小さな尻で(あ、尻関係ないか)よく自分の倍はあろうかといういかつい野郎ども相手に

組手が出来るものだと感心してしまう。

 

トン、…トン、…ガチン、

 

クラウドは、器用なやつだ。

……というのは、周りの思い込みだ。と俺は思う。

通常兵士に与えられる毎日のトレーニングメニューのほか、早朝訓練を自主的にこなし、

深夜遅くまでいつだって講義の予習・復習をしている。

空き時間があれば、彼は決まって射撃場かトレーニングジムにいて、

同期が食堂やテラスでふざけ合っていてもその輪に入ることはない。

 

まだ少年といっていい年齢である彼らの中で、そんなクラウドは浮いて見えるのだろう。

一般兵の中でクラウドのことを、「お高くとまってる」とか「天狗になってる」とか「周りを見下してる」等々…

あまりよくない言い方をする奴がいるのを、俺も知っている。

だけどそれは大きな誤解だ。

本当は、人一倍負けず嫌いなだけ。人一倍、自分に厳しいだけ。

不器用な自分が許せなくて、人一倍…いや五倍でも十倍でも努力しているだけだ。

 

 

 

 

「…いたっ!」

ああ、ちょっと目を離すとこれだ。

本当は、手先も心も不器用なクラウド――当然、料理も苦手らしい。

「ほら、見せろよ。」

細くて綺麗な指――軍人とは思えない。むしろピアニストかと思わせるような、そのすらりとした指から

赤い血がぽたりと落ちていく…

「ちょ…?!」

それを見た瞬間、考えるより先に、その指に食らいついていた。

「……消毒。」

本当はただ、零れ落ちるのがもったいなあ、なんて。思っただけなんだけど。

 

「な、なななな…っ」

普段涼しい顔をしているクラウドが、よほど驚いたのか、口をぱくぱくさせている。

なんかそうしていると、チョコボの雛みたいだ。

「な、なんで舐めてんだよ!俺の血じゃん!き、汚いだろ!」

「はあ?汚いわけねえだろ。」

 

だって、クラウドの血だし。とは言わないけど。

それに『汚い』なんてさ。もっと別のものを舐めたときに、そういう発言はするんじゃないの。

たとえばほら、クラウドの…

っておいおい、何考えてんだ俺!

 

「オマエってさ、ほんと、不器用だよな。」

サラダのトマトを切ってくれと頼んだだけなのに、まな板の上はトマトの果肉がミンチになっている有様。

サラダ作りは俺が引き継ぐことにして、選手交代。

クラウドには鍋の中が焦げないように、かき混ぜててもらおう。…この仕事ならこの子にも出来るはず。

「しょうがないだろ、」

悔しいのか恥ずかしいのか、形のいい耳までも赤く染めている。

 

 

 

「だって…初めて、だもん…」

 

 

 

――――そのクラウドの一言に、よからぬ想像をしてしまったのは俺の罪じゃない。

男たるもの、これは本能というものだ。

 

 

 

 

 


 

…別に、これはクラウドへのお詫びってわけじゃないけど。

ただ、俺が食べたくなったから、今日のメニューはクリームシチューにしただけだ。

季節はまだ春先。夜になれば結構冷える。

ついでに言うと、まあ、クラウドの好物みたいだし?

こいつの喜ぶ顔が見れるかもしれないし?

 

……。

 

いいよ、認めるよ!

そうだよ、ただ単純に、こいつに笑ってほしかっただけ。

あんな風に泣かせるのは――もう、嫌だから。

 

 

 

 

「いただきます。」

食事の前には、やっぱり短く『お祈り』をするクラウド。

俺も軽く手を合わせて、その祈りが終わるのを待つ。

俺には祈る神もいないし、祈る言葉も知らないけれど。

彼の信じるものを、彼の祈りを、大事にしたい――なんとなく、そう思った。

 

「……」

「……」

もくもくとスプーンを口に運ぶクラウド。

俺は皿の中のじゃがいもを転がしては、うまく掬えないでいる。

だってクラウドの反応が気になってしまって、

 

美味しい?美味しくない?塩いれすぎた?嫌いなもん入ってた?

オマエの母ちゃんの作ったシチューは、もっと違う味がするのか?なあ、何か言って!

…なんて、心の中で女々しい問いばかりが浮かぶ。

気分はまるで、旦那様に料理を出した新妻じゃないの。

 

 

 

「……好きなんだ。」

 

 

 

「えっ」

「クリームシチュー。苦い野菜とか嫌いだけど、シチューに入ってれば食べられる。」

「ああ、それわかる。俺もガキの頃は人参が食えなかったけど、カレーに入ってるのは食えたな。」

「…ザックスも嫌いなものあるの?」

「今はあんまないけど。遠征続きだとさ、ろくなもん食えないから。たいていのものは食えるようになるぜ。」

サバイバル環境においては、野ウサギや木の実はもちろん、必要によっては蛇や蛙も食べたりする。

そう言って脅かすと、クラウドは顔を蒼くした。

「か、カエル……?!」

そうか、こいつは蛙が苦手なのか。少しずつこいつのことを知っていくのが、なんだか楽しい。

「ぶ!冗談だって。普通は缶詰とか携帯食のバーとか、そんなのが支給されっから。」

「なんだよ、吃驚しただろ!」

拗ねるクラウドも悪くない。今まですました顔ばっかり見ていたから、泣きだしたり、怒ったり、呆れたり、

それに…

 

笑った顔を見てみたい。もっと、もっと、

 

「クラウドの嫌いなものはさ。苦い野菜と、カエルだろ。好きなものは、クリームシチューと、あと何?」

なんでこの子のことを、こんなに知りたいんだろう。

この子の好きなもの、愛でるもの―――それらを両手いっぱい抱えて差し出せば、

今よりもっと笑ってくれるのだろうか。

 

「…甘い物、は…嫌いじゃない。」

クラウドの嫌いじゃない、は「好き」ってことだ。

それはこの子と過ごすこの時間でわかってきたこと。

クラウドの『嫌いじゃない』って言葉。俺も嫌いじゃない。

たとえば、俺のことも…嫌いじゃないって、一言そう言ってもらえたら、なんて。

 

 

 

「じゃあ、俺のことは?」

 

 

 

まるで滑り落ちるように、口から出た言葉。クラウドに聞いた後で、激しく後悔した。

「な、んて。」

誤魔化してみても、無理がある。冗談にしてみても、虚しさが襲う。

望むべき答えが返ってこないことなんて、わかっているはずだ。

 

「嫌いじゃない。」

 

ほらな。案の定、俺のこと嫌いじゃないって…

「え?!」

 

「……嫌いじゃないよ。」

繰り返すクラウドの言葉には、どこか力強ささえあって。

いつも目を反らしてばかりのクラウドが、俺から目を反らさずに。いや、まるで刺し貫くかのように。

真っ直ぐに、どこまでも真っ直ぐにそう告げた。

 

刺し貫かれたのは、俺の中心だろうか。

それともそれは中心を左に少しそれて、俺の心臓≠ノ命中してしまったのだろうか。

胸が――痛い。

もう、我慢なんて出来なかった。

この体の奥深くから、そしてつま先から指の先まで流れる血のように、体を支配する気持ち。

これをいったい、何て表現したらいいのかわからない。

この気持ちを何て呼ぶのか、俺は知らないけれど…ひとつ、ただわかるのは。

 

 

 

 

「俺も、オマエのこと、嫌いじゃない。嫌いじゃないよ。」

 

 

 

 

まるで、オウム返しじゃないか。

同じ言葉しか紡げないでいる自分は、彼の目にどれだけ滑稽に映るのだろう。

それでも、すがるように繰り返す。この言葉で、俺はこの子に何を知ってほしいのか。

 

何かが、聞こえる。誰かが、叫んでいる。――俺が、叫んでいる。

 

それは、胸の内から聞こえてくる叫び。

聞こえそうで、聞き取れない。ああ、なんて言っているのだろう。

いつもはそれを聞こえないふりをして、気付かないふりをしてきたけれど。

今、それを聞き逃してしまっては、いけない気がした。

だから、一度だけ――目を伏せてその声に耳をすます。

 

それは渚のように穏やかで、突風のように激しく。

全てを傷つけてしまえるぐらいに鋭くて、でも、ただひとつのものだけを包むように柔らかい。

 

 

 

『         』

 

 

 

「…ザックス?」

内なる声が、聞こえてきた。想いの正体に、気付いてしまった。

目頭が熱くなって、呼吸もうまく出来やしない。

たぶん、彼に伝えたいその一言を、寸でのところで飲み込んだから。

「ご馳走様!」

ことさら明るい声でそう言って、にかりと笑う。

「さてと、洗い物片付けちまうか。」

「あ、手伝う……」

 

手錠で繋がれたクラウドの右手を、そっと握った。

そのまま手をひいてキッチンへと向かう。まるで、エスコートするように優しく。

手錠で繋がれているから、ちっとも色気のあるシチュエーションではないけれど。

 

「あんま、くっつくなよ。バカザックス。」

「…嫌だね。離すもんか。」

 

だって、爆発しちゃうでしょ?

だから離したくない、ただそれだけ。それだけってことに、今はしておく。

皿を洗いながら、隣で皿を拭くクラウドに、そっと寄り添った。

クラウドが、少しだけ震えている。

 

それが可哀想で、でも愛おしくて、ひとつ、クラウドの額にキスを落とした。

 

 

 

 

 

 

とりたてて言うことでもないんだけど、

まあ、別に嫌いってわけじゃない。

 

今すぐに世界中を駆け回って

お前の愛するものをかき集めたいと思うほどには

おまえのこと、嫌いじゃないよ。

 

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2012423

恋に気付くザックス…なかんじで。

 

 

 

 


 

 

 

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