C-brand

 

 


 

 

 



 

  

 

【 ご 注 意 】

*「美 女 と 野 獣」 パロディです。とかいって、原作童話とは全く別物。

*かなり残酷な表現、拷問の記述があります。

*のんびり、亀更新だけど…諦めたくない!

 

 

ああ、とても愉快ですね。

 

いちまい いちまい、

悪魔の羽をもいでいくのは。

 

Story12.悪魔の罪状

 

 

「拷問って、わかるか?」

「魔女狩りの?」

「まあ、そうだな。」

「魔女であることを認めさせるために――自白目的で体罰を与えた。そう、書いてありました。」

 

クラウドの回答はレノの想像通りのそれだったのか、「そうか」と頷いた。

およそ2世紀前に起きた『魔女狩り』、そしてつい数年前に起きたという『ソルジャー狩り』、

それについての文献は、実はさほど多くはない。

元軍医師であり、その後フリージャーナリストに移行した「Dr.ヨハン=ドーマク」の著書ぐらいである。

 

「魔女狩りっていったら、もう昔話みたいに聞こえるけどな。別に、そんなに遠い史実ってわけじゃない。

ほんの数年前まで…似たようなことは行われてたんだ。捕虜とか、囚人の扱いとか。それに、」

「――ソルジャー、とか?」

レノは悲しそうに笑った。頷くことはしなかったけれど、それは間違いなく肯定を示唆していた。

 

「最近じゃあ、少しはそういう奴らの人権も尊重されるようになったようだが――あの時は、

そりゃ酷かったんだ。人間扱いはされない。ああいうの、なんていうんだろうな?虫けら扱いっていうか、

ゴミ扱いっていうか…いや、違うな。」

化け物扱いだ、と。そう言うレノの言葉に、脳裏をよぎるのはザックスだった。

自分を化け物と呼ぶ彼は、何も自らそう呼び始めたわけではないだろう。誰かにそう呼ばれたから。

 

誰かに、人間たちに――…

 

「クラウドは、本が好きなんだろ?じゃあDr.ヨハン=ドーマクの本は読んだのか?」

「えっと、『魔法医療の可能性』とか、『マテリア学による臨床見地』とか、それと、

 『悪意の棲家』とか…」

おもにマテリアを使用した医療についての著書が多いドーマクだが、彼の残した「最後の」著書は、

魔女狩りとソルジャー狩りについて考察した一種の“教会批判”のものだった。

 

「そうか。じゃあ、知ってるよな。ドーマクは魔女狩りやソルジャー狩りを批判した、最初で最後の

ジャーナリストだった。『人間(おまえ)たちが捕らえるべきは彼らじゃない、自分の心に巣食う

悪魔だ』――そう言って、ドーマクは教会の奴らに処刑されたんだ。…そんなことをのたまうのは、

悪魔に違いない恐ろしいってな。」

「…Dr.ドーマクは、殺人罪で処刑されたんじゃ…」

ドーマクは幼い少女を儀式と称してその手にかけ、教会裁判を受けて処刑されたはず。

そう、何かの文献で読んだことがある。

 

「そんなの、『作られた罪状』ってやつだぞ。」

「そんな…」

「ザックスの罪状だって――反吐が出るような内容だった。裁判なんて言ったって、あいつは舌を

切られてたから、一言も発言できやしなかったけどな。肥えた豚みたいな裁判官の野郎が、

くそみてえな罪状を読み上げたんだ。<ソルジャーとは人食いである>――よって死刑だってな。」

「なに、それ…」

あえて感情を隠すかのように、淡々と語られていくザックスの過去。思考がついていけない。

「舌を切られた」「人食い」「死刑」何もかもが滅茶苦茶だ。その裁判というものはいったい、

いつ行われたものなのか。ザックスの年齢を考えれば、それほど遠い過去のはずはない。

 

 

「あいつ、肉食えねえだろ?まあ、鳥ぐらいなら平気みたいだけど。」

「……え?あ、たぶん、そうかもしれない…」

いったいどんな脈絡があるのか、レノはクラウドにそんなことを問う。

唐突な問いに訝しむ思いはあれど…素直に思案してみれば、たしかに彼はどちらかというと

肉より魚が好きなんだとそう何となしに言われたことがある。

ローストチキンやチキンナゲットが食卓に並ぶことはあったが、それぐらいだ。

 

「教会の奴らの拷問中にな、ソルジャーたちは毎日生肉を出されたんだと。」

「え…?」

「これを食えば、お前は楽になれるって、そう言って看守たちがニヤニヤ笑いながら勧めるんだと。

水も、他の食糧も与えられない。それだけじゃなくて、サンプルだって言って体中のほとんどの血を

抜かれて、素っ裸で、身体中のあらゆる毛を刈り取られて、汚物にまみれて…

そういう極限状態でな。」

レノが短く語るたったそれだけの言葉でも、その『拷問』の恐ろしさに寒気が走る。

 

「選択肢なんかない、皆それを食ったと思う。何か教会側の企みがあるんじゃないかって、

疑問に思ったやつもいただろうけど。でも、腹が減ってるとかそういう以前に、何でもいいから

楽になりたいんだ。たとえ毒が入ってたって、それで死ねるんならいいって…

このまま拷問され続けるよりはいいって、そう思ったんだ。きっとな。」

「ザックスも…?」

どのような経緯で、ソルジャーが追われる身になったかわからない。

クラウドが知っているのは、ソルジャーが悪魔のような容貌をしているがために人々に恐れられた

ということだけだが、レノの話によれば、もっと政略的な因縁が存在しているようだ。

 

 

 

 

「ザックスは、食えなかったらしい。―――それが人間の肉だって、知ってたからな。」

 

 

 

 

「……っ!!!」

思わず込み上げてくる嘔吐感。それを抑えるために、口元を手で覆って膝をつく。

レノはそんなクラウドを気遣ってか、背を数回さすって「悪い」と謝罪する。

 

「悪趣味にもほどがあるだろ?毎朝毎晩、そんなもん食わせておいて。それを罪状にしちまうんだ。

その判決を言い渡されたソルジャーたちは、みんな泣き叫んだよ。殺してくれ殺してくれって…

そりゃそうだよな、それまでまさかそんなものを口にして生かされていたなんて、知らなかっただろ。

そのとき、自分が本当の化け物なんだって――そう、思わされちまったんだ。」

なんて、残酷な。なんて、醜悪な。――それが、真の人間≠フすることなのか?

 

「でも、ソルジャーの死刑ってのはそう楽なもんじゃない。…あいつらは、そう簡単には死ねないからな。」

「あ…、刺されても、撃たれても、燃やされても…死なないって、」

そう、ザックスは言った。それはやはり、ザックスは一度そのような扱いを受けたということだ。

 

つまり、処刑されたのだ。彼も。

 

「別に不死身ってわけじゃない。首を切断するなり、こめかみに銃弾打ち込むなりすればきっと死ねる。

でも、あいつらはそうしない。刺したり撃ったり燃やしたり…死にそうで死なない程度の処刑を

幾度も繰り返した。なんでかわかるか?」

「わか、らない。」

縋るように首を横にふるクラウドに、レノはどこか安堵したようだった。

わからないことが、正解みたいに。わかってはいけないみたいに。

 

 

 

「………楽しいから。」

 

 

 

レノの言葉は、知ってはいけない人間の真実を語る。

「あいつらは、誰かをいたぶるのが楽しかったんだ。正義とか復讐とか、ご立派な理屈なんてない。

ましてやソルジャーを恐れていたわけでもない。ただ、楽しいんだよ。自分の手で何かを壊すのが。

ソルジャーを壊していくのが。」

その暴力に理由はない――ただ、そこに快楽だけがあるなんて。

クラウドには理解できなかった。理解したくなかった。そんな、人でなし≠フ人間の思考なんて。

 

「ソルジャーはたしかに、戦場では兵器に等しかった。そんなソルジャーが、戦士として強靭な肉体と

精神力を持つ男たちが、泣いて狂って……最後には死んじまった。みんな、死んじまった。」

「でも…でも、ザックスは、生きてる。どうして、」

「ザックスは2か月の間、何度も『処刑』っていう名の拷問を受けてた。周りの仲間たちが死んでいく

 中で、あいつだけは不幸にも生きながらえてた。自分を保ってたんだ。それであいつは――」

 

 

  

「看守を、全員殺した。」

 

  

 

背後から聞こえる低い声に、ぞくりと背筋が凍る。

それは初めて出逢った頃のように、冷たく感情のない声。

背の高い影が、石の壁に映る。――ザックスが、戻ってきたのだ。

「よお、ザックス。あったか〜いコーヒーある?」

なんでもないように話を切り替えるレノに、けれどザックスはさらに声を低くする。

 

「レノ。おまえ……クラウドに、どこまで話した?」

「隠したって意味はないだろ、と。本とか噂とか、そんなんで事実を歪まされるよりも、さっさと

打ち明けた方がいい。」

「うるせえ…どこまで話したかって言ってんだよ!」

ザックスの荒げる声で、クラウドの肩が震える。恐かった。ザックスの怒鳴り声が恐いのではない。

ザックスの知ってはいけない過去にふれてしまったこと――

これはもしや、約束の境界線に踏み込んでしまったのではないか?

 

 

 

「心配しなくても、お前の顔については話してねえよ。お前がなんで顔見せらんねえのかとか、」

「レノ、この野郎!!!」

 

 

 

クラウドの背後で寄り添うようにしゃがんでいたレノは、その肩をつかまれたのか体を反転させて

床を転がった。ザックスとの距離が近い。

ダイニングは仄暗いとはいえ、彼の表情が見えてしまう可能性があって、

クラウドは彼に背をむけたまま微動だに出来ずにいた。

二人のやりとりを、ただ聞いていることしか出来ない。

 

「…クラウドは、お前が化け物のツラしてるって、わかってるんだろ?それを覚悟したうえで、

お前と飯を食って、雪だるま作って、恋人同士がすることだってやってんだろ?普通、出来ねえよ。

顔も見れない化け物とキスするとか抱き合うとか…よっぽどお前のこと大事に想ってなかったら。」

レノは床に転がったまま、視線だけをクラウドの方に寄こした。

 

「今、クラウドが振り返らないのは、お前の醜い顔を見たくないからじゃない。お前の顔を見て、

お前に捨てられたくないから、だから見ないでいるんだろ?…だからもっと、」

「なんだよ、」

「もっと、信じてやれよ。」

「…クラウドのことは信じてる。」

「違う。自分のことだぞ、と。」

レノはまるで縋るかのように――優しく、けれど悲しい声色だった。

 

 

「その子に愛されるような男だって、もっと、自分のこと信じろよ。」

 

 

「で、コーヒーあんの?」そう言ってまた、まるで何事もなかったように。

レノは両手を使わずに、勢いだけで軽快に跳ねて立ち上がって見せる。

テーブルの上に置かれていたコーヒーカップを音を立ててすすりながら、煙草を吸ってくると言って

部屋を後にした。ザックスとクラウド二人だけをその場に残して。

 

 

 

 

 

 


 

「……ザックス。そっち、見てもいい?」

 

ザックスの顔、身体、過去、クラウドの知らない全てを想像してみても――

どう考えたってザックスを嫌悪するわけがない。そんな自分をどうあってもイメージ出来ないのだ。

「でも…たぶん、俺はオマエが思ってるような男じゃなくて。俺は、もっと、もっと…」

「―――俺が思ってるのは。」

 

そっと目を閉じて、いつも瞼の裏にいるザックスの姿に想いを馳せる。

 

「俺が思ってるのは、甘えん坊で、寂しがりで、泣き虫で……きっと小さい動物が好きで、

いい匂いのする花が好きで、濃いコーヒーが好きで、本棚の上のほうにエッチな本隠してて、

ばかだけど、ばかだけど、世界一優しい――そういう、ザックスだよ。」

「それは…俺の性格の話だろ。俺が言いたいのはそうじゃなくって、」

 

 

 

「俺は、そういうザックスを好きになった。顔とか姿とか――関係ない。絶対、関係ない!」

 

 

 

初めて出逢った時。

噂では人非ざる者だと聞いていたから、それこそいろんな想像をしていた。

闇に潜む、獣のような。人の朽ちた、死霊のような。あるいは、黒い羽根の生えた悪魔のような。

それらはとても恐ろしく、目に見えぬ分その恐怖はどこまでも膨らんだ。

でも、今はそれがいかに愚かなことだったかわかる。

獣でも死霊でも悪魔でもいいのだ――それがザックスであるならば、愛せるはずだから。

そう、ゆるぎない確信がクラウドにはある。

 

 

レノの言うとおりだ。彼に、信じて欲しい。ザックスという男が、いかに魅力的なひとであるかを。

 

 

「………今から、俺の部屋にきてくれるか。」

「ザックスの、部屋?」

遠慮がちに問うてくるザックスは、やはりまだ怯えているようだ。

でも、その言葉には大きな決意がある。

「オマエが嫌じゃなければ、オマエに、聞いてほしいことがある。」

「うん。」

「オマエが怖がらなかったら、見せたいものがある。」

「…うん。」

「オマエが、オマエが許してくれるなら……クラウドを、」

「うん―――抱いてください。」

 

震えを隠せぬザックスのその言葉に、重ねるようにクラウドが告げた。

全てを受け入れてあげたい。

その姿も、過去も、愛情も全部。ただ受け入れてあげたかった。

そうして「大丈夫だよ」とそう言ってあげられたなら。

 

 

…どうか、彼が 救われてくれたなら、

 

 

 

愛しい、俺の野獣――

 

許されたいんだと、貴方は言った。

 

哂って化け物を殺める人間と

殺してくれと縋った化け物と

許しを乞うべきはどっちなの?

 

いったいどちらが

本当の化け物(ひとでなし)だっていえるんだろう。

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2013.07.17

意味わかりますか…わからないですか…私もわからないのです…

ごめんなさい。

 

 

 

 


 

 

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