C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

【 ご 注 意 】

*「美 女 と 野 獣」 パロディです。とかいって、原作童話は関係なし(言い切った)

*のんびり、亀更新。

*シリアスに見せかけて、ただのシリアルではなかろうか。なんだこれ。

 

 

火で炙っても、鉄で刺しても、水に落としても。

魔物は涙ひとつ流しません。

 

だから人々は、魔物の抱えていた

大事なもの≠傷つけました。

それはとても脆く、粉々に砕けます。

 

…いとも、容易く。

 

Story11

そうして悪魔は生まれる。

 

 

「ぎゃあ!つっめてえっ!」

「よっしゃあ、10点!俺たちの勝ちだな。」

「きったねーぞザックス!お前だけ見えてんだから、ハンデありすぎだぞと!だいたい、なんでお前らが

 組んでんだ。俺とクラウドがチームでいいだろ!」

「だーめ。クラウドは俺のだ。いくらオマエでもやらねーよ!」

 

茨で囲まれた高い塀の中――――

人間はもとより、動物やモンスターでさえ近づくことを許さない不気味な古城。

夜になれば闇と静寂をまとって、よりいっそう恐ろしい。……はずであるが。

 

 

その夜は、いったいどうしてか、若者たちの笑い声が絶えなかった。なぜなら。

 

 

「わっ!…びっくりした。」

「てめえ!クラウドに当てやがったなっ!ぶっ殺す!」

「はあ?当ったり前だぞと!雪合戦なんだからな。」

 

粉雪が舞う、夜の中庭。

男達が夢中になっているのは――そう、雪遊び≠セ。

 

 

 

 

 


 

 

一晩たてばザックスの風邪も完全に治り(体力の差なのか、クラウドよりもだいぶ早く回復した)、

クラウドの怪我も後遺症などはない。

ダイニングで朝食をとっている時に、改めてレノはクラウドに自己紹介をした。

 

「出会いがしらに、酷い挨拶をしちまったけど――俺はレノだ。よろしくな、クラウド。

ザックスとは古い付き合いで、まあこうやって物資を届けるがてら、様子を見にきてやってるんだぞと。」

 

確かに、広いキッチンに隣接する巨大なセラーに保存している食糧や洋酒。

水やアルコールはザックスの魔法や錬金術で精製することも出来そうだが、それ以外は疑問だった。

新鮮な魚や肉は、どう考えてもザックス一人で狩猟しているとは思えない。

そもそも、彼が城の庭より向こう側へ出ているところなど、一度も見たことがないし。

 

「…つまり、レノさんは。ザックスの友達?」

「うーん、そんな爽やかな単語、縁がないぞと。お前、本当に擦れてないんだなぁ。」

クラウドのすぐ隣に腰かけているレノの表情、話し方、笑い声。

それは剽軽でお調子者のそれなのに、どこか奥があって、謎めいている。

冷めているわけでも、嘘をついているわけでもなく―――大人の男、なのだ。おそらくは。

 

「煙草吸っていいか?」と問われ、クラウドが頷くと。

レノはポケットからライターを取り出し、慣れた手つきで煙草に火をつけた。

クラウドに当たらないよう、反対側の左を向いて大きく煙を吐く。

いつも通りクラウドから五席ほど離れた位置に座ったザックスが、口を挟む。

 

「レノ、ここは禁煙だ。それ1本は許すけど、あとはベランダで吸ってこい。」

「禁煙?!いつからだぞと。お前だって、ばかばか吸ってただろ。」

「クラウドの前では吸ってねーよ。」

言葉どおりザックスが煙草を吸うだなんて、クラウドは知らない。

「…はあ。お前、すっかり骨抜きだな。」

「うるせーよ。」

 

レノはくくっと笑いを噛みしめた後、まだだいぶ長い煙草を携帯用の小さな灰皿に捨てる。

「まあ、気持ちはわかるけどな。」と言いながら、クラウドの髪を混ぜるように撫でた。

 

 

 

 

「友達、っていうか。いわゆる腐れ縁だな。」

レノは話を戻す。レノの言葉通り、二人が古い付き合いであることはクラウドにも見て取れた。

ザックスはクラウドと二人きりでいる時よりも、少し粗暴…というより、「子供っぽい」気がする。

それは二人が旧知の仲で、遠慮のいらない関係だからなのだろう。

それに、あのとき暗闇の中で――レノはクラウドのことを、おそらく本気で殺そうとした。

つまり彼はザックスのために、その手を汚そうとしたのだ。

 

人の命を奪うということは、容易いことではない。

それは、自分自身からも何かを奪うということ。失うということ。

人を殺めた経験のないクラウドには、はっきりとはわからないけれど…

良心だとか正義だとか、誇りや信念だとか――何かとても大きなものを捨てなければいけないのだ。

 

「会社に入ったのも同じ時期でさ、まあ部署は違うから仕事はあんま関わってなかったけど、

合コンとかしょっちゅう一緒に行ってたし――」

「レノ!」

「…会社?ごうこん?」

「ああ、『神羅カンパニー』だぞと。」

 

「レノ!やめろ!」

 

ザックスが常にない大声で、レノの言葉を遮る。

その声に驚いて、クラウドは思わず手元のカップを倒してしまった。

「悪い、クラウド…!オマエに言ったんじゃなくて、」

「ごめんなさい…。せっかくココア入れてくれたのに。こぼしちゃ…」

興味本位で、レノからザックスの過去を聞こうとしたこと。それがひどく恥ずかしくて、涙が滲む。

「クラ、火傷してないか?俺が怒鳴ったのが悪いに決まってる。ごめんな。」

ザックスはクラウドの背後に回り、その手に火傷を負っていないか確認した後、

頭をゆっくりとかき混ぜた。

 

「…お前ら、恋人同士なんだろ?」

片手で頬杖をついて二人のやり取りを見ていたレノは、いったいどんな脈絡があるのか

そんなことを聞く。

「えっと…、」

なんと答えたらいいのだろう。クラウドは、彼の一体何なんだろう。

生贄のつもりでここに住み、けれども命を助けてもらって、たくさんのことを話して、笑った。

友達になってほしいと願ったのはクラウドで、彼とひとつになりたいと縋ったのもクラウドだ。

でも、ザックスは?

 

 

「そんなんじゃねえよ。」

 

 

ザックスの言葉に、肩が震えた。

いったい自分は、何を期待していたのだろう。

 

 

「…俺が、勝手に惚れてるだけだ。」

 

 

クラウドの背中から聞こえてくる声に、今度は別の意味で体を震わせる。

拳を握りしめて、胸の奥深くから這い上がってくるような衝動を、ぐっとこらえた。

出来るなら、許されるなら、このまま振り返って彼を抱き締めたい。

「ふーん…昔のお前はどこいったんだぞ、と。いつも嫌味なぐらい自身満々で、

目が合う女みんな自分に気がある!とか言ってただろ?」

実際その通りだったけど、と。レノは口元を意地悪そうに釣り上げた。

 

 

 

「その子が、お前をソルジャーでも化け物でもなく、ただの男として見てることぐらい。俺にだってわかる。」

 

 

 

「ソルジャー?やっぱり、ザックスは…ソルジャー、なの?」

レノにではなく、背にいるザックスに、そう聞いた。

「やっぱり、ザックスから聞いてなかったのか。ザックスは、神羅カンパニーの元ソルジャー、

クラス1st≠セ。」

「でも…だって、ソルジャーは……」

ソルジャーの辿った運命。クラウドとて、様々な文献で読んだことがある。

ソルジャーはもう―――

 

 

 

「ソルジャーは、みんな処刑された、のに。」

 

 

 

しまった、と思ったときには遅かった。

ザックスが人を恨んでいること、人から逃れて閉じこもっていること、そして深く根付く孤独――

それは、きっと、その時に始まったのだ。おそらくは。

 

 人間に刺されても、撃たれても、燃やされても――死なない

 それは彼が一度処刑されたと、そういう意味だったのだ。

  

ザックスは、まるで、他人事のように淡々とした口調だった。

 

「…そうだな。ソルジャーは全員処刑された。あのとき、」

「ザックス、ごめ…」

「俺も、死ねたら良かったのにな。」

「ザックス!!」

 

それは禁忌だとか、暗黙の約束を反故にするだとか。

知っていたのに、クラウドはザックスの方を振り向いてしまった。振り向かずにはいられなかった。

でも――、

 

「…ザックス……。」

 

そこにもう、ザックスの姿はなかった。

ダイニングのドアが開いているのか、足元に冷たい冷気を感じる。

「逃げんなよ…ザックス。」

レノは静かに目を伏せて、もう温くなったであろうコーヒーを啜った。

 

 

 

 

 


 

 

「ザックス。入っていい?」

「……駄目だ。」

ザックスの部屋、青い扉の前で。ザックスに声をかけたのは、日がすっかり暮れてからだ。

彼の部屋は、雨戸がない。だからクラウドが昼間に訪ねるのは、やはりルール違反になる。

 

 

 

 

朝食を3人でとってから、ザックスは部屋に閉じこもったきり――

いつも作る昼飯も夕飯も、ザックスは作らなかった。代わりに台所に立ったのは、意外にもレノ。

勝手知ったるキッチンなのか、なんの遠慮もなく食材や鍋を使い、

ザックスのような凝った料理ではないものの、簡単なサンドイッチとミネストローネを作ってみせた。

野菜はごろごろとぶつ切りで、まさに『男の料理』と形容するに相応しいが、味は美味しい。

 

「レノさん。ザックスにも、持って行ってあげて。」

自分たちばかりが食べているのは忍びないし、何よりザックスの様子が気になる。

彼がクラウドに食事の用意をしなかったのは、間違いなく初めてのことだった。

レノにサンドイッチを持っていくようにと頼むと、肩をすぼめて笑った。

「お前が持って行った方が、喜ぶんじゃねえの。」

「俺は、ザックスの部屋には行けない。」

「なんでだ?」

「ザックスの顔、見たら駄目…だから。」

「あいつが、恐い?」

少し考えてから、クラウドは頷いた。

 

 

「ザックスに、捨てられるのが。」

 

 

ザックスに近づくことは、彼の過去を知ること。

彼のホントウ≠ノ触れれば、きっと彼は離れていく。

だからクラウドは、ザックスの顔を見てはいけない。彼の心を知ってはいけない。

それがここにいることの…ザックスの傍にいられる、大前提の約束事≠ネのだから。

 

 

 

 

 

 

「――入るよ。」

「部屋に入るな」と拒絶されたのに、それを無視してドアに手をかける。

思った通り部屋の中は暗闇で、さらに濃い影がベッドの上にある。

 

「入ってくんなって、言っただろ。」

「…怒ってる?」

ザックスの過去に触れたこと。ザックスの部屋に、その心に、踏み込もうとしていること。

それは約束を破るか破らないかの、危うい境界線だ。

「そうじゃない。でも、今オマエに優しくしてやれねえから…出てって。」

「優しくなくていいよ。優しくしなくていいから――」

たとえば、出逢った頃のように乱暴されても、詰られてもいいのだ。でもどうか、

「なんだよ。」

 

 

「出てけって、言わないで…」

 

 

ザックスの呼吸が、少しだけ乱れた気がした。

しばらくの沈黙の後、小さくため息が聞こえて。彼の不興を買ったのかと視界が歪み始めたとき、

「ごめん。そうだな、出ていかれたら拗ねるくせに、何言ってんだろうな。俺。」

天窓からは星の明かりが射し込み、甘い香りのするリトルガーデンを闇の中で照らす。

 

「―――おいで。」

 

差し伸べられた腕が、闇に浮かんだ。

考えるより先に、その腕に、その体に、彼のベッドの中へと飛び込んだ。

「ザックス、ザックス…っ」

「クラウドに押し倒されるなんて、夢みてえ。」

そんな軽口を言いながら、ザックスはクラウドを腹の上に乗せたまま、いつものように頭を撫でる。

「ザックス、あのね、俺、ザックスのこと…」

「うん?」

 

 

「ザックスのこと、抱いてあげてもいいよ。」

 

 

「え…ええっ?!」

「ザックスのこと、知りたい。ザックスと同じ気持ちになりたい。ザックスが出来ないっていうなら…

俺がやる。俺がアンタを食ってやる。」

「ちょっと、ちょっと待て!頼むから待って!言ってることはすごい嬉しいんだけど、それは許して?!」

「それなら――して?」

 

彼の胸に耳をつけたままそう強請れば、ドクンとわかりやすいぐらいにその臓が鳴った。

「オマエ、なぁ…なんつー誘い方覚えてきたんだ。」

「俺だって、男だ。狼にも野獣にもなる。」

求めているのはきっと自分の方なのだと。

そう告げればザックスは、「クラウドが狼とか野獣とかあり得ねえ」と吹き出した。

 

 

 

「ずいぶん可愛い野獣だぞ、と。」

 

 

 

扉の方からもケタケタと笑い声が聞こえて、例のザックスの友人と思しき人物がわざとらしくノックをする。

「レノ。覗きは犯罪だぞ…。」

恨めしそうにザックスは言って、腹の上でひたすら丸くなる小さな背を撫でた。

人に見られたと知って、恥ずかしさに顔を上げられないクラウドの背を。

 

「その腹の上の生き物、なんなんだ。マジで可愛いな。」

「絶対、手出すなよ。」

「人のもんには手つけねえよ。めんどくせえったらねえ。ただし――」

「…なんだよ。」

「トモダチ、になるのはいいだろ。なあ、クラウド!」

「え、」

 

「庭に出ようぜ。あのすっげえ不細工な雪だるま、おまえらが作ったんだろ?

クラウド、俺たち二人でもっとでかいの作ってさぁ、ザックスをぎゃふんと言わせようぜ。」

「雪だるま?」

「あと雪合戦だな。俺とクラウドがチームで、ザックスを負かしてやろーぜ!」

「ざっけんな!クラウドは俺のだ!誰にもやんねえよ!」

部屋から出ていくレノの背中に向かってそう叫ぶと、ザックスはクラウドの手を優しく引いて

ベッドから降りようとする。

 

「……俺の?」

言われた言葉を反芻してみせれば、その表情は見えなかったけれど彼はひどく照れくさそうに。

「俺のもので…いいんだよな?」と臆病にも確認してくる。

「ザックスが、俺のものなんだよ。」

そう強気に返せば、耐えきれないというように腰を力強く引かれた。

 

「ざ…くす、」

「うん、口あけて?」

「待って、レノさん、庭で待ってるから、」

「その前に、こっちが欲しい。」

言いながら、何度も唇を食まれて、その気持ちよさに気が遠くなってくる。

 

「だめ、だってば…っ!レノさん、ザックスのこと心配してくれたんだよ。」

今レノを締め出すようなマネをすれば、それはあまりに酷い仕打ちだろう。

「ちぇ、」

その子供っぽい舌打ちが、あまりに可愛くて――

思わず「可愛い」とクラウドが呟けば、「可愛いのはお前だろ!」と思いも掛けず遠くから突っ込まれる。

やはり廊下で、レノは二人を待っていたようだ

 

 

 

 

 


 

 

大きな雪だるまを作って、カマクラで『別邸』まで作り上げて、それに雪合戦をして。

もう少年ではない三人なのに(クラウドはその限りではないが)、大声で笑って遊んだ。

 

「レノさんは、いつまでここに?」

庭から屋敷に戻って、ザックスが三人分の温かい飲み物をいれにいっているとき。

そうレノに尋ねてみる。出来るなら、もう少しここにいて欲しかった。

レノがいると、ザックスは普段より口数が増える。もともとお喋りな方であるはずなのに、

クラウドがあまり話すタイプではないため、二人の間でそれほどたくさんの会話があるわけではない。

今は沈黙が苦しい関係ではないけれど、それでもザックスのことをもっと知りたいとは思う。

だから、ザックスとレノの会話を聞いているのは純粋に楽しいのだ。くだらない喧嘩であっても。

 

23日だな。天気にもよるけど、そんなに長居は出来ないんだぞ、と。」

その言葉に思わず眉を下げると、レノは「よしよし」と大袈裟なぐらいに頭を撫でて来た。

「いちおう、仕事中なんだ。こう見えて堅気なんだぞ。」

「仕事…ですか。」

これ以上、聞いてもいいだろうか。

クラウドが迷っていると、レノはそれを見透かしたように、あっさりと答えてくれた。

「諜報活動だ。」と。

 

「神羅カンパニーが、何をしたか…お前は知ってるか?」

「詳しくは、わからないけど…本で、読みました。」

 

神羅カンパニー。海を渡った遠い場所にあるという、巨大文明都市「ミッドガル」。

そこを統べるその大企業「神羅」は巨大な軍事力で隣国を支配下におき、その勢力を拡げていた。

支配する者と、支配される者――その貧富の格差は激しく、

各地で勃発した反乱や革命戦争は、ますます人々の生活を追い込んでいった。

沢山の人が死んだ。

理由はそれぞれ、飢餓や疫病、口減らし、それに戦死――

「魔晄戦争を起こしたと、そう書いてありました。」

そして、そこに数えきれない犠牲が伴ったと。

 

「戦争じゃない。あれは、一方的な略奪だ。神羅の兵器≠ヘ、圧倒的な力を持っていたからな。」

「兵器?」

 

 

「ソルジャー、だ。」

 

 

「…っ」

確かに、クラウドも『ソルジャーは人間兵器である』と本で読んだことがある。

けれど、ザックスもソルジャーで、その彼が兵器と呼ばれることに怒りのような悲しみのような、

胸の奥がじりじりと焼けるような感覚に襲われた。

 

「軍人相手、だけじゃない。村を丸ごと焼き払ったこともあったし、後の悔恨にならないよう

ガキを殺したこともある。神羅はたしかに、許されないことをした。…俺も、ザックスも。」

「そ…」

ザックスも、そう言っていた。たくさんの命を手にかけたと。

でもあの寂しがりで、小さな虫ひとつ殺せないような男が――

いったいどうやって、どうして、どんな気持ちで。

 

「許されないってことは、まあ世の中から報復があるわけで。つまりそれが…」

「――ソルジャー狩り?」

「正解。ソルジャー狩りってのは、魔女狩りが派生だって言われてるけど、それは違う。

もともと不安定な時代を利用して、反神羅派が狙ったことだ。たぶん、な。」

 

何か理由をつけて、ソルジャーを消したかった。戦場から、社会から、そしてこの世界から。

 

「ソルジャー狩りが始まったとき、あいつは逃げなかったよ。」

「え?」

「逃げれば、家族やダチが代わりに処刑台いきだ。それに、あいつは死にたがってた。

あいつはそんなつもりはないって否定してたけど――10歳に満たないガキを殺したって、

なんでかばってやれなかったんだって、酒を飲むたびに泣いてたからな。」

 

「…ザックス、」

心が、潰されるように痛い。痛くて痛くて痛くて、

「ソルジャーは再生能力が高いから、毒でも火でも死ねない。ただし――精神力には限界がある。

ほとんどのソルジャーは、酷い拷問の末、狂って死んだ。でも、ザックスは狂えなかった。あいつは

精神力も並みじゃなかったんだ。人間からすれば、それこそ憎らしいぐらいに。」

思わず、自身の胸をわし掴んだ。そうしていないと、この心臓がバラバラになってしまいそうだったから。

 

 

「だから、あいつらは、人間たちは――ザックスの大事なものを、全部奪った。」

 

 

レノは、初めて出会った時のように、声を震わせていた。

その眼には途方もない哀しみが存在するのに、涙を流すことはない。

泣いて、泣いて、泣きすぎて…もう、枯らしてしまったかのように。

 

 

愛しい、俺の野獣――

 

どうして悪魔が生まれるのか

今ならわかる気がするんだ。

 

たとえば(あなた)を奪われたら、

その心の闇にまたひとつ

悪魔が生まれるのだ。

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2012.11.19

 

 

 

 


 

 

 

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